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舞姫さま-05 [シトワイヤン-31]

舞姫さまのレクイエムは地球上に一瞬でも生を受けたあらゆるものに捧げる歌と舞、いや生まれる前に亡くなってしまった命をもその対象にしている。
ドイツ語で書かれた歌詞には鎮魂だけでなく生あるものへの賛美や子孫の為に、といった文言も並べられ万里の哲学が反映されていると言って良い。
ドイツ語で有る事に反発を覚える人もいた様だが、荘厳な歌声は人々の心に文字通り響き渡った。
DVDのジャケットに書かれた『この鎮魂歌は死者の為のものでなく、今を生きる人々が亡き人を偲び明日への糧とする為のものである』という言葉の意味を多くの人達が噛みしめた。
人々が信じる所の宗教に関係は無い。

「万里、レクイエムの歌詞はそのまま舞姫さまの教えとして受け取られているみたいで、市民教育として通用する部分も有ると思うのだけど、意識的に言葉を選んだのね。」
「ええ、言葉の意味と語感を大切にしてね、大学教授の助言で難しい言葉も使えたので合唱団の人達も高く評価して下さったのよ。
本来、レクイエムと鎮魂とは意味合いが違うのだけど、カトリックを離れた新しいレクイエムとして、曲調も永遠の安息に相応しいでしょ。」
「そうね、お葬式でホログラム版を使えないかという問い合わせが来ていて、新しいお葬式の形が出来るかも知れないのよ。」
「3Dホログラム映像がお坊さんの代わりになるのかしら?」
「かもね、有難いのかも知れないけど良く分からないお経の代わりとしては間違ってないと思う。
万里の映像なら、悲しい雰囲気を和らげてくれるだろうし。
でも、社の3Dホログラム映像に魂を込めるみたいな事は、数が増えたら出来なくなるのよね。」
「う~ん、何が出来て何が出来ないのか、まだ試してない事は有るのよ、今後の課題かな。
社では多くの人に見て頂けるから、それだけ力が強くなっているのだと思うのだけど。」
「そっか、試すのは良いけど無理はしないでね。」
「うん、硬いのばかりでなく楽しいのも試して行く、鳥と戯れながら野鳥を紹介するDVDがそれなりに売れてるから、そろそろトイプードル愚連隊をデビューさせても良いと思ってるの。」
「微妙に言う事を聞いてない様に見せるトレーニングって、普通に芸を仕込むより難しそうなんだけど。」
「ふふ、ホントに言う事聞いてない時も有るのよ、愚連隊の子達にも個性が有ってね。
完璧過ぎないのがトイプードル愚連隊の良い所で、清香村では人気者になってるの。
アメリカから連れて来られたから英語にしか反応しない子と、英語を忘れて日本語しか理解出来ない子という設定でね、英語の基礎学習になるようなステージを作って行こうかなって。」
「また稼げそうね、使い道はどうするの?」
「東南アジアの国に雇用の場と職業訓練校を考えてる、トイプードル愚連隊が活躍するとそのまま雇用対策が進むのなら応援してくれる人が増えるでしょ。」
「そうね、今までも、それぞれの売り上げから社会貢献に支出して来たのはとても好感を持って受け止められているものね。
利益には繋がらないだろうと思ってた事でも、本間塾の塾生が絡んで黒字化、私達に絡んでくる資金は元気に活躍しているのよね、舞姫フレンズや地球市民党が拡大している地域では特に。
キャッシー達はアメリカ大陸全部を視野に入れ始めてるし、ヨーロッパの人達は周辺諸国を意識している、中東はまだ様子見だけど、私達は地理的、歴史的に考えても東南アジアに力を入れるべきよね。」
「世界中の国と地域が互いに競いつつ協力関係を充実させて行く、経済的強者が偏る事の無いバランスの取れた国際社会までにはまだ時間が掛かりそうだけど、株式会社舞姫は強者としての地位を確立しつつ国際社会のバランス形成に貢献して行きたいかな。」
「その一歩が東南アジアなのね。」
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舞姫さま-04 [シトワイヤン-31]

鎮魂歌の制作には時間が掛かった。
万里は作詞家や作曲家達と直接会って意見交換したり、メールやテレビ電話のやり取りで作業を進めたが、東南アジア歴訪などのプログラムが有ったからだ。
そんな中、一番早く完成したのはドイツ語版、万里が言葉の響きを気に入り作業が早く進んだ。
『地球上に生を受け死んで行った全ての為のレクイエム』、その録画はベルリンでドイツの著名な男声合唱団をバックに行われた。
万里の祝福を感じながら歌うプロの歌声は万里を心地良くさせ、万里の歌も舞も何時も以上の仕上がりに。
そして、舞姫さまの祝福を感じられたエリアは今までで最大規模になったとの報告が届いた。

