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07 絶望 [KING-04]

 新体制で保護に臨む最初の単独コロニーは大人八名子ども九名、便宜上第二コロニーと呼ぶことに。
 問題なさそうという当初の見込み通りにファーストコンタクトは上手く行き、今回は音楽村の演奏や夢の歌を聴いて貰い音楽による癒しも試みた。
 それに対し涙する人がいて、彼らの表情からも音楽の効果が確認され、今後もファーストコンタクト後のプログラムに入れて行く事にする。
 このコロニーの子は頻繁にゲートを越えてくれるが、その相手は香とゼロ年生に任せた。
 第一コロニーの子や和の国の子も遊びに来ているが、みんな香の言うことを良く聞いて慣れない子ども達と友達になろうとしてくれている。
 子ども同士言葉が通じなくても問題はなさそう。
 大人達には対面までの期間、録画映像をモニターで見て貰う時間を多く取るので、尊たちは直ぐに第三コロニー、一番小規模なコロニーにも取り組み始める事に。
 大人三名子ども一名の様子を、まずは隠しカメラ映像で見ながら…。

「第三コロニーの人達って表情が暗く感じるのだけど、元々そういう顔なのかしら?」
「どうだかね、子どもは一人だけ、あの子ではゲートを越えて貰えそうにないな。」
「子どもの行き来がないと、安心して貰うまでに時間が掛かるかもだけど、モニター映像と贈り物で何とかしよう。
 こちらに対する警戒心が薄れるまでに時間が掛かりそうなら、次の第四コロニーにもモニターを送ろうか。」
「ねえ、第一コロニーの記録映像だけでなく、第二コロニーの様子も少しずつ見て貰わない?
 場合によっては第四コロニーのも。」
「そうだな、第四コロニーは大人四名子ども二名だから規模が近い、相互に見て貰うというのも有りだね。
 自分達と同じ様なコロニーが存在すると知れば安心出来るかも知れないわ。」
「でも、自分達も見られていると知ることになるだろ、マリアさまが見守っているとは伝えられそうにないから、今は記録映像だけにした方が良いかも。」
「それもそうね、第一コロニーの映像も、対面後を中心にした方が良いかも。」
 それでも、スタッフの顔を覚えて貰え、後の作業が楽になると思うわ。」
「じゃあ、第二や第三コロニーの映像も対面以降を編集して見て貰える様にして行く、ドラマ制作チームに手伝って貰うよ。」
「翔、ドラマ制作が遅れることにはならないの?」
「いや、趣味として取り組みたい人がいて、増員を考えていたんだ。
 サンフランシスコの生産性が上がって来て、余力が有るだろ。」
「うん、作業効率の改善が進んでいるだけでなく、サンフランシスコの人達は少し若返っているみたいだね。
 国全体の雰囲気が明るくなり、リーダーは最近体が軽くなったと感じてるとか。
 僕らが保護して行くコロニーで英語を話せる人がいたら積極的に協力して行きたいと話してくれたよ。」
「それは心強いな、場合によっては単独コロニーをサンフランシスコに繋げても良いね。」
「ああ、他の国はこれから保護する国とのファーストコンタクトが始まる、応援を依頼するにしても大勢とは行かないからな。」
「じゃあ、第三コロニーとのファーストコンタクトは明日でも良いか?」
「大丈夫だ、手順は第二と同じ、但し、子どもの行き来は省略だね。」
 第三コロニーがどんな理由で今の人数になってしまったのかが気に掛かるが、問題が有ったとしても人数が少ないから何とかなる、対面時の見守り人数も少なくて良い訳だから、第四コロニーを意識してスタッフを分けても良いと思うけど。」
「そうね、じゃあ、どういう風に分ける?」
「巴がね、ずっと観察して来た結果、人それぞれ好みが違うと話していてさ。
 第一コロニーの人は、特に望の映像が好きだとか、第二コロニーの男性は愛が出て来るシーンの時に一番表情が緩んでいるとか、そんなことを基準にして担当を分けても良くないかな。」
「へ~、そんな事考えもしなかったわ、さすが巴ね。」
「では、第二、第三コロニーの人達には、見守り担当を予定しているスタッフ全員の映像を見て貰い、その表情から今後の担当を巴に判断して貰えば良いね。
 それでさ、僕らの端末には人の感情を数値化する機能が有っただろ。
 あれは表情と言葉から判断するのだけど、端末にない言語でも使えるかどうか試してみないか。」
「うん、今から取り掛かればスタッフの映像も今日中に準備出来る。
 人の感情を数値化する機能、第三コロニーではファーストコンタクトから試してみようよ。」

 すぐさま翔の指示で動き、護衛スタッフ、第一コロニースタッフ、新たに見守り担当になって貰うため巴が選んだ人達を撮影。
 一人一分程度の動画で、シンプルな自己紹介と共通語の単語説明を試みて貰った。

 翌日。
 まず、第二コロニーの人達に見せ皆で観察。
 その結果、人によって若干の差は見られたものの、端末に表示された数値は全員の好感度を高く示した。
 護衛スタッフは巴と尊が選び、第一コロニースタッフは城の子全員が好感触を持った人達だから当然と言えば当然。
 子ども達は好感度の低そうな人もサンプルに入れようと話し合ったが、その作業に取り組む前に第三コロニーとのファーストコンタクトが待っている。
 そのミッションがスタートして…。

「突然現れたゲートに驚いてはいるけど…、さてモニターを背負ったウサギにはどうかな…。」
「子どもが興味を持って近付きたがってるわね。」
「さあ、僕らが手を振る映像にどういう反応をしてくれるかな。」

 恐る恐るウサギに近づき、背中に括りつけられたモニターの映像を見た彼女達は、歓喜に満ち溢れた表情に。
 モニターに映る城の子達が手を振る映像に向かって手を振ったかと思うと、モニターにキスする者も。

「凄く喜んでくれてるね。」
「端末情報では喜びが最大値になってるわ。」
「はは、見れば分かるよ、でもどうしてこんなに。」
「翔、この人達は絶望していたのだと思う、君たちはゲートが現れる前から観察していただろ。
 あの暗かった表情は、何の希望も無い状況だったからだと思う、女性三人と女の子、女の子はこの先兄弟も友達も出来ず、大人が年老いて亡くなったら独りぼっちになる運命だった。」
「そうか…。」
「ねえ、父さん、喜んでいる今なら、プロテクトが外れる苦しさを乗り越え易いという事は無いかな。」
「予備知識なしでか…。」

 それから、彼女達には用意して置いた映像を見ていて貰い、私達は急遽相談を。
 第一コロニースタッフは、喜びが苦しさをかき消すだろうと自らの経験から示唆してくれた。
 だが言葉の問題は有る。
 一通り皆の意見を聞いた後、尊は、彼女達を待たせないという選択を、そして英語で話しかける事も決めた。
 理解出来る人がいたら、その人の苦痛がとても大きくなると理解した上で。
 和の国の人達は強い苦しみを受けたが全員乗り越えられた。
 もし英語を理解出来る人がいて大きな苦痛を味わう事になったとしても、理解出来る言語で励まされたら乗り越えられるのではないか、そう判断しての決断だ。
 対面に向かうメンバーを決め、ゲートを越えるまで時間を掛けなかったのは、彼女達の喜びが薄れる前にと考えての事。
 ゲートを越える前に、モニター映像を尊、巴、香と五名のスタッフに切り替え、英語で紹介、今から訪問すると告げて、ゲートへ。

 彼女達はゲートから姿を現した八人を、少し戸惑いながらも嬉しそうに迎えた。
 そして…、三人は、第一コロニースタッフの女性達に抱きしめられると大粒の涙を、だが抱きしめているスタッフ達も涙が止まらない。
 一人の女性が英語でカタリナと名乗り話し始めたが、直ぐに苦しみ出す。
 急いで記憶プロテクトの話しをした二人のスタッフは説明しながら見守ることしか出来なかった。
 他の二人は英語が理解出来ない様で、巴と身振り手振りでコミュニケーションを。

