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03 都市計画 [KING-05]

 城の子からテレビを通しての発表は一方的な布告とも言える。
 この世界の人達は受け入れるしかない。
 今のままが良いと思ってはいても、孫やひ孫の代を考えたら。
 マリアから借りてる宇宙船内の土地から、与えられる大地への移住と言われては。
 私達は戸惑い気味の人達に対して今後のスケジュール案を提示した。
 その柱は都市開発計画作成のタイムスケジュール。
 それは箱舟船団が惑星周回軌道に入って直ぐ、住宅などの建設作業を始めるとして、そこから逆算し作成した。 
 人口四千人にも満たない町からのスタートだが、城の子は、その拡大を意識して広大な土地を用意する。
 無計画に建設作業を進める訳には行かない。
 後から、住宅や農地、牧場などの配置を変えていては効率が悪い。

「ロック、都市計画作成チームはどうだった?」
「取り敢えずと言う感じで、各自が描いた図面を持ち寄って検討を始めていたよ。
 こちらからは、和の国と繋ぐ大型ゲートを一つ、町に設置とだけ話して、後は尊と翔が質問に答えていた。」
「どんな質問が?」
「やはり電気が一番気になるみたいだ、後は上下水道。」
「ここではマリアさまのテクノロジーに頼っていて、自給自足の範囲外だものね。
 で、どうなるの?」
「初期段階は城の子が必要なものを揃えるが、尊は少しずつ皆さんの技術に置き換えて行きましょうと話していたよ。
 町は一筋の川が流れる高い山の麓の平地、山が有る事で水の安定供給が出来、その水を利用した水力発電を考えている。
 生活廃水は海の栄養源になるそうで、下水管は用意するが、ごみを取り除くだけで殆どそのまま海へ流す。
 そうしないと、水産資源を増やせないそうだ。」
「へ~、そういった事もマリアさまから学んでいるのかな?」
「いや、データベースからの知識だよ。」
「ねえキング、私達が使って来たデータベースは、惑星でも使えるの?」
「少々手間だが、プリントアウトして図書館で閲覧可能となる。
 どこまでの技術を惑星で使える様にするのかはマリアと交渉になるが、自給自足のレベルを上げる事にはなっていて、今まで使っていたマリア達のテクノロジーの内代替手段の有る物は、移住の初期段階を終えた時点で、そちらに切り替えて行く。」
「馬車とか馬が活躍するのね。
 テレビ電話やテレビはどうなるのかな?」
「色々微妙でね、子ども達はここと同程度にしたいと考えているのだけど、マリアがね。
 文化レベルを江戸時代にまで戻す気は無い様だが、生活レベルを落とした人間がどう動くかに興味が有るそうで。
 彼女自身、ただの傍観者から研究者に変化しつつ有ると感じていて、それも謎の存在の影響かも知れないと話していたよ。
 そもそも、彼女達は、箱舟プロジェクトなんてことを考える様な存在では無かったそうでね。」
「人類が絶滅しない様に、謎の存在がマリアさま達を利用したのかしら?」
「かも知れない、そしてマリアさま達は傍観者で無くなりつつある、だがメインの作業は城の子任せだよな。」
「そうよね、でも…、マリアさまは私達を超越した存在だけど、傍観者に未来は有ったのかしら?」
「う~ん、そういう未来とかの感覚を持ち合わせているのかは疑問だわ、ねえキング、マリアさまは城の子が大好きなのよね?」
「それだけは間違いないと感じている。」
「人類滅亡の危機を迎えて、大きな出会いが有り、マリアさま達が変化し始め、城の子の存在が更にそれを、私はキングと子ども達を通してしかマリアさまを知らないのだけど、随分変わった気がするの。」
「ああ、確かに変わったと思う、子ども達と話す時は勿論、子ども等の話を私としている時もな。
 マリア達は子どもという存在を持っていなかったのかも知れない。
 例えは悪いが、私達が子猫や子犬を可愛いと感じる、それ以上に彼女が城の子の事を想っていると感じられる事が多々有った。」
「そうなると人々の生活レベルがどうなるのかは、城の子次第と言う事なのね。」
「ふふ、翔がね、尊はマリアさまの心を動かすのが得意なんだ、とか話してたわよ。」
「ただ、尊も自立の意味を考えているからな、三之助から教えられたバランス、新たな大地を物理的にも精神的にもバランスの取れた状態にして行きたいと考えているよ。」
「そっか、さすがキングの息子だなぁ~。」
「って、あなたの子でしょ、麗子。」
「私は、美味しい食材が手に入れば何とかなる、ぐらいしか考えてないから。」
「はは、何とかなるか…、今までは何とかして来たな。」
「麗子の料理も、海や城の存在と同じぐらい大きな存在だったのよね。
 美味しい食事と楽しい仲間がいれば、少しぐらいの不便は何とかなるのかも。」
「確かに重化学工業は必要ないのかもな。」
「人口が増えた時、第二世代以降がどう考えるかだ、データベースを書籍化して知識は残すが、戦争に勝つために科学が発達した側面があるだろ、平和なまま科学的な水準が低くても良いと考えるのか…、宇宙を目指すのかどうかも、今から考える必要は無いとは思うが、教育の方向性という課題は大きいぞ。
 当分の間、競争社会にはならないと思うが、向上心、競い合う心が成長に繋がるだろ。」
「そう言った事で意見が分かれた方が面白いと思うわ。
 多様な価値観を持つ人達が意見を出し合って、でも、互いに尊重し合える環境は整えて置きたいかしら。」
「そうだな、地球がどうなったかだけは第二世代にしっかり伝え、バランスの取れた社会を目指す事を教育の柱に据えるとか…、まあ、答えの出ないまま試行錯誤というのも有りだろう。」
「ふふ、どう考えても、山ほどの試行錯誤をして行く事になるのでしょうね、人類が地球でして来た以上に。」
「生活が安定していれば、道を誤る事は無いと思うのだけど…。
 キング、子ども達の計画は先々まで決まっているの?」
「しばらくは、惑星探査に出かけるとしても、目的地の第四惑星からは比較的近い所になる。
 人類がどれだけ人口を増やしても大丈夫な様に、別の恒星系にも人の住める惑星を確保して行くが、人が住むには不向きな、第三、第五惑星にドーム型のコロニーを建設し資源の確保を考えている。
 当分の間、第四惑星の人類をマリアと共に見守り続けながら、実験や研究をして行くことになりそうだ。
 到着後改装される和の国が遠くへ旅に出るのは先の事、子ども達がワクワクする研究対象は沢山有るだろうからな。」
「私達はそれに合わせれば良いのね。」
「ああ、ただ、この八人も城の子同様、少しずつ人類とは距離を置いて行く事を考えなくてならないだろう。」
「微妙な存在だからな、今のままだと、いずれ第二世代に肉体年齢的に追い越されるだろうが、そんな頃まで付きっ切りでいたら良くないと思う、第二世代の自立に対してマイナスにしかならないだろ。」
「そうね、マリアさまの神格化とは話が違うものね。
 どこかのタイミングで私達の事をはっきりさせるべきだわ。」
「この先、様々なイベントが有るのだから、そのどこかで…、でも…、どんな存在になるのか、まさに微妙だな。」

