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10 罰 [KING-03]

 我々当面の最重要課題はコロニーD、通称ブラックコロニーだ。
 その監視カメラ映像を見ながら…。

「苛ついていて、多少の言い争いはしてるが、罰を恐れて自制しているみたいだな。」
「結構な自制心だ、それが有ったからそんなに老化していないのだろう。」
「十一人の子ども達が全く差別の無い社会で暖かく守られている状況、黄色人種を兄姉の様に慕っている状況はさすがに気に入らないみたいね。」
「教育し直さなければって言ってた奴がいるぞ、でも子ども達はもっと親を恋しがるかと思ったが、そうでもなかったな。」
「遊びに夢中だからね、モニター越しに親と対面しても、親の表情が険しくては恋しさも薄らぐのだろう。」
「あら、やはり戦争の原因は日本だと流布する作戦にたどりついたのね。」
「彼等にとって真実は関係ないからな、でも説得力の有る根拠をでっち上げられるのかね。」
「どうするキング、この調子では当分コロニーから出せないが、他の国にその理由を説明出来ないぞ。」
「なに、一番気にしてるスコットランドの担当者でさえ、今は他の人達のことで精一杯、コロニーDにまで気を回せていない。
 我々が状況を確認してピンポイントで効率よく動いていることに、負けたくない気持ちが強くて焦っているのだろうな。
 他の担当者は城のメンバーに口出しする必要は無いと考えてるみたいだ。」
「もうしばらく様子を見ていても問題なさそうね。」
「場合によっては、タイミングを見計らって、スコットランドの頑張り屋さんとブラックコロニーメンバーを対面させても良いのではないかな。」
「良いけど、彼等が洗脳されるという事はないかしら。」
「それを避ける為には、必ず三郎か三之助と一緒にするか、スコットランドの彼等も重点監視対象にするかだな。」
「スコットランドの彼等がどんな話を聞かされるのか知りたいとも思うが。」
「そうなると監視業務の負担が増える事になるでしょ、他の業務に影響は出ないかしら。
 状況によってはすぐスコットランドサイドに対応する必要も出て来るでしょうし、我々八人だけでは厳しいわね。」
「その場合は、城の子に私達の通常業務を任せてみないか、マリアも賛成してくれると思う。」
「そうね、私達がどんな事をしているのかは学習の一環として教えて有る、リーダー業務の実習という事で試してみましょうか。」
「まあ、もう少し状況を見てからで良いだろう。
 子ども達には軽く話をしておいて、心の準備だけしておいて貰えれば良いと思う。」
「そうね。」

 結局、城の子にリーダー業務を任せる事無く、作戦開始から一か月が過ぎた。
 彼等の国がサンフランシスコとなったのは、国民全員がサンフランシスコの出身だった事による。
 今の所は平和、多くの者は過去の犯罪を告白し懺悔、この地を楽園にする為に働くと誓ってくれた。
 喧嘩がないのはブラックコロニーのメンバーを隔離した成果だ。
 そして、我々が気に掛けていたスコットランドの担当者が、軟禁状態のコロニーDメンバーに関して動き始める前に状況は変わった。
 落ち着き始めた人達がコロニーDの事を考え始めたからだ。
 どうして自分達は喧嘩していたのだろうと話し合い始め、ようやくコロニーDメンバーの言動に、そう、彼らの言動に踊らされていたことに気付き始めたのだ。
 それからは、コロニーDを敵視する事で国民達が団結。
 各国の担当者達も、コロニーDへの処遇を納得してくれ、ブラックコロニーという名称が定着した。
 
「ブラックコロニーの連中は相変わらず苛ついてるわね。」
「記憶はすべて蘇っただろう、それでも和の国滅亡計画は一向に進んでいない、彼等の過去の記憶にも苛立つ理由が有るのかもしれないが、居住コロニーに軟禁されたままの状況は楽しくないだろう。」
「そろそろ、外の様子をもう少し詳しく教えて良いかも。」
「そうね、今日も話題になってたわよ、コロニーから出したら老化の進んだ人に殺される可能性が出て来たわ、どうせ近い内に死ぬのならこの国の為に道ずれにしてやるとか。
 本当に真面目に暮らしていたら若返る事も有ったと、三丁目の例を教えて、なだめておいたけど。」
「では、彼等の置かれている立場を教えて行くか、その過程で彼等がどう判断するのか、観察させて貰わないか。」
「ああ、ただ、この世界の映像を彼らに見せて行くにしても、その反応を子ども達に見せるのは…、少なくともライブ映像はやめておこう。」
「用心するに越した事は無いわね。」

