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中村和音と青山三郎 [Lento 2,夏]

Lentoのロビーでくつろぐ青山、そこへピアニスト中村和音が通りかかる

「和音ちゃん。」
「あっ青山さん、こんにちは、何時もお世話になっています。」
「こんにちは、最近はどうですか、何か困ったこととかありませんか?」
「有難うございます、そうですね~困ったことですか? 何か順調過ぎて、それが困ったことかもしれません。」
「はは、順調なのは良いことじゃないのかね。」
「コンクールでの金賞は思ってもみなかったことですし、すごく大勢の方が応援して下さって、正直、戸惑っています。」
「君は一気に成長したからね、でも自信を持っていいんだよ、実力のないピアニストを誰も応援しないから。
「あ、有難うございます。」

「そう言えば留学の話が出てたんじゃないの?」
「ええ、そうなんですけど…。」
「あまり、乗り気じゃなさそうって聞いたけど?」
「はい…、コンクールで賞をいただいたこともあって、大学から話がきたんです、若い内に海外で学ぶことも大切だって。」
「確かにそうだな。」
「でも留学って頭になかったし、とりあえず言葉の問題があるじゃないですか、ピアノを弾く時間を語学学習にとられそうですし、彼とも…。」
「はは、悩み多き乙女ということか。」
「Lentoでも演奏したいし。」
「そ、そうだ和音ちゃんの演奏を聴けなくなったら私の人生は真っ暗だ。」
「ふふ、大げさですね。」
「いや嘘じゃない、和音ちゃん遠くへ行かないで~。」

「実はこの前、白川さんとお話ししたんです。」
「Lentoオーナーの?」
「はい、白川さんは留学したかったら全面的にバックアップすると言って下さいました。」
「さすが太っ腹オーナーだな。」
「でも、気が進まないという話しをしていたら、めずらしく考え込まれて…、白川さんとお話しさせていただいていて、あんなに間が空いたのは初めてでした。」
「そうか、白川オーナーも奇策を練るのに時間がかかることもあるわけなんだね。」
「ふふ、そうなんです。」
「えっ? ほんとに奇策?」
「奇策という表現が当たっているのかどうか、まだわかりませんが、白川さん、留学の意味は? と訊ねられたんです。」
「留学の意味か、君は何て答えの?」
「はい、視野を広げるとか、人脈を作るとかも有るかもしれませんが、やはり自分の音楽性の向上ではないかと。」
「君は、今のままでも名ピアニストだよ。」
「いえいえ、まだまだひよっこです。」
「その気持ちが良いのかもしれないな、ひよっこだから大胆にもなれる。」
「あら、白川さんの話し聞いておられたのですか?」
「まさか。」
「師匠を間違えて、その大胆さを失ってしまったら意味ないとも。」
「確かにそうだ。」
「それで…。」
「それで?」
「留学でしか得られないことも有るだろうけれど、留学してしまったら得られないことも有る、とおっしゃって。」
「ふむ、あるだろうな。」
「今度、私も含めたプロジェクト和音の会議で、きちんと形にして提案するから、留学はやめて欲しいと言われたのです。」
「う~ん、留学するなら全面的にバックアップと言っておきながらの提案だから、かなり自信がありそうだな。」
「はい。」
「で、返事はどうしたの?」
「あら、私はLentoの中村和音ですよ。」
「聞くまでもないってことだね。」


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