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09 地下室 [KING-03]

 二日目は静かに経過、だが城の住人による夜の会議は普段とは違い少々熱を帯びるものになった。
 コロニーDの監視映像が原因だ。

「城の子が子ども達の世話に時間を取られてて良かったな、こんな映像見せたくないぞ。」
「記憶のプロテクトが外れ始め、差別意識が、さらに膨れ上がったみたいね。」
「一応プロテクト解除に伴う苛立ちが落ち着くまで待ってみるべきだろうが。」
「自分達が罰を受ける事無く、和の国を亡ぼす方法を考え始めるとは思わなかったわ。」
「どんな手段を考えるのか興味深い、わくわくするよな。」
「う~ん、確かにそうなのだが…、この国の芸術文化系コロニーって確認できたか?」
「えっ、もしかして。」
「今までの調査では…、芸術的な犯罪って事なのか?」
「それっていらないでしょう。」
「二十人の子ども達の中で彼等の子は十一人、子ども達が受け継いだかもしれない資質は無視出来ないかも。」
「それより親達はどうするの?」
「隔離は出来ている、このまま居住コロニーで一生を過ごして貰う事も可能、チャンスを与える事も可能、ただ彼等の一生を私達の一存で決めるというのは、リーダーの役目とはいえあまり気持ちの良いものではないな。」
「かと言って、外に出したら静かに和の国滅亡計画を実行するのだろ。」
「もし彼等が動いたら、どれぐらいの人が乗るのかな。」
「今は和の国が好きな人でさえ説得されるかもよ、それぐらい言葉巧みなの。」
「子ども達の試練を増やすか減らすかという問題でも有るな、試練によって鍛えるか、要らぬ試練から守るか。」
「鍛えるのはもっと先で良いと思うわ、第一世代の問題は私達の責任でしょ。」
「だな、まずは観察させて貰おう、そうだ、いっそこの映像を編集して娯楽映画とか作るか。」
「作れないでもないが、彼等の子ども達の目に入る可能性が有る、記録として他国のリーダーに見せる程度にすべきだろう。」
「いや、極秘にすべきだ、我々に監視能力が有る事を他国に知られるべきではない。」
「だがそれでは他国に対して説明しづらくないか。」
「嘘発見器を使った事にすれば良いのじゃないかしら。」
「小細工は回りまわって私達の嘘がばれる事に繋がりかねない。」
「この様なブラックコロニーが存在する現実を考えたらスパイ能力を他国に与える事は勿論、その存在を明かすことも避けるべきだな、他国への説明は何とかするから、端末の機能は隠しておこう…。
 尊はハッキングの結果、他国の端末から隠しカメラ映像を閲覧することは出来ないと話していた。
 和の国の端末と外見は同じでも、機能はおもちゃレベルなのだとか。」
「それは…、少し考えさせられることだな…。」
「多機能な端末を持たされてる私達は、それだけ責任が重いと言うことかもね。」
「そう考えると、私達のスパイ活動も世界の安定の為には必要、マリアさまはそこまで見通していらしたと…、人を監視するのは気持ちの良い事では無いけど、私達の役割を考えたら綺麗ごとばかり言ってられない、人が自らの寿命を縮める行為を未然に防げるかも知れないよね。」
「今日は他のカメラも見たのだが、今回の作戦行動が和の国主導で行われている事に不満を感じているスコットランド人が見つかった、そう言った人のフォローも考えて行かないとな。」
「今の様子なら私達は一歩下がっても大丈夫そうよね。
 疲れたとか適当な理由を見繕ってスコットランドにメインの管理をお願いしても良いのでは無いかしら。
 そうすれば私達はモニターでの監視業務に時間を割けるでしょ。」
「それで構わないが、監視はいずればれるかもな。」
「その時は平和の為に監視していましたって、でも嫌われるでしょうね。」
「嫌われる日をなるべく先延ばしする事を考えようか。」
「そうだな。」

 人を監視する事に抵抗は有る。
 だが、監視をしっかり出来ていれば、併合した国での死者を減らせたかも知れない、罰を受けた人の数を少なく出来たかも知れない。
 人々の不満を知れば、それを軽くも出来る。

 三日目、スコットランドにメインの管理業務を引き継いで貰った。
 コロニーDの連中を閉じ込めて置きさえすれば、他は体力に衰えを感じている普通の元犯罪者、銃器も無く、私たちの代わりとして入って貰った屈強な三丁目の連中に逆らう様な事は無いと、二日目の状況から判断した。
 主な理由として城の子の教育の為としたが、これはあながち嘘では無く、城の子を交えての会議を開く。

