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中村和音と柳原真子 [Lento 2,夏]

Lentoの休憩室和音が真子に絵を見せている

「ねえ真子、この絵どう?」
「あら、花と妖精の絵なのね…、柔らかくて暖かくて…、良い絵ね。」
「でしょ。」
「誰が描いたの?」
「厨房の茂根くん。」
「えっ彼、画家だったの?」
「趣味で描いてるんだって、大学も普通に経済学部だしね。」
「人は見かけによらないものね。」
「実はこの絵、頼んで描いてもらったの。」
「ムム、和音、お主何か企んでおるな?」

「ピンポ~ン、二人でこの絵の世界を表現してみない?」
「和音のピアノと私の踊りでってこと?」
「ええ、でさ即興演奏でやってみたいの。」
「ということはどんな曲か分からずに踊るわけ?」
「真子の踊りも結構即興だったりするでしょ?」
「そうね、即興対即興か、ふふ、面白いかも。」
「でさ、たまにブレイクタイムの時やってる、真子に合わせて私が演奏するパターンとか、特に曲に合わせないで踊ってみるとかもどうかな。」
「お客様に解っていただけるかしら?」
「最初に即興だってこととか説明させていたくわ。」
「大体のストーリーは有ってもいいかな。」
「そうねストーリー展開は東沢さんにも手伝ってもらいましょうよ。」
「お客様にも絵を見ていただきたいわね、緑川さんに相談してみる?」
「もちろんよ茂根くんの絵と真子の踊り、私のピアノで一つの空間を作り出すのよ。」
「和音、しばらくこの絵を見ながら発想を広げてみるわ。」
「じゃあ私は緑川さん達と相談してくるわね。」
「あっ、衣装のことはどうする?」
「それもまかせといて。」
「じゃ、よろしくね。」

それからしばらくして…、Lentoの午後

「皆さんこんにちは、中村和音と申します。」
(和音が話し始めたから妖精もゆっくりお客様の前に行こうかな、ふふ、皆さん和音のこと、もうご存知だと思うわよ、和音。)
「今日はインプロヴィゼイション、そう即興演奏に挑戦させていただきます。
実はお客様の前での即興演奏は初めてでして、ちょっとドキドキなんです、で、演奏の前の言い訳ということでもないのですが少し話をさせていただこうかと思います。
今日はちょっとした趣向がありまして…、今出てきた妖精が柳原真子、Lentoの常連さんならご存知ですよね。」
(軽く会釈して妖精らしさを意識ながらくるっと回ってっと。)
「妖精も即興で踊ります。」
(うん、困った顔でもしておこうかな。)
「初めての即興演奏の出来が悪くても妖精の踊りでカバーしてもらえるかなっということでして…。」
(おいおい和音、そんな魂胆があったの、まぁいいわよピアノの調子が悪かったら私がサポートするわ。)
「ピアノと踊りの即興なのですが、イメージはこの絵になっています。」
(ふふ、絵に近づいてっと、大画面モニターの方もオーケーね。)
「Lentoスタッフの茂根達也作、花と妖精。」
(和音たらもしかして茂根くんのこと…)
「妖精と私はこの絵のことを話し合いました、Lentoのスタッフを交えてです。」
(ふふ、さすが和音、東沢さん達への気遣いも忘れてないわね、ここは頷いておきましょう)
「結果的に出来上がるのが今からの演奏です。」
(そうよね、練習一回もしてないのだから。)
「即興演奏ですが、2人でのということで完全な即興にはなりません、絵をイメージした、簡単なストーリーが有ります。」
(ちょっと動いて妖精の存在を軽くアピールしておこうかな。)
「ストーリーは見てのお楽しみですが、3っつのパターンがあることだけは、皆さんにご説明させて下さい。」
(このことを知っておいていただいた方がより楽しめますよ~)
「普通の踊りは演奏に合わせて踊りますが、普通でないパターンも2つ出てきます。」
(そうよ~、基本は演奏に踊らされているようなものね。)
「とてつもなく内緒の話なのですが、ブレイクタイムの時に私が真子の動きに合わせて演奏していることもあります。」
(ふふ、ばらしちゃうのね。)
「私の演奏に合わせて動いているスタッフは真子の後をついて行く形になって、自然と真子がリーダー的存在になってしまうのです。」
(ちょっといたずらっぽい仕草をしておこうかな。)
「こんな話、他のスタッフに聞かれたら怒られそうですね、あ~そこの優子さん、聞かなかったことにして下さいね。」
(はは、優子ちゃんもお客様も大うけね。)
「今日の演奏中も途中で妖精さんに合わせて演奏するパターンが登場します。」
(ちょっとイメージ作っておこうかな。)
「もう一つはピアノと妖精とが別々の動きをするパターンです。」
(これって結構難しいのよね~。)
「ちょっと打ち合わせはしたけど、練習は一切していない即興演奏、手抜きかな?達也くん。」
(あっ、達也くんも呼んだんだ、はは困った顔してる。)
「彼が絵の作者です、では、絵画と、踊りと、ピアノのパフォーマンス楽しんでいただけたら幸いです。」
(さあ和音がピアノの前に座る前は無音だから私が動かなきゃね。)

