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黒川淳一-05 [F組三国志-04]

「ねえ、みんな、提案が有るのだけど。」

 清水さんが立ち上がった。
 何だろう、提案って。

「えっとね、美咲さまの呼び方、みんな秋山さんって呼んだり委員長って呼んだりしてるけど、美咲さまって呼んでくれないかな、ちょっと抵抗の有る人がいるかもだけど。
 私はね、F組って何か別世界って気がしてるの。
 う~ん、私の勝手な思い込みと言われてしまうと何も返せないのだけど。」
「ちさと、わかるわよ。」
「ありがとう由香。
 もう一部には浸透し始めているけど、みんながのってくれたら嬉しいと思ってさ。
 私は、お母さまって呼ぶこともあるけど…、私のお父さまは、省吾さまとかお師匠さまでさ。
 え~っと、私のことも、ちさとって男の子も呼び捨てにしてくれたらって思うし、あっ、和彦さんはちゃんと、ちさとお嬢さまって呼んでね。」
「ははは。」
「面白いかも、女子の間では結構広まってるから、男子がのってくれるかどうかってとこね。」
「そうね、ファーストネームで呼び合ったら、よりフレンドリーな感じになるわよ。
 まだ、付き合いが長いわけじゃないから抵抗が有るかも知れないけど。」
「そう言えば、哲平って、入学した頃から、哲平って呼んでくれよと言ってたな。」
「ああ、同じクラスの仲間になるのに苗字で呼びあってたら嫌だったからね。」
「哲平さんの苗字忘れた。」
「ははは。」
「省吾さまのお考えは?」
「うん、お互いどう呼び合うかって大切なことだと思う。
 哲平とも、四月の早い時期からファーストネームで呼び合っていたからか、いつの間にか仲良くなってた。
 俺を、省吾さまと呼ぶ必要はないけどね。」
「それは、だめ、省吾さまと美咲さまはF組団結の象徴なのだから。」
「なんかなぁ~、そうそう、哲平は女の子限定で、哲平兄さんとかも有りって言ってたけど。」
「哲平さん、最近…、ああ、もう私には、妹の座しか残ってないのね…。」
「ははは。」
「ふふ、ちさとの言う通りF組の中で別の世界が広がり始めてるかも。
 ちさとは文化祭で劇をやりたいのよね。」
「うん、でもまだ、お師匠さま、その奥方の美咲さま、娘の私、門下生の和彦さんって感じで人数不足なの、留美に脚本とか頼んでるのだけど…。」
「じゃあ、俺、お師匠さまの門下生になろうか。」
「黒川くん、ほんと!
 ありがとう。」
「えっと、ちさとお嬢さま、自分のことは淳一とお呼び下さいね。」
「はは、なら俺も、徹で良いから、三人目の門下生になるかな。」
「門下生ばかりじゃつまんないよね。」
「麻里子はどう?」
「ふふ、星屋くんの大好きなお姉さん、ちょっと弟に厳しいけどって、どうかしら。」
「お師匠さまには弟の面倒を見てもらって感謝してる。」
「う~ん、省吾さまに、ちょっと恋心も抱いていて…。」
「お~、麻里子は美咲さまと三角関係か?」
「ちょっと~、勝手に変な話しを作んないでよ。」
「でも、面白いじゃないか、おしゃべり好きな、麻里子の友人たちが三人加わったぞ。」
「え~、でも、友人その一とかじゃ…。」
「私は友人その二で構わないけど。」
「じゃあ、その三は私か。」
「ふふ、省吾さまの門下生に恋する友人ってどう?」
「おっ、そういう展開もあるのか。」
「留美とはテーマを考えているのだけどね。」
「ちさと、テーマって?」
「劇を通して訴えたいこと、伝えたいことをきちんと織り込みたいの。」
「真面目に取り組むんだ。」
「もちろんよ、劇の中には面白いエピソードも盛り込みたいけど、大切なのは私たちが劇を通して何を伝えたいかなんだ。」
「う~ん、F組の団結ってことを伝えられないかしら、あのさ、私…。」
「纐纈さん、続けて良いよ。」
「私、ジャズダンスやってるの、で、劇中にダンスを取り入れてくれたら嬉しいのだけど…。
 どうかな?」
「ダンスか、大変そうだね…。」
「ダンスと言っても、難しいのばかりじゃないの、クラスのみんながきちんと向き合ってくれたら、ダンスを通してF組の団結を伝えられないかと思って。」
「じゃあ、洋子の歌も入れて貰えないかな。」
「亜衣…。」
「洋子の歌は、きちんと声楽の基礎からやってるから、ちょっと違うのよ。」
「へ~、それは聴いてみたいな。」
「歌あり踊り有りって、ちさと、面白くない?」
「うん、F組には色んな人がいる、留美、楽しい脚本お願いね。」
「う~ん、歌と踊りは想定外だったから…。
 でも、みんなの特技とか、今のうちに教えてくれると嬉しいかも、どうかしら?」
「あっ、淳一の特技はチェロだよ。」
「徹、それは秘密だって言ったろ。」
「でも、この前のコンクールで優勝したじゃないか。」
「あれは、ローカルで小さなコンクールだったし、チェロはバイオリンほどやってる人が多くないからね。」
「それでも優勝だろ。」
「へ~、黒川くんて…、黒川くんのチェロ聞いてみたいなぁ~。」
「いや、そんな…、まあ小学生の頃にバイオリンから転向して、好きだから今も続けているけど…、ちょっと照れくさかったりする。」
「お願い、黒川くん、聴かせて。」
「舘内さん、チェロって結構大きくて気軽に持ち運び出来ないんだ。」
「でも…。」
「私も聞きたいな。」
「ほら、美咲さまも聴きたがっているし。」
「じゃあさ、一度、松永さんの歌や、淳一のチェロ、他に楽器とかやってる人がいたらその演奏を聞かせて貰ったり、纐纈さんのダンスとかも見せて貰う機会を作らないか。
 淳一、楽器の移動とかは何とかするから。」
「お~、省吾さまが動くぞ~。」
「はは、それを参考にして留美さんに劇を作って貰うってどう?」
「うわ~、なんか楽しくなりそう。」