「万里、今日の演奏は少し長めだったけど大丈夫?」
「ええ、合唱だけのパートも有ったからね、団員の人達は何テイクか録画すると思っていたそうで一回でOKが出たことに驚いたみたい。
しっかり準備しておいて下さったし、曲の意味を理解して真剣なのが伝わって、そうね相乗効果で良い作品になると思う、後は編集にお任せね。」
「今までで最高の出来だったと思うわ、毎回そう思うのだけど。
ドイツ語でも、世界中でかなり売れるでしょう、予約が殺到する様にプロモーションもしっかりやって行くからね、舞姫さまの森を維持管理して行くぐらいの費用は軽く捻出出来ると思うわ。」
「まだ他の言語バージョンが残ってるのだけど。」
「そう言えば、アラビア語は兎も角、日本語版で苦労してるそうね。」
「うん、鎮魂歌のイメージと日本語が上手く噛み合わないのよ、アラビア語みたいに全く知らない言語の方が歌い易かったりして、次は英語かアラビア語、その後フランス語になりそうだな。」
「急ぐ必要は無いわ、お経だって何言ってるのか分かんないでしょ、ドイツ語版は絶対売れてお葬式とかでも使われると思うのよ、日本でもね。」
「それなら、アラビア語を優先しようかな、歌詞はアラビア語だけど曲想は日本風という方向性で進んでるの、ドイツ語版はレクイエムだけどアラビア語バージョンの日本向けタイトルは鎮魂歌にするからね。
その方がイスラムの指導者に対する刺激が少なくて良いでしょ。」
「そうね、英語版より先に出したら、それだけで喜んで貰えるかも知れない、録画はどこにしようか?」
「アラビア語バージョンはどこかの民族楽器を少しだけ使うつもりだからどこでも構わないのだけど、王子に喜んで貰っておいた方が後々プラスになるでしょ。」
「じゃあその方向で、暑い時期を避けるタイミングで録画に取り組めそうかしら。」
「大丈夫よ、舞姫の社周辺の地下施設工事がどれぐらい進んだのかも見て来たいよね。
早めに連絡しておけば、地下にスタジオとか作ってくれるかも。
そうだ、謎の王宮とかを設定して、撮影後、そのまま観光客向けの施設にとか提案してみようか、あの王子さまなら乗ってくれると思うな。」
「少しストーリーを持たせるのね、元は鎮魂歌という同じコンセプトでも一曲毎に違った形で発表して行くのも面白いわね。」
「う~ん、残った言語版のハードルがまた上がってしうまうのかな…。」
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舞姫さま-03 [シトワイヤン-31]

舞姫さまの森構想をあっさり受け入れて貰えたのは、舞姫さまの社に付加価値を付け加えて行きたいという思惑がスタッフに有ったから。
すぐに会社名義の山が増え、その再生プロジェクトがスタートした。

「お姉ちゃん、凄い勢いで山を買い進めてるけど、取得費用は兎も角、固定資産税とかは大丈夫なの?」
「大丈夫よ、日本の森を守る為だもの、舞姫さまの社が絡んでる所はそこの利益で軽くカバー出来るレベル、でも心配なら新作DVDを出す?」
「そうね…、保留にしてた鎮魂の舞、鎮魂歌と舞を組み合わせたのをイメージしてるのだけど、地球が誕生し、その海や大地に生まれ育ち死んでいった全ての命の為のレクイエムというのはどうかな?」
「壮大な発想なのね、何かきっかけが有ったの?」
「うん、某神社、日本の為に亡くなった人を祀るという発想は悪く無いのだけど、結局日本という視点でしか捉えられていないでしょ。
全ての戦没者、いえ、今の世界の礎を築いて来た全ての生き物に感謝する気持ちが有って良いと思うの、ミジンコに対してもね。」
「ミジンコ?」
「ミジンコを餌にして成長した魚を食べたりしてないかしら、ならば、ミジンコの命にも感謝しないと。」
「そうよね…、万里はあまりそういう事を話して来なかったけど、舞姫さまの祝福、その根源は全ての命に対する愛と考えれば良いのかしら。」
「う~ん、お肉を頂いたりしてるから残酷な愛かも、でも生きとし生けるものの摂理でしょ。
ただ、地球は多くの動植物や微生物がいて成り立っていると思うの。」
「うん、分かってたつもりだったけど…、鳥達のさえずりを身近に感じられる環境とか、でもその餌にも感謝しないとダメなのね。」
「そうよ、お姉ちゃんは特に沢山食べる人なのだから。
お姉ちゃんの餌となって行った多くの生き物達の為の鎮魂歌という設定でも良いのだけど。」
「そんな設定をされたら痩せてしまいそうだわ。」
「大丈夫、お姉ちゃんの食欲は何が有っても誰にも負けないよ。
それで、鎮魂歌は日本語で作ってから英語、ドイツ語、フランス語、イスラム圏に鎮魂という概念が有るのかどうか分からないけど、難しくてもアラビア語にも挑戦してみようと思うの。
プロの作詞作曲家と作って行きたいと思うのだけどどうかな?」
「人選に対しての希望は有る?」
「特にはないけど、イメージが合わなかったら交代して頂くという前提でお願いしたいかな。」
「分かったわ、まず日本語版の制作に協力してくれる人を探して貰うわ。
英語版とかは言葉に合わせて曲も変えた方が良いわね、ねえ、言語別に五曲同時進行にしておいて、作業の進んだものから完成させていくと言うのはどうかしら、相互に意見交換をして行けば完成度が高くなると思うの。」
「そうね、舞との兼ね合いも有るから少し時間を掛けたいし。」
「じゃあ鎮魂歌制作チームを立ち上げて貰うわね。」
「うん。」
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舞姫さま-02 [シトワイヤン-31]

