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舘内亜美-04 [F組三国志-04]

「ねえ、黒川くん、CDとか出してみない?」

 ぼんやりしてたらそんな声が聞こえてきた。

「髙尾さん、そんなレベルじゃないですよ。」
「そうかな、う~ん、確かに沢山売ろうと思ったら、それまでの過程が大変で難しい、でも、二人の演奏の記録という形で作り、無理せずに売れる範囲で売るって感じでも制作費ぐらいは軽く回収出来る演奏だったよ。」
「そうですか?」
「CDは著作権とか販売経費とか会社の利益とかで、一枚当たりそれなりの金額になるけど、CDその物としての製造コストは大したことなくてね。
 今、チーム赤澤の経営学専攻メンバーは、将来の活動に向けて資金の確保ということを考え始めているんだ。」
「省吾、この前は営利目的では無い、と言ってなかった?」
「ああ、淳一、チーム赤澤自体は営利目的ではないのだけど、活動資金が有るに越したことは無いだろ。
 現時点では知り合いからカンパを頂く事も有るが、出来れば寄付ではなく、経営、経済学部生の実習や研究を兼ね、自力で稼げないかという取り組みを始めてさ。
 チームを入会金や会費で運営するより良いだろ。
 そのまま株式会社を起こしてしまえたら、更に面白いと考えてる。
 大学生メンバーは、起業と真面目に向き合っていてね。」
「黒川くん、その時は省吾リーダーに社長か会長になって貰う話で盛り上がり、まずは何で収益を上げるかを皆で考えてるところなんだ。」
「自分はチェロで協力出来るってことですか?」
「協力して貰えないかな。
 自分が今日来させて貰ったのは、コンクール優勝と聞いて、アマチュアのCD制作企画に繋げられないかと思ったからなのだけど、思っていたレベルの遥か上を行く演奏だったからね。」
「そういうことなら…、でも全然売れなくても知りませんよ。」
「大丈夫、損益分岐点は口コミだけで簡単に越せる自信が有るんだ。
 録音も、それなりの機材を使えるあてが有ってね。」
「亜美は、どう?」
「淳一さんと演奏出来たら嬉しいです。」
「はは、お母さんは、如何ですか?
 自分達大学生の真面目な取り組みとして、契約書もきちんとしますのでお許し頂けないでしょうか、お願いします。」
「そうね、私の一存だけではお約束出来ませんが…、学校の勉強の妨げにならない範囲でしたら。」
「あっ、それなら。」
「亜美、急にどうした?」
「淳一さんは、お母さまにテストのことお話ししましたか?」
「特には話してないけど。」
「お母さま、私たち頑張っているのです。
 淳一さんはテストで学年五位だったのですよ。」
「そうなの、中学の成績上位者が集まる高校だから、どうなるのかと思っていましたが。
 亜美さんは?」
「はい、奇跡的に学年で九位に入れました、この結果は省吾さまや淳一さんのおかげなのです。」
「省吾さまは?」
「学年トップ、美咲さまが七位、F組で学年十三位まで独占、五十位までに三十一人、名前が張り出された上位百位までに三十八人ってすごいと思いませんか、F組って?
 その仕掛け人が省吾さまで、先生の力でなく省吾さま中心にみんなで頑張った結果なのです。」
「そこまではとは…。」
「その省吾さまがリーダーを勤めているチーム赤澤のお役に立てたら、私、とても嬉しいのです。」

 CDの話が出たのは驚いたな~。
 勿論、そんな事は今まで考えたこともなかった。
 でも、お母さまにも協力して頂いて、淳一さんともっと一緒に演奏出来たら…。
 チーム赤澤のお役に立てたらと言うのも本心、省吾さまや美咲さまがF組を盛り上げてくれなかったら、淳一さんの良さに気付けなかったと思うし、仲良くなれなかったと思うもの。
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舘内亜美-03 [F組三国志-04]

 へ~、ここが淳一さんの家か、大きくて立派だな~。

「みなさんようこそ、さ、どうぞ。」
「おじゃまします。」
「いらっしゃい、ゆっくりしていって下さいね。」
「今日は俺と母さんだけだから気を使わなくて良いから。
 母さん、こちらが省吾さま、チーム赤澤のリーダー、隣が美咲さま、クラスの委員長をしてくれている。」
「うわさは聞いてますよ、後ろの方は大学生なのね。」
「はい、自分は髙尾和彦です、よろしくお願いします。」
「私は、早川玲名です、今日はこの後も予定が有りまして、運転手役ということでお邪魔させて頂きました、よろしくお願いします。」
「お二人とも国立大学の?」
「ええ、省吾リーダーとは我大学の赤澤教授を通して知り合いました。」
「お父さまなのね。
 こちらの可愛らしいお嬢さんがピアノを弾いて下さるのかしら。」
「舘内亜美と申します、よろしくお願いします。」
「ピアノは長いの?」
「はい、四歳の頃から続けています。」
「母さん、そんな事より…、さ、みんなこっちへ来て。」

「ピアノが置いてあって素敵に広いリビングですね。」
「省吾さん、うちは家族みんなで演奏することも有りましてね、最近は回数が減ってしまいましたが。
 ふふ、舘内さんはピアノが気になるのね、弾いてみる?」
「宜しいのですか?」
「勿論、皆さんはお茶でも如何。」

 このピアノはヤマハでもカワイでもないのね。
 まずは子どもの情景でも聴いて頂こうかな。
 それにしても、家のリビングにグランドピアノが有るなんて超羨ましい。
 では…。
 あっ、音の響きが全然違う、このピアノ凄く良い。
 こんな良いピアノ弾くの初めてだ。
 あっ、淳一さんが立ち上がった。
 チェロを用意して、もう、いつでも演奏出来るって感じで私の演奏を聴いてくれてる。
 チューニングも私たちが来る前に済ませておいてくれたのね。
 じゃあ、シューマンは自然な感じで終わらせて、うふ、淳一さんと目が合った…。
 演奏の姿勢に変わったから、準備おっけいってことかな。
 さて、淳一さんの白鳥、聴かせて頂きましょうか。
 行くわよ。
 あっ、優しくて綺麗な響き…、コンクール優勝ってほんとだったんだ…。
 白鳥ってこんなにも…。

 こんなにも…。

 えっ、えっ、私、涙で、楽譜が見えない…。
 でも弾ける、弾く、ずっと淳一さんのチェロを聴いていたい、一緒に演奏していたい…。
 あ~、終わっちゃう、いやだ~。
 ええ~い。
 即興変奏曲、始めちゃったけど…。
 よかった、淳一さん応えてくれてる。
 私、すごく幸せ。
 ふ~、でもそろそろ終わりかな。
 うん、淳一さんもそんな感じだ。