 う~ん、クラスのみんなにチェロを披露することになるとは思ってなかった。
 そうだ!

「ね、誰かピアノ伴奏してくれないかな。
 即席のコンビになるけど。」
「伴奏したい!」
「おっ、四人も手を挙げた、黒川~、もてもてだな。」
「はは。」
「お願い、私にやらせて!」
「舘内さん…。」
「お~、亜美ったら積極的ね。」
「別に一人に絞る必要ないだろ、淳一。」
「ああ。」

 ちょっと驚いた…、舘内亜美か、球技大会の係りにもなってくれたし。
 チーム麻里子の中でも明るくて…。
 最近、さりげに話す機会が増えて楽しかった。
 俺って鈍感だったのか?
 俺の勘違いじゃなかったら良いのだけど。
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舘内亜美-01 [F組三国志-04]

 黒川くんがチェロやってたなんてびっくりした。
 びっくりしすぎて、思わず、私にやらせて、なんて言ってしまったけど、あ~ん、みんなにバレちゃったかしら。
 でも、黒川くんは優しいからなぁ~、気配りしてくれるし。
 ふふ、球技大会のことや演奏のことで話すこと多くなりそう。
 ピアノやってて良かった。
 でもチェロとじゃ、簡単に演奏出来ないか…。
 みんなの前で演奏する前に一回ぐらいは二人で合わせておけないかなぁ~。

「ねえ、亜美。」
「うん、な、何?」
「外、誰かいない?」
「そうね。」

 あっ、戸が開く。

「みなさん、おじゃましても良いですか~。」
「おじゃましま~す。」

 あっ、確か早川さん、教育実習で来ていた小山先生も。
 他の人たちは…。

「あっ、早川さんも遊びに来てくれたのね。」
「はは、表向きは調査とか研究だけど、ちゃんと学校側の許可も得て有るからね、はい、テストの打ち上げへ差し入れよ。」
「おお~!」
「テスト前の調査では、みんなも余裕無かっただろうから色々聞けなかったけど…、もう今日のホームルームの時間は終わって打ち上げが始まるのでしょ?」
「確かに、もう帰っても良い時間だな。」
「え~、私が来たのに帰るの?」
「い、いえ、か、帰りません。」
「ははは。」

「じゃあ、みんなに紹介しなきゃいけないな。
 遊びに来てくれたのは、チーム赤澤のメンバーでね、まずはさっき話題になったプロジェクトFのチーフ矢野さん。」
「矢野です、もう一度高校一年生を経験するつもりで、みなさんのことを教えて頂けたらと思っています、よろしくお願いします。」
「早川さんからは並んでる順に自己紹介で良いかな?」
「はい、リーダー。
 プロジェクトF、サブチーフの早川です。
 もう顔見知りの人も少なくないですよね。
 我らがリーダー、赤澤省吾の足跡を記す、なんてことの担当もしています。」
「えっと…、小山です、ってみんな知ってるよな。」
「はは、小山先生もチーム赤澤に参加してたのですか?」
「ああ、入れて貰ったって感じかな、赤澤くんの取り組みにはすごく興味が有るからね。
 教育実習との兼ね合いで問題が有るかと思ったのだけど、きちんと学校側の許可を貰えたからね。」
「大学生にとって、チーム赤澤ってどうなのです?
 リーダーが高校生で…。」
「はは、リーダーから学んだことは多いから、年齢は関係ないかもな。」
「よね、私も省吾さんの視点にドキってさせられることが多いの。」
「俺は省吾さまから学べって言われているよ、こいつにね。」
「はは、高山です。
 経営学を専攻していて…、リーダー、プロジェクトのことは?」
「もう発表済みだよ。」
「ならば…、プロジェクト梶田のチーフなので、よろしく。
 とかくリーダーって言うと年長者のイメージがあるけど、若くても優秀ならちょっと面白いと思ってね、企業の経営者だって若い人がなることも有るからね。」
「私は高島みどり、教育学を専攻していてリーダーのお父さまのお世話にもなっています。
プロジェクトFのメンバーなので、よろしくね。」
「俺は…。」