明日は新たに建てられた舞姫さまの社へ、ヘリで訪問の予定。

「お姉ちゃん、ヘリは便利だけど騒音で人に迷惑掛けていそうで微妙だわ。」
「気にしなくて良いのよ、舞姫さまの社、そのヘリコプターバージョンとして、大型ヘリの通過を待ち望んでいる人が多いのだから。
飛行予定は公開してるし、万里が乗ってれば近づいて来るのを皆さんが感じて、外に出て出迎えてるそうよ。
でも、気になるのなら、万里が一人で飛んでく?」
「それは無理、宙に浮くぐらいしか出来ないから、鳥たちに引っ張って貰えば少しは移動出来るけど、遠くまではね。」
「ドローンではどう?」
「う~ん、大きな力は必要ないから使えるのかな、遠くまでは無理だろうけど…、タケコプターみたいに使えるのかも、お姉ちゃん、お小遣いで買おうか。」
「そうね、調べて貰うわ。」
「あれって自分で操縦出来るのよね。」
「うん、私も操縦してみたい、万里を好きな様に引っ張ってアクロバット飛行とか楽しそうだわ。」
「それは却下、お姉ちゃんに操縦させたら、絶対目が回りそうだもの。
お姉ちゃんはハンググライダーとかやってみたらどう?
馬をあっという間に乗りこなして、皆さんを驚かせたのだから楽勝じゃない?」
「ハンググライダーか…、何事も挑戦よね、やってみようかしら。
そうそう、未だに宙に浮く万里を手品の類だと思っている人がいるみたいだから、空でのパフォーマンスを企画してみない?」
「良いわよ、苗川でなら鳥達にも参加して貰って…、小鳥タイムと猛禽類タイムをしっかり分けての二部制かな。」
「一緒は無理なのね。」
「小鳥たちだって、鳥肉定食にはなりたくないでしょ。」
「でも、上手く分けられるの?」
「鷹や隼は結構聞き分けが良いのよ、友達感覚かな、鷹匠の先生に教えて頂いてから一段とね。」
「小鳥たちは?」
「操り易いと言うか感覚的には僕なの、トイプードル愚連隊よりも忠実なね。
まあ、難しい芸は出来ないから演出での勝負になるのだけど、清香村の人達には好評なのよ。」
「その映像は?」
「カメラマンと相談しながら随分撮ってるのだけど、カメラマンがなかなか満足しなくてね、生で見ている感覚を映像で再現するのが難しいとかで、今も作戦を練ってる最中。
野鳥を身近に感じて貰うことで自然を守ろうという気持ちになる、そんな作品を目指しているのよ。」
「そっか、単に撮影するだけではないのね、完成が楽しみだわ。」
「カメラマンは作品が売れたら山を買って里山として整備して公園にしたいとか、炭焼きを体験したり和紙作りに挑戦とか出来る様なのをね、利益は出にくそうだけど、お姉ちゃんも相談に乗ってあげてね。」
「作品が売れなくても山の一つや二つ、使い道が有るのならすぐにでも買うわよ。
それだけで、舞姫さまが日本の森を守りたがっているというメッセージになるでしょ。
そうね、舞姫さまの森、再生プロジェクトとかを組めばボランティアがすぐ集まって里山としての整備を進めてくれるでしょう。
万里がたまに訪問して映像作品の舞台に、山の麓に舞姫さまの社と門前町や宿泊施設を建設すれば…、ねえ万里、今有る社の近くの山を買って、舞姫さまの社とセットにしてはどう?」
「そっか、社はほとんどが田舎だものね、社と共に森の整備をすることでそのエリアの魅力が増すのなら、社が自然保護のシンボルともなるのね。
予算はどう?」
「う~ん、少なくとも五ヶ所ぐらいは何とかなると思う。
社を訪れる人達がハイキングやキャンプを楽しめたら、売り上げアップに繋がるから、これから建てて行く社は初めから、舞姫さまの森を意識して貰いましょう。
考えてみたら神社と森はセットみたいなものでしょ、舞姫さまの社は、その森の規模が大きくなるということで納得して貰います。」
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舞姫さま-01 [シトワイヤン-31]