 翌日から、差別のない世界の現状をコロニーD内のモニターで見せ始める。
 城のレストランで楽し気に食事するサンフランシスコの人達。
 国を越え、人種を越えて共に遊ぶ子ども達。
 そして…。

「キングに対する各国国民の態度にはインパクトが有ったみたいだな、誰しもがこの世界のトップリーダーとして尊敬しているとは思いもしていなかったのだろう。」
「あの映像でさらに敵対心を持った人と諦めた人の対立が鮮明になったわね。」
「ついに大き目の罰に繋がる喧嘩をしたからな、そろそろ止めを刺すか…、サンフランシスコの人達が、短期間で老化した原因に気付いたと知ったら、さて彼等はどうするかな。」

 その映像はブラックコロニーのメンバーに絶望を与えた。
 陰謀がばれ、恨まれている事を知っても差別発言を繰り返す者がいたが、居住コロニーから出られない理由をはっきり理解した様だ。
 この時点で彼等に出来る事は限られていた。
 ただプライドの高さが彼等の決断を遅らせている。
 我々は彼等に決断を急がせる事はしなかった。

 しばらくしてブラックコロニーが下した結論は負けを認める事だった。
 結論に至る過程で大喧嘩をし罰を受けた事が妥協に繋がった様だ。
 すでに彼等から若さは感じられない。
 ただ…。

「今日の午後、スコットランドの担当リーダーにブラックコロニーと話し合って貰ったの。
 ちょっと映像を見て。」

『我々に問題が有った事は認めよう、だが、自分達には裁判を受ける権利が有る。』
『残念ながらここに裁判所はない、法律もない、行政は良心によって行われている、我々は君達八人の為に立法府と裁判所を設立しなくてはならないのか?
 もしそこまで望むのであれば、私達は君達を死刑に出来る法律を作ろうと思うが構わないな。』
『待て、死刑になる程の事はしていない。』
『前の世界でならな、だがこの世界では約束事が異なる、そうだな自分達に相応しい刑が有るというなら、それを提示してくれ、キングが納得すれば死刑ではなくそちらが採用されるかも知れない。』

「成程、これはうまい手を考えたものだ、自分の刑を自分で決める、だが被害者が納得する様な刑が出て来るのかな。」
「死刑と言ってるが、死刑にしたら執行者も死ぬ、そこを突っ込む余裕すら無くなっているね。」
「この程度なら尊たちに見せても問題は無いわ、彼らの意見も聴いてみましょうか。」

 三年生の四人と映像を見直して…。

「四人には最近、犯罪、罪、罰、といった事を学習して貰っているが、愛は、どう思う?」
「そうね、小さい子達は悪さをした時、怒られる事で学習している、それが大人になっても悪さをするという事は私達とは違った価値観を持っているという事かしら。」
「翔は?」
「昔はお金という物があって、個人所有の物が多かったのでしょ、でもこの世界にお金はない、物はすべてマリアさまからの借り物という考え方が浸透してきている、この先起きる犯罪は大人達の過去に関係するものしか思い浮かばないよ。」
「どんなのが思い浮かぶ?」
「差別的な心情、優越感、劣等感。」
「そんなとこかもな、それだけにブラックコロニーの件も落としどころを間違えると、彼等の子ども達が劣等感を引きずる事になりかねないだろ。」
「彼等に特別な仕事を上げる事は出来ませんか?」
「尊、例えば、どんな仕事だ?」
「僕達、ここで生まれた子ども達は犯罪について良く知らない、でも知らなさ過ぎるのも問題だと思うのです。
 だから彼等に本を書いて貰うというのはどうでしょう?
 居住コロニーの中で作業が出来ますし、ゲートを和の国に繋ぎ替えればサンフランシスコの人と会う回数を減らせてトラブルが起こりにくいと思います。」
「尊はそんな事も考えていたのか?」
「はい、父さんと居住コロニーの整理を検討中ですので。」
「その話も詳しく知りたいが、ブラックコロニーの連中を作家にというのは面白いな、反対がなければその方向で行きたいが。」
「居住コロニーから出す時は当分の間一人ずつだな、楽しい小説を書いてくれた時の御褒美として。」
「尊、この件を任せても良いか?」
「はい、話の内容も相談したいです。」
「ではスコットランドと連絡を取って調整する所から始めてくれるか。」
「はい、分かりました。」

 彼等への罰はひとまず保留にした、彼等がこの世界に貢献してくれるのであれば今後の罰も変わって来る。
 担当を任せた尊が、これからどの様にブラックコロニーの連中を導いていくのか興味深い。
 彼は当然、他の子たちと意見交換をして行くであろうし、そこにマリアが加わる事も有るだろう。
 他国の大人達が、素直に受け入れるかどうかは分からないが、私の息子なら良い成果を上げてくれると信じている。
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