(では、始めますか、妖精さんはお客様の間をのんびりお散歩中のようね、ではまずはお散歩の感じで…。)
(ふふ、曲が始まったわね、お花は私を見てるのかしらね…。)

妖精の動きに合わせたゆったりとした調べが流れる

(そろそろお花に気づいてね…。)

和音のピアノが妖精に呼びかける

(ふふ、お花が呼んでるわ…。)

妖精は舞いながら花の許へ

(妖精さんお話ししましょ、まずは私のお話し聞いて下さいな。)

ピアノが花の話を奏でる、妖精は耳に手を当てたりしながら、花の周りをゆっくりと動いている
花と妖精の絵の場面の仕草も織り交ぜながら

(それではそろそろ私がお話ししましょう、私が見てきた色んなことを。)

突然妖精の踊りが大きく華やかに、それに合わせて花は控えめな演奏になりながら妖精の踊りをサポートしている
妖精は踊りの中に色々な仕草を織り込ませ始めた

(あ、は、妖精さんたら野球を見てきたんだ。)

しばらくして妖精の動きがゆっくりになる

(妖精さんはお疲れなのよ。)

花はまた語りだす
妖精は寝そべってしまう

(妖精さんたら、あくびまでして、もっと私のお話し聞いて欲しいけどね。)

花は静かに子守唄を奏で始める

(みなさん、お休みなさい。)

動きを止める妖精、しばらくして花もピアニッシモまで弱くなり消える様に終わる

(お休み、妖精さん)

満場の拍手で演奏が終わる

一週間後、Lentoの休憩室

「和音、この前の花と妖精、あれで良かったのかしら?」
「真子、知らないの?」
「えっ? 何を?」
「大成功よ。」
「そうなの?」
「またやって欲しいという書き込みがサイトの方に殺到してるわよ、見て下さったお客さまの書き込みを見て、私も見たかった~って声も多数寄せられているわよ。」
「あ~、最近掲示板見てなかった。」

「それとね、茂根くんの絵がすごいことになってるの。」
「まさか高く売れたとか?」
「まぁね、演奏の後、買いたいってお客様が何人かおみえになって、結局はオークションしようかってことになったの。」
「ふふ、高く売れた?」
「それがね白川さんがお客様に持ちかけたの。」
「またまたオーナーの妙案なのかな?」
「皆さんで茂根達也を育ててみませんか、ですって。」
「どういうこと?」
「ちょっと待って、白川さんの言葉メモしといたから。」
「和音は字もきれいね、え~っと、今日の演奏もあって、皆さんの心の中でのこの絵の価値は彼の力以上の物になっているとは思います。
でも私は演奏抜きでも、この絵に彼の才能を感じているのです。
我々で彼を援助して絵を描く時間をより多く持てるようにバックアップしませんか?
一人の芸術家を育てたいのです。
 絵は我々の共有物として扱うということにしませんか?
なるほど白川さんらしい発想だ~、で、どうなったの?」
「茂根くんは、今後、親の仕送りなしで、バイトしなくても絵を描いてれば大学卒業できるんじゃないかしら、白川さんは絵一枚が売れる価値の何倍もの価値を引き出したような気がするの。」
「プロジェクト茂根スタートってこと?」
「そういうことかも。」
「ところで和音ってメモ魔。」
「はは、白川さんの言葉をメモする癖がついてるのよ。」
「そう言えば和音は白川さんに育ててもらったって言ってたわね。」
「色々なアドバイスをいただいたからね、演奏に集中できる環境も作っていただいたし、今度は茂根くんが育ててもらえそうね。」
「私も好きな踊りを力いっぱいやれる環境をいただいたわ。」
「決心したの?」
「ふふ、決心も何も、私はLentoの真子よ。」


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