アメリカから帰って、万里の別荘でのんびりとは行かないが落ち着いた日々を過ごしている。
いや、帰ってきたら舞姫さまのお屋敷は一段と大きくなり、別荘の筈だった家には姫さまの家族という事で注目され過ぎて落ち着かなくなった両親と妹が引っ越して来ていた。
住民票を移したので私達は清香村…、正式には苗川市清香一丁目十三番地の住人となった。

万里は、同年代の友人達にも小学校高学年頃から尊敬される存在だったが、十七歳となった今では誰からも万里ちゃんと気安く呼ばれる事はなくなり、姫さま扱いしないのは家族だけになってしまっている。
その両親でさえ敬語で話しそうになるぐらいだから、万里が孤独を感じたりすることの無い様、私だけは普通のお姉ちゃんで有り続けようと思っている。

「万里、森の中のツリーハウスはどんな感じになってるの?」
「村人たちの趣味が高じてしまって、ツリーハウスなのに冷蔵庫やコンロが有ってね、今日は万亀庵のお饅頭とお茶を頂いたわ。
でね、私専用の最上階、通称巣箱は日向ぼっこに最適なのよ。」
「狭いのでしょ?」
「うん、でもお昼寝出来るし、私はお姉ちゃんと違って暴れたりしないから問題ないわ。」
「あのね、暴れるじゃなくてエクササイズと言って下さらないかしら。
それで今日は何してたの?」
「鷹を呼んでみてね、この間、鷹匠の人に色々教えて頂いたから、少し試してみたの。
苗川でパフォーマンスをする時は何時でも呼べる様にしておきたくてね。」
「放し飼いって感じなのかしら?」
「そうね、村の人達には放し飼いにしているニワトリの数を、鷹の餌前提で増やして貰うようにお願いしておいたわ。
一応、私の所に来る猛禽類達には村で飼ってるものに手を出さない様にお願いはしてるのだけど、そんなのは人間の身勝手でしょ。」
「そうよね、ねえ食物連鎖のバランス的にはどうなの?」
「猛禽類が増え過ぎる様な環境では無いのだけど、鹿や猪、猿に対しての敵が人間しかいなくなってしまったのは問題だわ、狼でもいればもう少しマシだったのかも。」
「でも、狼がいたら人間にも害をもたらしそうだわ。」
「人間だけが何の被害も被らないと言うのはどうかしら、人間の側がルールを守っていれば大した被害にはならないと思うし。
鹿も猪も肉食獣と比べたら遥かに繁殖力が強いのだから、人間が頑張らないと確実に増え過ぎる、なのに猟師さんの高齢化が進んでいてね。
清香村は移住して来た人達が積極的に檻を使った罠での捕獲をしてるからマシなのだけど、過疎化が進んでる所では、対応し切れていないみたいなの。」
「人間と野生生物の共存は難しいのかしら。」
「東京の映像を見てると、人間が増え過ぎたと思ってしまうのだけど。」
「う~ん、確かに世界の人口が増え過ぎた事で社会の歪が拡大しているとも言えるのよね。
かと言って日本は少子高齢化でしょ。」
「子孫を残すのは生き物の本能、そこに社会的な歪が絡んで思様には行かないのよね。
でも人間同士が殺し合う事で、長期間人口を上手く抑制して来たとは思いたくはないな。」
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改革-20 [シトワイヤン-30]