 それから尊は次々と指示を出して行く。
 香が子どもを抱き抱え、愛がお茶を運び込み、男性スタッフ達は椅子やテーブルを持ち込み始める。
 急遽呼ばれた音楽村のメンバーが演奏を始め、夢の歌も。
 レストランのメニュー写真をモニターに表示し、食事を選んで貰いながら、お酒の注文を取る。
 彼女達はワインを選択。
 尊によって急遽決められた野外パーティー、その準備が整う頃には、英語を話せるカタリナが落ち付き始めていて、もう泣き笑いしながらおしゃべりに夢中。
 彼女は神に見捨てられた四人という言葉を何度も口にし、城の子の耳に入らない所でここの事情を教えてくれた。
 男女八人でこのコロニーが形成され、リーダーとその管理者だけがコンタクトを取れる状態になった後、しばらくして喧嘩が始まったそうだ。
 和の国三丁目でも起こった事で不思議ではない。
 ただ、運悪く、リーダーが殴られ倒れた拍子に頭を強打して死亡し消え、殴った者も苦しみながら意識を失い、そして消えたという。
 八人が揃ってから僅かな間に、彼らは二人の仲間と管理者を失ったのだ。
 個人で暮らしていた頃の管理者とは全くコンタクトが取れず、六人は途方に暮れた。
 そこから、子どもには聞かせられない様な男女の諍いが有り…。
 結局一人が身籠って間もなく、今の人数にまで減ってしまった。
 子どもが生まれてからは、子どもが希望で有ると同時に、その子の将来に希望がないという絶望感の狭間で…、それでも残った三人は喧嘩することなく細々と生きて来たという。

 カタリナの話は、どこの単独居住コロニーでも起こり得たと思う。
 八人だけの社会、その内の一人がエゴイストで有るだけでも…。
 今でこそ和の国では重要な立場に有る三丁目の連中でも、このコロニーと同じ道を歩んでいたかも知れないのだ。
 まあ、そんな込み入った話までしてくれた事で、こちらは話を進め易くなった。
 急遽開かれた屋外パーティーで、彼女達の気持ち『喜び』を持続させるという尊の判断は正解だったと思う。
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06 新体制 [KING-04]

 新たな仲間は英語で会話が出来る様になってからも城の子を敬ってくれ、城の子達は私達と接する時と同様、尊敬の念を持って彼等と接する。
 互いに尊重し合っていれば良いチームを形成出来るだろう。
 尊は更に…。

「ねえ、今回は子どもが十二人だったことも有って、香たちは少し大変そうだったろ。」
「そうね、今後は一つのコロニーあたりの人数が減るとは言え、複数のコロニーを同時進行でと考えると余裕が欲しいわね。」
「それでさ、夢たちは一年生になるまでまだ少し有るけど、手伝って貰うってどうかな?」
「八人より十二人の方が心強いわ、保護した子ども達と友達になってくれるだけでも助かると思う。」
「夢の歌は、ほっこりさせられるのよね。」
「だろ、共通語を覚えるのに役立つ様な歌の作曲を音楽村の人にお願いして、夢に歌って貰えたらとも思うんだ。」
「良いかも、キングと相談する?」
「一年生になるまでは端末を持たせてあげられないけど、四人とも手伝いたいって話してたよ、最近一緒に遊べなくなった代わりに一緒に作業するのも悪くないな。」
「じゃあゼロ年生ということね。」

 子ども達からの提案を受け入れ、単独居住コロニー保護チームの体制を強化することに。
 城の子は八名から十二名に、新たに仲間となった八名の大人達は一旦見習いとして、護衛スタッフは十名が必要に応じて対応。
 後は、語学教材などの作成の為、翔の指示で動く二十名ほどの集団が有り、相手の胃袋を掴むべく、レストランも全面的にバックアップする体制を整えた。

 その新体制、ゼロ年生の四人は主に望が指導。
 勿論無理な作業をさせるつもりはなく、夢が歌の練習をする以外は見習いとなった人達の子に遊びながら共通語を教えると言うのが一番の仕事、これは望が付きっ切りではなく四人に任せ時折モニターで様子を確認している。
 見習いとなった人達は、女性が交代で乳児の世話をする以外は、主に尊から説明を受けている。
 尊は自分の作業をこなしながらだ。
 作業の話は主に英語、雑談は共通語だが、翻訳機を置いて常に二つの言語を確認出来るように、難しい話は英語の得意な二人が彼らの母国語で説明を加える。

「尊、彼らの記録映像を編集したものは見て貰った?」
「ああ、あの時の状況を考えたら良い作戦だったと話してくれたよ。
 これから保護して行くコロニーで見せれば理解が早まるだろうと。
 翔たちが作ってくれたプロテクトが外れる時のショートドラマも、見た時は良く分からなかったが、その時になって理解出来、とても助けられたそうだよ、対面前に見て貰って正解だったな。」
「そうか、それなら二作目がもう直ぐ形になる、見て貰ってアドバイスを頼もう。
 対面するまでに沢山の情報を伝えておくことは良いことだと確信できたからな。」
「ねえ翔、映像を利用しての共通語教育プログラム、基礎は何とかなると思うけど、その先は相手の言語を理解出来ていないと難しくないかしら?
 今回は英語を話せる人達だったからスムーズに進んでるけど。」
「ああ、そう思って、更にドラマ作品の制作を進めていてね。
 早めに覚えて欲しい言い回しを強調する形のドラマ番組、台本はサンフランシスコの作家集団に依頼して有るんだ。」
「あのブラックコロニーは、もう大丈夫なの?」
「愛はまだ心配かい、彼等も、この世界での役割を持つ事が大切だろ、僕の要望に真面目に取り組んでくれてるよ、トリッキーで面白い話を作るのは得意みたいだからね。
 共通語の学習も進んでいるのだけど、彼らは知能犯だったんだ。」
「知能犯?」
「頭の良さで人を騙すのが得意だったのさ、サンフランシスコで一番頭が良いのかも知れない。」
「そうか、騙すとか全然知らない言葉だったよね、共通語にも入れる?」
「そうだね、疑うとかは実験結果を疑う、みたいな形で使うから入れたけど、嘘とかも…、城の子には必要のない言葉だけど入れておくべきだね。
 これから作って行くドラマでも出て来そうな言葉だから。」
「そっか、どんなドラマが出来るのか楽しみかも。」
「望も出演する?」
「そうね、考えておくわ。」
「ねえ、それよりさ、今回は和の国十二丁目の形でゲートを繋いだけど、この先はどうするの?
 尊、和の国がゲートだらけになってしまうのはどうかと思うのだけど。」
「そうだな、流れとしては、まず子ども専用コロニーへ繋いで、作業を進めているコロニーの子ども同士も、対面して貰おうと思う。」
「そうね、並行して進めて行かないと時間が掛かり過ぎるものね。
 他の子どもの存在を知らずに育って来たのだから、子どもの集団にも慣れて貰わないといけないし。
 でも、大人達が落ち付き始めたら、子ども専用コロニーではだめよね。」
「ああ、そのタイミングで一旦島に繋ぎ変える、島は英語禁止にして、まずはお花畑で交流して貰いながら共通語の学習。
 それと並行してコロニーを整理して行き、島を広げ共通語中心のエリアに、翻訳機に有る言語を使える人がいたら別で考えるとか、どうかな。」
「うん、新しい仲間をまとめた方が安心出来るかもね。」
「ねえ、島の名前を決めて無かったけど希望の島にしない?
 新しい仲間の希望の島、お花畑の管理をして貰いながら、地下迷路に遊びに来る人の為にお店を開いて運営して貰っても良いわ。」
「でも、余裕は有るのだから、作業より共通語の学習をメインと考えて貰えば良いと思うな。」
「そうね、では単独コロニーと、どんどん繋がって行きますか。」
「望、僕は構わないが、急ぐと皆の負担が大きくなるよ、言葉の行き違いによるトラブルも予想されるだろ。」
「ふふ、尊と巴がいれば大丈夫よ。
 映像で、香と子ども達とのシーンや、尊と巴を跪いて迎え入れた映像を強調しておけば…、そう言えば、巴のプリンセスとしての衣装を中心に私達の衣装が届いていたわね、何でも巴が跪かれるシーンを見て制作した貢物らしいけど。」
「僕らも見たよ。
 それでね、見習いになってくれた人の中に、その道のプロだった人がいて、衣装だけでなく髪型を変えると、もっと跪きたくなるでしょうって。」
「そういうイメージの事はあまり考えて無かったね。」
「愛や望も、もっと可愛くできるってさ。」
「今のままで二人とも、とても可愛いし、髪型を変えても中身は変わらないだろ。」
「それでも、初対面の人は外見で判断するしかない。
 コンタクトの始めが僕らの映像だったから不安が少なかったそうだよ。
 彼女は、更に安心感を与えるスタイルを検討してくれているんだ。」
「そうか、私達はそこまで考えて無かったね。」
「今後は色々な服で登場し、僕たちはお洒落に気を遣うだけの余裕が有るのだと思って貰う。
 それだけでも印象が良くなり交流にプラス、食べ物だけでなく衣服をプレゼントする案も出してくれたんだ、服を変えれば心も明るくなるそうでね。」
「確かにそうね、落ち着いてから服をプレゼントしたけど、もっと早い方が良かったのかも。」
「好みの問題が有るけど、世界中の人達と相談しよう。
 料理のメニューの様に服のサンプルも写真で見て貰える様にしようかな。」
「そうだな、次のコロニーには間に合わなくても、翔、頼むよ。」