 私の生涯で最高の出来だった気がする…、えっと涙を拭いて、演奏中に涙が出て来るなんて初めて。
 あっ、拍手か…。
 美咲さま涙を浮かべて、そりゃ淳一さんのチェロすごかったもんな。
 あれっ、私、なんかくらくらする…。
 淳一さんが…、も~、素敵、大好き、え~い。

「おお~すごい演奏だったけど、亜美ったら大胆だ~。」
「お母さまもびっくりしたんじゃ…、あ、お母さまも涙目だ。」
「す、凄かったわ、淳一が最近変わって来たとは思ってたけど、こんな可愛らしく素敵なお嬢さんとお付き合いしてたとは…。」
「母さん…。」
「ピアノ素晴らしかったわ、ううん、淳一の演奏も今までで最高だった。」
「自分も凄いと思います、二人のバランスがめちゃ良いし、まさかこんなハイレベルな演奏を聴けるとは思ってなかったです。
 淳一、途中から変奏曲に変わったけど、何時の間に練習したの?
 今日が初めてって言ってなかった?」
「省吾、即興だったんだ、亜美は本物だよ。」
「亜美さん大丈夫?」
「ちょっと疲れたみたい、俺もずいぶん集中してたから…。」
「亜美さん、すごく幸せそうな顔してる。」
「酸欠か過呼吸か…、でも静かにしてれば大丈夫じゃないかな、顔色もそんなに悪くないし。」
「おい、淳一もぼんやりしてないか?」
「あっ、ああ、亜美のピアノがこんなレベルだなんて思ってもいなかった…。」
「二人がお互いの才能を引き出したってことかな。」
「うん、今まで、チェロを弾いてきてこんな感覚は初めてなんだ…。
 母さんうちわってなかったっけ。」
「あっ、そうね…、あったあった、はい。」
「ありがとう。」

「やさし~、あおいであげて。」
「美咲さま、亜美、少し汗かいてるみたいだから。」

 あれっ? なんか気持ちいい風が…。
 淳一さんの顔が近くに見える…。
 チェロは…、え~っと…。

「亜美、気分はどう?」
「うん、淳一さん、最高に幸せ。」
「そりゃ、そうだろうな。」
「えっ? あっ、あれっ? 私、私ったらっ…。」
「いきなり淳一に抱きつくからびっくりしたぞ。」
「えっ、私、あ~ん、淳一さんのお母さまもみえるのに、ど、どうしよう。」
「このままで良いよ、母さんも亜美のピアノが気に入ったってさ。」
「えっ、ほんと、チェロの音色がすごく優しくて、も~、好きよって言ったら愛してるって応えてくれて。」
「だったね。」
「あ~、でもでも私ったら、起きなきゃ。
 あれっ、淳一さん…。」
「しばらくこのままで良いよ。」
「でもでも、みんな見てるし。」
「関係ない、暑くないか?」
「うん…、もう少しこうしてて良いの?」
「ああ、誰も文句言わないからさ。」
「はは、これじゃあ文句なんて言えないよな。」
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舘内亜美-02 [F組三国志-04]

「これが、美咲さまから預かってきた、種目別希望者リストだよ。」
「徹、確かにバスケが多いな。」
「ね、ねえ男子のバスケってどんな感じなの淳一さん…、えっと、淳一さんって呼んでも良いよね。」
「ああ構わないよ。」
「はは、亜美ったら黒川くんにすごく積極的じゃない?」
「えっ、それは…、ほら、ちさとからの提案もあったじゃない。
 林くんも、美咲さまって呼んでるし。」
「あらっ、徹さんって呼ばないの?」
「はは、淳一はどうなんだ?
 お前は、鈍感じゃないだろ。」
「えっと亜美さんって呼べば良いのかな。」
「出来たら、亜美って…。」
「うん。」
「亜美ったら大胆ね。」
「えっ、え~っと、今まで一緒のチームでやって来て…、優しくてね、淳一さんは…。」
「おいおい、俺たちの前で告ってるようなもんだぞ、その発言。」
「俺も、亜美のこと真面目で明るくて…、いいなって思ってる、話してて楽しいし。」
「あらっ、いきなりカップル成立?」
「俺らの前でか? 
 う~ん、淳一に先越されたって気分だな。
「ふふ、徹くんも人気がない訳じゃないからね。」
「ほんと、加藤さん?」
「それじゃあだめ、ちゃんと朋美って呼んでくんなきゃ、クラスの仲間でしょ。」
「お、おう。」
「ふふ、お二人だけの時間を差し上げたいけど、今はやることが有りますからね。
 それで、男子だとバスケは誰が上手なの?」
「えっとね、今回は出場出来ないバスケ部以外で一番上手いのは哲平。
 シュートの成功率が高いのは、お師匠さまと森かな。」
「そうだな、動き回れて良いパスを出せるのは嶋大地と露木のあたりか。
 バスケは勝ちに行きたいから、みんな納得してくれるのじゃないか、なあ徹。」
「ああ、俺も淳一もバスケ希望だったから、とりあえず二人は納得ってことだね。」
「バレーは?」
「まだ、体育でやってなくてさ、だから皆の力量は全く分からないんだ。」
「多分、哲平は上手いだろうけど、バスケと両方は駄目だからな。」
「球技大会までにはクラスの自由になる時間が有るのよね?」
「うん。」
「勉強ばかりでなまった体をほぐす時間を作って貰い、そこでバレーとか出来ないかしら?」
「試合形式で無くとも円を作ってトスやパスで繋げてみるだけでも分かりそうだね、後で相談だな。
 女子の方はどんな感じ?」
「バスケは纐纈榛香がダントツ、やっぱダンスで鍛えてるってことかしら。」
「シュートの成功率では麻里子かな。」
「へ~。」
「彼女は、ここぞって時の集中力が違うのよ。」
「後は溝口里美とか、でもこの表見ると、バスケそんなにうまくない人の希望が多い気がする、ねえ朋美。」
「だって、バレーって手が痛くなるし、ドッジは当たったら痛いし。」
「女子バスケ人気の秘密は痛くないからってことか。」
「はは、ねえ、斉藤さんってどうなの? 体格良いけど。」
「ドッジ向きなんじゃない。」
「そうね、バスケのパスがどこへ飛んで行くのか分からなくてパスが通らないという欠点、ドッジでは凄い武器かも。」
「でも本人はバスケ希望だよ。」
「徹くんから話せば了承してくれるのじゃないかな。」
「えっ?」
「ふふ、まあ、そういうことよ。」
「もしかして、淳一は亜美さんで、俺は斉藤さんってこと?」
「不満そうね。」
「だってさ…。」
「はは、じゃあバスケのメンバーはみんなにお願いして調整する、バレーの方は、みんなでやってみてからってことで良いかな。」
「ええ、残った人はドッジボールということになるのね。
 早めに決めて練習時間を作りましょ。」
「後、俺たちのやることは?」
「スケジュール確認して応援の調整もしとかない?」
「そうだね、応援でもF組の団結をアピールしたいわ。」
「今日中にやれる事をやったら、そんなことも含めて各自考えて来て明日また話し合うってことでどう?」
「了解。」
「じゃあ徹くん行くわよ。」
「行くわよって?」
「お二人の時間を作って上げないと。」
「あっ、そうか。」
「私達で調整作業を始めましょ、斉藤さんは徹くんが担当だからね。」
「かんべんしてよ~。」

