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02 城の子 [KING-03]

 マリアを待ち、緊張の面持ちで座っているのは、私と麗子の子北城尊、セブンと一花の子西條翔、三郎と三之助の子東城望、ロックと八重の子南条愛の四人、緊張するなとは言ってみたが無駄だった、マリアはこの世界に於ける神の如き存在なのだ。
 それでも…。

「まずは君達にマリアからのプレゼントが有る、机の上の箱を開けてごらん。」
「あっ、これって翻訳機…、じゃないよね。」
「尊、この端末は翻訳機としても使えるがそれだけではない、電話としても使えるし他にもな、各国のリーダークラスが使っている代物だ。」
「それを僕達一人に一台ずつか、すごいや。」
『気に入ったか?』
「あ、マリアさまですか? 有難う御座います。」
『まずはキングも知らない機能がその端末には備わっている、それを今から教えるが良いか?』
「はい。」

 子ども達は元気よく返事をした。
 私が知らなかった機能とは翻訳機能への入力だ。
 彼らが構築中の言語、その音声情報、文字情報、言葉の意味といった所を一つの言語と対応させて入力すれば良い、複数の言語と対応させればさらに精度が上がるとマリアに教えられた彼等は夢中になって取り組み始めた。
 マリアの口調は私と会話している時より随分優しく感じられる。
 食事を部屋に届けて貰う様、指示を出し、子ども達を観察する事にした。

『なぜ、私、僕、俺、あたし、といった複数の言葉に対して、一つの言葉を当てはめたのだ、愛。』
「それはね、英語だとアイって一つだけで済んでるから、私達はなるべく簡単にしようって決めたの。」
『ではアイで良くはないか?』
「英語を使ってる人達は喜ぶだろうけど、そうでない人は抵抗を感じるかもしれないでしょ、良く使う言葉は七つの言葉とは違うものに、全部変えると大変だから物の名前とかはどこかの言葉のを使うけど、なるべく七つの言葉を元にバランス良く、三之助おばちゃんからのアドバイスよ。」
『国民達がキングに話す時の言葉は少し違うが、どうするのだ、翔?』
「マリアさま、敬語って言うんだけどね、僕らの言葉には要らないんだ、心に尊敬していますってイメージしてたら自然と伝わると考えてね。」
『それは君達が考えた事なのか?』
「もちろんだよ、でもロックおじさんに話したら、それで良いって。」
『今まで使って来た言葉はどうする、忘れるのか、尊?』
「忘れる必要はないし、今使ってる言葉も嫌いじゃないんだ、ただ、七つの言葉を覚えるのが大変そうな子もいるから共通語をね、色んな国の子達と遊ぶ時に便利でしょ。
 それでも自分の国の言葉と、二つを覚える事になるから、なるべく簡単にしようって決めたんだ。」
『成程、では文字にはどんな考えが有るのだ、望?』
「文字はまだ考えてる最中なの、アルファベットは文字数が少なくて便利だけど、漢字は意味があって便利、だからまずは二十の文字でどんな言葉でも表せる様にする、その後で漢字みたいなのを作れないかなって考えてるのよ、母さんが漢文というのを教えてくれてね、皆すご~いって思った。
 難しいからすぐには出来ないけど、上手に作って覚えたら早く読めるでしょ。」
『ああ、私も興味を持って調べた、子どもにとっては随分難しそうだ、多くを記憶する必要も有る。』
「作るのも覚えるのも大変だけど、それを難しいと感じない人にとっては便利でしょ。」
『全員が覚える必要は無いという事か。』
「ええ、二十の文字だけでも読み書き出来る様にしてから、良く使う言葉を選んで漢字みたいなのを作ろうって考えてるの。
 漢字の様なのが有るのは和の国の日本語だけだから、漢字を簡単にして使うという案もね。」
『ならば、その端末が役に立つ、食事の後は共通語作りの作業を続けるか、端末の使い方を覚えるか、どちらが良い…、どちらが良いかな?』

 子ども達はすぐ結論を出した、端末は彼等にとって新しいおもちゃでしかない。
 色々試しながら四時頃には一通りの操作を把握、初日の学習を終わりとした。
 子ども達の能力の高さは感じていたが、これ程までとは思っていなかった、言語に関しても学習能力に関してもだ。

 マリアと子ども達との時間に皆の関心が集まるのは当然の事。

「キング、望は端末をマリアさまからのプレゼントだと話していたが本当なのか?」
「ああ、親子の連絡で普通に使って構わない、彼等は他国のリーダー達とも必要が有れば連絡を取り合える…、どうした三之助?」
「子ども達の中で年長だとは言え、優遇され過ぎてはいないかな、他国の子達と差が付きすぎるのはどうかしら?」
「それは明日にでもマリアに訊いてみる、ただ今日は驚かされる事ばかりだった、子ども達の能力が高いとは感じていたが想像以上、驚いたのは子ども達だけでなくマリアにもだ。
 子ども達への話がどんどん優しくなり、口調までもが私と話している時とは全く違うものになって行った、終わる頃には、もうすっかりお母さんみたいな話し方、子ども達を帰した後、謝意を伝えたら何て言ったと思う?」
「何て?」
「あの子達はキング達の子で有ると同時に我々の子でも有る、愛情を持って子どもと接するのは大人の役目だと。」
「う~ん、意味深ね、単純に精神的なものなのか…、子ども達の天才性を考えると…。」
「まあ、俺達の子である事に間違いは無いのだから、あまり気にしないでおこう。」
「その通りだ、端末に関してだが、この八人の端末で子ども達の端末利用履歴が閲覧できる様になった、電話機能で彼等の会話を聞く事も出来る、但しそれは十六歳になるまでだ。」
「そうか、ではまず、今日の履歴を確認させて貰うかな、えっと…、おお、俺の端末に四人はもう登録済だ…。」
「子ども達は私達が閲覧出来る事を知っているの?」
「ああ、翔は何やってるのかお母さんに報告しなくて済むから嬉しいと、マリアに話していた。」
「そんなに根掘り葉掘り訊いて…、いたのかなぁ…。」
「おいおい、何だこの履歴はすごいスピードで端末の機能を…、これって全機能なのか?」
「マリアは現在使用できるすべてを教えたと話していた。」
「おい、四人で会話を始めたぞ…、今から一時間共通語の入力作業をするそうだ…、あっ、何を話しているか分からなくなった。」
「自動翻訳をオンにしてくれ、まだ入力されていない部分は機能しないが有る程度は理解出来る筈だ。」
「…、成程、音声情報と文字情報が、今までより更に使い易くなったのだな。
 子ども達の言語は、シンプル故に分かり易いかも。」
「マリアの意見も取り入れているからな。」
「子ども達とマリアさまとのやり取りはどんな感じだったの。」
「始めは子ども達の緊張も有ってぎこちなかったが、すぐに打ち解けた、何となくだがマリアは子ども達との時間を楽しんでいる様に感じられる、今日は午前中に共通語の入力、午後に端末の操作、明日は子ども達の質問に答えるそうだ。」
「我々が知り得ていない事を知る可能性は有るのかしら。」
「有ると思う、私自身は過去に尋ねた事について訊き返す事を控えていたが、国が成長した今なら教えて貰えるかもしれないと考えている、子ども達の質問が楽しみだ。」

 楽しみでは有るが怖くも有る。
 この先、彼らがどうなって行くのか、マリアが子ども達に何を語るのか。
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