 十人も来てくれたのね、高校側の了解も得てるってことは、ほんとに真面目な取り組みなんだ。

「じゃあここからは、差し入れを頂きながらとしましょうか。」
「あっ、ちょっと待って。」
「矢野さん?」
「美咲ちゃん、ビッグニュースが有るんだ。」
「えっ、なに?」
「さっき俺たちは職員室へ挨拶に行ったのだけどね、先生方がF組のことで盛り上がっていてさ。」
「昨日までに終わったテストでF組はぶっちぎりなんだって。
 現代社会や英語の先生は早々と採点を済ませたそうなの。
 現社では他のクラスの平均が六十~七十点に対してF組は九十点を越してるとか。」
 英語は他のクラス平均五十~六十点に対してF組はあと少しで九十点。」
「やった~!」
「他の先生方も気になってF組から採点してるそうだけど、百点を含め高得点続出、もちろん不正の形跡は見受けられないって。」
 不正行為があると不自然な回答になって結構分かるそうなの。」
「当たり前だよ~。」
「うわ~、ということはテスト団体戦の方は、またしても僅差ってことか…。」
「ふふ、私は団体戦のことより他のクラスに勝てたことが嬉しいわ、ね、美咲さま。」
「うん。」
「さ~、ジュースも用意したから、紙コップ回して。」
「みんな輪を広げて、チーム赤澤の人たちにも入って貰って…、でも椅子がないわね…。」
「はは立食形式にしようぜ。」
「座ってられない気分。」
「よし、椅子と机の配置を変えるか。」
「おう。」

「みんなジュース持って。」
「ここは哲平に任せるよ。」
「おっけ~、では、F組の勝利を祝して、かんぱ~い。」
「かんぱ~い。」

 はは、みんなも嬉しそうだ。
 がんばったもんな。
 えっと…、うふ、黒川くんめっけ。
 小山先生たちと話してるのか。

「あっ、黒川くん、実習の時はありがとうね。」
「へへ、大したことしてませんよ、小山先生。」
「ねえ小山さん、F組の鶴翼の陣ってどうだったの?」
「早川さん…、あれはね、前に立った時のプレッシャーが半端ないのですよ…。
 黒川くんたちの、授業に真剣に取り組もうって目で囲まれるのだよ。
 他のクラスを無難にこなしてきた自信があっさり崩れ去りましたね。」
「先生に対する攻撃的布陣って、省吾さんが言ってたけど。」
「うん、あのプレッシャーに応えるだけの力量が自分にあったら、すごく良い授業が出来る場だったと思う。
 生徒の自発性に基づくものだからね。
 ただ、残念ながら、自分にはまだそれだけの力量がなかった。
 黒川くんたちに助けられてなんとか終わらせることが出来たけど…。
 一回目は特にひどかったんだ、指導の大久保先生からは何も言われなくて、ほっとしたって程度さ。」
「はは、そりゃあ大久保先生もF組に関しては…、早川さん、俺たちの数学教師は実質、省吾なのですよ。
 省吾が動いてテスト範囲まで小山先生に一気に済ませて貰ったから、後は自習中心になって。
 大久保先生の授業、最近受けてないな。」
「へ~、自習ってどんな感じだったの?」
「わいわいがやがや。」
「ふふ、そんなに真面目でもなかったんだ。」
「とんでもない、わいわいがやがやと、みんなで数学に取り組んでいたって感じ。
 黙々と問題に取り組み、わかんないことがあると、教師役の人に聞いたり、この問題はテストに出そうだって思った人はみんなに解いてみてって提案したり。
 難しい問題は省吾さまの説明をみんなで聞いたり。
 とにかく省吾さまの説明は先生より解り易くて、作ってくれたプリントもですがね。」
「じゃあそのプリント、見せて貰おうかしら。」
「そう言えば、早川さん達、今日は調査じゃないのですか?」
「ふふ、してるわよ、みんなでね、ほら、あちこちで会話がはずんでるでしょ。」
「ええ。」
「いかにも調査します、って感じじゃ、よそ行きの答えしか返ってこないって、省吾さんに言われてね。」
「う~ん…、そんな話しを聞くと、ほんとに省吾がリーダーなんだって思えるな。」
「ふふ、チーム赤澤って省吾さんのお父さまのチームだって思っている人が結構いるみたいだけどね。」

 省吾さまって美咲さまと話してる時なんか、普通の高校生なのにね~。
 ラブラブで。
 あ~、私も黒川くんと…。

「淳一、球技大会の打ち合わせしよ、加藤さんも連れて来たし、ああ、舘内さんここにいたんだ。」
「おっけい、じゃあ小山先生も早川さんもゆっくりしていって下さいね。」
「うん、ありがとう。」

 そうね、今から始めないと時間がないかな、林くんは意外としっかりしているのね。
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舘内亜美-02 [F組三国志-04]