 はは、林くんあせってる。
 いや、そんな事より淳一さん…、我ながら大胆なことをしてしまった…。

「ねえ、亜美、ほんとに俺で良いのか?」
「は、はい…、えっと、ごめんなさい…、何か私…、でも前からで…、淳一さんが、美咲さまに気を使ったりしてるの見てたら、何かもっと一緒にって気になって…、えっと、その~、テストも終わって…、あたし何言ってんだろ…、やっぱりご迷惑でしたか…。」
「とんでもない、亜美と一緒に勉強してて楽しかったし。」
「わ、私もです。」
「あ、あのさ、演奏のことだけど。」
「はい。」
「みんなの前で演奏するまでに時間が取れたら、合わせておきたいんだ、だめなら俺の演奏を録音して渡そうか?」
「は、はい、曲は?」
「サンサーンスの白鳥でどうかな?」
「わ~、良いですね~、私も好きです…、演奏したことはないけど、知ってる曲なら早く仕上げることが出来ます…。
 淳一さんは普段どこで練習してるのですか?」
「家で…、そうだ、うちに来る? 
 ピアノも有るからさ。」
「行きたいです。」
「う~ん、でも女の子を一人だけ呼ぶのは、まだ恥ずかしいな…。」
「誰か誘ってみます。」
「うん、えっと…、楽譜はどうしよう?」
「帰りに買いに行きます、それぐらいのお金は持っていますから。」
「一緒に行こうか。」
「うん、嬉しい。」
「亜美ってさ。」
「なあに?」
「嬉しい時は嬉しいってはっきり言うタイプだよね。」
「へへ、単純なんです、私。」
「いや、亜美の良いところだと思う。」
「そう言って下さる淳一さん、素敵です。」
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舘内亜美-01 [F組三国志-04]

 黒川くんがチェロやってたなんてびっくりした。
 びっくりしすぎて、思わず、私にやらせて、なんて言ってしまったけど、あ~ん、みんなにバレちゃったかしら。
 でも、黒川くんは優しいからなぁ~、気配りしてくれるし。
 ふふ、球技大会のことや演奏のことで話すこと多くなりそう。
 ピアノやってて良かった。
 でもチェロとじゃ、簡単に演奏出来ないか…。
 みんなの前で演奏する前に一回ぐらいは二人で合わせておけないかなぁ~。

「ねえ、亜美。」
「うん、な、何?」
「外、誰かいない?」
「そうね。」

 あっ、戸が開く。

「みなさん、おじゃましても良いですか~。」
「おじゃましま~す。」

 あっ、確か早川さん、教育実習で来ていた小山先生も。
 他の人たちは…。

「あっ、早川さんも遊びに来てくれたのね。」
「はは、表向きは調査とか研究だけど、ちゃんと学校側の許可も得て有るからね、はい、テストの打ち上げへ差し入れよ。」
「おお~!」
「テスト前の調査では、みんなも余裕無かっただろうから色々聞けなかったけど…、もう今日のホームルームの時間は終わって打ち上げが始まるのでしょ?」
「確かに、もう帰っても良い時間だな。」
「え~、私が来たのに帰るの?」
「い、いえ、か、帰りません。」
「ははは。」

「じゃあ、みんなに紹介しなきゃいけないな。
 遊びに来てくれたのは、チーム赤澤のメンバーでね、まずはさっき話題になったプロジェクトFのチーフ矢野さん。」
「矢野です、もう一度高校一年生を経験するつもりで、みなさんのことを教えて頂けたらと思っています、よろしくお願いします。」
「早川さんからは並んでる順に自己紹介で良いかな?」
「はい、リーダー。
 プロジェクトF、サブチーフの早川です。
 もう顔見知りの人も少なくないですよね。
 我らがリーダー、赤澤省吾の足跡を記す、なんてことの担当もしています。」
「えっと…、小山です、ってみんな知ってるよな。」
「はは、小山先生もチーム赤澤に参加してたのですか?」
「ああ、入れて貰ったって感じかな、赤澤くんの取り組みにはすごく興味が有るからね。
 教育実習との兼ね合いで問題が有るかと思ったのだけど、きちんと学校側の許可を貰えたからね。」
「大学生にとって、チーム赤澤ってどうなのです?
 リーダーが高校生で…。」
「はは、リーダーから学んだことは多いから、年齢は関係ないかもな。」
「よね、私も省吾さんの視点にドキってさせられることが多いの。」
「俺は省吾さまから学べって言われているよ、こいつにね。」
「はは、高山です。
 経営学を専攻していて…、リーダー、プロジェクトのことは?」
「もう発表済みだよ。」
「ならば…、プロジェクト梶田のチーフなので、よろしく。
 とかくリーダーって言うと年長者のイメージがあるけど、若くても優秀ならちょっと面白いと思ってね、企業の経営者だって若い人がなることも有るからね。」
「私は高島みどり、教育学を専攻していてリーダーのお父さまのお世話にもなっています。
プロジェクトFのメンバーなので、よろしくね。」
「俺は…。」