 見習いになってくれた人達は我々とは違った視点で考えてくれている。
 衣服に関しては各国が協力を約束してくれたが、これを機に世界のファッション事情が変わって行きそうだ。
 それが我々の文化を発展させて行くことに繋がるのかも知れない。
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05 希望 [KING-04]

 言葉の通じない相手に、記憶が蘇る過程をどう説明するか、翔は、その答えとしてショートドラマ仕立ての映像作品を即席で用意することにした。
 台本は大人達が経験を元に書き、演技は各国の有志による。
 過去のシーンは絵描きが協力してくれた。
 言語は相手にとって耳慣れない共通語、言葉で伝わらないというハンディが有るが、そこは俳優達の熱演でカバー。
 とは言え、今回は時間を掛けられなかったので、このチームは次回以降のコンタクトを意識し、すでに次の作品に取り掛かっている。

「なぜショートドラマを見せたのか分かってくれれば良いけど、愛、どうだろう。」
「翔、ただの娯楽番組を見せられているとは普通考えないわよ。
 それよりモニター越しでない生の巴に向こうの大人達がどう反応するかに興味が有るわ、香が子ども達を引き付ける力の強さは、もう疑いようが無いけど、大人は事情が違うと思うの。
 この世界では私達が特別な存在だと知られている、でも彼等はそれを知らない、その状況で巴にどんな態度をとるのかによって、今後の作業が違って来ると思うわ。」
「確かにそうだな、巴は尊の様に表立った仕事をあまりして無いにも関わらず、大人達の間で人気が…、可愛さでは愛と大差ないと思うのだけどな。」
「ふふ、有難う。
 あらっ、尊からだわ。」
『愛、翔、予定通りに行くよ、訪問の最終調整に入って貰えるか。』
「分かった、リハーサルは何度もして有る、ゲートの部屋まですぐ行くよ。」

 単独居住コロニーの大人達との対面はファーストコンタクトから四日目に。
 決断を下したのは尊、皆がそれに従う。
 向こうのモニターで城の子達の様子を流し、それを見る大人達の表情から三之助も大丈夫だと判断した。
 ミッションのスタートにあたり…。

「向こうへは、僕と巴、必要ないと思いますが心配する人がいますので護衛役として六人の方にお願いしました。」
「相手方の大人は八人だが大丈夫なのか?」
「多過ぎると警戒されてしまうでしょう。
 見掛けは小柄な女性達ですが武術同好会のメンバーです。
 今も彼らは僕らの様子をモニターで見ていますから、八人がゲートを越える事を理解してくれていると思います。」
「巴は大丈夫なのか。」
「はい、お兄さまと一緒ですから。」
「尊、我々大人の役割は?」
「元々問題の少ないコロニーです、今回は見守っていて下さるだけで充分です。」

 コロニーを訪問する準備は整った。
 作戦開始の時は世界中の人が注目している。
 コンタクトの様子は翔が撮影し編集、テレビの試験放送として配信して来た。
 今はライブ放送中。
 ライブ映像は直接係わらない者にとって、良い娯楽になるのだろうが、映像を通してこれから仲間が増えて行くと実感して欲しいものだ。
 麗子は不安を隠さなかったが、それでも子ども達を見送る。
 城の大人達は非常時に備え待機しつつ子ども達を見守る。

「護衛、しっかり頼むな。」
「はいキング、任せて下さい。」
「静子さんは小柄で可愛らしいから、相手に余計なプレッシャーを与えないと思っています。」
「はは、尊さまったら。」
「おい、静子、浮かれるなよ。」
「分かってるわよ、相手にプレッシャーを与え過ぎそうな親衛隊長の出番が無いように気を付けるわ。」
「映像で常に確認しているが、いざという時は先頭で入る静子に掛かっているからな。」
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、じゃあ皆行くよ。」
「尊さま! 私の後ろに!」

 先頭に静子、尊と巴、後ろに五人の護衛を従えゲートを越える。
 尊達、その訪問の瞬間は、全く予想していない展開となった。
 彼等は尊と巴を跪いて迎え入れたのだ。

「これは驚いたな、翔の映像効果か、麗子の食事が効いたのか、何にしても上手く行きそうだな、翔。」
「はい、僕らが観察してる中でも危険は感じませんでしたが、こうなるとは思っていなかったです。」
「手土産も押し戴くという感じね。」
「この形でスムーズにコミュニケーションは取れるのかな。」
「彼等は身振りを交えながら共通語に挑戦していますね。」
「記憶の蘇りは静子さんと対面してスイッチが入り数分後に始まるという予定だったでしょ。」
「その筈だが、未だに冷静だな。」
「彼らは輪を作って話し始めた、愛、何を話してるのか分かるか?」
「だめです、初めて聞く単語が多過ぎて。」
「尊達はにこにこしながら聞いているが。」
「たぶん分かって無いと思います、でも巴たちがいるだけで心が軽くなるのかな。」
「泣き始めた人がいますね。」
「それでも表情が穏やかに感じる。」
「尊が端末に手を伸ばしたぞ。」
『愛、お茶を頼めるかな。』
「ええ、すぐに用意するわ。」
『香、大丈夫の様だから子どもと遊ぶ用意をしてくれるか。』
「はい、誠たちとそちらへ行きます。」
『翔、予定より早いがテレビ電話を設置したいと思う。』
「ああ、すぐ持ってくよ。」
「キング、この状況はどういう事でしょう?」
「親衛隊隊長、彼等はコロニーでの生活に苦労していた、蘇りつつ有る過去の記憶も良いものだとは思えない、だが、翔の映像や実際に尊や巴と会い、彼等に希望が芽生えたとは考えられないか。」
「あっ、そういう事ですね。」
「その希望をさらに強く感じさせる為に、尊はテレビ電話を使うのだろう。」
「なるほど、ここの住人とは早く仲間に成れそうです。」
「ああ、そうして行かないと、先は長いからな。」

 その後は交代で食事を差し入れたり、テレビ電話の使い方を説明し、城の子達と少しの共通語と身振り手振りでの対話を試みたりしたが、そう言った交流が精神状態に良い影響を与えた様で、巴が戻った後も穏やかに進行した。
 蘇る記憶より、共通語を早く覚えたいという気持ちや、狭いコロニーでの先の見えない生活から解放される喜びの方が大きかったのかも知れない。
 今回の事で我々が保護して行く人達の気持ちが分かった気がする。
 子ども達も、これから出会う人達へ一刻も早く希望の光を届けたいと話してくれた。

 翌日以降は、和の国の大人も含め交代で訪問し、言葉を教えたり農作業を手伝ったり、レストランから届けられた食事を一緒に味わったりしながら、交流を深めて行く。

「なあキング、あのコロニーの人達に問題を感じないのだが、どうして単独のままだったのだろうな。」
「ああ、私も疑問に思いマリアに尋ねてみたよ。」
「マリアさまは何て?」
「彼らに問題が有ったのでは無く、繋がる筈のコロニーに問題が有ったのだとか。
 サンフランシスコ以外は同じ人種で国を構成しているだろ。」
「えっ、単に運の無かった人達なのか…。」
「だと思う、人間性は悪くないと感じられるし、学習能力が高いと感じられる。
 子どもが十二人いるのも…、正常に国家を形成出来ていたら、子ども二十人の国家という条件は簡単にクリアしていただろうな。
 この先保護して行くコロニーとはデータ上もかなりの差が有る。
 尊は、予想以上なので、これから保護して行くコロニーをまとめて行く時の中心になって貰いたいと、語学学習が進んだらお願いするつもりで、彼らの為にリーダークラスが持つ端末の製造を昇に指示していた。
 三之助も農作業より城の子をサポートして貰うことを考えて良いとね。」
「そうだな、保護される側の気持ちも分かるだろうし。
 大人達には次の保護作業を見て貰っても良いのではないか。」
「そうだな、尊にも伝えておくよ。」