「これが、美咲さまから預かってきた、種目別希望者リストだよ。」
「徹、確かにバスケが多いな。」
「ね、ねえ男子のバスケってどんな感じなの淳一さん…、えっと、淳一さんって呼んでも良いよね。」
「ああ構わないよ。」
「はは、亜美ったら黒川くんにすごく積極的じゃない?」
「えっ、それは…、ほら、ちさとからの提案もあったじゃない。
 林くんも、美咲さまって呼んでるし。」
「あらっ、徹さんって呼ばないの?」
「はは、淳一はどうなんだ?
 お前は、鈍感じゃないだろ。」
「えっと亜美さんって呼べば良いのかな。」
「出来たら、亜美って…。」
「うん。」
「亜美ったら大胆ね。」
「えっ、え~っと、今まで一緒のチームでやって来て…、優しくてね、淳一さんは…。」
「おいおい、俺たちの前で告ってるようなもんだぞ、その発言。」
「俺も、亜美のこと真面目で明るくて…、いいなって思ってる、話してて楽しいし。」
「あらっ、いきなりカップル成立?」
「俺らの前でか? 
 う~ん、淳一に先越されたって気分だな。
「ふふ、徹くんも人気がない訳じゃないからね。」
「ほんと、加藤さん?」
「それじゃあだめ、ちゃんと朋美って呼んでくんなきゃ、クラスの仲間でしょ。」
「お、おう。」
「ふふ、お二人だけの時間を差し上げたいけど、今はやることが有りますからね。
 それで、男子だとバスケは誰が上手なの?」
「えっとね、今回は出場出来ないバスケ部以外で一番上手いのは哲平。
 シュートの成功率が高いのは、お師匠さまと森かな。」
「そうだな、動き回れて良いパスを出せるのは嶋大地と露木のあたりか。
 バスケは勝ちに行きたいから、みんな納得してくれるのじゃないか、なあ徹。」
「ああ、俺も淳一もバスケ希望だったから、とりあえず二人は納得ってことだね。」
「バレーは?」
「まだ、体育でやってなくてさ、だから皆の力量は全く分からないんだ。」
「多分、哲平は上手いだろうけど、バスケと両方は駄目だからな。」
「球技大会までにはクラスの自由になる時間が有るのよね?」
「うん。」
「勉強ばかりでなまった体をほぐす時間を作って貰い、そこでバレーとか出来ないかしら?」
「試合形式で無くとも円を作ってトスやパスで繋げてみるだけでも分かりそうだね、後で相談だな。
 女子の方はどんな感じ?」
「バスケは纐纈榛香がダントツ、やっぱダンスで鍛えてるってことかしら。」
「シュートの成功率では麻里子かな。」
「へ~。」
「彼女は、ここぞって時の集中力が違うのよ。」
「後は溝口里美とか、でもこの表見ると、バスケそんなにうまくない人の希望が多い気がする、ねえ朋美。」
「だって、バレーって手が痛くなるし、ドッジは当たったら痛いし。」
「女子バスケ人気の秘密は痛くないからってことか。」
「はは、ねえ、斉藤さんってどうなの? 体格良いけど。」
「ドッジ向きなんじゃない。」
「そうね、バスケのパスがどこへ飛んで行くのか分からなくてパスが通らないという欠点、ドッジでは凄い武器かも。」
「でも本人はバスケ希望だよ。」
「徹くんから話せば了承してくれるのじゃないかな。」
「えっ?」
「ふふ、まあ、そういうことよ。」
「もしかして、淳一は亜美さんで、俺は斉藤さんってこと?」
「不満そうね。」
「だってさ…。」
「はは、じゃあバスケのメンバーはみんなにお願いして調整する、バレーの方は、みんなでやってみてからってことで良いかな。」
「ええ、残った人はドッジボールということになるのね。
 早めに決めて練習時間を作りましょ。」
「後、俺たちのやることは?」
「スケジュール確認して応援の調整もしとかない?」
「そうだね、応援でもF組の団結をアピールしたいわ。」
「今日中にやれる事をやったら、そんなことも含めて各自考えて来て明日また話し合うってことでどう?」
「了解。」
「じゃあ徹くん行くわよ。」
「行くわよって?」
「お二人の時間を作って上げないと。」
「あっ、そうか。」
「私達で調整作業を始めましょ、斉藤さんは徹くんが担当だからね。」
「かんべんしてよ~。」

 はは、林くんあせってる。
 いや、そんな事より淳一さん…、我ながら大胆なことをしてしまった…。

「ねえ、亜美、ほんとに俺で良いのか?」
「は、はい…、えっと、ごめんなさい…、何か私…、でも前からで…、淳一さんが、美咲さまに気を使ったりしてるの見てたら、何かもっと一緒にって気になって…、えっと、その~、テストも終わって…、あたし何言ってんだろ…、やっぱりご迷惑でしたか…。」
「とんでもない、亜美と一緒に勉強してて楽しかったし。」
「わ、私もです。」
「あ、あのさ、演奏のことだけど。」
「はい。」
「みんなの前で演奏するまでに時間が取れたら、合わせておきたいんだ、だめなら俺の演奏を録音して渡そうか?」
「は、はい、曲は?」
「サンサーンスの白鳥でどうかな?」
「わ~、良いですね~、私も好きです…、演奏したことはないけど、知ってる曲なら早く仕上げることが出来ます…。
 淳一さんは普段どこで練習してるのですか?」
「家で…、そうだ、うちに来る? 
 ピアノも有るからさ。」
「行きたいです。」
「う~ん、でも女の子を一人だけ呼ぶのは、まだ恥ずかしいな…。」
「誰か誘ってみます。」
「うん、えっと…、楽譜はどうしよう?」
「帰りに買いに行きます、それぐらいのお金は持っていますから。」
「一緒に行こうか。」
「うん、嬉しい。」
「亜美ってさ。」
「なあに?」
「嬉しい時は嬉しいってはっきり言うタイプだよね。」
「へへ、単純なんです、私。」
「いや、亜美の良いところだと思う。」
「そう言って下さる淳一さん、素敵です。」
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舘内亜美-03 [F組三国志-04]

 へ~、ここが淳一さんの家か、大きくて立派だな~。

「みなさんようこそ、さ、どうぞ。」
「おじゃまします。」
「いらっしゃい、ゆっくりしていって下さいね。」
「今日は俺と母さんだけだから気を使わなくて良いから。
 母さん、こちらが省吾さま、チーム赤澤のリーダー、隣が美咲さま、クラスの委員長をしてくれている。」
「うわさは聞いてますよ、後ろの方は大学生なのね。」
「はい、自分は髙尾和彦です、よろしくお願いします。」
「私は、早川玲名です、今日はこの後も予定が有りまして、運転手役ということでお邪魔させて頂きました、よろしくお願いします。」
「お二人とも国立大学の?」
「ええ、省吾リーダーとは我大学の赤澤教授を通して知り合いました。」
「お父さまなのね。
 こちらの可愛らしいお嬢さんがピアノを弾いて下さるのかしら。」
「舘内亜美と申します、よろしくお願いします。」
「ピアノは長いの?」
「はい、四歳の頃から続けています。」
「母さん、そんな事より…、さ、みんなこっちへ来て。」