 地球では、大きな貧富の差が有ったが、皆同じ人間だった。
 だが、この世界には魔法使いの如き城の子がいて、その親がいる。
 また、マリア達管理者の存在は第一世代全員が知っていて、更には未知なる存在も。
 人々はすでに城の八人を特別な存在と考えてくれてはいるが、それは和の国の王家や貴族階級の様な捉え方。
 この先、第二世代が成長した社会は、私達の指導によってではなく彼等自身の手によらなければならない。
 その時、私達を表す言葉は、なかなか思い浮かばなかった。
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02 宇宙船 [KING-05]

 惑星への移住に向けて、我々は動き出した。
 まず、和の国で私達が担って来た仕事は三丁目住人と、第一、第二コロニーの人達に委ねる事に。
 和の国の体制強化を理由に納得して貰う。
 それまでも雑事は自分達で行うからと、彼等がサポートしてくれていたので、組織の指揮系統を明確にするだけで済んだ。
 国連会議への出席も彼らと交代。
 しばらく隠しカメラ映像で見ていたが、我が国の新代表達はその任を卒なくこなしていると判断、今は完全に任せた。
 私達への報告は最低限で構わないと話したが、報告書は何時もきっちりした形で届けられている。
 私達は今後の移住に関する事をどう人々に伝えて行くか考えていた。

「翔、これが宇宙船なの?」
「うん、母さん、高速船でも外観は単独居住コロニーと同じなんだよ。」
「そうか、空気抵抗とか関係ないから外観はどうでも良いのね。」
「普段、人の目に触れることはないからね、見て貰えるのならもっとデザインを考えるのだけど。」
「今回は特別?」
「発進したら、この船を撮影出来る存在はないからね。
 さあ、中へどうぞ。」

「これって…、住み易く改修した居住コロニーとあまり変わらないわね。」
「変える必要はないでしょ、でも十二人分の研究室と長距離移動用ゲートは特別なんだ。」
「えっと、操縦はどこでするの?」
「聡の研究室、と言っても全自動で、聡が時々座標のチェックをするだけさ。」

 翔が高速宇宙船を紹介する様子は昇が撮影している。
 映像は、編集されテレビで公開する予定。

「尊、そろそろ、この船を何の為に作ったのか、テレビをご覧の方々にお話ししても良いのでは無いかしら。」
「そうですね、この高速宇宙船はある恒星の第四惑星を目指して、明日、僕たちの暮らす箱舟宇宙船団を離れます。
 その目的地で有る惑星は…。」

 尊は、我々が目指す惑星の話と共に、大人達にとっての母なる地球についてマリアから教えられた話をして行く。
 この世界の人達はこの番組を通し、初めて自分達の置かれている状況を認識し多くの事を考える事になるだろう。

 編集された映像は、国連会議の場で各国の代表に見せた後、テレビで放送。
 代表に前もって見せはしたが、マリアさまから城の子への指示で有り、我々も含めた大人は意見を述べる立場にないと、皆、理解している。
 テレビ放送時から、私達は手分けして人々の反応を観察した。

「受け止め方は様々だな。」
「ああ、だが、それも時間の経過と共に変化して行くだろうし、翔、明日は高速宇宙船の発進映像と合わせて、箱舟船団を外から見た様子もライブ映像で伝えるのだろ。」
「ええ、漆黒の空間を進む箱舟船団、と言っても動いている様には見えないのですけどね。」
「今は戸惑っていて心の整理中みたいだ、移住に関する議論が始まるのは少しずつなのかな。」
「我々でさえ現実味を感じられていないのだから、一般市民は尚更だろう。
 今後の情報公開次第になるのではないか。」
「尊、今後はどうして行くの?」
「目指す惑星まで、高速船がどれだけ近づいたとか、箱舟船団の到達予測とかを知らせて行こうと思っています。
 僕らもまだ、マリアさまから教えられた事を整理中だと説明しつつです。」
「惑星に箱舟船団が到着するまで四年ぐらい掛かるのだから、それまでには議論も深まって行くだろう。」
「マリアさまからの借り物で有る、ここでの暮らし、それがマリアさまから与えられる大地での暮らしへと、それを第一世代がどう受け止めるのか、今後を見守り続ける必要が有りそうね。」
「状況によっては、他の箱舟船団の末路を伝え、この船団の役割を深く考えて貰っても良いが、今の所は箱舟という言葉に納得している様だな。」
「それでも、新たな大地への期待と不安が入り混じっているわ、翔、惑星の様子は何時頃見られる様になるの?」
「順調に行けば三か月後ぐらいかな。」
「随分早いのね。」
「高速船が早いと言うより、箱舟船団が遅いそうだよ、色々運んでいるから。」
「特殊保存状態の生き物とか?」
「うん、和の国の地下は巨大な倉庫だからね。」
「マリアさまの科学力なら、DNAを保管するだけで何とか出来そうだけど。」
「なるべく、そのままにというのがマリアさま達の方針だよ。
 大人達も、えっと…、肉体年齢を調整し記憶にプロテクトを掛けたぐらいで、後は殆どそのままだとか。」
「はは、それだけでも充分いじられ過ぎていると思うがな。」
「城は一般人が一夜を過ごさない方が良い特別な場所なのも、その…、改造に関係しているの?」
「マリアさまは、城の大人達が特別な存在だと分かってから、城を八人の為に最も良い環境に作り替えたと話してた。
 だから、惑星に到着しても、寝るのは城にして欲しいそうだよ。」
「う~ん、若さの秘訣が城に有るのなら守るしかないわね、でも惑星には降りてみたいわ。」
「ゲートを置くから大丈夫、僕らも城で過ごすからね、箱舟船団は一旦惑星の衛星にして改修して行くつもりなんだ。」
「どう改修して行くの?」
「和の国は大型高速船、他は箱舟としての倉庫かな。」
「大型高速船ということは、惑星の開拓が進んだら他の惑星を目指したりするのか?」
「その方が楽しそうでしょ?
 宇宙は凄く広いのに生き物の住んでる星はとっても少ない、将来に向けて人が住める惑星を増やして行くけど、人の住まない惑星に色々な生態系を造って行くのも面白いと思わない?」
「ええ、興味深いわね、カメラを設置して城で見られる様にしてくれるの?」
「勿論さ、条件の異なる惑星で生物がどんな進化をして行くのかを観察、マリアさまは大賛成してくれたよ。」
「マリアさまは傍観者と話してたそうだけど、城の子は違うのよね。」
「えっとね、試みる存在、人類も色々試して来たけど地球から広がることなく終わってやり直しでしょ。
 僕らは、マリアさまが眺めていて楽しくなる様な、多様な生態系を地球に存在した生物から創り出すと共に、僕ら自身のことを考えて行く。
 でもね、答えは無いんだ。
 どんなに失敗したと思っても、それは、そう思った人の価値観でしかないでしょ。」
「ええ、でも、人類移住の成功を共に祝える価値観は共有していたいわね。」
「うん、どうせなら楽しい未来の方が良いよ。」
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01 方針 [KING-05]