 一つ目のコロニーとのコンタクトには成功したが修正の余地は有り、次の保護に向けて新たな仲間となってくれたら心強い、そう感じさせてくれる人達。
 城の子も…。

「翔、あの人達、共通語の理解が早いと思わないか?」
「ああ、必要性を強く感じてるのだろうけど、熱心なだけでなく能力の高さを感じさせてくれるよな。
 この言語は覚えやすいと話してくれて、僕らが作ってると伝えたら驚いていた。
 分かり易く、が成功したみたいで嬉しかったよ。」
「どうだろう、もしかして英語が話せるとは思わないか?」
「あっ、可能性は有る。
 もう試して良いかマリアさまに確認しよう。」

 尊がマリアに確認を取り英語で話しかけた所、彼らは驚いた表情をした。
 英語の事をすっかり忘れていたというが、二人にはアメリカ留学経験が有り一気に話が進む。
 他の六人は得意では無いものの有る程度理解出来る。
 それからは、こちらの事情を伝え彼らの事を教えて貰う。
 我々の事情を把握してくれた彼らは、是非尊たちのチームで働かせて欲しいと。
 そして、英語は楽だが、共通語は興味深くマスターしたいと話してくれた。
 英語の得意でない人達も、英語の学習をするより楽しいと笑いながら、子ども達と共に学んで行くと。
 次のコロニーとの接触は彼等への説明の為、少し遅らせる事にし、その分三つ目からはスピードアップする方向で相談を始めた。
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04 コンタクト [KING-04]

 これから保護し受け入れて行くコロニーの情報を城の子達と共にマリアから教えて貰い整理する。
 単独居住コロニーは大小様々で六十七、それぞれ大人は三名から八名、子どもは一名から十二名。
 一つの単独コロニーでさえ子どもを十二名儲ける事が出来たと考えると、八つのコロニーが集まっても子どもが二十名に満たないという国というのはやはり何かしらの問題が有るのだと思う。
 そんな国が八つ、大人の人数は三十名から五十名程度。
 先回の様な孤児を生み出す事態は何としても避けたいが、それぞれにどんな問題を抱えているのか分からず、我々にとって大きな試練と言える。
 作業を進めるにあたり、マリアは各コロニーの隠しカメラ映像を見られる様にしてくれた。
 その映像を元にコンタクトの優先順位を決める。

「子ども達の作ったスケジュールはどうだ?」
「妥当な所ね、映像からの判断で優先順位を決めたそうだけど、まずは二つの楽そうなコロニーで手順を確認してから、単独居住コロニーはキングと子ども達で。
 国の方は今までの経験を生かして私達が担当。
 子ども達の案では、サンフランシスコの時と同様、対面までに時間を掛けて準備し、対面時には見守る。
 サンフランシスコの様な特別な集められ方はしていないとは言え、どんな問題が有って国の発展に失敗したのか分からないのだから、子ども達が考えた通り慎重に取り組むべきでしょうね。」
「サンフランシスコを経験した私達だ、油断さえしなければ大丈夫だとは思うが、八回も続くのだからな。
 出来れば単独居住コロニー保護のフォローもしたいが、我々に出来るのは要所要所で見守るぐらいか。」
「翻訳機が使えないと、私達に出来る事は限られるものね、子ども達はすでに準備を進めているそうだけど任せるしかない…、でも、先回と違って大人相手でしょ、難しくないかしら?」
「あっ、キングからだ。」
『試験的に一つの単独コロニーとコンタクトを取ってみようと思う、来てくれるか?』
「分かった、すぐ行くよ。」

 城の十六人が集まった。

「今回の問題点は向こうに端末どころかテレビ電話さえ存在しないという事と言葉が通じないという事だ、愛と巴が映像から言語の解析を進めてくれてはいるが、相手は大人、先回の様には行かないと思う、そこで今回の作戦だ、尊から説明して貰う。」
「はい、今回一番重要になるのはファーストコンタクトです、向こうの大人がこちらの人と対面してしまうと記憶の蘇りが何の予備知識もないまま始まってしまいます、出来れば時間を掛けて準備したいのですが、時間を掛け過ぎていては残っているコロニーを長期間放置する事になってしまいます。
 今回は翔中心に作成して貰っている映像を見て貰う所から始めます。
 その第一段階として、まずゲートを置き、モニターを背中に括り付けたウサギを越えさせます。
 モニターでは共通語と身振り手振りで、こちらの情報を、この世界の映像と共に流して行きます。
 このゲートは子どもだけが行き来出来る設定にして始めます。
 そのことを、子どもが通れて大人は通れないという場面を撮影した映像で説明し、その反応を見ながら彼らがどの程度理解したかを判断して行きます。」
『尊、ゲートとウサギの準備は出来たよ。』
「おっけい、翔、こちらは隠しカメラ映像をモニターで確認して行くよ。」

 その映像では、まずコロニー内にゲートが出現。
 それに気付いた一人の大人が慌てた様子で他の人を呼びに行く。
 八人の大人が十二人の子どもを連れてゲート前に集合。
 まずは楽そうなコロニーで手順を検討したいと考え、このコロニーを選んだのは大人が八人揃っていて比較的落ち着いた感じだったから、死者が出ていないという事で少し安心感が有る。
 コロニーが広めなので、今後の作業拠点としての利用も視野に入れてのこと。
 向こうの人達がゲートについて話し合っている所へモニターを背負ったウサギがゲートから現れる。
 当然、驚いているが、無害なのは一目瞭然で近づいて来る。
 この役目をウサギにしたのは、犬が吠えたら子どもが怯える、猫が引掻いたら、機械仕掛けより生物の方が警戒されにくいとか考えてのこと。
 ウサギは逃げようとするが、モニターを背負っていては素早く動けない。
 そのモニターには城の子達が笑顔で手を振る映像が流されていて、こちらに敵意は無いと…、どうやら気付いて貰えた様だ。
 ウサギが食用になる可能性も考えてはいたが、取り敢えずペット的な扱いを受けている。
 それから大人達はモニター映像にくぎ付けとなり、その意味を考えている様だ。
 城の子は相手の反応に応じて、色々な映像を用意していたが、大人達が比較的落ち着いていると判断したのだろう、子どもだけがゲートを通れ、通るとお土産を持たされて帰されるという映像を選んだ。
 これには大人達が戸惑った様子を見せた。
 子どもを危険な目に合わせる訳には行かないと考えているのだろう。
 それも予定に入っていたので、次はゲートから、袋に入れたお菓子を投げ入れる。
 ここでモニターの映像はライブに切り替え、投げ入れたお菓子と同じ物を城の子が食べてる映像に。
 その意図を好意的に受け止めた一人がお菓子を拾い上げ口にする。
 麗子特製のクッキーを口にし、おそらく久しぶり、いやこのコロニーで暮らし始めて初めての味だろう、直ぐに他の人に勧める。
 恐る恐る口にした人の表情は、その美味しさを見事に表現していた。
 今度はぬいぐるみを投げ入れる。
 これには子どもが反応した。
 六歳ぐらいの男の子がゲートへ向かう、それを止めるかどうか、大人達が迷っている間に彼は好奇心のままゲートを越えてくれた。
 その彼のライブ映像を向こうのモニターに送り大人達を安心させる。
 香を見てにっこり笑う子の頭を撫でた香は、その子を抱きしめてから、おもちゃと果物を持たせ共通語でお母さんに上げて来て、と話した。
 言葉の意味は分からなくても、手振りから香の意図したことを理解出来た様で、直ぐさま自分のコロニーへ戻る。
 大人達はほっとした表情で果物を子どもから受け取る。
 次に映像を語学教育初級編に切り替え、共通語の文字と発音を絵や写真動画と組み合わせながら流した後、写真を使ったメニューを見せ昼食を選んで貰う。
 彼らは写真からカレーライスを選択した。
 そこからは、望が城の説明をしながらレストランに向かい厨房へと向かう映像、翔が撮影し向こうのモニターへ送っている。
 望は時折、指で指しながら椅子や机を共通語で発音して見せた。
 調理場ではカレーライスを望が味見した後、食器と共にゲートまでは誠が運ぶ。
 その間、望はずっと語学講師として、様々な物の名称を発音して行く。
 一連の流れを見せたので、ゲートから昇の自信作、歩くテーブルに乗せられて運び込まれたカレーは安心して食べてくれた。
 食べた後食器はそのまま歩くテーブルに乗せる様に絵を使って説明したが、彼らは洗いに行き、綺麗にして返してくれた。
 その後、こちらの情報を伝える映像を流し、また明日と絵を使って説明し今日のコンタクトを終える。