「ピアノが置いてあって素敵に広いリビングですね。」
「省吾さん、うちは家族みんなで演奏することも有りましてね、最近は回数が減ってしまいましたが。
 ふふ、舘内さんはピアノが気になるのね、弾いてみる?」
「宜しいのですか?」
「勿論、皆さんはお茶でも如何。」

 このピアノはヤマハでもカワイでもないのね。
 まずは子どもの情景でも聴いて頂こうかな。
 それにしても、家のリビングにグランドピアノが有るなんて超羨ましい。
 では…。
 あっ、音の響きが全然違う、このピアノ凄く良い。
 こんな良いピアノ弾くの初めてだ。
 あっ、淳一さんが立ち上がった。
 チェロを用意して、もう、いつでも演奏出来るって感じで私の演奏を聴いてくれてる。
 チューニングも私たちが来る前に済ませておいてくれたのね。
 じゃあ、シューマンは自然な感じで終わらせて、うふ、淳一さんと目が合った…。
 演奏の姿勢に変わったから、準備おっけいってことかな。
 さて、淳一さんの白鳥、聴かせて頂きましょうか。
 行くわよ。
 あっ、優しくて綺麗な響き…、コンクール優勝ってほんとだったんだ…。
 白鳥ってこんなにも…。

 こんなにも…。

 えっ、えっ、私、涙で、楽譜が見えない…。
 でも弾ける、弾く、ずっと淳一さんのチェロを聴いていたい、一緒に演奏していたい…。
 あ~、終わっちゃう、いやだ~。
 ええ~い。
 即興変奏曲、始めちゃったけど…。
 よかった、淳一さん応えてくれてる。
 私、すごく幸せ。
 ふ~、でもそろそろ終わりかな。
 うん、淳一さんもそんな感じだ。

 私の生涯で最高の出来だった気がする…、えっと涙を拭いて、演奏中に涙が出て来るなんて初めて。
 あっ、拍手か…。
 美咲さま涙を浮かべて、そりゃ淳一さんのチェロすごかったもんな。
 あれっ、私、なんかくらくらする…。
 淳一さんが…、も~、素敵、大好き、え~い。

「おお~すごい演奏だったけど、亜美ったら大胆だ~。」
「お母さまもびっくりしたんじゃ…、あ、お母さまも涙目だ。」
「す、凄かったわ、淳一が最近変わって来たとは思ってたけど、こんな可愛らしく素敵なお嬢さんとお付き合いしてたとは…。」
「母さん…。」
「ピアノ素晴らしかったわ、ううん、淳一の演奏も今までで最高だった。」
「自分も凄いと思います、二人のバランスがめちゃ良いし、まさかこんなハイレベルな演奏を聴けるとは思ってなかったです。
 淳一、途中から変奏曲に変わったけど、何時の間に練習したの?
 今日が初めてって言ってなかった?」
「省吾、即興だったんだ、亜美は本物だよ。」
「亜美さん大丈夫?」
「ちょっと疲れたみたい、俺もずいぶん集中してたから…。」
「亜美さん、すごく幸せそうな顔してる。」
「酸欠か過呼吸か…、でも静かにしてれば大丈夫じゃないかな、顔色もそんなに悪くないし。」
「おい、淳一もぼんやりしてないか?」
「あっ、ああ、亜美のピアノがこんなレベルだなんて思ってもいなかった…。」
「二人がお互いの才能を引き出したってことかな。」
「うん、今まで、チェロを弾いてきてこんな感覚は初めてなんだ…。
 母さんうちわってなかったっけ。」
「あっ、そうね…、あったあった、はい。」
「ありがとう。」

「やさし~、あおいであげて。」
「美咲さま、亜美、少し汗かいてるみたいだから。」

 あれっ? なんか気持ちいい風が…。
 淳一さんの顔が近くに見える…。
 チェロは…、え~っと…。

「亜美、気分はどう?」
「うん、淳一さん、最高に幸せ。」
「そりゃ、そうだろうな。」
「えっ? あっ、あれっ? 私、私ったらっ…。」
「いきなり淳一に抱きつくからびっくりしたぞ。」
「えっ、私、あ~ん、淳一さんのお母さまもみえるのに、ど、どうしよう。」
「このままで良いよ、母さんも亜美のピアノが気に入ったってさ。」
「えっ、ほんと、チェロの音色がすごく優しくて、も~、好きよって言ったら愛してるって応えてくれて。」
「だったね。」
「あ~、でもでも私ったら、起きなきゃ。
 あれっ、淳一さん…。」
「しばらくこのままで良いよ。」
「でもでも、みんな見てるし。」
「関係ない、暑くないか?」
「うん…、もう少しこうしてて良いの?」
「ああ、誰も文句言わないからさ。」
「はは、これじゃあ文句なんて言えないよな。」
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舘内亜美-04 [F組三国志-04]