 マリアとの話は、子ども達に伝えられなかった事も含め、その全てを七人の仲間に話した。

「色々教えて貰って少しスッキリしたが、我々の課題は一気に増えたな。
 他の箱舟船団がどうなろうとも、私達はこの…、まだ宇宙船と言う実感は無いが、この世界の住人を無事惑星に移住させ、そこで自滅の道を歩ませない様に…。」
「第一世代の使命よね。
 でも、大きな目標の存在は、この世界の人達にとってプラスになると思うわ。
 キング、マリアさまから伝えられた事は全て公開して行くの?」
「全てをすぐに公表する必要は無いと思う、例えば、私達が八人だけの種族ということは重要では無い。」
「マリアさまにとっても謎とあってはね。
 マリアさまとマリアさま達も確認出来ていない未知の存在が、知らぬ間に協力して…、人間を改造して造り出したのが私達?」
「う~ん、城の子は神の子とも呼ばれているが、実は神の孫だとか…、まあ、色々ややこしくしない為にも私達の事は黙って置いた方が良い。
 子ども達が、普通の人間で無い事は誰もが知るところ、今更話すまでもないだろう。」
「この社会全体が惑星に移っても、今のままで有り続けられる様にしたいわね。」
「だな、少なくとも私にとっては、六人の子を産んでも全く変わらない美しい妻と素敵な子ども達に囲まれ…、過去の酷い記憶が有るだけに尚更、カタリナが、ここのことを天国だと話すのは、あながち間違いでは無い。」
「ねえ、地球の人類は限界を迎えていたのだと思わない?」
「そうだな、貧富の差を抱えたまま改善されず、科学技術は発達したが、精神科学は…、そう考えると、このお金の無い世界は、なかなかのものだ。
 一旦多くの事をリセットした人類が、新天地でその限界を越えられるかどうか、まあ、その限界どころか立て直しに時間が掛かりそうだがな。」
「多くの人が信じていた民主主義も怪しくなっていたでしょ、社会制度の根本から見直して行くのは有りだわ。
 原始共産制とも言えるこの社会、このまま大きくなって一つの惑星に一つの国家が理想かしら。」
「いずれ分裂して行くにしても、戦争抜きで文明を発達させて欲しいよな。」
「キング、子ども達はどんな選択をすると思う?」
「まだ分からないが、寿命をどう考えるかによると思う。」
「あっ、確かに、その問題は有るな。」
「三郎、どういう事なの?」
「私達八人が特別なのは、医学的見地から見ても明らかなんだ。
 この世界へ来た時、全員がそれまでの年齢に関係なく、二十四歳ぐらいの肉体を与えられただろ。
 それから今日まで、罰を受けた者は極端に不自然な老化を経験しているが、善良な市民は普通の中年になりつつある。
 だが、我々は不自然に二十四歳のままだと感じないか?」
「そうなのよね、地球にいた頃はお肌の手入れをしていても、どうにもならなかったのに。
 ここへ来て若返り、そのままなのだから、天国説に一票を投じるわ。」
「このままだと、同じ時を過ごしているのに肉体年齢に大きな差が生じるだろう、我々でさえね。
 ならば子ども達はどうなると思う?」
「私達を追い越して老化して行くとは考えにくいわね。」
「マリアは我々が常識だと思っていた概念の遥か上を行く存在、彼女達は肉体を持たないのかも知れない。
 何の根拠も無いが、将来、彼女達は私達の子を、彼女達の仲間とするのではないかと思う。
 そう考えて行くと、子ども達は人類に与えられた惑星に住み続けるべきではないのかも知れない。」
「う~ん、私達自身もこの先色々な選択を迫られそうね。」
「だな、城の子は我々の宝、将来へ向けての選択を誤って欲しくはないが、人類もまた…。
 これから向かうと言う惑星が、人類にとって最後のチャンスとなるのかも知れないのなら、その地で無駄な争いをする様にはなって欲しくないだろ。」
「第一世代は色々な試練を潜り抜けて来た人達なのよね。
 マリアさまの隠しカメラを使って監視を始めた頃は、私達に対して反感を持っている人がいるだろうと思って少し怖かったわ。」
「でも、違ったな、民主主義では無い社会体制がキング中心に形成されたけど、不満を口にする人が僅かなのは、マリアさまが思う通り、海と城の存在が大きかったと思う。
 海の解放感が人々を癒し、城の存在が…、圧政の象徴では無く文化と友好の象徴となった。」
「そして、神の子の存在か。」
「キング、子ども達による惑星への移住、具体的にはどんな感じになるの?」
「まず、城の子が高速宇宙船を完成させ、この箱舟船団より先に目的の惑星に到着し、惑星の改造を始める。」
「そこから始めるとなると、かなり先の話なのね。」
「希望の島の地下工場で高速宇宙船建造は進んでいる、私もこの話を聞くまで何を作っているのか分からなかったのだが。
 各コロニーの再編によって充分な材料が確保されているみたいだ。」
「子ども達が秘密基地と話している…、ふふ、秘密基地と言われてたから敢えて詮索しないでいたのだけど、そんな事をしていたのね。」
「子ども達とは一旦離れ離れになるのか?」
「いや、ゲートで行き来が出来る、ゲートで移動出来る距離には制限が有るそうだが、途中で中継する為の宇宙船も順次発進して行く。
 まあ、我々の箱舟船団は鈍足だという事だ。」
「箱舟だからマリアさまは色々な動植物を私達に与えて下さったと言う事か…。」
「まだ、特殊保存状態のまま保管されているものも多いそうだ。
 地球上に生きていた全ての種類を考えたら微々たる物だと話していたが。」
「勿論、人間にとって有益では無かった生物も含まれているのだよな?」
「ああ、その扱いに関しては子ども達が判断するだろう。」
「多くの事を公表して行く必要が有るし、多くの事をこの世界中の人達と考えて行く必要が有るのよね。
 まずは、その計画を…、城の子の視点で作って貰ったものと、私達の視点で考えたものを擦り合わせてから発表し…、国連を拡大して話し合って行くことに…、ただ一般の第二世代はまだ幼い、彼らがもう少し成長したら話し合いに参加して貰うか…。」
「教育方針も変えて行かないとな。
 今までは、この世界の維持を目標として来たが、新たな大地の開拓となると守りから攻めへ、意識そのものを変えて行く必要が有ると思う。」

 惑星の開拓は、大変な作業になるのだろう。
 だが、この社会の安定を作り上げて来た私達の、次なるステップと考えたい。
 私達は、この世界に一人で目覚めてから、様々な出会いと共にステップアップして来た。
 この先どうなって行くのか分からないが、人類の可能性を考えて行きたいと思う。
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ポツンと一軒家-04 [このブログのこと-03]

「山奥に本社って、番組の中でも特殊な話でしょ。」
「ああ、番組では老人たちが自給自足度の高い生活を送っている姿がベースになっている。
でも、普通に薪を使っている家が出て来るのは嬉しいというか。」
「都市ガスは無理なのね。」
「有り得ないな、でもプロンパンガスという選択肢は有る。
ただ、亜紀は知らないだろうけど、薪ストーブというのが静かなブームになって来ていてね。」
「へ~、どうして?」
「味わいが有るし、灯油ストーブの嫌な匂いがしない、ガスストーブの様に一気に酸素を消費する事がない、手間は掛かるが気持ち的にも暖かくなれるのかな。」
「手間は掛かるのでしょ。」
「煙突掃除が一番面倒かな、薪自体は普通に売られているし、趣味程度で済むなら薪割りも良い運動になるのかも。」
「間伐材を利用してるの?」
「杉とかの間伐材は薪ストーブには不向き、ゆっくり燃えてくれないと薪をくべる手間が掛かるからね。」
「それは残念、林業がお金にならなくなって植林地の手入れが行き届かなくなっているのでしょ。」
「まあ、大変な作業だからな。」
「いまいち大変さが分からないのだけど。」
「まず、植林地のほとんどは斜面なんだ、急な所も多い。」
「そう言われみれば、平地の森って…、見た記憶がないかも。」
「昔は平地が有ったら稲作、棚田を造ってでも稲作が基本だったからな。」
「そっか、お米を作れない様な斜面で林業なのね。」
「昔は機械化されてなかったから、植林地の手入れが大変だっただけでなく、切り倒した木を人力で運んだりしていてね、急な山道だから危険なんてものじゃなかった。
番組でも写真で紹介していたけど、人間業ではないレベルだったよ。
それでも、木材価格が良かった頃は頑張れたのだろう。
実際に事故は多かったと思う、今でも林業は他の産業に比べて事故率が圧倒的に高いからね。」
「高齢化も進んでいるのでしょう?」
「機械化が進み始めて少しはマシになっているのかも知れないけど、森林の所有者はお年寄りが多いからな。」
「綺麗な森を守って行くのは簡単な事ではないのね。」
「昔はお爺さんが植えた木を切って生計を立て、孫の為に木を植えるという様な感覚が有ったのだろうが、今ではね。」
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ポツンと一軒家-03 [このブログのこと-03]