 十人も来てくれたのね、高校側の了解も得てるってことは、ほんとに真面目な取り組みなんだ。

「じゃあここからは、差し入れを頂きながらとしましょうか。」
「あっ、ちょっと待って。」
「矢野さん?」
「美咲ちゃん、ビッグニュースが有るんだ。」
「えっ、なに?」
「さっき俺たちは職員室へ挨拶に行ったのだけどね、先生方がF組のことで盛り上がっていてさ。」
「昨日までに終わったテストでF組はぶっちぎりなんだって。
 現代社会や英語の先生は早々と採点を済ませたそうなの。
 現社では他のクラスの平均が六十~七十点に対してF組は九十点を越してるとか。」
 英語は他のクラス平均五十~六十点に対してF組はあと少しで九十点。」
「やった~!」
「他の先生方も気になってF組から採点してるそうだけど、百点を含め高得点続出、もちろん不正の形跡は見受けられないって。」
 不正行為があると不自然な回答になって結構分かるそうなの。」
「当たり前だよ~。」
「うわ~、ということはテスト団体戦の方は、またしても僅差ってことか…。」
「ふふ、私は団体戦のことより他のクラスに勝てたことが嬉しいわ、ね、美咲さま。」
「うん。」
「さ~、ジュースも用意したから、紙コップ回して。」
「みんな輪を広げて、チーム赤澤の人たちにも入って貰って…、でも椅子がないわね…。」
「はは立食形式にしようぜ。」
「座ってられない気分。」
「よし、椅子と机の配置を変えるか。」
「おう。」

「みんなジュース持って。」
「ここは哲平に任せるよ。」
「おっけ~、では、F組の勝利を祝して、かんぱ~い。」
「かんぱ~い。」

 はは、みんなも嬉しそうだ。
 がんばったもんな。
 えっと…、うふ、黒川くんめっけ。
 小山先生たちと話してるのか。

「あっ、黒川くん、実習の時はありがとうね。」
「へへ、大したことしてませんよ、小山先生。」
「ねえ小山さん、F組の鶴翼の陣ってどうだったの?」
「早川さん…、あれはね、前に立った時のプレッシャーが半端ないのですよ…。
 黒川くんたちの、授業に真剣に取り組もうって目で囲まれるのだよ。
 他のクラスを無難にこなしてきた自信があっさり崩れ去りましたね。」
「先生に対する攻撃的布陣って、省吾さんが言ってたけど。」
「うん、あのプレッシャーに応えるだけの力量が自分にあったら、すごく良い授業が出来る場だったと思う。
 生徒の自発性に基づくものだからね。
 ただ、残念ながら、自分にはまだそれだけの力量がなかった。
 黒川くんたちに助けられてなんとか終わらせることが出来たけど…。
 一回目は特にひどかったんだ、指導の大久保先生からは何も言われなくて、ほっとしたって程度さ。」
「はは、そりゃあ大久保先生もF組に関しては…、早川さん、俺たちの数学教師は実質、省吾なのですよ。
 省吾が動いてテスト範囲まで小山先生に一気に済ませて貰ったから、後は自習中心になって。
 大久保先生の授業、最近受けてないな。」
「へ~、自習ってどんな感じだったの?」
「わいわいがやがや。」
「ふふ、そんなに真面目でもなかったんだ。」
「とんでもない、わいわいがやがやと、みんなで数学に取り組んでいたって感じ。
 黙々と問題に取り組み、わかんないことがあると、教師役の人に聞いたり、この問題はテストに出そうだって思った人はみんなに解いてみてって提案したり。
 難しい問題は省吾さまの説明をみんなで聞いたり。
 とにかく省吾さまの説明は先生より解り易くて、作ってくれたプリントもですがね。」
「じゃあそのプリント、見せて貰おうかしら。」
「そう言えば、早川さん達、今日は調査じゃないのですか?」
「ふふ、してるわよ、みんなでね、ほら、あちこちで会話がはずんでるでしょ。」
「ええ。」
「いかにも調査します、って感じじゃ、よそ行きの答えしか返ってこないって、省吾さんに言われてね。」
「う~ん…、そんな話しを聞くと、ほんとに省吾がリーダーなんだって思えるな。」
「ふふ、チーム赤澤って省吾さんのお父さまのチームだって思っている人が結構いるみたいだけどね。」

 省吾さまって美咲さまと話してる時なんか、普通の高校生なのにね~。
 ラブラブで。
 あ~、私も黒川くんと…。

「淳一、球技大会の打ち合わせしよ、加藤さんも連れて来たし、ああ、舘内さんここにいたんだ。」
「おっけい、じゃあ小山先生も早川さんもゆっくりしていって下さいね。」
「うん、ありがとう。」

 そうね、今から始めないと時間がないかな、林くんは意外としっかりしているのね。
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黒川淳一-05 [F組三国志-04]

