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05 差別 [KING-03]

 子ども達が沖合の島をお花畑にし、その地下に建設して来た大人も子ども楽しめる仕掛け満載の迷路が完成間近となった頃、マリアは八人の教え子に対し授業の一環として…。

『間もなく新たにゲートで繋がる国が有るの、その国について説明を聞いてくれるわね、子ども達。』

 もちろん断る訳にはいかない、全員の端末にデータが表示され、皆画面を見つめる。
 その国は、大人が六十人子ども二十人、国土の面積はスコットランドなどと同規模。
 マリアが解説を始める。

『昨日見せた各国のデータと比べてもこの国の産業に問題のないことは分かるでしょ。』
「でも、余剰食糧が少ないわ。」
『そうね、彼等なりに計算して自分達に必要な量をきちんと確保してるのかな。』
「和の国はまだ見ぬ国への援助を考えて多めに生産してるのよね。
 そういう発想をこの国の人達は持っていないのかしら。」
『かも知れない。』
「言葉はスコットランドと同じという事なの?」
『大体は同じ、でも違いは有るのよ。』
「大人が多いという事は平和な国なんだ。」
『今はね。』
「どういう事。」
『大人達が忘れていた事を思い出した時の事は覚えている?』
「大変そうだった、香たちはちっちゃかったから覚えて無いと思うけど。」
『この国の大人達は皆、過去に犯罪を犯しているの、その事を全部思い出した時に彼等がどうなると思う?』
「え~、どうだろう、でも今が平和だったら、そのまま平和に暮らしたいと思うんじゃないのかな。」
『私には分からない、今から端末の画面に映し出されるのは今の様子だけど、見ながら感想を聞かせてくれるかしら。』

 端末に映像が映し出される。

「色んな人がいるね。」
「あっ、真っ黒な人がいるよ。」
「大人達が、えっと…、皺が多いのね。」
「なあマリア、全員が犯罪者だとして、どれぐらい覚えていて、どれぐらいプロテクトが掛かっているのだ?」
『殺し合いたくなる様な記憶にはプロテクトを掛けたと聞いている。』
「と言う事は、彼等に記憶が蘇ったら、すぐさま殺し合うかも知れないのか…、う~ん、特に記憶が不安定な期間は危険だろうな。」
『キングはどうすれば良いと思う?』
「これまでとは違った出会い方をするしかない、今までは和の国に代表者が来るタイミングで記憶が蘇り始めた、こちらから向こうへ行く事でも同様の結果は得られるのか。」
『そのシステムを開発した者はどちらの国と指定していない、ただ代表者による他国民との対面をスイッチにしただけだ。』
「この国とのファーストコンタクトは何時?」
『明後日の十時。』
「分かった、これから和の国の会議を招集するがそれを子ども達にも見せたい、今日の授業は終わりで良いか?」
『構わない、その判断に賛成だが…。』

 もう一つの告知をマリアから聞いて授業は終わり、すぐさま城のメンバーを緊急招集、データと映像を見せる。

「キング、随分特別な国のね。」
「ああ、まさしく実験的に作られた国だ、他民族国家で犯罪者の集まり、更に老化の進んだ住人が多い。
 まあ、殺し合わない程度の記憶は、犯罪関係であってもプロテクトを掛けられていないとすれば、老化が進行してもおかしくはないな。」
「映像では爺さん婆さんが子どもの面倒を見てたな、かなりの罰を受けたのだろうが死者は四名のみ、プロテクトの掛かり具合が微妙なのだろうか。」
「問題はプロテクトが掛かってる部分の記憶だわ、この国も戦争を経験したのよね?」
「だと思うが、英語を話す多民族国家と言う事からアメリカだと仮定すると、攻撃した側という可能性を否定出来ない。
 彼らがどんな犯罪を犯したのか分からないが、戦争に対する考え方は我々とは違うのかもな。」
「取り敢えず、明日、緊急国連会議を開くとして…、キング、こちらから各国へデータを送る必要は有るのか?」
「ああ、マリアからはもう一つ告知が有り、今度の国が落ち着いた段階でマリア以外の管理者は観察のみに、コンタクトを取る事をやめるそうだ。
 他国のリーダー達はまだ知らされていないが、現時点でもコンタクトの回数は極端に減ってるそうだから、感の良いリーダーは推測しているかも知れない。」
「そうか…、キングは更に特別な存在にと、だが、キングがこの世界の王になったとしても反発は少ないのではないかな。」
「今はそうでも今後の事は分からない、ただ、この世界のすべての子ども達を城の子の影響下に置く事は難しくないと思うし、子ども達がまだ幼い今のタイミングで、はっきりさせておいた方が良いと思う。
 もっと大きくなってからだと他の国の子ども達が成長して余計な事を考えてしまうだろう、どうして城の子ばかりが特別扱いされるのだろうとかね。
 でも、今なら自然な形でリーダーとなれる、但し楽ではない、そうだったね望。」
「はい、マリアさまもその様に。」
「大変だと感じたら何時でも言うのよ、私達八人はあなた達の為に居るのだからね。」
「はい。」
「では、緊急国連会議に向けての準備を始めよう。」
「私は各国にデータを送り時間の調整をするわ。」
「私は…。」