「ポツンと一軒家では、にやりと笑える回も有ってね。」
「過疎地の深刻な話ばかりじゃないの?」
「深刻な話では誰も見ないよ、普段からそれなりに良い話としてまとめているから見る人がいるんだ。
でね、今のネット社会、企業の本社が田舎に有っても問題ないとイメージし、お話でも書いた。」
「企業の規模にもよるのだろうけど、シトワイヤンに出て来る苗川市ぐらいなら、全然問題ないのでしょ?」
「ああ、会社の地方移転を勧める動きは普通に有る、でも、廃村を再開発してとかも有りだと思っていたんだ、難しいとは思いつつもね。」
「そういう会社が紹介されたとか?」
「まあ、ポツンと一軒家という番組だからな。
その人は山奥の一軒家で、東京の会社を経営をしながらね。
自分がイメージしていた『田舎に本社』の遥か斜め上を行くレベルで、本社の建物をご自身の手で建てておられてね。」
「大きい会社ではないのね?」
「うん、それでも山奥の一軒家を本社として登記することが出来ると証明してくれたよ。」

アリアコーポレーション
http://www.alia.co.jp/

「えっ、何かお洒落な感じで、田舎のイメージではないのだけど。」
「所在地を見てごらん。」
「東京都江東区…、あっ、支社所在地か、えっと…、本社は愛媛県伊予郡…、航空写真では緑の中で…、ご冗談でしょ。」
「多分な、でも法的に問題ないし会社が納める税金は本社所在地を潤す事にもなる。
ここまでの山奥に本社を置くと言うのは天晴れ過ぎるが、地方に本社を置く意味はあるんだ。」
「ふるさと納税以上の効果が有るのかしら。」
「ああ、でも、お金の問題だけではないだろ。
規模の大きな企業の本社が地方へ移転すれば過密状態の解消にも繋がって行く。」
「でも、東京の人口は増え続けているのよね?」
「うん、どうして痴漢もいる満員電車が好きなのか私には理解出来ないよ。
人ごみの映像を見ると絶対そこにいたくないと思うし。」
「仕方なくじゃないの?」
「どうかな、人口を密集させる事には様々な効率を上げるという一面は有るけどね。」
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ポツンと一軒家-02 [このブログのこと-03]

「ねえ、移住の決心はついた?」
「つかないよ。
ポツンと一軒家を見ていても、とても大変そうだからな。」
「でも住んでる人がいるのだから何とかなるわよ、そのつもりで番組の話を始めたのでしょ?」
「い、いや、そういう訳ではなく、随分前の放送だが印象に残る回が有ってね。」
「面白かったの?」
「そうだな、過疎地が自力で維持や再開発というのはほとんど無理、それが過疎化の問題を考えてたどり着いた結論なんだ。
余程マネジメント能力に優れた人が取り組まない限りね。
だが、そういう人達はもっと儲かる仕事に興味が行くだろ。」
「でしょうね。」
「お金に余裕の有る人でないと難しいと思うが、そんな人達は過疎地には見向きもしない。
そんな中、番組で取り上げた鳥飼酒造というのはね、熊本県人吉、球磨川の支流、草津川流域の乱発計画にストップをかける為、社長が山林を取得したんだ。
山や川を守りながら、蒸留所を建設し焼酎『鳥飼』を製造していてさ。」

鳥飼酒造
http://torikais.com/

「へ~。」
「人の手が入らなかったら荒れてしまう。
荒れる様な所なら産業廃棄物の処理施設にしても、という考え方になるのはおかしくないのかも知れない。
でも、そうなってしまうと環境は確実に悪化してしまうだろう。」
「産廃か…。」
「産廃の問題も単純な話では無いのだけどね。
ただ、一人の社長の力で一つのエリアが守られているのなら、大勢のお金持ちが力を出し合えばと思ってしまってさ。」
「 でも、鳥飼和信さんの様な社長さんは少ないのでしょ。」
「ああ、人件費を如何にして削るかに腐心している人が多そうだからな。」
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ポツンと一軒家-01 [このブログのこと-03]

「亜紀は、テレビ番組の『ポツンと一軒家』って知ってる?」
「少しだけ見た事が有るけど、お年寄り向けの番組でしょ?」
「う~ん、そうかもな…、あまり若い人は出て来ない、でも、お爺ちゃんお婆ちゃんと暮らす高校生を紹介する回に登場した女子高生は、とても素敵な子だったよ。」
「へ~、田舎暮らしってどうなのかしら?」
「大声で歌っても近所迷惑にならないのが良いし、お爺ちゃんと釣りに出かけたりと楽しんでるみたいだった。」
「なるほど、それで番組の宣伝なの?」
「まあ、そういう訳でも無いのだが、このブログでは過疎の問題を取り上げているだろ。
これまで想像だけで書いてきた過疎の実例に触れる事もあり自分的に興味深い番組なんだ。」
「過疎か…。」
「実際の限界集落、その現状が見えたりしてね。」
「限界集落って廃村寸前とか?」
「ああ、本当に不便な所に有った小さな集落、その最後の一軒とか。」
「最後の一軒ね…。」
「番組で取り上げているのは本当に不便な所が多くてね。
かつては林業で生計が成り立っていたとか、そこで暮らして来た理由は有るのだが、ここのお話で書いてきた、過疎地を再生するレベルでは無いと感じるよ。」
「そんなに条件が悪いの?」
「まともに再生しようと考えたら道路の改修だけでも大変そう。
今更、山を切り開いて様々なスペースを広げるのもどうかと思うしね。
そんな山奥だけでなく、その一軒家へ向かう道中でも、登場するのはお年寄りばかりでさ、そこに過疎地の現実が見えて来る。」
「でも、そういう所で暮らしたいとか思っているのでしょ?」
「いやいや、大いなる田舎と揶揄されることも有る名古屋だが、改めて町の便利さを感じていてね。」
「私は学校の事が有るから無理だけど、過疎地だって住めば都かも知れないわよ、うん、移住しちゃおう。
果物を栽培して、美味しいのが収穫出来たら送ってね。」
「そ、それは…、だいたい土地を持ってないから…。」
「田舎の土地は安いのでしょ?」
「そうだけど…。」
「過疎地の問題と向き合うなら、まず、そこで暮らしてみなきゃ。」
「そう言われても…、そんな気力は全く持ち合わせていなくてね。」
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10 世界 [KING-04]