「ねえ、黒川くん、CDとか出してみない?」

 ぼんやりしてたらそんな声が聞こえてきた。

「髙尾さん、そんなレベルじゃないですよ。」
「そうかな、う~ん、確かに沢山売ろうと思ったら、それまでの過程が大変で難しい、でも、二人の演奏の記録という形で作り、無理せずに売れる範囲で売るって感じでも制作費ぐらいは軽く回収出来る演奏だったよ。」
「そうですか?」
「CDは著作権とか販売経費とか会社の利益とかで、一枚当たりそれなりの金額になるけど、CDその物としての製造コストは大したことなくてね。
 今、チーム赤澤の経営学専攻メンバーは、将来の活動に向けて資金の確保ということを考え始めているんだ。」
「省吾、この前は営利目的では無い、と言ってなかった?」
「ああ、淳一、チーム赤澤自体は営利目的ではないのだけど、活動資金が有るに越したことは無いだろ。
 現時点では知り合いからカンパを頂く事も有るが、出来れば寄付ではなく、経営、経済学部生の実習や研究を兼ね、自力で稼げないかという取り組みを始めてさ。
 チームを入会金や会費で運営するより良いだろ。
 そのまま株式会社を起こしてしまえたら、更に面白いと考えてる。
 大学生メンバーは、起業と真面目に向き合っていてね。」
「黒川くん、その時は省吾リーダーに社長か会長になって貰う話で盛り上がり、まずは何で収益を上げるかを皆で考えてるところなんだ。」
「自分はチェロで協力出来るってことですか?」
「協力して貰えないかな。
 自分が今日来させて貰ったのは、コンクール優勝と聞いて、アマチュアのCD制作企画に繋げられないかと思ったからなのだけど、思っていたレベルの遥か上を行く演奏だったからね。」
「そういうことなら…、でも全然売れなくても知りませんよ。」
「大丈夫、損益分岐点は口コミだけで簡単に越せる自信が有るんだ。
 録音も、それなりの機材を使えるあてが有ってね。」
「亜美は、どう?」
「淳一さんと演奏出来たら嬉しいです。」
「はは、お母さんは、如何ですか?
 自分達大学生の真面目な取り組みとして、契約書もきちんとしますのでお許し頂けないでしょうか、お願いします。」
「そうね、私の一存だけではお約束出来ませんが…、学校の勉強の妨げにならない範囲でしたら。」
「あっ、それなら。」
「亜美、急にどうした?」
「淳一さんは、お母さまにテストのことお話ししましたか?」
「特には話してないけど。」
「お母さま、私たち頑張っているのです。
 淳一さんはテストで学年五位だったのですよ。」
「そうなの、中学の成績上位者が集まる高校だから、どうなるのかと思っていましたが。
 亜美さんは?」
「はい、奇跡的に学年で九位に入れました、この結果は省吾さまや淳一さんのおかげなのです。」
「省吾さまは?」
「学年トップ、美咲さまが七位、F組で学年十三位まで独占、五十位までに三十一人、名前が張り出された上位百位までに三十八人ってすごいと思いませんか、F組って?
 その仕掛け人が省吾さまで、先生の力でなく省吾さま中心にみんなで頑張った結果なのです。」
「そこまではとは…。」
「その省吾さまがリーダーを勤めているチーム赤澤のお役に立てたら、私、とても嬉しいのです。」

 CDの話が出たのは驚いたな~。
 勿論、そんな事は今まで考えたこともなかった。
 でも、お母さまにも協力して頂いて、淳一さんともっと一緒に演奏出来たら…。
 チーム赤澤のお役に立てたらと言うのも本心、省吾さまや美咲さまがF組を盛り上げてくれなかったら、淳一さんの良さに気付けなかったと思うし、仲良くなれなかったと思うもの。
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舘内亜美-05 [F組三国志-04]