「ねえ、みんな、提案が有るのだけど。」

 清水さんが立ち上がった。
 何だろう、提案って。

「えっとね、美咲さまの呼び方、みんな秋山さんって呼んだり委員長って呼んだりしてるけど、美咲さまって呼んでくれないかな、ちょっと抵抗の有る人がいるかもだけど。
 私はね、F組って何か別世界って気がしてるの。
 う~ん、私の勝手な思い込みと言われてしまうと何も返せないのだけど。」
「ちさと、わかるわよ。」
「ありがとう由香。
 もう一部には浸透し始めているけど、みんながのってくれたら嬉しいと思ってさ。
 私は、お母さまって呼ぶこともあるけど…、私のお父さまは、省吾さまとかお師匠さまでさ。
 え~っと、私のことも、ちさとって男の子も呼び捨てにしてくれたらって思うし、あっ、和彦さんはちゃんと、ちさとお嬢さまって呼んでね。」
「ははは。」
「面白いかも、女子の間では結構広まってるから、男子がのってくれるかどうかってとこね。」
「そうね、ファーストネームで呼び合ったら、よりフレンドリーな感じになるわよ。
 まだ、付き合いが長いわけじゃないから抵抗が有るかも知れないけど。」
「そう言えば、哲平って、入学した頃から、哲平って呼んでくれよと言ってたな。」
「ああ、同じクラスの仲間になるのに苗字で呼びあってたら嫌だったからね。」
「哲平さんの苗字忘れた。」
「ははは。」
「省吾さまのお考えは?」
「うん、お互いどう呼び合うかって大切なことだと思う。
 哲平とも、四月の早い時期からファーストネームで呼び合っていたからか、いつの間にか仲良くなってた。
 俺を、省吾さまと呼ぶ必要はないけどね。」
「それは、だめ、省吾さまと美咲さまはF組団結の象徴なのだから。」
「なんかなぁ~、そうそう、哲平は女の子限定で、哲平兄さんとかも有りって言ってたけど。」
「哲平さん、最近…、ああ、もう私には、妹の座しか残ってないのね…。」
「ははは。」
「ふふ、ちさとの言う通りF組の中で別の世界が広がり始めてるかも。
 ちさとは文化祭で劇をやりたいのよね。」
「うん、でもまだ、お師匠さま、その奥方の美咲さま、娘の私、門下生の和彦さんって感じで人数不足なの、留美に脚本とか頼んでるのだけど…。」
「じゃあ、俺、お師匠さまの門下生になろうか。」
「黒川くん、ほんと!
 ありがとう。」
「えっと、ちさとお嬢さま、自分のことは淳一とお呼び下さいね。」
「はは、なら俺も、徹で良いから、三人目の門下生になるかな。」
「門下生ばかりじゃつまんないよね。」
「麻里子はどう?」
「ふふ、星屋くんの大好きなお姉さん、ちょっと弟に厳しいけどって、どうかしら。」
「お師匠さまには弟の面倒を見てもらって感謝してる。」
「う~ん、省吾さまに、ちょっと恋心も抱いていて…。」
「お~、麻里子は美咲さまと三角関係か?」
「ちょっと~、勝手に変な話しを作んないでよ。」
「でも、面白いじゃないか、おしゃべり好きな、麻里子の友人たちが三人加わったぞ。」
「え~、でも、友人その一とかじゃ…。」
「私は友人その二で構わないけど。」
「じゃあ、その三は私か。」
「ふふ、省吾さまの門下生に恋する友人ってどう?」
「おっ、そういう展開もあるのか。」
「留美とはテーマを考えているのだけどね。」
「ちさと、テーマって?」
「劇を通して訴えたいこと、伝えたいことをきちんと織り込みたいの。」
「真面目に取り組むんだ。」
「もちろんよ、劇の中には面白いエピソードも盛り込みたいけど、大切なのは私たちが劇を通して何を伝えたいかなんだ。」
「う~ん、F組の団結ってことを伝えられないかしら、あのさ、私…。」
「纐纈さん、続けて良いよ。」
「私、ジャズダンスやってるの、で、劇中にダンスを取り入れてくれたら嬉しいのだけど…。
 どうかな?」
「ダンスか、大変そうだね…。」
「ダンスと言っても、難しいのばかりじゃないの、クラスのみんながきちんと向き合ってくれたら、ダンスを通してF組の団結を伝えられないかと思って。」
「じゃあ、洋子の歌も入れて貰えないかな。」
「亜衣…。」
「洋子の歌は、きちんと声楽の基礎からやってるから、ちょっと違うのよ。」
「へ~、それは聴いてみたいな。」
「歌あり踊り有りって、ちさと、面白くない?」
「うん、F組には色んな人がいる、留美、楽しい脚本お願いね。」
「う~ん、歌と踊りは想定外だったから…。
 でも、みんなの特技とか、今のうちに教えてくれると嬉しいかも、どうかしら?」
「あっ、淳一の特技はチェロだよ。」
「徹、それは秘密だって言ったろ。」
「でも、この前のコンクールで優勝したじゃないか。」
「あれは、ローカルで小さなコンクールだったし、チェロはバイオリンほどやってる人が多くないからね。」
「それでも優勝だろ。」
「へ~、黒川くんて…、黒川くんのチェロ聞いてみたいなぁ~。」
「いや、そんな…、まあ小学生の頃にバイオリンから転向して、好きだから今も続けているけど…、ちょっと照れくさかったりする。」
「お願い、黒川くん、聴かせて。」
「舘内さん、チェロって結構大きくて気軽に持ち運び出来ないんだ。」
「でも…。」
「私も聞きたいな。」
「ほら、美咲さまも聴きたがっているし。」
「じゃあさ、一度、松永さんの歌や、淳一のチェロ、他に楽器とかやってる人がいたらその演奏を聞かせて貰ったり、纐纈さんのダンスとかも見せて貰う機会を作らないか。
 淳一、楽器の移動とかは何とかするから。」
「お~、省吾さまが動くぞ~。」
「はは、それを参考にして留美さんに劇を作って貰うってどう?」
「うわ~、なんか楽しくなりそう。」

 う~ん、クラスのみんなにチェロを披露することになるとは思ってなかった。
 そうだ!

「ね、誰かピアノ伴奏してくれないかな。
 即席のコンビになるけど。」
「伴奏したい!」
「おっ、四人も手を挙げた、黒川~、もてもてだな。」
「はは。」
「お願い、私にやらせて!」
「舘内さん…。」
「お~、亜美ったら積極的ね。」
「別に一人に絞る必要ないだろ、淳一。」
「ああ。」

 ちょっと驚いた…、舘内亜美か、球技大会の係りにもなってくれたし。
 チーム麻里子の中でも明るくて…。
 最近、さりげに話す機会が増えて楽しかった。
 俺って鈍感だったのか?
 俺の勘違いじゃなかったら良いのだけど。
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黒川淳一-04 [F組三国志-04]

「では、ここで省吾への質問やチーム赤澤のことは打ち切り、今後のF組について。
 球技大会のことは正規のホームルーム時間内に済ませたいので、協力お願いします。」

 球技大会のことも委員長か…。

「ねえ、委員長、みんなに話したいことが有るのだけど。」
「黒川くん、何?」
「なあ、みんな、四月にさ、訳の分からないまま係りとか決めたけど、今まで秋山さんばかりに頼り過ぎて来たと思わないか?」
「そうよね、美咲さまは委員長の仕事だけでなく企画関係、学習関係でも動いてくれたから。」
「でしょ、だから、係りの見直しをしてはどうかと思うんだ。
 球技大会も…、そうだな球技大会の委員なんてのを決めたらどうだろう?
 今まで委員長がやってくれてた仕事もみんなで分担してさ。」
「おう、淳一に賛成、俺もF組のために働きたい。」
「私も。」
「ねえ、秋山さん、球技大会で決めなきゃいけないことは、種目毎のチーム分けぐらいでしょ?」
「ええ、だいたいはみんなの希望に沿って割り振りが出来てるけど、バスケ希望者が多くて、ドッジボール希望者が足りてないの。」
「それぐらいの調整なら俺たちでも、な、徹。」
「おう。」
「そうだ、この後の打ち上げに参加しない人って誰?」
「そうか、抜ける人の希望を聞いておけばゆっくり相談出来るな。」
「えっと、まずは球技大会、俺たちで仕切っても良いか?」
「おお、黒川に任せる。」
「意義な~し。」
「黒川くんと林くんだけでは…、女子は?」
「私、やっても良いわ。」
「舘内さん、ありがとう。」
「私もやりたい。」
「うん、加藤さん、ありがとう、え~っと他に希望がなかったら、この四人で球技大会仕切って良いかな?
 え~っと、一応賛成の人は挙手をお願い。」