社会改革、地球市民党が提案しているのは急激なものではない。
まず、今の現状を見定めた後、よりバランスの取れた社会にして行くには何をすれば良いのか共に考えて行こうという呼びかけに始まっている。
少しずつ提案が発表されているが、実行に移して行くかどうかは個々の組織や個人任せ、故に進捗状況の全体像は把握出来ていない。
ただ、市民政党若葉の提案に沿って苗川で進められ来た改革を参考に、十億を利益目標に掲げていた企業が、従業員の待遇改善を進める為、目標を八億に、その利益から社会福祉の充実の為に一億を支出、といった情報は少しずつ入って来ている。
智里は、苗川の情報を世界に向けて積極的に発信、それと同時に、舞姫さま関連で得ている利益をどう社会に還元しているのかも。

「智里、株式会社舞姫の組織改革、目途はたったの?」
「はい、骨組みが固まりましたので後は作業を進めて行くだけです。
持ち株会社化し増え過ぎた子会社を整理再編して全体の効率を高めます。
和馬さん、株式会社舞姫の改革は、元々大きな問題が有った訳でもないので心配ないのですが、地球市民党として目論んでいる社会改革は上手く行くのでしょうか?」
「時間は掛かると言うか時間を掛けなければ歪に対応出来なくなると思っている、でも何とかなりそうだと思わせる報告が有ったよ。」
「楽観視の根拠は?」
「社会のアンバランスは何処に原因が有ると思う?」
「一番は極一部の富豪が富の多くを独占して来た事による貧富の差ではないですか。
日本人に限れば貯蓄が大好きで動かない資金の多さとか。」
「という事は、大富豪たちが舞姫フレンズとなって、無意味に溜め込んでいる資金を程よく減らしてくれれば良い訳だろ。
実際、日本ではそういう動きが出て来ているそうなんだ。
人を安い給料でこき使って来たお金持ちが、適正な賃金の見直しや福利厚生の充実を考えたりとかね。
清香の親父さんみたいにずっと従業員重視の経営を心掛けて来た人でも、姫さまの祝福を感じてから、一段と社会貢献に力を入れる様になったりしている。
日本国民全員が改革を意識しなくても、強い指導力を持つ極一部の人達が社会改革を意識してくれれば、市民政党若葉が政権を握ってからの改革も有り、行き過ぎた競争社会から脱却しバランスの取れた社会になって行きそうなんだ。」
「政権交代してから、税制改革を始め様々な改革に取り組んで来て下さいましたものね。
海外の場合、それぞれに事情が有って、元々社会保障が充実していた国以外は時間が掛かるのでしょうが。」
「それでも、富を独占していた人達に変化は見られる、キャッシーとこの会長は、姫さまに教えられた『起きて半畳寝て一畳、天下取っても二合半』という言葉の意味を噛みしめてるそうでね、流石に体格が良いから一畳では窮屈だろうが。
それで、資産を減らして良いからと、安定雇用の拡大を指示して来たのだけど、姫さま関連企業として知られる様になって業績好調、結局、資産が増えそうなのだとか。
今後は、MAIHIME TOWNへの投資を強化し、姫さまの拠点として社会的弱者を受け入れて行くそうだよ。」
「彼が本気を出したら、かなり多くの人を養って行けそうですね。
薬物や銃が持ち込まれることなく、犯罪のないまま拡大出来ると良いのですが。」
「MAIHIME TOWNの有る州では銃器の売れ行きが落ちているそうだ。
銃関連企業の業績が落ちたら、業態を変えさせ援助し失業対策を行う方向で話が進んでるそうで、州知事とも連携し、州規模での社会改革を視野に入れているとか。
姫さまの祝福を感じた人が多いからそれも可能なのだろう。」
「DVDでも少し効果は有るそうですが、やはり…、世界中の人達に祝福を感じて貰う機会を作って行けば、社会改革が世界規模で進みそうですが、かと言って万里に無理はさせられませんので。」
「ああ、世界で一番重要な人だからな。」
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改革-19 [シトワイヤン-30]

姫さまという存在がなかったら、私達は大きな夢を描くこともなく、せめて日本が少しはバランスの取れた国になってくれたらと、市民政党若葉のメンバーと共に悪戦苦闘していただろう。
姫さまの存在抜きでは、多種多様な価値観の持ち主達が手を取り合って地球の明日を考える事など有り得ない。
人間は、長年に渡って利害関係によって争って来た、時には生き残る為に、時には自分達の勢力を広げる為に。
暴力的な手段こそ減ったものの、今も形を変え続いていることだ。
我々のスタートも似たようなもの、まず、舞姫フレンズと地球市民党の勢力を拡大しようとしているのだから。
ただ、その先には、国連などが足元にも及ばない世界規模の組織を思い描いている。
そして、どれだけ時間が掛かろうが、清香村の住人にとって村がユートピアで有るように、地上全体をユートピアにして行きたいと考えている、一部は地下や水中になるが。
こんな事は姫さまのいない世界で有ったなら、誰も相手にしない絵空事でしかないだろう。
だが、我々の辞書に載っている言葉で姫さまを表すのなら、神という言葉が一番近く、姫さまと共に有るというだけで、我々はこの世を楽園だと感じているのだ。