「翔は、ここの監視システムの事、どう思ってる。」
「この世界の隅々まで気を配る大切なシステムだと思う。」
「監視されてる側はどう思うだろう?」
「知らなければ問題ないでしょ。」
「誰かが間違って秘密を漏らしてしまったら?」
「母さん、心配なら城以外の人達にプロテクトを掛ける事は可能だよ、監視システムのことを耳にしても何の事か全く理解できない様にすることが出来るんだ。」
「それを実行するのはいささか抵抗を感じるわね。」
「でも、ずっとじゃない、僕らが十六歳ぐらいになったら、そういった制御は出来なくなる様にプログラムされていてね。」
「そうか…、ここは我々の負担を減らす意味で、もしもの時はプロテクトをお願いするのも有りなのかな。」
「大切なのは第二世代をより良い大人へ成長させる事なのよね。」
「その為には、多少の倫理的な罪を私達が背負う事になっても、う~ん、翔が十六歳になるまでに、より強固な社会基盤を作っておけば良いのよね。」
「大人達にプロテクトを掛けるのはさほど抵抗を感じないが、子ども達にはちょっとな。」
「子ども達は大丈夫、マリアさまが何時でも見守って下さっていると僕らが教えてるからね、子どもにプロテクトは掛けられないし。」
「ならば…、監視システムの事は出来る限り秘密に、もし漏れてしまって、そのことが社会の安定にマイナスになりそうだったらプロテクトをお願いするが、どちらにせよ強固な社会基盤の構築を目指す、とした上で遠慮なく監視システムを使う…、いや、その前にこの件に対する反対意見は?」
「使う側の良心に問題がなければ大丈夫でしょ、このシステムを使う事でより安心して子育てが出来るのなら反対する理由はないわ。」
「反対がないのなら、使用に関しての問題はモニターの数だな、カメラは沢山有っても端末の台数に限りが有り効率が悪過ぎる、キング、何か手はないか。」
「その答えは尊が持っている。」
「はい、これから更にマリアさまの技術を教えて貰う事になっています、次の工作の時間はモニターを作る事にします。」
「そんなに簡単なのか、キング。」
「まずは部品を受け取って最終の組み立てを覚える、それから各部品の作成を習得、その後材料の製造、と工作の授業は随分先までプログラムされてる、ちなみに城の子しか作る事が出来ないと言われてね、私は城の大人だから作れない。」
「はは、だが城の子全員が製造業に従事しても良いのか?」
「多くの時間を工作だけに使う訳ではないから心配に及ばない。」
「居住コロニーと違って作業は人に見せられないだろ、教室として使ってる部屋で大丈夫なのか?」
「地下室を工作用の部屋にしたので心配は要らない。」
「えっ、地下室が有ったのか?」
「ああ、使い道が牢獄とかにならなくて良かった、地下研究室、地下工場、そうだな監視ルームも地下に作ろう、城の住人以外は出入り出来ない設定にして有るが、さらに亡霊が出たりと…。」
「亡霊?」
「望、どうなった?」
「地下への入口に部外者が近づくと、一花おばさんがお話で聞かせてくれた、悪い子を食べちゃうおばけが出て来るわ。」
「それって、怖いの?」
「どうかしら、よく分からないから、悪い子を食べちゃう様なのを想像してみたけど。」
「翔、画像は見られないのか?」
「ふふ、今、皆の端末に送るよ。」
「こ、これは…。」
「却下だな、こんなに可愛い亡霊では無駄に人を引き寄せてしまう、一般人が地下へ入れないとはいえ、その存在は極力秘密にしておきたい、このキャラクターは食堂で使おう。」
「地下への入り口の方はどうするの?」
「変な小細工は要らないのだろ、キング。」
「いや、この城にも亡霊の一人ぐらい住まわせたいと思ったのだがな。」
「亡霊と言ってもこの城で死んだ人はいないし。」
「そうだな…、では別の遊びを、子ども達、後で秘密会議だ。」
「ラジャー。」
「はは、結果を楽しみにしてるよ、ところでモニター以外はどんな物が製造出来るのだ?」
「次の一年生が持つ端末は誠たちが造る事になっていて少しずつ学習している。
 さすがに複雑で完成まで時間が掛かりそうだ、他国のリーダーの持つ、尊曰くおもちゃ程度の物ではないからな。
 他はマリア達のテクノロジーを使った道具で、欲しい物が有ったらリクエストしてくれるか、但し外部の人にその存在が知られてしまうものは不可だ。」
「条件さえクリア出来れば何でも作れるという事か?」
「だよな、尊。」
「はい、マリアさまは僕たちに全てのテクノロジーを教えて下さるそうですが、この世界の人達は自分達の技術を自分達の力で発展させて行くべきだと。
 その範囲でなら助言する事を許されていますが、僕らにとってはマリアさまから教えて貰う技術以上に難しく思えます。」
「魔法を使えないと簡単ではないということなの?」
「まあ、そんなところです。」

 この世界の人にとって、自給自足の原則を変えないのがマリアの方針。
 その一方、島の秘密基地ではすでに大きな物の制作に取り組んでいるのだが、それはまだ秘密で、私が見ても何を作ってるのかさえ分からない。
 マリアには秘密が多い。
 はっきり分かっているのは、マリアが例のブラックコロニーに全く興味がないということぐらいだ。
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