 みんな手を挙げてくれた。
 じゃあ…。

「決定だね、球技大会のことは委員長から俺たちが引き継ぐ、で、この後の打ち上げに参加しない人の希望とか先に聞いておきたいのだけど。」
「じゃあさ、打ち上げに参加しない人はこっちに来てくれない、淳一は係りの見直しについて、残る人たちと相談してくれよ。」
「おっけい。」

 あれ? 
 みんな動かないな。

「打ち上げには全員参加ってこと?」
「はは、林の出番はなかったな。」
「じゃあ、係りについて、委員長、俺が進めても良いの?」
「ふふ、黒川くん、どうぞお願いします、ね、省吾。」
「実は、F組内の役割分担ということも今日みんなに相談したかったことなんだ。
 淳一や徹が積極的に動いてくれると助かる。」
「ならば、まずは今までの仕事の見直しだね…、委員長の大変そうな仕事としては…。」
「F組通信じゃない?」
「確かにそうだ、秋山さん、ずいぶん発行回数が多いと思ったのだけど、どう?」
「そうね、今の所は、私や省吾が書いた原稿を、麻里子が整理してくれて、それを静ちゃんが仕上げ。
 後の印刷とかは、星屋くんとちさとが手伝ってくれてるけど。」
「そうか…、でも印刷とかだったら秋山さんがいなくても済ませられないかな。」
「星屋、どう?」
「は、はい、じ、自分も、て、て、手順は…。」
「星屋! しっかりせんか!」
「は、はい、姉御、すいやせん。」
「ははは。」
「ふふ、私も慣れたからそんなに大変じゃないけど、そうだな、みんなもF組のための仕事に参加したら、もっとF組が好きになるかもね。」
「し、清水さんの言う通りです。」
「あら、だめよ、和彦さんはちゃんと、ちさとお嬢さまって呼んでくれなきゃ。」
「ははは。」
「省吾さまからの参考資料の印刷とかも大変でしょ?」
「そうね、そっちも手伝って貰ってたけど。」
「なあ、みんな、秋山さんじゃなくても出来ることは、極力みんなで協力し合ってやっていかないか?」
「賛成、俺も手伝うよ。」
「私も。」
「じゃあ、その取りまとめを誰かに頼めないかな、俺がやっても良いけど。」
「え、えっと。」
「おっ、星屋が手を挙げた。」
「そうだ、星屋、それでこそあたしの一の子分だ。」
「はは。」
「和彦さん、ちさともお手伝いしますからね。」
「えっと、印刷機の使い方とかは大丈夫だから…。」
「ほんと、星屋くんは先生方より手馴れたって感じだから、お願いね。」
「は、はい。」
「奥田さんや山影さんはどう? 大変じゃない?」
「全然、原稿がきちんとしてるから、私は大したことしてないの、静さんは?」
「私も大丈夫です、フォーマットが出来上がっていますし、麻里子さんからのデータもきちんとしていますので大した手間は掛かりません。」
「そうすると、後の仕事は…、秋山さん、どう?」
「後は、委員長としての会議とかだから大丈夫よ。」
「省吾さまの秘書的なことは?」
「そ、それは私がするから。」
「はは、絶対譲る気はないって感じだね。」
「ははは。」
「じゃあ、とにかくみんなで協力して、もっとF組を盛り上げようってことで良いのかな?」
「ええ、みんなよろしくね。」

 ちょっと気になってたことが解決した。
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黒川淳一-03 [F組三国志-04]

「俺も参加したいけど、どんなことをしたら良いのか分からないな。」
「淳一、それを考えることも、チームの目的の一つなんだ。」
「えっ?」
「何かしらの研究テーマを見つけ、そのテーマを掘り下げる、と言うことを、チームのメンバーで協力し合ってやって行けたらと思っている。
 他の人の研究テーマに協力しながら、自分のテーマを探しても良いと思うんだ。
 梶田さんは、お父さんの会社を見つめることを始める。
 それは、梶田さんの視点、もし淳一が協力してくれるとしたら、それに淳一の視点が加わる。
 それを梶田さんにとってマイナスにすることなく、プラスにすることがチームの一つの目標。
 みんなで考えて、良い方向へ持っていく。
 そして、そのことが淳一にとって良い経験となることも大切だけどね。」
「俺で良ければ協力したいけど。」
「うん、ありがとう。」

「お父さま、ちさとはチーム赤澤のメンバーになれるのでしょうか?」
「もちろんさ、演劇を通して演ずるというテーマを持ってるからね。
 知ってる人も多いと思うけど、ちさとは俺の娘って役どころを演じてる時がある。
 文化祭を意識してのことだけど…。
 ただ…、その内、極悪非道の大悪魔なんてのを演じ始めるかもしれないから、みんな気をつけてね。」
「はは。」
「あら、お父さま、私はせいぜい小悪魔ですわ。」
「ははは。」

「チーム赤澤って、何人ぐらいいるのですか?」
「う~ん、とりあえず四十人は越したらしいけど、今増えたし…。」
「入会金とか会費とかは?」
「えっ、そんなこと考えてなかった。
 別に金儲けが目当てじゃないから、今の所は必要ないってとこかな、将来的には分からないけど。」
「チームに登録する方法はどうなの?」
「今のメインスタッフが面接して、問題なければアンケート用紙に記入して貰うって感じ、個人データはパソコンデータベースで管理している。
 竹田さんって人が、絶対に人数増えるから、初めからきちんと管理出来る体制を整えるべきだって。
 今、参加を表明してくれた人には後でアンケート用紙を配るからね。」
「チーム赤澤に参加するってことは、大学生達とも交流出来るということですか?」
「勿論と言うか、目的の一つだよ。
 俺たちをとりまく教育システムは、同学年との付き合いに限定される傾向が強すぎるって…、俺の叔父がよく言ってることだけどね。
 学校では一日の大半を同じ学年の人と暮らしている。
 けど社会に出たら、うんと年上の人から年下の人までのつきあいになる。
 その環境の変化についていけない人が少なからずいるみたい。
 まあ、視野が狭くなっていると、叔父は言ってた。」
「あっ、省吾さんは大学生達との交流も有るから広い視野を持っているってことなんだ。」
「はは、親父達はそんなことを目論んでいたみたいだね。」
「へ~、どんな感じで?」
「留学生をうちに呼んだりして…。
 小さい頃、留学生の研究材料にされたことがあった。
 カナダからの留学生だったのだけど、英語しか話さないんだ。
 でも、よく遊んでくれて、帰国してからも手紙とかメールでやりとりしてるけど、この前久しぶりに日本に来てね。
 そしたら日本語ペラペラでさ。
 何でも俺は、幼児期における語学習得能力の研究材料だったらしくて、俺とはあえて英語のみにしていたそうなんだ。
 まあ、おかげで英語は得意教科になったけどね。」