 大人達は国連会議に向けての準備を始める。

 子ども達は、事の重大さを理解していたのか真剣に聴いていた。
 マリアは城の子達の教育を考えている、将来この世界のリーダーとなる城の子達の教育、それは新たに交流を始める国よりも重要かもしれない。
 もちろん、欲張り者の私は両方を尊重するのだが。
 子ども達に問題の解説を加える。

「あの国の問題は大きく二つ有る、一つは大人達が昔、人を騙したり傷つけたりした経験が有るという事。
 昔、私達大人が暮らしていた世界では、人を殺してもこの世界の様に自分が死ぬことはなかった、ここでは罰が有るから悪い事をしにくいが、昔いた世界ではどれだけ悪い事をしても上手にやっていれば長生き出来たのだ。
 そんな過去を思い出して反省する者ばかりなら問題ないが、そうはならないだろう。」
「せっかく平和な国を作ったのに壊してしまうの?」
「可能性は有る、もう一つの問題も有るしな。」
「どんな問題?」
「色んな人種の人がいただろ、昔は人種差別という事が有ったんだ。」

 子ども達にはまだ早いかと思いながらも、差別の話をした、我が国でも二丁目の住人や九丁目などの住人が差別の対象になる可能性が有る事、それに対して三之助中心に大人達が色々考えている事も含めてだ。

「父さんは、どうするつもり?」
「まずファーストコンタクトの段階で、彼等が知らない事を説明しようと思う。
 蘇る記憶には犯罪者としての記憶が含まれるという事、人種差別で対立していた可能性が有る事、和の国が併合した国で起こった事などを説明した上で、大勢の大人に協力して貰い、あの国の人達に記憶が蘇る時の手助けをする、殺し合わない様にね。
 幸いな事に英語を話せる大人は多いからな。」
「僕たちは何をすれば良い?」
「向こうの子ども達を和の国へ移動させようと思う、子ども達の不安を軽くして欲しい。」
「マリアさまが転送してくれるのね。」
「いや、出来るだけマリアの手を借りないのがここのルールなのだ、今回は色々情報を貰ってるからじっくり準備して無駄に死ぬ人が出ない様にする、手伝ってくれるな。」
「はい。」
「明日の緊急国連会議にも参加してみるか、途中で嫌になったら静かに退席が条件だが。」
「何か急に大人になった気分だね、各国のリーダーの話を真面目に聞くよ。」
「今までもキングは私達をどの大人よりも子ども扱いしないでくれてた気がするわ、私はその気持ちに応えたい、でも八人は多いと思うから、誠たちには私達から伝えるということでどうかしら。」

 愛は弟たちを気遣って発言したと思う、彼等は精神的にも急速に成長していると実感する。
 
 翌日、緊急国連会議を終え、国民に事情を説明すると夕方になっていた。
 城のダイニングルームで夕食を兼ねての定例会議。
 今日から、四人の子ども達の参加を許す事にした、強制ではなく自由参加だ。
 様子を見ながら誠たちも含めた八人にして行こうと思う。
 翔達四人はコロニーのリメイクを通して、広く特別な能力を持つ存在として知られているし、マリアの授業を受けている子達で役割分担を決め、この世界の子ども達をリードしてくれている。

「あの国の子ども達がどういう育ち方をしているのかも問題よね。」
「子どもに対してずる賢く生きる事を教えるにしても、もう少し成長してからではないのか。」
「まさか子どもが悪い事をしたら、罰として老化、つまり成長するという事はないよな。」
「マリアさまは、子どもに罰を与える事は無いと話してたわ、でもね、罰が有るかもと思っていた方が良い子に育つから内緒にしておこうって、キングがね。」
「望、教えてくれて有難う、私達も内緒にするよ。」
「少なくとも城の子が罰に値する様な事をするとは思えないが、弟たちは知っているのか?」
「愛がきちんと説明してくれたよ。」
「愛、どんな風に話したか教えてくれる。」
「ええ、城の子はこれから先もこの世界では特別な存在、それは特別に楽しい経験をさせて貰えるという事だけでなく、この世界を大切に守って行く立場として特別な役割を持っているということ。
 弟や妹達はきちんと理解してくれたと思うし、ちっちゃい子達は香が導いてくれるわ。」
「特別なのは僕らだけではないでしょ、城の大人達はどうなの?」
「そうだな、私達に魔法は使えないが、罰を受ける事なく過ごして来たからか、ここにいる八人は初めて出会った頃からほとんど変わっていない。」
「あっ、マリアさまは、色々な意味で他の国は和の国ほど成功しなかった、と話してたわ。
 確かに他の国のリーダー達とは、ちょっと違うと思う。」
「そうね、これは私の推測だけど、この八人は初めて会った時から喧嘩をしてないの、でも他の国のリーダー達は小さな喧嘩をしている、罰にならない程度だけど私達程仲良しではないという事ね。
 そして、あなた達が喧嘩をしている所を見た事がない、城が特別なのはその辺りに理由が有るのかもしれないわ。」
「喧嘩するほど仲が良いとか言う人もいるが、私はマリアが絶妙に相性の良い八人を集めたと考えている、遺伝的にもね、それがこの城の成功なのだろう。」
「成功したから特別なんだね、父さん。」
「たぶんな。」

 正解は分からない、ただマリアがどれだけ私達の脳を改造したのかも分からない。
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