 夢たちが一年生になる頃、私達の世界は六十七の単独居住コロニーと八つの国の保護を終えていた。
 新たに我々の社会と繋がった人達は、城の子達から共通語を教えられながら、彼らの過去を城の子に語ったりしている。
 ただ、その話は私達の記憶同様、断片的過ぎて、そこから全体像を掴む事は出来ない。
 私達が暮らしていた世界がどうなったのか、今も気にはなっているのだが。
 自分達の記憶プロテクトが外れた頃、マリアに尋ねた事が有るがその時は教えて貰えなかった。
 そのまま再度問いかける事を控えていたのだが、翔が…。

「マリアさま、大人達が暮らしていたという世界はどうなったのですか?」
『子ども達、そしてキング、この世界の人達はその答えを知るべき時が来ました。
 今から話す事は…、そうですね、翔、テレビを通してで構いませんから、この世界の人達に伝えてくれますか?』
「はい。」

 知るべき時、マリアはタイミングを考えていたのだろうか。
 マリアは翔の質問に対し、質問以上の事を話してくれた。
 マリア達は傍観者として、私達が地球と呼ぶ惑星に生命の欠片が誕生した頃から観察して来たこと。
 そして、気が遠くなりそうな年月を経て、人類が文明社会を築き上げ、自らの手で滅びの時を迎えたと。
 今の地球には過酷過ぎる環境でも生き続けられる微小な生命しか残っていないという。
 核シェルターで生き延びた人もいたが、彼らの住環境は快適と言えなかったそうで…。
 人類の指導者は終末戦争という、あまりにも馬鹿げた事を実行に移した。
 いや、地球を破壊する兵器は指導者の手を離れていたのかも知れない、頭の悪い指導者の裏をかく事の出来る、頭のおかしな科学者がいたとしても不思議ではない。
 情報を遮断し混乱させ…。
 マリアの話を信じるのなら、我々の母なる地球は…。
 孤児…、そんな言葉が頭をよぎる。

『私達は傍観者であり、人間が絶滅しようと構わなかったのですが、実験をしてみたいという話が出ました。
 消えて無くなる種族なら、私達の…、あなた方の言葉で言う所の暇つぶしにしても構わないだろうと。
 それが、我々の箱舟プロジェクトなのです。』
「箱舟?」
『どうしてその名が付いたのかはキングが知っているでしょう。』
「ああ、教えてくれた事は我々が予測していた範囲、子ども達には私達の役割を含めて話すよ。
 それで…、マリア、地球がそういう状態になってしまったという事は、我々が今暮らしているのは、違う星と言う事なのか?」
『いや、キング達の言葉で言うならば、巨大な宇宙船だ。』
「そうか、ゲートの存在から、その可能性も考えてはいたが…、では、どこかに目的地が有るのか?」
『ある惑星を目的地としている。』
「我々はそこへ移住するということに?」
『そうとも言えるし、そうでは無いとも、子ども達には選択肢が有る。
 この世界には大きく三つの種族が存在していることは理解しているだろうか?』
「それは…、城の子とそれ以外と言う様な意味でか?」
『ええ、私の大好きな城の子、この子達を産み育ててくれた城のコロニーメンバーには感謝している。
 そして、キング、あなた達は偶然が重なって誕生した八人だけの種族、その子である城の子という種族は大きな可能性を秘めている。
 おろかな人間の血だけを引き継ぐ種族、彼等には新たな惑星を与えるというのが私達の計画。
 彼等は、類として成長するだろうが、やはり自らの手で滅びの道を選ぶのかどうかを、私達は観察して行く事になる。
 城の子には選択肢が有る、その惑星に留まるも良し、新たな惑星を開拓するも良し、人間を降ろした後のこの宇宙船団は、子ども達が自由に使えば良い。
 ただ、人間達に住まわせる惑星は、城の子の手で環境を整える必要が有る。』
「人が住めない様な惑星なのか?」
『今はそうでも、地球を再生するよりは遥かに簡単に改造出来る、城の子の力が有れば。』
「そうか…、マリアは私達以外の世界について少し話してくれたが、彼らも同様に惑星を目指しているのか?」
『当初はその様にプログラムが組まれていたが、幾つかはすでに廃棄した、残っている船団も我々が惑星を改造しても無駄になりそうで、この船団だけが新たな大地を踏みしめる可能性が高い。』
「その…、廃棄された船団を我々の保護下にすることは出来なかったのか?」
『距離的な問題が有る、遠く離れるまではここから食料支援をしていたが、すでにそれもかなわないほど距離が離れた、我々の技術をもってしても限界は有る。』
「この世界の安定に対して私達は大した努力をしたとは考えていないのだが…、人選には実験的な偏りがあったのだろうか?」
『いや、船団間の相違は僅かな物だ。
 ただ、国を繋ぎ始めた段階で、和の国の様な突出した存在は生まれなかった。
 我々は、この世界の国々が和の国に対してもっと攻撃的になると考えていたのだが、予想に反し和の国を中心にまとまった。
 他のコロニー船団では、他より優位に立ちたいと考える複数の国家間で折り合いが付かず、国家間の協力体制を築き上げる事が出来ないまま非効率な生産体制を維持するのが精一杯、そんな状態でも如何にして他国を出し抜くかを考える様な普通の人間達だった。』
「私達は、マリア達のテクノロジーで守られて来たから効率の良い生産体制を構築出来たと考えているのだが。」
『他の世界も初期段階は同じ、同じ様な条件からスタートした。
 八人の単独居住コロニーは沢山作られたが、キングを中心とした八人のグループほど、奇跡的なことを成し遂げるまでに成長したコロニーは無い。』
「それはマリアの力なのだろ?」
『同様の事を、スコットランドやコペンハーゲンでも行って来たが、彼らの子は普通の人間に過ぎない。』
「そうか…。」
『子ども達、あなた達の親もまた、特別な存在だということを忘れないで下さい。
 そして、これからのことですが…。』

 マリアはこれから先の計画を子ども達に説明した。
 この世界の住人、おそらく人類として生き残る最後の集団の移住先について。
 その移住までのプロセスについて。
 多くの人を保護して来た城の子に新たな課題が与えられたが、子ども達の目は輝いている。
 それが新たな使命に対してなのか、新たな遊びを与えられてなのかは、問わないでおこう。
 子ども達を交えての時間が終わった後、私はマリアと…。