「姫さまは、日本に帰ったら何をしたいですか?」
「う~ん、愛華さんは?」
「私ですか…、贅沢な旅行で大切な人達とずっと一緒でした、日本に帰っても今のままで有ればと、考えてみれば特別したいというほどの事は有りませんね。」
「私も村の動物達がどうしてるか気にはなりますが、地球市民として地球が棲家、何処へ行っても私達を暖かく迎えて下さる方ばかりでしたので、日本へ帰るという意識は少しずつ無くして行けたらと考えています。」
「そうですね、しばらくは苗川で過ごしながら、国内に建てられた舞姫さまの社を回って頂く事になっていますが、その後は東南アジア歴訪が待ってます。
姫さま専用機はヘリと組み合わせて思っていたより使われる機会が多くなりそうですね。」
「観光特需を期待されてると聞きますが、私が一度訪問させて頂く程度で期待にお応え出来るのでしょうか?」
「舞姫さまの社は、二つとして同じデザインの物は有りませんし、舞姿のホログラムをメインにしていますが、それぞれの社毎に工夫してリピーターでも楽しめる様にしています。
新しい観光名所として、どの社もしっかり利益を出しているのですよ。
それがそのまま地域経済にプラスとなり、経済効果は当初計算していた以上になっていてまして、一時的なものではなく継続的に潤して行けるのです、著名な神社仏閣と同様に。」
「地方の活性化に繋がっているのですね。」
「はい、グッズ販売も好調、ほとんどが地方の工場で生産されています。
無理な生産体制を取らない様に指導して貰っていますので品切れもありますが、それが価値を高める事に繋がっています。」
「東南アジア諸国でも工場建設が始まっているのですよね。」
「今後は世界各地に工場が出来、互いに輸出入という形でグッズのバリエーションが豊富になって行きます。
勿論、品質を落とす事の無い様に最大限の注意を払って行く必要が有りますが、労働者の待遇を良くして行きますので、その地の経済に良い影響を与える事が出来るかと。」
「しかし、それによって立ち行かなくなる企業が出て来ないでしょうか?」
「その地にとって必要な会社なら簡単には倒れないと思いますが、場合によっては買収して面倒を見て行く事も視野に入れています。
スタッフの中には積極的に買収し企業改革を進めて行く事で、その地の社会改革に繋げて行けると考える者もいまして、子会社が半端なく増えてしまうかも知れません。」
「全体の労働環境を向上させるということですね。」
「その国の状況を見ながらの改革になりますが、姫さまの名前を傷つける様な事にはならない様に、私達が言うまでもなく、スタッフ達は心得ています。」
「少しぐらい良いのですよ、あまり完璧すぎると皆さん疲れてしまうのでは有りませんか。
アンチが多少いるぐらいが健全なのですよ。」
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改革-18 [シトワイヤン-30]

ハワイでは地球市民党の幹部と会談、姫さまにはゆっくりして頂いた。
世界情勢に関する分析を見ながら今後の方針について意見交換。

「和馬さん、今日の会合は如何でしたか?」
「特に目新しい話は無く、再確認といった所でした。
姫さまの登場によって、国民の心が国の指導者から離れてしまう事を恐れている国や、姫さまの力で国家間の問題を解決の方向に持って行き、政治経済の安定を考えてる国が有ります。
民間では、今までは金儲けに成功した者が勝者でした、それが姫さまの影響で勝者としての在り方を見直す動きに、バランスを考え貧富の差を考える人が増えています。
しかし、舞姫フレンズで無い人達は、そこに付け入る隙が生じるのではないかと狙っている様です、自由競争ですので。」
「しばらくは混乱しそうですか?」
「そうは考えていません、舞姫フレンズの勢力は静かに、そう、革命ではなくあくまで改革、市民改革です。
対抗する勢力に対して大きく譲歩という事はしませんが、敵対的な行動は控えています。
また、舞姫フレンズを通して新たな経済圏を形成して行く動きが有ります。
舞姫さまのとてつもなく大きく深い愛情を感じた者同士が、姫さまに見守られながら、この地球を平和にして行こうと、まだ静かにですが大きなうねりになりつつ有ることは間違いないです。」
「間違って対立が大きくなるという可能性が有るのでは?」
「今の所、目立った対立は無いです。
姫さまを調査している内に、姫さまの祝福を感じてしまうのですから、スパイを送り込むのは容易なことでは無いのですよ。
公表されていませんが、姫さまのMAIHIME TOWN滞在中、何人もの亡命希望者を受け入れたと聞いています。
地球上のややこしい問題すべてを、未来の地球を託す子孫の為にと考え解決出来れば話は早いのですが、流石に利害関係は単純な事ではなく、なんと言っても自分とその子孫さえ良ければと考えて来た人ばかりですので。」
「苗川で暮らす子は、大人達全員の子として地域社会全体で守り育てると聞かされて来たのですが、今はそこから、視野を広げつつ有るそうです。
日本に住む子ども達は全員、私達の子どもなのだと意識する事で、児童福祉に対する見方が変わって来ていると聞きました。
地球の人口が増え過ぎてるので単純な話では有りませんが、いずれは、世界中の子ども達を、世界中の大人達が共に守り育てる、どの子も自分達の子どもだと言える様になったら良いですね。」
「はい、でもその前に世界中の人達が、姫さまを敬愛し共に手を携えて前に進む、自分はそんな世界を描いています。」
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改革-17 [シトワイヤン-30]