「でもどうやって、F組はそんな結果出せたのかしら?」
「きっかけは小テストの団体戦です。」
「団体戦…、どんな感じだったの?」
「クラスを三つに分けてテストに取り組む、スポーツの団体戦みたいにって提案をF組のみんなにさせて貰いました。
 テストは基本、個人戦じゃないですか。
 ですから上を目指す人は自分のために頑張るし、気のない人は適当に。
 でも、団体戦となると、チームのためにという気持ちが出て、個人のモチベーションが上がります。
 実際、各チームのリーダー達がみんなを引っ張ってくれて、テストに対して取り組む姿勢が大きく変わりました。」
「それだけで、その結果に?」
「いえ、それだけでは有りません。
 団体戦の場合、自分のことだけでなく他のメンバーのことも考えます。
 理解の遅れているメンバーへの手助け、教えることによって自身の理解を再確認、と言う意味合いも有っての提案だったのです。
 今回、テストで上位に入った人達は、みな、教える側の役割もしっかりやってくれた人、そう、淳一も亜美もです。」
「チームの結束は簡単に出来たのかしら?」
「いきなり定期テストではなく、数学の小テストから取り組み始めたこと、そして第一回数学小テスト団体戦でクラスとしての結果を出せたことが大きかったと思います。
 数学小テストは範囲が狭いことも有り、期待はしていたのですが、F組のクラス内三チームで競った結果、F組は平均点で他のクラスと大きな差をつけました。
 このことは、みんなの自信に繋がっただけでなく、今度はクラスとして他のクラスに勝とう、F組で協力して他のクラスに勝とうという意識を目覚めさせることに繋がりました。
 結果、今回のテスト対策企画が盛り上がりまして、ちょっと他のクラスの人に申し訳ないレベルでテスト対策が進んだのです。」
「淳一が、F組は最高って言ってたのは、そういうことだったのね。」
「はい、でも、自分達の高校は中学でそれなりに結果を出せた人達が入って来ていますので、他のクラスにも優秀な人は沢山います。
 そんな中で更に上を目指して、そうですね、クラスで協力しよう、結果を出そうってモチベーションが上がった所で、次のステップへの提案もさせて貰っています。」
「次のステップ?」
「はい、学習への取り組み方の再確認です。
 学習への取り組み方は大きく分けると、自分から取り組むか受身かに分かれます。
 モチベーションが上がって来たところで、今まで受身だった人には自発的な取り組みを提案しました。
 実は、与えられた問題集を命ぜられるがままに解き、答え合わせをして貰い、間違った所を教えて貰って、という学習を中学時代にやっていた人もいたのです。
 完全に受身で、例えそれで表面的な結果を出せたとしても、大切なことが抜け落ちて、本当に学習した意味が有るのか疑問に感じます。
 まずは、自分で考え自分で決める、そんなことを提案させて貰いました。
 仲間に助言を求め参考にすることは悪くない事です。
 でも自分で考える前に、どの問題やったら良いかなんて人に相談するような姿勢では、上は目指せません。」
「そうよね。」
「すでに、自分から主体的に取り組めている人たちへは、時間の使い方の工夫を提案しています。
 学習時間が長ければそれだけ結果を出せる、という考え方が有ります。
 間違ってないかも知れませんが、短い時間でより良い結果を出せたら、自分達の高校生活がより豊かなものになると思うのです。
 淳一も亜美も、自分にとって、より効率的な学習ということを考え始めていますが、そんなことも一人で考えるのでなく、みんなで助言し合ったりしているのです。」
「う~ん、省吾さまは本当に高校一年生なの?」
「えっ、普通の高一ですけど。」
「はは、大学の講義を受けてる気分になったわ、お母さま、我らがリーダーの力、感じて頂けましたか。」
「はい早川さん、淳一が予備校へも塾へも行かないって言う理由がよく分かりました。
 省吾さまが、みなさんから、お師匠さまって呼ばれている意味もね。
 そうね、淳一の夏期講習にと考えてたお金、チーム赤澤で生かして貰えないかしら、CDを作るのにも、資金は必要でしょ。
 赤澤省吾先生へのお礼の気持ちを込めて、如何かしら。」
「えっ、良いのですか、助かります、それなら初期投資の一部として…。」
「リーダー、やっぱ株式で行きますか?」
「髙尾さん、その方がみんなの勉強になるでしょ。
 株式会社という言葉は知っていても、その仕組みを理解出来ていない人は株式会社の社員の中にもいそうです。」
「はい、それではプロジェクト発足出来そうですね…、え~っとプロジェクト…。」
「今日の演奏を記念して、プロジェクトスワン、プロジェクトSでも良いけど、どうかな?」
「良いかも、みんなと相談してみます。
 チーフは俺でも良いですよね、リーダー?」
「大丈夫じゃないかな、高山さん達とも相談してくれれば、まずはプロジェクトの企画書をお願いしますね。」
「はい。」
「慌てなくて良いけど、初期投資がどれぐらい必要か、その回収までの見込みはどうか、と言った所を明確に示して、みんなが安心して取り組めるレベルのをお願いします。
 CDの方は…、そうだな、シングル作るコストとアルバム作るコストを考えたら、そんなに違わないと思いますのでアルバムでどうですか?
 淳一たちの演奏だけでアルバム一枚というのが難しそうだったら、大学のサークルとかと共同制作も有り。
 但し、下手な演奏を無理に入れるのはかんべんして下さいね。」
「了解です、ただ、この後、自分らはテストとかレポート提出なんて時期になりますので…。
 その前後の時間を使って早めに何とか…。」
「髙尾さん、まず自分のスケジュールきちんと決めてくれますか。
 これから、プロジェクト立ち上げの準備に入る訳ですが、まずは、その準備に向けた準備と考えて下さい。」
「あっ、そうか、下準備、前準備ってことですね。」
「大きな動きだけは自分も掴んでおきたいですので、報告、お願いします。」
「了解です。」
「へ~、ほんとに省吾さまがリーダーなのね、指示もきちんとしてる。」
「はい、正真正銘我らがリーダーですよ。
 自分はチーム赤澤で、出来ればチーフとして一つのプロジェクトを起こしてみたいと考えていました。
 自分一人で何かやろうと思っても簡単には行きません、でも省吾リーダーの周りに集まってくる仲間となら何か出来ると思っているのです。」

 やっぱ省吾さまはレベルが違うな~。
 F組三国志の事は分かってたつもりだったけど、省吾さまの説明を聞いて改めて凄いと感じたわ。
 チーム赤澤も、でも、まだまだこれから発展して行く段階なのよね。
 私も、淳一さんと一緒に登録させて貰ったけど、何か思わぬ展開になって来て…、勉強もピアノも、ふふ、恋も頑張らなくっちゃ。
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舘内亜美-06 [F組三国志-04]