 なんかうらやましいような…。
 でも俺と省吾だったら、全然違う結果になったのだろうな。
 えっ、得意教科、省吾に不得意な科目ってあるのか?
 得意でなくても俺達に教えるレベルってことか…。
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黒川淳一-02 [F組三国志-04]

 今日は、このホームルームで終わり…。
 あっ、秋山委員長のお出ましだ。

「皆さん、テストお疲れ様でした。
 今日のホームルームはF組通信でもお知らせした通り、これまでのF組を総括し今後の活動について、それとテストの打ち上げとなります。
 ホームルームの時間内は全員参加となりますが、その後は自由参加です。
 席の配置はチーム関係なく、今日は机なしの円形で二重か三重にしたいのですが、早く帰りたいという人は極力外側に座って頂けると助かります。」
「おう、じゃあ、机動かそうぜ。」

「はは、みんなの顔が見えるのって、なんか新鮮だね。」
「でもさ、何となくチームが集まっていないか?」
「テストを共に戦ってきた仲間だからな。」

「では、ホームルームを始めます。
 まずは、F組のみなさんの協力に感謝です。
 他のクラスとは違った取り組み、企画に対して、反対する人もなく、皆さん協力的で助かりました。
 特に省吾の実験的企画や調査への協力は、みなさんに余計なお時間を取らせてしまうことも有りましたので、本当に有難うございました。」
「うん、みんな有難うね。」
「省吾や美咲にお礼言われるようなことじゃない、逆に俺は二人に感謝してるぞ。」
「俺も!」
「私も!」
「美咲さま! 有難う。」
「お師匠さまに感謝!」
「四月の頃なんて、こんな楽しいクラスになるなんて思いもしなかった。」
「遠足楽しかった。」
「はは、テスト勉強、楽しかった。」
「みんな…、ありがとう…。」
「美咲さま、涙目だ…。」
「ねえ、省吾さまに質問して良いかな。」
「なに?」
「大学生の人達とお師匠さまの関係ってどういうことなの?」
「うん、今日、みんなに話そうと思っていたのだけどね…。
 え~っと、自分ではちょっと話しにくいことなんだけど…、メインは俺の親父の教え子でね…。」
「省吾、俺が説明しようか?」
「哲平、助かる、頼むよ。」
「大学生の人たちは、チーム赤澤という、省吾をリーダーとして学生達が勝手に結成したグループのメンバーなんだ。」
「え~、お師匠さまって、そういうレベルのお人なの?」
「ああ、チーム赤澤の人達によれば、皆さん省吾から色々教えて頂いているそうだ。」
「え~、省吾さんは大学生のお師匠さまでもあるのね。」
「すっご~い!」
「やっぱただ者じゃないぜ!」
「俺たちの調査をしたのは教育学部関係の人たち。
 プロジェクトFという、省吾の実験的取り組みを検証して卒論とかに生かしていく企画を立ち上げたってとこ。
 遠足の企画に興味を持った人が、数学小テスト団体戦の結果、つまりF組が学年ぶっちぎりトップという結果に驚いて結成を呼びかけたんだ。」
「そりゃ驚くよな、その結果を出したのが教師の力量じゃない訳だから。」
「ああ、で、二つ目のプロジェクトが立ち上がるのだけど…、梶田さん発表しても良いかな?」
「勿論です、でも、私から話させて貰えませんか?」
「おっけい。」
「私の父は会社を経営しています。」
「おお、梶田さん、社長令嬢だったんだ。」
「でも、会社は資金繰りが苦しくなっていまして、私は進学を諦めかけていました。
 そんなことで落ち込んでる私に、美咲さまや省吾さまが気付いて下さって、チーム赤澤の学生さん達に声を掛けて下さったのです。
 その結果、チーム赤澤で父の会社再生を目指すプロジェクト梶田が立ち上がることとなり、父と共に私もチーム赤澤のメンバーに加えて頂くこととなりました。」
「あ~、なんかうらやましい。」
「自分もチーム赤澤のメンバーになりたいです。」
「はは、星屋はお師匠さまの一番弟子は自分だって言ってたもんな、なあ省吾、チーム赤澤のメンバーになるのは難しいのか?」
「いや、学問に真面目に取り組む気持ちがあってチームの趣旨に賛同してくれれば、後はアンケートに答えて貰うだけで良い。」
「チームの趣旨?」
「えっと、今まで大人たちが作ってきた枠組みに囚われない心で、明日の日本を考えて行こうって感じかな。
 まあ、そんな話しをしてたら、かなり優秀な人たちも面白がってチームを作ろうってことになったんだ。
 チーム赤澤って名称には抵抗があるのだけどね、個人的に。」
「ロックだ! 私もチームに入りたい!」

 何か凄いことを、さらりと言ってないか、省吾…。
 俺も参加したい。
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黒川淳一-01 [F組三国志-04]

 あっ、時間か。
 えっと、名前を確認して…、黒川淳一、おっけいだ。
 名前を書き忘れたらやっぱ零点だよな…。

 は~、やっとテストが終わった。
 自分なりにがんばったけど、結果はどうなんだろう?
 中学の頃なら確実に上位って手ごたえなんだけど、この高校では甘くないだろうな。
 ま、やるだけやったからよしとしておこうか。

