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103-兄弟 [岩崎雄太-11]

スーパー銭湯の大広間も含めた全館オープンに合わせ、テレビ局のローカルニュースが取材に訪れた。

「岩崎さん、大きな町からは少し距離の有るこの地に、かなりの投資をされていますが勝算は有るのですか?」
「はい、このエリアが県内でも人口増加率が最大という事はご存知でしたか?」
「いいえ、特に人口が増える理由が分かりませんが。」
「ここの山奥の村を中心に都会で生き辛くなった人を受け入れているのです。
逃げ場所と考えて下さっても構いません、ここへ越して来るまでの経緯は様々ですが、皆さんはこの地を自分の故郷にしようと、農業や手工業、水産業、そしてここでサービス業に取り組んでいます。」
「過疎化に歯止めを掛けているという事ですか。」
「はい、この施設はそんな皆さんの心の拠り所という意味合いも有るのです。」
「そうでしたか、若い人も大勢働いていますね。」
「私と同じ職業訓練校の実習生です。」
「ここでトレーニングして就職という事ですね。」
「ええ、そのままこの地で就職と考えているメンバーも多いです。」
「それだと人数が多過ぎませんか、限りある仕事に対してですが。」
「そうでもなくて…、何人か紹介しますね。」
「はい。」

「そこで掃除をしているのは健吾です。」
「え~っと、岩崎健吾さんですね、職業訓練の一環と伺いましたが。」
「はい、とは言ってもここの手伝いはオープンに合わせての事で、普段は竹細工を作っています。
土産物売り場の商品は師匠の作品が中心ですが、自分の作品も置かせて頂いてます。」
「そうですか、そちらの女性…、岩崎玲子さんは何を?」
「私は児童養護施設で実習をしています、仕事を覚えて自信がついたら正規の職員にして頂けます。」
「そういった取り組みもされているのですか、ところで名札を見ると岩崎さんが多いのですね。」
「はい、この辺りで働いている岩崎のほとんどは兄弟なんです。」
「あまり似てない様な…。」
「ええ、皆さんそう言われます。」
「玲子、隠さなくて良いわよ。」
「ふふ、実はみんな養子なんです、私は実の親の顔さえ知りません、ここの岩崎の中には親から虐待を受けていた人もいます、みんな岩崎雄太の養子にして頂いて、戸籍上の兄弟は二百人を越えました。
岩崎を名乗っていない仲間も、兄弟同然の扱いで守って貰えますから…、そんな人達を合わせたら心の兄弟は数えきれません、もちろん養護施設の子ども達もです。」
「福祉村という名前は少し耳にしていましたが、そんなレベルとは思ってもいなかったです、しかし養子と言ってもそんなに多くては…、どうな感覚なのですか?」
「ほんとに甘えたい年齢の子は村の大人達が親代わりをしています、私達にとっては精神的な支えであったり、自立したくなった時に身元保証をして下さる存在であったり…、でも父からはトラブルに直面した時は絶対遠慮せずに甘えなさいと言われています、養子にして頂く絶対条件としてです。
ここで生活していくのに何の不安も有りません、真面目に働いて弟や妹の面倒見て、父や母といつも一緒に居られる訳では有りませんが、兄弟全員同じ条件です、父の実子である弟達に寂しい思いをさせてしまう事もあって心苦しくも有るのですが、そんな弟達も長野の岩崎村から励ましの手紙をくれます。」
「ここは単なるスーパー銭湯を併設したドライブインではないということですね。」
「はい、父や父を支えて下さってる方々の優しい思いが沢山詰まった私達の家です、従業員一同お客様に満足して頂ける頑張りますのでよろしくお願いします。」
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