 その夜は四年生の四人と。

「尊、感触は良さそうだったな。」
「はい、カレーを美味しそうに食べ、食器を洗って返してくれましたからね。
 やはりお母さんの料理は僕ら最大の武器ですよ。」
「はは、胃袋を掴むのは外交の基礎になりそうだな。
 しかし、今日の様な過程を、これから六十六回繰り返すと言うのは大変だ、これで終わりでもなく、これから大変な作業が待っている訳で。」
「ですね、でも今日の映像を編集して次からのコロニーで使います。
 自分達と同じ様な境遇のコロニーと和の国のコンタクト風景を見せて行く事によって、理解が早まると思うのです。」
「それでも、大きな労力を必要とすると思うが、今日のコロニーとは明日からどう向き合って行くのだ?」
「昼食と食材を提供しつつ語学教育と、こちらの世界の紹介を続けますが、記憶のプロテクトに関する説明は難しくて。」
「そうだな…。」
「尊、あまり完璧を考えなくて良いと思うぞ、彼らを迎える時は英語禁止にするのだから、私達の時の様な苦しさはない代わりに、じわじわとプロテクトが外れて行く、その時に和の国の豊かさを実感して貰えれば、それが彼らにとっての希望になると思うよ。」
「そうね、多少の戸惑いと苦しさは避けて通れないこと、八人の大人に対し二十四人ぐらいの大人をフォローに付けることも可能だわ、子どもに対しては各国の子ども達も手伝ってくれるのでしょ。」
「はい、但し、こちらは状況を把握出来ますが、彼らにとっては全てが突然の出来事、突発的に想定外の事が起こりかねないと考えています。
 そんな時は父さんに頼るしかないのですが。」
「そうだな、私でも判断を誤るかも知れないが最善を尽くす、尊、のんびりしてる時間はない、今回は大胆に行こう、時間を掛け過ぎる方がリスクが高いと思うのだ。」
「そうでしたね、孤児を生み出したコロニーと同じ道をたどりそうなコロニーも有ります。
そこに対応するにはもう少し準備が必要ですが、より効率的な手法を考え、躊躇せず前に進んで行きたいです。」

 尊と話していると、成人した息子と話しているかの様な錯覚を覚える。
 かつての部下、その誰よりも頼りになる息子だ。
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03 孤児 [KING-04]

 五人の孤児たちはひとまず城の一室に落ち着いた。

「香は彼等の言葉が分かっているのか?」
「そうでもなくて、ただ何を伝えたいのか感じてるそうよ、それに対して笑顔で答えてると話してたけど。」
「あの子にそんな能力が有るとはな、でも嘘発見器と同等の能力を備える三之助の子なら有り得なくもないか。」
「尊、彼等のコロニーはどうだった?」
「ひどかったです、畑は貧弱で、テレビ電話や端末は見つかりませんでした、一つの居住コロニーだけで自給自足を試みてきたのが失敗に終わったのではないでしょうか、鶏を見かけないのに卵の殻が有りましたので、ここからマリアさまが転送したのかもしれません、後は翔が昇と調べています。」
「罰を受けて充分な食料援助をして貰えず、そして絶望したのかな…。
 尊の感じた通り、無理心中を図ったのかもしれないね、一人が別の大人を殺し、子どもに傷を負わせた時点で罰を受けて死という可能性は否定出来ない。」
「遺体はすぐに消滅し、先に殺された大人の血だけが残されたということなのね。
 問題は子ども達だけど、言葉が通じないのは大きなハンディだわ。」
「愛と巴が彼等の言葉を分析しています、それを元に共通語を教える準備を始めています。」
「そうか、望と香が五人に付き添っている、怪我をしてる子もいるから、まずは東城家で担当だな。」
「はい、ただマリアさまから極力短期間で城から移す様に指示が有りました、城で夜を過ごす事は彼等にとってマイナスになるそうです。」
「そうか、城は特別な場所なのか…、言語に関する話はマリアさまと相談しなかったのか?」
「したのですが僕らで解決するのがベスト、翻訳機に新たな言語を追加する必要はないと。」
「そうだな、子ども達の年齢を考えると、その方が早い、尊は彼らの今後について何か考えは有るのか?」
「まずは城下町の子どもの家で暮らして貰い、僕らが交代で面倒を見ます、お泊りに来る子達も協力してくれるでしょう。」
「大人の援助はどうする?」
「通常の保育担当者を増やすか、敢えて今のままにし、おっきい子達に手伝って貰うかです。
 子ども達の中には孤児も何人かいます、彼らに手伝って貰えば、彼ら自身の成長にも繋がると思います。」
「そうだな、城の子に面倒を見て貰った子達が、今度は面倒を見る側になるというのは良い事だと思う、八重とも相談しておくよ。
 問題は共通語に馴染むまでか…。」
「巴は、彼らが口にした単語は多くないと話していました。
 それを共通語に置き換えて行けば…、後は彼らの能力次第です。
 三郎おじさん、彼らの相手を出来そうな…、そうですね、四歳以上の城の子を部屋に集め、言葉について説明しておこうと思うのですがどうでしょう?」
「そうだな、まずは彼らに城の子達を紹介しよう。」

 城の大人達は別室に集まり、モニターを通して子ども達の観察をする事にした。

「語彙が少ないから、巴の解説でなんとなく分かるわね。」
「香が修正してる、もう会話し始めてたのかな。」
「まずは名前ね、自己紹介の意味は通じたみたい。」

「城の子達は呆れるほど早く言葉を理解して行く、あっ、食事は?」
「隣の部屋に用意しておいたのだけど…、尊が食事の指示を出したわね。」
「こういう指示は尊なんだな。」
「今回の事もマリアはまず尊に伝えた、翔達は納得してるのかな。」
「大丈夫でしょ、そういった分担もマリアさまと相談したそうよ。」
「まあ特に立場の違いが有る訳でもないか。」
「向こうの大きい子が運ぶのを手伝ってるね。」
「その調子で早く馴染んでくれると良いのだが。
 香は小さい子から離れずにいる、それだけで落ち着かせているのかな。」
「用意が出来た…、いただきますは…、手を合わせた、アジア系だと思うがどこの国だかさっぱり分からない。」
「すぐに和の国の国民になるだろう。」
「日本語も教えるのか。」
「どうするかは子ども達に任せよう。」
「おいしそうに食べてるね、食べ物の名前も教えている。」
「孤児になったのだからカウンセリングの必要が有るな。」
「望達と相談するわ、でも望と香に任せておけば大丈夫かも知れないわね。」
「だな、もうすっかりお母さんをやっていないか。」
「はは、自分達が三之助にして貰って来た事をちゃんとやっているよ。」
「今回こういう出会いが有ったという事は今後も有るという事かしら。」
「可能性は否定出来ないわね、国家を成立させる事が出来なかったコロニーは他にも有るのでしょう。」
「子どもが成長してからだと厄介かもな、まあ、マリアさま次第だが。」
「こういう形で子どもが増えて行くとなると城下町の住居建設計画も見直しか。」
「いや、昇と誠が彼等のコロニーを住み易く作り直して、子ども専用の居住スペースにするそうだ。
 公園を併設して、世界中の子ども達が遊びに行ける様にしてね。
 使い方は城下町の子どもの家と似た様なものにするそうだが、ゲートを子どもの家の中に付け替える予定だとか。
 専用コロニーでは共通語しか使えないというルールにして、共通語の欠点を見つけて行きたいと話していたよ。」

 五人の新しい友達は世界中の子に歓迎され、共通語に慣れて行く。
 もちろん、尊達の働きかけ有っての事だ。

「孤児たちに問題はないのか?」
「今の所は大丈夫、でも、ずっと見守っていて上げないとね。」
「孤児という事を考えて何人かが育ての親を名乗り出てくれているが、城の子達は言葉の問題も有ってまだ結論を出せていない、我々で判断すべきだろうか?」
「答えが一つじゃないから難しいと言ってたわ、でも早く落ち着かせたいとも話してくれたから、私達はのんびり様子見で良いのではないかしら。」

