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68-食事 [岩崎雄太-07]

その日の夕食時。

「斎藤さん、食事は美味しいですね、無料だからもっと質素かと思ってました。」
「でも刺身とか焼肉は出ませんよ、武井さん。」
「そんな贅沢言えませんよ。」
「でも頑張って働いた金で買うのは、もちろん自由ですから。」
「あっそうですよね、頑張ります…、この食事の費用も株式会社岩崎が負担して下さっているのですよね。」
「いえ、岩崎社長率いるグループ企業が実験的取り組みとして協力して下さっているのですよ。」
「実験的ですか?」
「ええ、今の所始まったばかりでシステム構築中ですが、現時点でこの村と三つの福祉施設が対象になっています、ここに並んでいる食品の多くは賞味期限切れが近い物が主なんです。
分かり易く言えば、保存食として売られている物は賞味期限まで一か月有っても売る訳には行かないでしょ、そんな商品はお金を払って処分しています。
でも、それを資金に余裕のない福祉施設に回せば喜んでもらえます、もちろん会社側の負担は有りますが。」
「無駄が減るという事ですね。」
「ええ、捨てられてきた食料を貧困層の生活改善に役立てるという取り組みです、それと開発中の新商品の試食という事も新システムに組み込まれています、このハンバーグは開発中の商品ですから後で食べた感想を求められます、それを商品開発に生かすそうです。」
「あっ、それで食についてのアンケートが面接時に有った訳ですね。」
「強制では有りませんが、良い商品が完成すれば、何かの間違いで返品になった時に美味しい物が頂ける訳ですよ。
対象となる福祉施設はシステムの構築に伴って増やして行くそうです。」
「斎藤さんはお詳しいのですね。」
「以前システムエンジニアをやっていた関係で担当にして貰いました。
今は菜園の手伝いもしていますがいずれは専従となるかもしれません、実際に運用している人の方が問題に気付き易いですし、改善も提案し易いですから。」
「なるほど特技を生かせるのですね、でも菜園は準備段階と聞きましたが、この野菜は?」
「今はこのエリアの方に分けて貰っているものが中心です、まだ良好な人間関係とまでは行ってませんが、元詐欺師の小山さんが交渉すると…、でも提供して下さる方も喜んでおられるそうで、まあ一つのエンターテイメントみたいな感覚なのか、小山さんは楽しませてあげたお礼に野菜を頂いていると話してましたが。」
「えっ、少し微妙な…。」
「大丈夫ですよ、所長も把握してます、小山さんも自分の能力を違った形で役立てたいと話してますし、堂々と監視役も付いています。
詐欺師ですから気を付けて下さい、なんて自分で話しているくらいです。」
「それでも騙してしまうのが詐欺師ではないのですか?」
「大丈夫でしょう、全く別の取り組みでカウンセラーが村人達の指導に入っています、過疎地の再開発を長い目で見て理解して頂かなくてはなりません、このエリア全体の事を考えてのプロジェクトなんですよ。」
「本当に真面目な取り組みなのですね…。」
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