「なあ、マリア、私達の事を高く評価してくれた事は嬉しいが、我々と他国の指導者との違いが今一つ理解出来ない。」
『子ども達には話さなかったが、我々の箱舟プロジェクトには多くの意思、意識が関わっている。
 だが、その誰にも分からない事が起きた。
 この世界の者達がしばしば語る所の、神という存在がなした事かも知れないと言い出す者がいるぐらいの謎だ。』
「マリア達が神ではないのか?」
『違う、我々は傍観者に過ぎない。
 今回は研究と称して暇つぶし的な事に取り組みはしているが。
 キングは、我々が意図的にブラックコロニーと呼ばれている存在を、国の要素として入れた事は理解しているだろうか?』
「そうだな、貴重な存在、集団の中に弱者がいることで集団はより強固なものになる。
 私達も始めは戸惑い、上手く導くことが出来ず、二名の死者を出してしまったことは残念に思っているのだが。」
『その考え方をする者は他の箱舟にはほとんどいなかった、この世界のリーダー達も城の住人と出会っていなかったら保護の対象とは考えもせず、厄介者、だが、罰が怖くて殺す事も出来ない存在だと捉えていただろう。
 彼らの信仰心は観察していて面白い、言ってる事とやってる事が異なっていても平気だ。
 だが、信仰心をあまり持ち合わせていないと言う城の者達は、強い思いやりの心を持ち、弱者の為にも力を合わせて取り組んだ。
 破棄した国が、社会的弱者の排除方法に頭を巡らせている頃にだ。
 それが理由なのかどうかは分からないが、我々は未知なる意思の存在を感じている。』
「それは…、マリア達とは違う存在がいるという事なのか?」
『この広い宇宙に、意志有る存在、文明を築き上げた生命体は極めて少ない。
 だが我々と同様に、人類の滅亡を見ていた存在が、我々とは違う力を使った可能性が有る。
 これは我々にとって重大な出来事だ。』
「そうか…、マリア達とは違う意思の存在には私も興味が有る、良かったら教えてくれないか?」
『そうだな、キングが大きく関係しているので、何か気付いた事が有ったら指摘して欲しい。
 私にとってのキングは、当初、ただの観察対象、研究材料の一人でしかなかった。』
「だろうな。」
『だが、私は何故か計画に全くなかった城の建造に多くの労力を費やした、そして海を含む広大な面積を、ただの実験体で有る筈のキングに言われるがままに用意した、何の疑いもなく。
 地球に近い頃で転送が楽だったとは言えおかしな事、それを私自身が指摘されるまで気付かなかったと言うのはもっとおかしな事。
 あの時点で、そこまで試験体に差を付ける予定は全く無かった。』
「えっ、海は…、広い窓から海が見渡せる部屋が理想、とか話した瞬間に現れたと記憶しているが。」
『普通では絶対やらない事を無意識の内に行っていた。
 だが、城も海も、コロニーが発展し和の国がこの世界の中心となって行く過程で、とても重要な役割を果たしたと思わないか?』
「ああ、だからマリアには感謝しているよ。」
『私のしたことは我々にとっても私にとっても完全にイレギュラーな事だったとしたら、キングはどう思う?
 私が私の意識に全く無かった城と海を作った事、それが箱舟プロジェクト最大の謎だと我々は捉えているのだ。』
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09 併合 [KING-04]

 城の子達が単独居住コロニーの保護を進める一方、八つの国、子どもの人数をマリア達が満足する二十人にまで増やすことの出来ていない国々は、城の大人達が中心となり我々の世界へと導いている。
 当初、ファーストコンタクトから対面までの準備に時間を掛けようと計画したのは、何らかの原因が有って人口を減らした国々なのだから、どんな落とし穴が有るのか分からず、念の為にサンフランシスコの時と同等の体制で臨もうと考えての事だった。
 だが実際には、単独居住コロニーと同様、問題になりそうな人はすでに人を殺すか殺されて消えていた様で、全体的にトラブルは少なく、スケジュールを前倒しする事に。

 ただ、一つの国はリーダーやリーダーグループが存在せず、ファーストコンタクトで躓いた。
 国のリーダーがいないと国家間で利用して来た端末が使えず、こちらは情報を得られても、端末を通しての通信が出来ない。
 そこで、この国とのファーストコンタクトは単独居住コロニーと同様、まずゲートを置き、隠しカメラ映像で反応を探るところから始めることに。
 城の大人主導で進めるが、各国のリーダーには送り込むモニターに取りつけたカメラからの映像を見て貰いながら待機していて貰い、状況に応じてはそのまま対面にまで持ち込む予定。
 我々は尊と巴と共に、隠しカメラ映像の確認を始めている。

「大人は全員で四十三名だから、ほとんどゲート前に集まったみたいね。」
「では、昇に作って貰った歩くモニターを送り込むとするか。」
「ウサギはやめたの?」
「人数に合わせてモニターを大きくして貰ったからな。
 この人数なら機械仕掛けでも大したプレッシャーにはならないだろう。」
「子ども達の映像に戸惑っているみたいだけど、画面上に自動翻訳の文が表示され始めているのよね。」
「えっと…、大丈夫だ、歩くモニターを正面から捉えてるカメラ映像で確認した。
 この映像をサブモニターに切り替えるよ。」
「字幕として表示されてるのは自己紹介、この後、我々の世界を軽く説明してからなのだが…。」
「単独コロニーほど寂しい思いをしていないのか、反応が弱いわね。」
「さてロックの話に、どんな反応を示すかだな。」

 ロックは代表者と話がしたいと呼びかけた。
 それに対して、六人が前に出て来る。

「この国を代表するのは?」
『この六人がそれぞれの居住スペースリーダーで同格だ。』
「成程、では私達から伝えたい情報は色々有るのだが六人を中心に聴いてくれるか?」

「顔を見合わせて相談を始めたが、三之助はどう思う?」
「戸惑っているのでしょうけど、六人は微妙な関係みたい、凄く仲が悪い訳では無いけど牽制し合ってるのか…、突然の事に判断出来ないという感じね。
 ここは尊と巴に登場して貰った方が話が早くなると思うな。」
「そうだな、少なくともこの堅い雰囲気は和らぐだろう、尊、頼めるか?」
「はい。
 巴、ロックおじさんの所へ行くよ。」
「はい、お兄さま。」

 ロックが二人を、我が国のプリンスとプリンセスだと紹介すると、彼らの表情が一変、そのまま跪き始めた。

「一瞬見ただけでか…。」
「服装を王族っぽいのにしたのが影響しているのかしら。」
「う~ん、推測でしかないが、全員を束ねるリーダー不在の状態で、他国とは言え王族の登場、しかも気品溢れる二人、そこに巴の能力が加わり、跪きたくなったのは自然なのかもな。
 王族に不快感を与えて、後々不利益を被りたくないとか…、そこまでは考えてなさそうだが…、三之助、どうだ?」
「ふふ、尊が話し始めれば、彼らは自分達のとった行動が間違っていなかったと知るでしょう。」

 ロックから話を引き継ぎ、尊は我々の世界の話をし、自分達の和の国や他の国とも友好関係を結んで欲しいと訴える。
 そして、対面後に起こるプロテクト解除時の説明をし、心の準備が出来たら、自分達もゲートを越えると話す。
 彼らは話し合いを始めたが、その間に尊が連絡して来た。

『先方に六人の代表がいては本格交流までに手間取ると思います。
 彼らが戸惑っている間に、一気にこちらのペースで進めてしまいましょう。
 プロテクト解除時の見守りは、ここにいる各国代表だけで充分だと思います。
 お風呂に入って貰い、プレゼント用に用意した服と着替えて頂いて、昼食は…、母さん、お城のホールで何とかならないかな?』
「大丈夫、すぐに応援を呼ぶわ、まずは着替えて貰わないとね、彼等がお城で惨めな気持ちにならない様に、女性の為に美容系のスタッフも集合して貰いましょう。
 尊、テレビでは各国代表が見てるのと同じ映像を流しているのでしょ?」
『うん、テレビを通して協力を呼び掛けた方が早いかな?』
「尊、食事会までの準備はこちらで進める、尊は対面…、はは、彼らはまだ対応を決めかねているな。
 まあ、急ぐ必要はないから、彼らのプロテクト解除スタートの方を頼むよ。」
『分かりました、それで…、各国リーダーの方々とも相談しますけど、あの状態の国です、彼らの中から国のトップリーダーを決めて貰い、国交を開くと言うのは難しそうで、上手く行ったとしても時間が掛かり過ぎると思います。
 データから分かる通り、自給自足が上手く行ってないことからも推測できます。
 また、老化が進んでいないことから、罰を受ける事なく私達からの支援物資を受け取って暮らしているのだと思いますが、衣服の状態から、あの国の管理者は食料援助はしても、それ以上の事は一切して来なかった様です。
 そこで、あの国の今後についてですが、選択肢の一つとして和の国に併合する事を考えても良いと思うのです。』
「そうだな、尊、各国のリーダーと調整してくれるか。
 彼らが反対しなければ、特に問題はないだろう。」
『分かりました。』