 私もそれで良いと考えていたのだが、翌日マリアから話が有り、緊急会議を開くことになる。

「キング、重要な話とは?」
「忙しい所をすまない、マリアから今後についての相談が有った。
 まず、マリア達は先日孤児と出会った様なコロニーをまだ幾つも持っている、国の集合体を形成する要件を満たせなかった国もだ。
 だが、コロニーで生まれた長子が七歳になるまでに他のコロニーと接続出来なかったコロニー、同じく八歳になるまでに子どもが二十人を超える事無く、多国家からなる世界の一員となれなかった国は、居住者ごと破棄されるというのが、彼らの計画としてプログラムされている。
 因みに、この世界以外にも似た様な世界は幾つか有るそうだが、我々がそこと交流する事は一切出来ない、そこへも我々の食糧支援は届いていたそうだがね。
 そんな世界の中でもマリアが管理するこの世界は、最も成功したと判断され、更なる拡大を認められる事になった。
 ただ、その拡大はこの先破棄される予定だったコロニーを吸収してとなる。
 この拡大は困難を伴うだろうが、世界の維持発展の為には遺伝的要因も含めプラスになるとマリアは判断している。
 私もその判断は正しいと思うし、何と言っても、居住者ごと破棄されるというコロニーの存在を見過ごせない。
 これは、私達の世界、ここの誰から反対されようと推し進めて行かなくてはならないと考えている。」
「私は反対しないわ、反対出来る訳がないでしょ。」
「城の住人の総意なら、誰が反対しても無駄だな。
 今日まで共に歩んで来た城の仲間が人を見捨てるなんて選択肢を選ぶ訳がない、だろ?」
「マリアは子どもを守って欲しいと、大人に関しては私達の判断で決めれば良いというスタンスで、和の国へ子どもだけ移動か、親も一緒にコロニーとゲートを繋ぐか、どちらでも良いと言われた、ただ大人も一緒だとかなり人口が増える事になるそうだ。」
「子どもだけでは可哀そうだわ、保護した子達も口には出さないけど、親子でいる人達を見て寂しそうだもの。」
「望の言う通りだよ、人口が増えても大丈夫さ、今までマリアさまが転送していた余剰生産分が減っても食べてる人は同じだと思う、マリアさまが送った先で食べてるか、ここで食べてるかという事だろう、まだ生産能力にはかなりの余力が有るしな。」
「それなら、この先のスケジュールはこちらの都合に合わせてくれるそうだ、その管理をマリアは誠にお願いしたいと話してたのだが、頼めるか、誠。」
「うん…、じゃなかった、はい。」
「この事はもちろん国連の場でも相談するが、このメンバーが中心にならざるを得ないだろう。」
「これから出会う子ども達の面倒は望と香中心にお願いしたいが、良いかな。」
「はい。」
「もちろん皆でカバーする。」
「なら私は調整役になるわ、誠が動き易い様に。」
「愛がそっちを担当してくれるなら、僕はコロニーの環境改善を、昇、手伝ってくれるか。」
「うん、兄ちゃん、がんばるよ。」
「巴は僕と大人の相手をしよう、大丈夫か。」
「はい、お兄さま。」
「大人相手は大変だぞ…、そうだな二人にはこの際プリンス、プリンセスという称号を授けようか、尊、肩書を有難がる輩には効果的なんだ。」
「二人だけというのは嫌です、僕ら八人…、いえ夢や聡達僕らの妹、弟全員、同じ様にして欲しいです。」
「城の子、神の子という名称はこの世界では当たり前になっている、だが、これから出会う人達にとっては、すぐには馴染めないだろう、う~ん…、八人とも貴族階級の子弟という事にするか?」
「そうね、国連メンバーとも相談してみましょう。」
「城の子に限っては、これまで世界中の人々の為に働いて来たのだから反発もなかろう、他の国のリーダーが真似したら顰蹙を買うだろうがな。」
「特権階級として私達の存在も強調するのか?」
「新たに出会う大人達に向けてと話せば反発する人はそんなにいないと思うわ。」
「貴族となって特権を振りかざしたい訳じゃないが、この世界は民主主義とは違う。
 国民がどういった反応を示すかに興味が有るよ、絶対王政だって王が国民の幸せを真に願っていたら違ったものになっていたと思うし。」
「翔はどう思う? キングの息子だから尊はプリンスという事になるけど。」
「何か問題が有るのですか? 尊は僕らのリーダーですよ、城の子皆でこの世界を守って行くその代表です、僕らにはそれぞれ役割が有り、尊は最終判断を担当して貰っています、今まで尊の判断は間違っていません。」
「そんな風に考えていたのね、これから、もっと真面目な話をする機会を増やさないといけないのかな。」

 確かにそうだ、彼等の本心は、その天才性故に聞きにくくなっていたと思う。
 これから共に世界の為に働く過程で、また違った親子関係が構築されて行くのかもしれない。
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02 緊急招集 [KING-04]

 サンフランシスコの人達がすっかり世界の一員として溶け込んだ頃、ブラックコロニーの連中は作家集団としての実力を認められ始めた。
 尊がマリアと交渉、許可を得て自ら製造した八台のワープロ、彼らはそれを気に入り、今は作家活動を生業としている。
 その小説には古い作品からの盗作も有ったが、この世界に法は無く、禁ずる理由が浮かばなかったので黙認。
 我々は自前の製紙技術を持ち合わせていなかったが、城の子に甘いマリアは、彼女達のテクノロジーを使っての製紙と印刷を許し指導してくれた。
 製本はその技術を覚えていた人が担当してくれ、彼の指示で必要な道具をロック達が用意。
 大量に発行する必要は無いので手作業で充分間に合う。
 本が発行され始めると、人々はかつての娯楽を思い出し、テレビを懐かしむ様に。
 人々は城の子にテレビの事を話したが、その心中に城の子なら何とかしてくれるだろうとの思いが有ったのは間違いなく、娯楽としてだけで無く情報伝達の手段としての有効性を訴えていた。
 その結果…。
 
「翔、今度の工作は何なの?」
「動画撮影用のカメラだよ。」
「使い道は?」
「母さん、昔テレビってのが有ったのでしょ、そんなのを始めようと思うんだ、端末でも撮影出来るけど使える人が限られるから、誰でも撮影出来る様にね。」
「放送はテレビ電話のモニターを使うの?」
「始めの内はね、でもモニターは簡単だから専用のを作るよ。」
「マリアさまが許して下さったのね。」
「うん、台数は控えめだけど、尊がね、昔、自分達の力で作れていた物を目にする事で、テレビ製造を一つの目標に、それが技術開発に取り組む気持ちにプラスになるからと、尊はマリアさまの心を動かすのが得意なんだ。」
「ふふ、マリアさまは城の子に甘いものね。
 それで、どんな番組が見られるのかしら?」
「望が中心になって考えてる、簡単なのは音楽村の演奏だけど色々有った方が楽しいでしょ、データベースを構築して選べる録画番組と、こちらから定時に放送する情報番組になると思う。」
「それは楽しみだわ、ねえ、昇もちゃんとやってるの?」
「大丈夫だよ、昇は僕らの中で一番工作が得意なんだ。」
「へ~、あなたたちは皆同じぐらいに何でも出来ると思っていたけど、得意な事とか有るんだ、まあ性格が違うから当たり前なのかしら。」
「そうだね、もう直ぐ四年生の四人は何でも出来ちゃうタイプ、昇、香、誠、巴は得意な事が有る代わりに苦手な事も有るかな、でも苦手でもやれない訳じゃないんだ。」
「他の子達は何が得意なの?」
「香はちっちゃい子の相手、巴は大人の相手、誠はプログラム管理、香と巴は分かり易いから、ちょっと見て上げてよ。」
「分かったわ。」

 一花から話を聞いて私達は改めて子ども達の観察を始めた。

「香が近づくだけで、ぐずってた子がにこにこし始めるのか、尊達も小さい子の相手は得意だと思っていたがここまでではなかったな。」
「そう言えば、サンフランシスコの時も、香を子ども相手の中心にしてたわね。
 香は特に何もしてない様に見えたのだけど。」
「目じゃない?」
「そうか、アイコンタクトだけで…。」
「こっちのモニター見てみろよ、巴が城下町を歩いているが。」
「城の子を見かけると皆さん何時も嬉しそうだけど、ちょっとレベルが違うかな、ルックスだけなら城の子達はタイプが違っても皆可愛いのに。」
「これは能力なのか?」
「翔は、得意な事って言ってたけど。」
「これで大人になったらどうなるんだ?」
「楽しみな様な怖い様な。」
「神の子としてか…、平八なんか拝んでるぞ。」
「これはこれで平和だから良いだろう。」

 今まで子ども達は各国の人達と良好な関係を築いて来た、ただ、それを特殊な能力によるものとは考えていなかった。
 だが、城の子は神の子とも呼ばれ始め特別な存在になりつつある。