「淳一、どうだった?」
「おう、まあまあだな、一応、名前までの最終確認も出来たよ、徹は?」
「百点狙いだったけど、ちょっとな。」
「さすがに甘くはないわな、俺だって簡単に満点とは思えない。」
「でも、学年順位はそれなりになりそうだろ、他のクラスの連中はF組ほどやっていないみたいでさ。」
「ああ、テスト対策のレベルが違うと思うから結果発表は楽しみでもある…、他のクラスか…、それにしてもF組って。」
「何?」
「F組って一気に変わったと思わないか?」
「だよな、哲平から話しを持ちかけられたのは遠足の前だったか。」
「あの頃は森たちが岡崎とかいじめていたし、今から思うとクラスがばらばらだった。」
「きっかけは遠足か?」
「う~ん、省吾が秋山さんとつき合い始めたってことかもな。」
「確かにそうだ、委員長は四月からがんばってくれてた気がするけど、みんな協力的ではなかった、まあ俺たちも含めてだけど。」
「それが、遠足の前に省吾が哲平に声をかけて…、俺たちも動いたけど、クラスの雰囲気が急に良くなった。」
「うん、省吾の提案に皆が乗ったからな。
 学習をイベントとして楽しむ。
 まあ、ここに受かった連中だから出来た事だとは思うが。」
「だろうね、理解力や暗記力が無かったら勝負にならない、省吾ならイベントとして色々考えそうだけど。
 そう言えばさ、テスト直前になって梶田さん、お前らのチームに入ったろ。」
「ああ、どうして気が変わったのかは聞いてないけどね。」 
「それと関係しているのかどうか分からないが、彼女のお父さんの会社の建て直しに、省吾が関わるという噂を耳にしたぞ。」
「えっ、梶田さんは社長令嬢ってことか。」
「いや、徹、驚くのはそっちじゃなくてだな。」
「はは、冗談だよ、俺も聞いたよ、実際に動くのは大学生だとか。
 この後のホームルームで発表とかされるのかな。」
「どうだろう。」
「発表が無かったら、こちらから聞いてみようか?」
「それは梶田さんが気にするかも知れないから慎重にしろよ。」
「あっ、そうだな、また女子に怒られてしまう…。」
「それより、秋山委員長の事だけどさ。」
「ああ。」
「今まで、随分な仕事を任せて来たと思わないか?」
「それは否定出来ないな…。」
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梶田梨乃-06 [F組三国志-04]

 父さんと高山さんは経済の専門用語なのか難しい言葉を交えた話しをしている。
 私には良く分からないことばかり。
 でも、父さんは、何か嬉しそう。

「ということは、チーム赤澤のみなさんは色々な形で、私の会社に協力して下さるという事なのですね、省吾…、うっ、省吾くんなんて気安く呼べないな、えっと省吾さん…。」
「いえ、気軽に省吾、とか呼んで下さい、組織のトップが普通の高校生にへりくだっていてはマイナスになります。」
「自分もそう思います、まあ、矢野は省吾さまと呼ぶべきだと思いますけどね。」
「高山~!」
「チーム赤澤が梶田さんの会社と連携出来て成功したら大きいです。
 厳しい就職状況を抱えている大学生と、不況にあえぐ企業が力を合わせて困難を乗り越えることが出来たら、学生にとって良い経験となるばかりでなく、就職先が増えることになるでしょう、梶田さんの会社にとっても、単に会社の危機を乗り切るという事だけでなく、優秀な学生を社員に迎え入れるきっかけとなるかも知れません。」
「う~ん、私もチーム赤澤の一員になりたくなって来たのだが、どうだろう。」
「あっ、それは良いかも、な、省吾。」
「そうですね…、それで高山さんが動き易くなるのなら有りです。」

 ええっ、ってことは父さんが省吾さんがリーダーを務めるグループの一員になるってこと?
 それじゃあ、私は…。
 う~ん…。

「私も、チーム赤澤の一員にして貰えませんか。」
「梨乃。」
「父さん、私も勉強するから。」
「うん…、省吾くん、どうかな。」
「そうですね、梨乃さんにはまずF組のチーム正信に入って欲しいですけど…、チーム赤澤、プロジェクト梶田の一員として動いて頂きましょうか、ね、高山チーフ。」
「了解、リーダー、梨乃さんとはテスト明けくらいから梶田さんの会社を一緒に見させて頂き状況を把握して貰うということで、梶田さん如何です?」
「お願いするよ、娘は会社のことは何も知らないからね。」
「省吾、結果は定期的に報告するからな。」
「おっけ~。
 で、梶田さん、自分も一度は工場見学をしたいのですが。」
「勿論、大歓迎だよ。」
「えっと、美咲とかも一緒で構いませんか?」
「当たり前だ。」
「それで…、高山さんが調べて色々難しそうだった場合の、奥の手も考えているのですが。」
「えっ、どんな?」
「マスコミの利用です。
 難しそうでなくても、梶田さんの判断で実行に移して良いことなのですが。
 厳しい就職状況を抱えている大学生と、不況にあえぐ企業の連携という話題をうまく提供出来れば、テレビ局か新聞社が扱ってくれるかも知れません。
 そこでの扱いが良ければ、取引先などとの交渉にプラスになると思うのです。
 大学生だけでインパクトが弱ければ、そこに高校生も協力しているというのも有りです。
 クラスの仲間には画家もいます、もちろん素人ですが、会社のイメージアップにつながる何かが出来ると思うのです。」
「マスコミか…、失敗したらかっこ悪いなんて考えている時ではないな。
 うん、奥の手としてでなくても、実行可能なことが有るのなら、この際何でもやってみたいよ。
 はは、リーダーが高校一年生というだけでも充分インパクトがあると思うけどな。」
「でも…、自分がリーダーという形はあまり取りたくないし、外には出したくないのです。
 普通の高校生がリーダーでは、皆さんが低く見られかねません。」
「知識は高校生離れ、色々なアイデアを持っていて…、どこが普通の高校生なのだか。」
「いえ、自分は…。」
「省吾の頭の中は美咲ちゃんのことでいっぱいなんだよな。」
「はい。」
「はは、そうか、じゃあ今は普通の高校生と言う事にしておいてあげるよ。」
「お願いします。
 あっ、矢野さん、F組も関係して行くと思いますので、プロジェクトFにも影響が出ます、協力お願いしますね。」
「ああ、了解、プロジェクトFも思わぬ展開になりそうだな。」
「省吾、チーフが矢野で大丈夫か?」
「高山、俺はな…。」
「大丈夫ですよ、サブに早川さんとか就いてくれてますから。」
「矢野、省吾から、しっかり勉強させて貰えよ。」
「あ、ああ。」

 省吾さん、大学生にも教えてるってこと?
 す、すごい、普通の高校生な訳がないわ。
 そう言えば須田さん、飛び級制が日本で充実していたら、省吾さんはとっくに大学生だったかも、なんて話してたわね。
 足元にも及ばないけど、私も頑張らなくっちゃ。
 まずはテストで結果を出すぞ。
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