 国をまとめるリーダーが居なくては色々と効率が悪い。
 尊の提案に対し、場にいた城の大人達は賛成の意思表示を直ぐにしていた。
 尊は和の国に併合する話をリーダー達と交渉…。

「一旦和の国に併合した後は、彼らの意向に沿い、居住コロニーのゲートを皆さんの国と繋ぎ変えて行くことも視野に入れています。
 すぐに結論を出す必要は有りませんが検討して頂けたらと思います。」
「そうだな、私は尊の意見に賛成だ、これだけ時間が掛かっても結論を出せないのだからな。
 和の国で管理してくれるのなら、それが一番だろう。」
「我々は他の国との国交も進めて行かなくてはならない、この国を尊が引き受けてくれるのなら助かるが、尊、単独居住コロニーの保護に影響は出ないのか?」
「あの国の資源も、かつて和の国が併合したエリアと同様、島に使おうかと、希望の島を広げるか、もう一つ島を造り、受け入れ態勢を強化したいという理由も有るのです。
「ならば、城の子にお任せするしかないな。」
「有難う御座います、彼らの意向にもよりますが…、そろそろ決断を迫って上げないと先に進めそうに有りませんね。」

 尊に促され、彼らは話し合いを終えたが、結論が出た訳ではなさそう。
 それでも、尊は今からゲートを越えて行きますと話し、モニターを通して、これから訪問するメンバーを紹介して行く。

「カタリナがトップなのは何か理由が有るの?」
「はは、尊は独身のカタリナにお婿さんをと話していたから、そんなとこじゃないのか。
 彼女は気品が有る、向こうの男性達の表情が変わったから正解だろう。」
「護衛の静子たちも服装をそれらしくしたのね、うん、なかなか恰好良くて似合ってる、馬に乗っての登場でも良かったのでは?」
「今以上の格差を見せつける必要はないさ、彼らの服は昔見た映画で奴隷が着ていたものを思い出させてくれるだろ。」

 ゲートから尊が登場すると、彼らはもう一度跪いた。
 尊はもう一度説明を始める。

「すぐに皆さんは忘れていた過去を思い出し始めます。
 その過去は恐らく思い出したくない類のものでしょう。
 そんな過去はすぐに忘れて下さい。
 しばらくは落ち着かない状態が続くと思いますが、皆さんがそれを少しでも楽に乗り越えられる様に私達は準備しています。
 このゲートの向こうにはお酒と料理が用意して有りますが、お風呂と着替も。
 言葉は翻訳機を通すことになりますが、その数に限りが有りますので、各コロニースペース毎、男女のグループに分かれて下さい、この後、入って来るのは、私どもの和の国と協力関係にある諸国の代表です。
 彼等と交流を始め、彼らの誘導に従って下さい。」

 一度にゲートを越えなかったのは、彼等を脅かさない為。
 プロテクトが外れ始めても、特に問題行動を起こす人は現れなかったので、城の大浴場へ向かって貰う。
 
 風呂に入り、各国から提供して貰った服に着替え、髪を整えて貰う頃から、女性達は蘇る記憶の不快感より、喜びが勝り始め、城のホールで昼食会が始まると、その表情はすっかり明るくなった。
 音楽村メンバーの演奏、夢の歌声、この世界に来て初めて口にする酒に酔いしれて貰った所で、明日以降のスケジュールを相談、というよりロックがほぼ決定事項として伝えたが、誰からも反論は無く、尊の考えた通り、一気にこちらのペースで併合まで持ち込めそうだ。
 食料は提供するので農地は放棄して構わない、その代わり落ち着いたら和の国で働いて欲しいと話し、酔いつぶれた数名を残して和の国を案内、その途中、一人が昔の職業を話し始めると、他の人達も。
 私達の世界は新たな技術を手に出来そうだ。

 彼らの国が六つのグループとなったのは、和の国二丁目に相当する通称ブラックコロニーが暴力的で、その動きを抑え込もうとしたリーダー達と争いになり、リーダーグループとブラックコロニーメンバー双方が全滅したから。
 国家リーダーを失った後、コロニー同士のトラブルが起き死者を出した。
 それからは、トラブルを恐れ、互いに距離を置いての協力関係、全体を見て指示するリーダーがいない状態では当然作業効率が悪く、コンタクトの取れない管理者は時折食料を支援してくれるだけだった。

「結局、全部のグループが和の国に所属する道を選んだのね。」
「早々と決めた居住スペースリーダーからは、苦渋の決断という雰囲気は微塵も感じられなかったからな。
 リーダーという重荷から解放されるという安堵感を感じさせてくれた人もいたし。」
「迷っていたグループも、他が和の国を選び、生活環境を整えて貰うのを見てはね。
 和の国からの提案を受け入れた方がうんと楽で快適な暮らしが出来る。
 言葉の問題は有っても翻訳機が使える、単独居住コロニーから保護された人達よりはマシだと気付いたのでしょう。」
「その分、共通語の学習には熱が入らないようね。」
「今は仕方ないさ、でも、翔はあの国の言語をテレビで流す事も、訳の字幕を付ける事もしないと話していたから、その内共通語に馴染んで行くだろう。」
「そうね、保護した他の国では、各国のリーダーグループが翻訳作業をしているものね。」
「でも、リーダーによっては、敢えて共通語の学習に繋がる様に工夫をし始めてるとか。
 今回の事で改めてリーダーの資質とか考えさせられたわ。」
「だな、居住スペースリーダーを名乗った人達に、もう少し力が有ったら、また違った形になっていただろう、それが良い結果に繋がったとは言い切れないが。」
「尊たちは併合出来て資源が増え、保護した単独居住コロニーの人の為に希望の島を充実させられると喜んでいたわね。
 これで、少しは保護作業に目途が立ったのかしら?」
「一番厄介そうな国が保護出来、単独居住コロニーもデータ上に大きな問題を抱えているコロニーは残っていない、油断は禁物だが大丈夫だと思うよ。」
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08 希望の島 [KING-04]

 第三コロニーを予定外の手順で保護したことから、ファーストコンタクト以降の流れを大きく見直すことに。
 今後もファーストコンタクト時の反応が第三コロニーと同じで有れば、即席パーティーを開き、どさくさに紛れて馴染んで貰うというスタイルを取ることは悪くないと判断。
 モニター越しの交流より遥かに効率が良いからだ。
 ただ、ここでポイントになるのは、記憶のプロテクト解除。
 私達は保護される側のストレスを考えた上で、事前情報のないままに突然プロテクト解除が始まる事は避けるべきだと考えて来た。
 ただ、尊の判断でその過程を飛ばした第三コロニーの女性達を見ていると、今まで気にし過ぎていたのかも知れないと思う。
 英語を耳にすることにより、プロテクトを一気に解除してしまうという絶対避けるべきと考えていた事でさえ、例え激しい頭痛を伴い大きな苦痛を受けたとしても、見方を変えれば短時間で落ち着くというメリットが有る。
 尊は、事前情報のないまま酷い状態を体験させてしまったカタリナが、どう感じたのか気に掛けていた。