 そんな城の子達の中でも、この世界全ての子のトップリーダー的存在となっているのが尊。
 彼が四年生になって直ぐのある日、尊にしては珍しく私の部屋へ駆け込んで来た。
 日頃から私の立場や仕事に気を配り、落ち着いて行動する子なので、本当に珍しい事だ。

「父さん、子どもだけが五人残っている居住コロニーを和の国に接続して良いかな?」
「えっ、どんな状況なんだ?」
「第一世代が残っていないから僕らが導かなくてはいけないと、マリアさまから言われた。」
「そうか、ここに迎える事に何らかの問題を感じているか?」
「問題は向こうの子ども達が泣いていること以外には何も。」
「和の国成立以来、初めての形だという事は理解してるな。」
「もちろんさ、だから父さんの許しが必要だと思った。」
「接続に問題は無いが。」
「ほんとは時間を掛けて準備するべきだと思う、でも、マリアさまから見せられた映像からは…、気持ち良くないイメージが沢山流れて来る、それを僕たちは軽く出来ると思う。」
「分かった、城の住人を居住コロニーとの接続予定地点に集めて子ども達を出迎えよう、大人を迎えるのでなければ大きな問題はない、ただ大勢で取り囲んでは恐怖心を与えてしまうかも知れない、私は三之助に説明するから、尊は香に事情を説明してくれるか。」
「はい、全員への連絡は?」
「今、緊急招集をかけた、子ども達は初めてで戸惑ってるかもしれないからフォローしてくれ。」
「はい、場所は?」
「ひとまず城のホールにした、ゲートの位置は後で変えれば良いのだろ。」
「はい。」

 とりあえず急いだのは尊が気持ち良くないイメージと話したからだ。

「父さん、繋げる準備は出来たよ。」
「分かった、香は大丈夫か?」
「はい、尊から聞きました。」
「麗子がお菓子の用意をしに行ってるからな。
 まず尊と香が入って状況判断してから指示をくれ、ここにいる全員が尊の指示で動く。」
「分かりました、香、手を繋いで行こう。」

 二人がゲートを越える。

「翔は翻訳機の確認をしてくれるか。」
「はい、まだ言語は増えていません。」
「今まで出会った言語なのかな。」
「望、今までとは出会い方が違う、言葉が通じない事を想定して対策をとれないか?」
「はい、ぬいぐるみは用意してあります、愛は誠達とペットを取りに行っています。」

 尊から連絡が入る。

『三郎おじさん、すぐ来て! 怪我してる子がいるんだ!』
「怪我の程度はどうだ?」
『出血していて…。』
「分かった、すぐ行く。
 三之助、救急箱を取って来てくれ、私は取り敢えず止血しに行く。」
「分かったわ。」
「八重は、こちらでの受け入れ態勢を整えておいてくれるか。」
「ええ。
 尊、取り敢えず何が必要?」
『食事、お風呂と着替えが必要な事は間違いないです。』
「了解、ゲストルームで受け入れるから、直ぐでも大丈夫よ。」
「尊、クッキーと飲み物は暖かいのと冷たいのを用意したわ、巴に持たせるわね。
 食事は好みが分からないから何種類か用意しておくわ。」
『うん、母さんのなら何でも良いと思うよ。』
「尊、言葉は通じているのか?」
『父さん、全くだめです、聞いた事のない言語で、翔、別チャンネルで送るから分析してくれるか。』
「了解した。」
「子ども達の年齢は?」
『二歳から六歳ぐらいだと思います。』
「落ち着いているのか?」
『香の顔を見て、さっきまで泣いてた子が泣き止みました、今、巴からクッキーを受け取った所です。
 怪我してる子も大丈夫そうです。
 三郎おじさんの処置が終わったら、移動します。』

 しばらくして。

『父さん、もう少ししたら移動します。』
「そのコロニーの状況はどうだ?」
『怪我をした子のではないと思われる、沢山の血が残っています。
 コロニー内の状況から、絶望した大人が子どもと共に死のうと…、そういう考えに至る可能性は有りますか?』
「そうだな、有り得ない話ではない、何にしても心身のケアが必要だろう。
 こちらの受け入れは何時でも大丈夫だから、三郎と相談してくれ。」
『分かりました、五人の子達を一緒に連れて行きます…。
 あ~ん、よせって…。』
「どうした?」
『抱っこしてる子が、ほっぺを突いて来まして…。』
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01 世界平和 [KING-04]

 サンフランシスコは老化の進んでいた三人がショック死の如く亡くなった以外は大きなトラブルなく落ち着く。
 多くの労力を費やした事は無駄にならず、彼らは過去の犯罪を忘れ、全うな一市民として世界に貢献したいと話してくれた。
 金が無いから金にまつわる犯罪は起こり得ないし、彼らは罰の存在を再認識、その言葉に嘘はないだろう。
 また、心身ともに彼らの状態が良くなって来ていると、健康面の調査を続けている三郎から報告が入り、少なくとも老化現象は止まっている様だ。
 これはコロニーDメンバーを隔離した効果だと考えられるが、三郎はリーダーグループとブラックコロニーを除くと、全体的に知的能力が低く騙され易かったのだろうとも。
 そのブラックコロニーに対して、尊はよくやってくれている。
 スコットランドのリーダー達に趣旨を説明した後、連中とモニター越しに三回の対談、始めは子どもが担当という事に腹を立てた者も、すぐにそのプライドを打ち砕かれたそうで、尊の提案を受け入れた。

「明日は尊が居住コロニーへ訪問という事だが大丈夫か?」
「ここまでの監視映像では問題ない、有るとしたら組織的ではなく個人的な攻撃だが今まで武器は確認されていない、スコットランドも警護してくれる。」
「それにしても、自暴自棄になって攻撃してくる奴がいないとは言い切れないだろ。」
「大丈夫だ、マリアも見守り、守ってくれる。」
「それでキングは落ち着いているのか。」
「いや、三之助に手伝って貰って彼等の精神分析をし尽くした結果でもある、すでに彼等は無害だと思う、このタイミングで仕事を与える事により、この世界の真の住人となれるだろう。」
「他の国民に受け入れられるだろうか。」
「その辺りは望が考えている、時間は掛かるだろうが牢獄での終身刑よりはましな形で、皆には妥協して貰えると思う。」
「何とか良い方向へ向かって欲しいものだな、ところでキング、尊が話していた居住コロニーの整理はどうなってる?」
「翔が引っ越しの希望調査を始めた。
 国を越えて気の合う人を隣人にする事で、あまり仲良くなかった人と距離を置ける様に、それに伴い人数の少ないコロニーを廃止。
 体力の衰えから労働力の問題が出ていたサンフランシスコの為、そこで働いてくれる人を集めたコロニーを作り、そのゲートをサンフランシスコに繋いだりとか考えていてね。」
「居住コロニーの再構築ということか。
 サンフランシスコでは様々な作業を通して多国籍の人達が協力し合い国家間の交流が進んだが、更にと言う事だな。」
「子ども達はそれぞれの文化を尊重しつつ、世界が一つになる事を望んでいるのよね。
 マリアさまを信仰の対象にしたのは良かったと思うわ、過去の神様たちは安らぎ以外に争いを与えて下さったけど、マリアさまは子ども達を通して、目に見える形で生活環境を改善してくれている。
 マリアさまが何時も見守って下さっていると信じられているし、私達の監視を通して小さな揉め事を減らせているからね。」
「多くの不満は解消出来ていると思うが、見てる時に口に出してくれないと分からない、拾いきれているのだろうか。」
「ならマリアさまからのお告げという事にして、不満や希望が有ったら、そうだな…、城の正面にある欅の大木に向かって声に出して願えば叶う場合も有るってどうだ?」
「そうね、でもお告げより、まずは都市伝説的に噂を広めるってどうかしら、願いが叶わなくても諦め易いでしょ。」
「そうだな、やってみるか。」

 麗子と八重は翌日、食堂でさりげなく会話。

「ねえ、欅さまってどう思う?」
「一花は信じてるみたいよ、欅さまにお願いしたから誰よりも早く子を授かったのかもって。」
「偶然かもしれないけど、ちょっぴりロマンティックよね。」
「三之助は、声に出して自分の希望を言うことは大切だって言ってた、不満を持っていても黙ってたらマリアさまに届かないって。」
「そうか、まあ私等不満もないし、願い事は世界平和だから…、でも念の為に世界平和を欅さまにお願いしておく?」
「そうね、自分の気持ちの再確認になるのかな。」

