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116-旅立ち [岩崎雄太-12]

旅立ちの朝、大勢の仲間達とテレビ局のカメラに見送られ、正平とスタッフ一行を乗せたバスは出発した。

「聡志、なかなかゆったりしたバスでしょ。」
「六十人乗りを改造して貰って、三十人がゆっくり寝れる、贅沢すぎですよ里美姉さん、まだ名も知られていない新人歌手なのに。」
「まあ色々利用させて貰うからね、ツアー中の売り上げでこんなバスの一台や二台簡単に稼げると思うわ、一応正平がダウンという最悪のシナリオでも赤字にしない手立ては考えて有るから心配しないで。」
「姉さんがそう言うなら安心ですが…。」
「スケジュールに余裕は作って有る?」
「はい、里美姉さんの指示通りにゆったりと組んではあります、ただ、DVDを送った先からステージを追加出来ないか、という問い合わせが来てまして、今の所は受けても問題のないレベルなのですが、今後増えるかもしれません、まだ簡単にお断り出来る立場では有りませんので、今後の交渉事が若干不安ですが。」
「正平次第ね、他のスタッフは交代すれば良いし、テレビ局サイドの応援も有るから何とかなるわ、でも、彼には曲も作って欲しいから…。」
「正平の強みは準備に時間が掛からないのと、二時間ぐらいなら喜んで歌い続ける事ですね、体も丈夫です。」
「そうね、発声練習とかしてる所、見た事無いわね、大丈夫なのかしら?」
「始めの内は静かな曲を静かに歌って喉を温めています、それが発声練習代わりなんでしょう。
調子が出て来ても喉に負担が掛かる様な歌い方はしない、音楽の先生にだけには褒められていたそうですよ。」
「ふふ、だけなのね。」
「英語の先生も発音だけは褒めてくれたって自慢してました。」
「耳が良くてコピー能力が高いということかしら。」
「算数も国語も苦手、でも歌の詞となると文法的に変な所が個性的であいつの魅力になってますよね。」
「何が幸いするか分からないわ、取り敢えずスケジュールの変更は正平と史枝、京子と四人で相談なさい、始めのうちはみんなペースを掴めないだろうから判断が難しいかもしれないけど慣れてくれば、大丈夫じゃないかしら、正平を潰す気はないでしょ。」
「もちろんです、そんな事になったら史枝始め兄弟全員から恨まれてしまいますよ。」
「休む時はゆっくり休んで貰いましょう、宿の方は大丈夫?」
「はい、最悪、正平と史枝以外のスタッフはこのバスで寝ても良いと考えていたのですが、各テレビ局の方が手伝って下さって先々まで確保出来ています、四か月目以降は、メインのスケジュール自体がまだ流動的なので、調整中ですが…、テレビ局の人は随分親切なんです。」
「どうしてだか分かる?」
「えっ?」
「あなた達が岩崎雄太の息子と娘だからよ、番組スポンサーは関連企業ばかり、お父さまを怒らせる様な事があってスポンサーを降りたら、局にとっては大打撃なの。」
「それで姉さんは強気なのですか、親子と言っても対外的には形だけのものだと思っていました…。」
「相手はそう思わないわ、でも私達の力じゃないから威張ったりしちゃだめよ。
大勢の社員さん達に支えられている訳でもあるから、スケジュールに入ってる工場での演奏とかでお返しして欲しいのだけど。」
「はい、逆に岩崎雄太の子として恥ずかしくない様に、スタッフ全員に徹底します。」
「お願いね。」
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