「カタリナ、僕の判断で辛い思いをさせてしまってごめんね。」
「いいえ、尊、確かにいきなり頭が激しく割れそうになり、私は大きな罰を受けているのだと感じました。
 そこで蘇った記憶が示す過去は地獄。
 また、四人だけの生活も社会から見放された孤児の様で辛い状態でした。
 でも今は…、ねえ尊、私、本当は死んでいて天国にいるのでしょ。
 この世界の食事はとても美味しく、この世のものとは思えないわ。」
「う~ん、僕は天国という所へ行ったことがないからね。」
「ふふ、天国で暮らしている方にとって、ここでの生活は当たり前なのですね。」
「良く分からないです、でね、カタリナは僕たちのチームが取り組んでいる事は教えて貰ったのでしょ。」
「はい、神に見捨てられた人達がまだいるのですね。
 それを救うのが尊の役割なら、私はそのお手伝いをさせて下さい。」
「有難う、是非お願いします、カタリナが手伝ってくれたらとても心強いです。
 それで…、僕らが英語を使わなかったら、カタリナも他の二人の様に…、その…、大きな試練を受けずに済んだのですが…。」
「お気になさらないで、大きな罰を頂いた事で…、そうね…、過去を吹っ切れたというか…。
 今は色々教えて頂いて、私はもう一度やり直せるという気持ちになりました。
 あの時、英語で話し掛けてくれなかったら、それはそれで別の不安が芽生えたと思うのです。
 モニターで皆さんの姿を見せて頂いた時は、あの子に可愛らしいお友達が出来るかもと興奮気味でしたが、英語で話し掛けて貰って更に、モニターでは始め共通語だったので何を話しているのか分からなかったのですから。」
「そうですか、明日は第二コロニーと対面、近い内に第四コロニーとのファーストコンタクトを予定しています。
 カタリナも同席して、気付いた事があれば教えて欲しいのですがお願いできますか?」
「勿論です。」

 カタリナは名家の出身、英語が堪能なだけでなく理知的な人、苦しい試練を乗り越えた後は、すぐに二人の仲間の為、通訳をし手助けをしていた。
 落ち着いてからは、この世界の事を学んでくれている。

 カタリナと共に臨んだ、第二コロニーとの対面は第一コロニーの時と同様スムーズに、今回は試しに、英語で話し掛けたりドイツ語などで話し掛けたりもしてみたが通じなかった。
 それでも、共通語を覚える意欲の強い人ばかり、不安定な精神状態を押し殺す為にも必死で共通語を覚えようとしている様にも感じられる。
 ファーストコンタクト以降、ゲートの行き来を楽しんでいた子ども達とも共通語の練習をしていて、時に子どもから教えられる事が楽しいと片言の共通語で話してくれた。

 次は第四コロニー。

「第四コロニーで話されているのがスペイン語だって分かったのはラッキーだったね。」
「テレビの試験放送で第四コロニーの映像を使ったのは正解だったわ。
 試験放送を見て指摘してくれたスオミの人はどう?」
「協力を要請したら快く引き受けてくれたよ。
 今回は共通語を教える前に一気に説明できて、文字通り話が早くなりそうだな。」
「でも、セブンおじさんの心配はどうかしら?」
「私達がこの世界の人達のことをマリアさまの隠しカメラを通して監視している事に気付かれる可能性が有るのよね。
 今の所、それに関しては何の反応もないけど。」
「僕はそんなに心配していない、プロテクトを掛ける様な事にはならないと思うよ。」

 一早くその可能性に気付き指摘して来たのはコロニーDの連中、自分達も監視されていたのではないかと。
 それに対して、心配していないと話した尊が対応、マリアから特別にコロニーDを見張る様指示が有ったと回答した。
 それは真実ではない、だが尊は必要な嘘ということを、すでに学びつつある。
 今回は城の住人以外に知る由の無い事であり、問題ないと考えての判断、でも事前に話してくれ、私はその判断を支持した。
 マリアを持ち出されたらコロニーDの連中は何も言えない、負い目も有る。
 更に尊から、マリアさまは何時もあなた方を見守って下さっていると言われては…。
 他の人達が気付いたのかどうかは分からないが、マリアさまに見守られているとの考え方は城の子が子ども達に広め、そこから大人達へも。
 監視の可能性を問題視する以前に、この世界で悪事を企てる人は見当たらず、監視されていたとしても平気なのではないかとも思う。
 尊はそう言ったことを総合的に考え、保護して行く単独居住コロニー映像のテレビ放送を進めていた。
 第四コロニーとのファーストコンタクトは、その予想していなかった成果のお蔭で…。

「もう、対面なのね、第一、第二コロニーの時には随分時間が掛かったのに…、言葉が通じる意味の大きさを改めて実感させられるわね。」
「スオミからの応援者も張り切っていたからな、自分のスペイン語が役に立って嬉しいと話していたよ。」
「改めての自己紹介が済んだみたいだな。」
「今回は男性一名女性三名と男の子が二名なのね、尊と巴は説明をスオミの人に任せ、自分達は見守っているというスタンスだけど、向こうの人達は、どう感じているのでしょう。」
「今は、プロテクトが外れ始めてるだろうし、彼の話に夢中なのでは、指示が有れば翔がモニター映像を切り替えて行く事になっているが、誰もモニターを見ていないからな。」
「子どもは、三歳と五歳ぐらいかしら、香は共通語で話しかけてるけど、何となく理解してるみたいね。」
「ふふ、香はお菓子の魔法を使って共通語を教えると話してたけど、あの子は根気良く教えるのよ。」
「相手の子達の笑顔からすると、彼らはもう香に心を奪われている様だな。」

 しばらくしてお茶の時間、そして食事。
 食事に関して、麗子は、かつてスペイン語を話していた国を幾つか想定しメニューを用意していた。
 それが正解だったようで、彼らの胃袋を掴む事に成功。
 第四コロニーの人達も大きな問題なく我々の仲間となって行く。

 当初、単独居住コロニーの保護は、その数の多さも有り大変な作業だと考えていた。
 実際にそのスタート時は、試行錯誤の連続だったと言える。
 だが、第七コロニーとファーストコンタクトを取る頃には、思っていた程では無いと感じる様に。
 城の子達もだ。
 どのコロニーも、少人数で先の見えない生活を送っていた所へ、可愛らしい城の子と頼れる大人が現れた訳で、それは記憶のプロテクトが外れる戸惑いや苦しさを遥かに超える喜びとなった。
 また、大人の人数が少なくなっていたコロニーは、暴力的とか問題の有った人がすでにいなくなっていた訳で。
 残ったのは互いに支え合い励まし合って生きて来た人達。
 彼らはプロテクト解除に伴う諸々のマイナス要素が、新たな出会いの喜びにかき消されたと話す。
 それだけに保護された人は次に保護される人達の事を思い協力的。
 保護のペースを上げても問題はなかった。
 保護したコロニーは住環境を改善し希望の島に接続。
 そこで共通語に慣れつつ、世界各地を訪問、時に作業を手伝いながら交流を深めて行くが、テレビで紹介していることも有り馴染むのは早い。
 何と言っても少人数で暮らして来た人達にとって、慣れない言語を使ってでも多くの人達と語らう事は新鮮な喜びだ。
 この訪問によって、これまであまり共通語学習に熱心ではなかった人達が刺激を受け、共通語を使う人が増えた事も国際交流を進める事に繋がり良かったと思う。
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