 モニターで見ていて思わず笑ってしまう程に下手な芝居だったが、それでも二人の会話は素直な数人の市民が耳にし、都市伝説を広める事に成功した。
 そして、作られた都市伝説は思わぬ情報をもたらす。

「簡単に叶えてあげられるお願いをしてくれる人がいたおかげで欅の木に話し掛ける人が増えたわね。」
「しかし内容がな、軽めのならいざ知らず、私達の子を産みたいなんてストレートなのにどう対応すれば良い?」
「彼女達の気持ちは分かるわ、独身者もいるし既婚者子持ちだって本能的に優秀な子を産みたいと思うでしょうから。」
「でも正直不倫する気は…、ひとまず独身者同士、出会いの場を作ってごまかすか?」
「そうね、国際結婚が可能な状況になって来たのだから婚活の場を企画しましょう。」
「この先不倫や離婚といった事が表面化してくるのかな。」
「どうかしら、今のところ表立っては見つけていないけど、心の中の色々な思いが判明したわね。」
「遺伝的には、我々以外との不倫はそんなに問題ないだろう、普通の子が生まれるだけだからな。
 だが我々の遺伝子が一般人と合わさったらどうだ、天才を生む家系と一般人、その中途半端な存在を生み出したら、この社会の安定を損ねる存在にならないか。」
「可能性は否定出来ないわね、子どもは増やしたいけど気を付けて、ロック。」
「はは、最高の妻がいるのに何に気を付けるんだ、それより美人揃いなんだから君達も襲われたりしないように気を付けなよ。」
「その心配はないでしょ、でも皆さんがストレスを溜めない様にイベントを増やさない?
 平和な社会を皆で維持して行こうと強調しつつ皆が楽しめる様な。」
「そうだな、そのイベントで、あまり上手くないけど歌手になりたいって人にもチャンスをあげたら良いと思う。
 趣味の幅を増やせる環境を整えれば、生活が更に豊かになる、他の国とも相談して毎月開けないかな。」
「城下町では毎日がお祭り気分だ、そう言えばミュンヘンの人が城下町に店を出したいとお願いしていた。」
「直接話してくれれば良かったのに、遠慮が有ったのかしら、城下町が賑わうのは良い事よね。」
「表向きはマリアさまからキングに話が有った事にしてすぐ相談してみるよ。」

 実現が無理なもの以外は極力願いを叶えている。
 しばらくすると神頼み的なものではなく、マリアへの願い、もしくは我々へ要望が届く手段と認識された様で、無茶なお願いは少なくなった。
 その一方で、世界平和を祈る人が増えつつある、現在への感謝の言葉と共に。
 城の象徴でもある欅の大木は、マリアを崇拝する人々にとって心の支えとなっている様だ。
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裏話-05 [このブログのこと-02]

「亜紀、一昨日触れたアクセス解析から、もう一つ良いかい?」
「嫌だ。」
「え~、そんな事言わずに聴いてくれよ。」
「仕方ないわね、それで?」
「アクセス解析を見てると、過去作を読んで下さる方も見えるのだけどね、本当に意外だったのが下の二つで、アクセス回数が多いんだ、多分グーグル検索とかからだと思うのだがね。」

SAKAI ER551F
https://dustation.blog.ss-blog.jp/2015-02-06

伊勢神トンネル
https://dustation.blog.ss-blog.jp/2015-02-01

「伊勢神トンネルはこのブログの中でも閲覧回数が特に多くてね。」
「ふ~ん。」
「興味ない?」
「うん。」
「そうか…。」
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裏話-04 [このブログのこと-02]

「亜紀、KINGを書き直していて改めて思うのは、文章を書く作業って理系の能力が必要だという事でね。」
「作文って、思いっ切り文系じゃないの?」
「まあ、より読者に伝わり易い文にしようと考えて最終的に決めるのは感覚的なものだとは思う。
ただね、そこに至る過程で作家達は色々な計算をしていると思うのだよ。」
「計算?」
「文章表現には様々な選択肢が有るだろ。
様々な選択肢が文章表現には有るんだ。
選択肢、文章で表現する時、それは幾通りも有ると思わないか?

そして、文章表現時の選択肢が多いのは似た様な意味を持つ複数の言葉が存在するという理由も有る。
そこから、どれを選び、どう組み合わせて行くかは、作者の感性によって最終決定が下されるのだろうが、さりげなく計算をしてると思うんだ。
早く上手な文章を書ける人は、その計算を自然に出来る。
ところが能力の低い私は、その計算が遅く、上手く行かない。
結構な量の文章を書いて来たけど、全然上達していないと思う今日この頃なのさ。」
「ふ~ん。」
「あっ、興味ないのか。」
「全く興味がない訳でもないわ。
大学入学共通テストの記述式問題問題が有ったでしょ。」
「ああ、あの問題は問題だったな。」
「ドタバタしていい迷惑。」
「そうか亜紀たちが一番迷惑を被ったのだな。
ホントに、この国の頭の良い人達はどうしてあんなにバカなのかと思うよ。」
「バカなのね。」
「まともな人なら違う形にするだろ、役人が自分達の天下り先を確保したくて、屁理屈を押し通して来たという印象だね。
今の政治家達は明らかに能力が低いからそれに気付きもしない。
まあ、賄賂を受け取っていないという前提だが…。
見送りの最終判断を下した人はまだまともだと思うが、それまでにどれだけの無駄が生じたことか。
かなりの税金が使われ、無駄な作業をさせられた人も少なからずいるだろう。
記述式そのものは悪くないのだけど、多くの人が受験する共通テストで実施すれば当然弊害が出る。」
「こういうのって責任は政府に有るの?」
「形式上はそうなるのかな…。
ただね、内閣総理大臣がすべての事に目を通せる訳でも無くて、そうだな、安部首相は大臣や官僚、事務所のスタッフなどに、かなり足を引っ張られていると思うね。
まあ、優秀な人を周りに置けなかったとか、任命責任という問題は有る…、恥ずかしいレベルの人を大臣にせざるを得ないシステムが自民党に有る事が問題なのかも知れないが。」
「他の政党になれば変わるのかしら?」
「恐らく、もっと悪くなるだろう、既成政党ではね。」
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裏話-03 [このブログのこと-02]

「亜紀はMacを使っているのか、そうそう、このブログにもアクセス解析機能が有ってね。」
「アクセス解析?」
「このブログを何人の人が開いたとか分かるのだけどね。
以前は、Macを使ってる人がホントに少なかったんだ。
まあ、大勢の人に見て頂いてる訳でもないから、サンプル数は多くないし、半分ぐらいは不明と表示されてるのだけど、傾向ははっきりしていてね。
それが最近はMac OS Xの人が一番多くなった。
Windows10が出た後もWindows7が頑張っていたのだけど、最近になってようやく10が増えてニ位ぐらいに。
たまに見ると、世間のパソコン事情を感じられて面白いよ。
因みに、私がMacからWindowsに乗り換えた理由はね、Macの製品で有るiPodを使おうとしたら、当時使っていたiMacが古すぎて対応していなかったからなんだ。
Mac製品を使うためにWindowsの使える中古を買ったという訳でね。」
「はは、余程古かったのね。」
「まあ、大切に使っていたと考えてくれ。」
「ねえ、ブラウザにも色々有るのでしょ。」
「ああ、一時はInternet Explorer利用者が多かったけど、最近はMacでもWindowsでもChromeが一番だね。
 Internet Explorerはセキュリティの問題が指摘されたり、タブブラウズの導入がSafariとかより遅かったりして。
 まあ、Windowsしか知らない人にとってはブラウザと言えばInternet Explorerみたいなのだけど。」
「ブラウザの違いって、気にするほどのものなの?」
「人それぞれだと思う、慣れも有るだろうし。
ただね、種類の多さに、昔、HTML、Hyper Text Markup Languageと言う、ウェブページを作成するために開発された言語で遊んでいた頃に泣かされてね。」
「何か問題でも?」
「ブラウザによって見え方が違うんだ。
位置を指定して画像を張り付けると、ブラウザによってずれたりとかね。
文字サイズだって使う人が変えられる訳だから、少しややこしい事に挑戦すると、自分が見てまあバランス良く出来たと思ったページが、とんでもない形で表示されてたりした。
当時見て貰っていた人の中では少数派のMacで作ってたから、Windowsで見ている人から指摘されないと気付けなかったりもしてね。」
「今でもそうなの?」
「まあ、技術が進歩してウエブページの作り方も変わったからな。
それでも、サイトによっては推奨しているOSやブラウザでないと不具合が生じると思うよ。」
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