普通の女の子っぽい姫さまの映像は、MAIHIME TOWNを離れ帰国の途に就くニュースに合わせて子猫と戯れる姿を配信、同時に別バージョンをネットにアップした。
今後は、撮り溜めて来た映像と新たな映像を編集しテレビ番組化、世界中の放送局に売り込むが、すでに日本の放送局とは週一の放送枠を確保する話が進んでいる。
帰路の途中、ハワイで。

「姫さま、子猫との映像は大好評、ネットに上げた映像の再生回数は凄い勢いで伸びています。
美しいだけでなく愛らしいと、男女問わず心を射抜いたみたいですよ。」
「万里、多少戸惑う声も出てるけど、舞姫さまの可愛らしい一面を見られたことを喜ぶ声が圧倒的に多いのよ、これならレギュラー放送決定ね。」
「そっか、それなら私らしさをもっと出しても問題ないってことかな。
和馬さん、番組では様々な改革に関するヒントを出して行っても良いのですよね。」
「はい、姫さまの影響力は大きいので、ヒントぐらいが調度良いかも知れません。
録画での放送なら、人々の反応を見ながら修正も可能でしょう。
硬軟織り交ぜ、楽しい番組の中で市民教育の機会に出来ると良いですね。」
「英語版はどうなりそうですか?」
「日本で作成するものは、色々なコーナーを繋げて一回分にするので、アメリカ向けはコーナーを多少入れ替えても良いかと、過去を振り返ったり、地球市民党で進行していることを紹介するコーナーも
入れ、姫さまを撮影で長時間拘束することの無いようにさせます。」
「五分のコーナーを十回分まとめて撮影しておいても良いのですね。
まあ、ネタには困らないというか、清香村での様子はプロのカメラマンが事ある毎に、いえ、何もなくても撮影していたのも使えるのですよね。」
「ええ、彼も番組制作チームに加わって貰います。
元々、姫さまの記録映画を意識して撮影して貰って来ましたので、番組と並行して動物との触れ合いを中心にした映像作品を記録映画として制作する話も出ています。」
「万里をネタにまだまだ稼いでいくのね。
沢山稼いで沢山使い経済の活性化に繋げる、番組内でそういう話もして行った方が良くないかしら。」
「そうね、お金の流れははっきりさせておきたい、でも、簡単には説明不可能な規模でしょ、まあ、安定した雇用を生み出し、地方の活性化に貢献してることや、欧米でも同様の動きが有るという事は説明しておきたいかな。
う~ん、政治面はどうかしら、私達が市民政党若葉と深く関わってることは知られていると思うけど。」
「市民政党が政権を握ってから着実にバランスの取れた社会に近づきつつ有るものの、まだまだ抵抗する勢力は残っています。
既得権益を守ろうと必死になってる輩もいますが、我々は革命ではなく改革を目指しています。
姫さまが少し動いて下されば、政府の方針に基づく、じっくりとした改革、その速度が早まるかも知れません。」
「微妙な問題も有るのですよね、軽はずみな事は話せないから…、日本に帰ったら久しぶりに大臣達と会っておきましょうか。」
「お願いします、大した事をしてない団体から既得権益を奪う事は簡単なのですが、それによって歪が生じかねません、その辺りの調整には姫さまからの一言がとても有効になりそうな分野も有ります。
また、外交に関しては、姫さまの力をお借りしたいと言われていまして。」
「海外旅行の度に外務省のお世話になっているのでしょ、次は東南アジア諸国、じっくり準備をしてから訪問したいですね。
舞姫の社は各地で建設を始めていると聞きましたが。」
「訪問の順番は社の完成が早かった所を優先させます、姫さまに早く来て欲しくて競い合って建設に協力してくれてますよ。
ほんとは手抜き工事をしたい、でもそんな事は出来ないとか、葛藤が有るようです。
手抜きが当たり前だった人達、その価値観に変化をもたらしているのでしょうね。」
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改革-16 [シトワイヤン-30]