「なあ、省吾さまから俺たちの学年順位が今後下がって行くってこと、母さんに話しておいて貰えないかな。」

 そうそう大切な事。

「ああ、そうだな、誤解されても行けないし。」
「下がって行くことが予定に入っているの?」
「はい、みんな今後も頑張ると言ってます。
 ただ、F組で成功した取り組みを、F組だけで終わらせたくないと考えているのです。
 今回F組で作った予想問題は、先輩方の協力を頂き過去の問題も参考にさせて貰ったおかげで、かなり中身の濃い予想問題となりましたが、F組外へは漏らさないようお願いしました。
 インパクトのある結果を出したかったからです。
 その目標が達成されましたので、今後は他のクラスとも、競い合ったり協力し合ったりということを視野に入れています。
 学年のレベルアップを目指して、これからの敵は全国の進学校。
 F組、みんなの学年順位は下がっても、偏差値は上げる、全国模試を受ける人の結果に注目という取り組みです。」
「自分達だけのことではなく、一年生全員のことを考えているのね。」
「はい、F組の皆は納得してくれています。
 二年になったらクラスが変わります、今から協力し合っていれば、その時、他のクラスの人達とも早く仲良くなれると思うのです。」
「先のことも考えて…。
 では淳一が、頑張っているのかどうか、私はどう判断すれば良いのかしら?」
「そうですね、クラスの数を考えてみて下さい。
 淳一のクラス順位は五位、八クラス有りますから、単純計算なら学年四十位でもおかしくありません。
 得点も、これから変化が予測されます。
 学年の平均点が上がると、より難しい問題を出題する先生が出て来ると思います。」
「リーダー、ということは、点数も順位も下がるってことなの?」
「表面的にはね。
 それと、テストのことばかり考えていたのでは、つまらない高校生活になってしまいますので、無理はして欲しくないと思っていまして…、そのあたりの取り組みも考えています。
 淳一みたいに、テストで結果を出しつつ、コンクールで優勝、素敵な彼女がいる、なんてのは理想ですが。」
「そうよね、私も惚れそうだな。」
「早川さん!」
「ふふ、亜美ちゃん、また淳一くんにしがみついて、大丈夫よ取ったりしないから。」
「あっ、私…、今日…、お母さまの前なのに…。」
「では、私からお母さまに一言、普段の亜美、舘内亜美は真面目で明るい人です。
 面倒見が良くてクラスのためにも色々積極的に動いてくれる、そう、いい加減な人じゃなくて素敵な人なのです。」
「ありがとう、美咲さま。
 それにね、母さん、真っ直ぐな人なんだ、嬉しい時は嬉しいって、はっきり言ってくれてね。」
「う~ん、淳一も、なんか急に大人になったわね。」
「えっと私…。」
「どうしたの? 亜美さん。」
「私、今日、ちょっと、淳一さんのチェロにびっくりしてしまって、あの…、ちょっと…、御免なさいです…。」
「亜美さんは、淳一のことどう思ってるの?」
「そ、それはもう、大好きです!」
「なら、謝ることはないわよ。」
「は、はい…。」
「そうね、淳一が高校生の内は、孫の顔を見たくないかしら。」
「えっ?
 え~、やっだ~!」
「はは、うちの親と同じだな。」
「ふふ、うちの母は早く孫の顔が見たいと言ってます。」
「あら、省吾さまのところは、ご両家ご両親公認なの?」
「美咲は俺が紹介する前から両親に気に入られまして。」
「もう、あれはね~。」
「自分も何となく美咲の母さんに気に入って頂けたみたいです。」
「うちの母は息子が出来たと喜んでいるのです、省吾は家が近いので良く遊びに来てくれて…。
 あっ、遊びに来るというより勉強かクラスの仕事ばかりだったかも。」
「はは、勉強にクラスの仕事、省吾リーダーはデートの口実作りに頑張ったのよね。」
「勿論、色々考えたさ。」
「ははは。」
「えっと、お母さま、私、またお邪魔させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ええ、是非いらして下さいな、ピアノも弾いてね、亜美さん。」
「はい、有難うございます、私、こんな素晴らしいピアノに触れたの、初めてで。」
「ちゃんと楽器のことも分かっていらしたのね。
 このピアノは私のお婆さまがお使いになってたもの、古くても本当の職人が丹精込めて仕上げた逸品、この家を建てる時もこのピアノをリビングの中心に据えるという所から設計を始めて貰ったぐらいで、私の宝物なのよ。」
「そう言えば、俺の使ってるチェロも…。」
「そのチェロは、私のお爺さまが使ってた物で、ふふ、安物じゃないのですよ。
 淳一は、バイオリンやってたのに、このチェロ見つけたら弾きたいって言い出したのよね。」
「駿が俺の使ってたバイオリンを使いたいって言ってたこともあるけど、子ども心に惹かれるものがあった…。
 でも、さすがに最初は苦労したな。」
「そりゃ、小学生にとってチェロは大き過ぎだろ。」
「まあ、子ども用から始めてね、先生からこのチェロを使う許可を貰えた時は嬉しかったな。」
「あっ、それでは、淳一くんの、ひいお婆さまとひいお爺さまがこのピアノとそのチェロで一緒に演奏してたってことですか?」
「ええ、美咲さん、私は小さい頃に聞いたのが最後だったから良く覚えてないのだけど、写真は残っているのよ。」
「うわ~、その楽器でひ孫が演奏なんて…、なんか浪漫を感じさせるな~、二人の演奏、神がかり的だったし。」
「う~ん…、お二人の霊が楽器を通して淳一くんたちに…。」
「よして下さいよ、髙尾さん。」
「私は、それでも良いわ。」
「亜美。」
「だって、すごく暖かくて優しかったもの、淳一さんのチェロ。
 ピアノの音も自分が弾いてるなんて思えないぐらいに。」
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