MAIHIME TOWNに於ける最後のプログラムは、姫さまのファンサービス。
熱気球に乗り、空から巡礼者達に手を振る光景は、建設中のMAIHIME TOWNを上からゆっくり見ておきたいという姫さまの要望から。
姫さま自身は気球を意識してなかったのだが、一人だけで宙に浮くというのは何とも心元なく、キャッシーが熱気球を用意した。
途中、かごの外に出たりして楽しそうな姫さまの姿は、天女とか妖精とか人ならざる者で、観客の多くは口をポカンと開け、ただ見上げるのみ。
今回の滞在中、姫さまが人前に出たのは記者会見とイベントだけ。
町を離れる時もヘリコプターで空港へ直行の予定なので、居合わせたマスコミ関係者は大喜びで撮影し、速報として生中継したところも有る。
姫さまが見下ろした、まだまだ未完成のMAIHIME TOWNには姫さま滞在期間中、のべ二百万人を超える人が押し寄せた。
それを仮設の施設中心にしのぎ切ったのだが、当然飲食物やグッズの売り上げは半端なく、その利益から幾つかの工事を前倒し出来そうだと言う。
姫さまの帰国後は仮設商店の規模を縮小しつつ、舞姫さまの聖地として、社を中心に施設を充実させて行く。
またアメリカに於ける舞姫さまの拠点として、グッズ工場も順次稼働の予定だ。

「姫さま、空から巡礼者達を見下ろして如何でしたか?」
「まさしく数えきれない程の人達が集まって下さっていることを実感出来ました。」
「それでも姫さまを慕う人達のほんの一部なのですよ。」
「その実感はないですね。」
「ねえ万里、舞姫さま研究が進んでるのは知ってるでしょ。」
「まあ、知ってはいるけど、あまり見て無いの、何かね…。」
「万里に無理なお願いをする様な研究は全部断ってるから安心して良いのよ。
その中で幾つか注目してるのが有るのだけど、舞姫さまの祝福を感じられるエリアに関する研究が有ってさ。」
「私には実害の無い研究なのね。」
「ええ、それによると、舞を舞った時にはそのエリアが凄く広がるのだけど、それ以外の時は広がったり狭くなったり、ただ、平均値を出して行くと少しずつ広がってみたいなのよ。
因みにデータを検証してみたら、万里が美味しいスイーツを食べた時に広がり、ホームシック気味の時に狭くなってるみたい。
あえて、研究者には教えてないのだけどね。」
「へ~、そんなこと考えても無かった。
でも、平均値が伸びてるという事は、まだ成長期ということかしら。」
「ふふ、もう少し身長が欲しいのかな。」
「うん、実里が成長期全開で成長痛に悩まされているとか、そこだけはお姉ちゃんに似たみたいだけど、抜かされるのは兎も角、見下ろされるぐらいになられるのは抵抗を感じるのよ。」
「美しさでは全く勝負にならないのだから、それぐらいは許してあげなよ。
今日は大勢の人を眼下に見下ろしたのでしょ、女神さま的存在としての自分を実感しなかったの?」
「全くそんな感じじゃないのよ、勿論、全ての生きとし生ける者に幸多からんことを願っている、でも女神という存在、いえ、女神とは存在ではなく、空想の産物でしょ。
私という存在は誰かの空想によって成り立っていると思いたくないな。
普通の人とは少し違うかも知れないけど、神ではないと定義付けしたいの。」
「この世に唯一無二の存在としての万里を表す言葉が無いから仕方ないのよ、一番近いのが女神な訳で。」
「でもさ、絵画に見る女神とはほど遠いでしょ、私。」
「あんなのは、それこそ空想の産物、気にする必要ないのよ。
これから、子犬や子猫と戯れる映像とかを公開して行くでしょ、それを見た人達は、舞姫さまに類似する存在が今までいなかったと気付いてくれると思うわ。」
「そうね、普通の女の子っぽい所を沢山見せたら、舞姫フレンズの人達がどんな反応をするのか、少し楽しみでは有るかな。」
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