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智里-02 [シトワイヤン-21]

メロディを共通言語化する取り組みを始めたのは、勿論遊びだ。
当たり前のことだが、意思疎通に時間が掛かり過ぎる。
それでも高校生部会のメンバーに話したら何人か乗ってくれた。
既存のメロディーを使う場合に著作権との関係はどうなるのか、といったことを調べるチームと、純粋に作曲から取り組むチームが立ち上がる。
人前で歌う事に抵抗の有る人は多いだろうから簡単にはいかないだろうが、まず苗川を歌声溢れる街にしようと盛り上がり始めた。

「バキャラマモン♪」
「健司は、まだ中二病の真っ最中なのね、で、一応聞くけど、それ何の呪文?」
「俺の作った言語で腹減ったと歌ってみた、智里、なかなか良いだろう。
これが通じる様な世界になったら平和な世界になると思わないか。」
「あなたは充分過ぎるぐらい平和よね。
それで、歌うように話す世界共通言語でも目指すの?」
「それは良いかも。」
「でも、世界市民が、そのヘンテコリンな言語を使うのには抵抗を感じるわ。」
「う~ん、でも、結局、知らない言語なんてこんなものだろ。」
「せめてフランス語みたいな響きで、何度聞いても不快にならないメロディーとか。
まあ、メロディーだけに意味を持たせるのなら言葉は何でも良いし、楽器で演奏しても良いのだけど。
そうね、歌は曲によって言葉の意味合いを強調してるでしょ。
歌い方を工夫することで更に伝わる情報が多くなるわね。」
「問題は、話が長くなると、とてつもなく時間が掛かる言語形態ということだな。」
「ええ、でも、例えば論文のタイトルを見れば、その論文を読んだ人には内容まで伝わるよね、そう考えると、数文字のタイトルに膨大な情報量が詰まってると考えられない。」
確かにね、まあ、その論文を読んでない人には何も伝わらないのだろうけど。」
「何について書かれているかぐらいは、タイトルから判断出来るのが理想ね…、なかなか難しいかしら。」
「うん、タイトルに騙されるパターンだね、良くあるよ。」
「健司って、そんなに読書家だったっけ?」
「はは、タイトルがついてるのは本だけじゃないだろ、後は追及するな。」
「はいはい、男子ってそういうの好きなのよね。」
「俺は何も言ってないぞ。」
「態度ってのも、情報伝達手段の一つなのよ。」
「えっ、俺は何時も通り真面目な顔で話してたけど。」
「本人に自覚なしか、まあ、人と話してる時に自分の顔の事は意識しないわね。」
「そんなことないぞ、智里の前では理性的でカッコ良い雰囲気を醸し出してるだろ。」
「ふふ、健司がナルちゃん系だったとは知らなかったな。」
「なんだ、そのナルちゃんって?」
「勿論ナルシストのことよ。」
「俺が?
まあ良いけど、言葉を短くするのは言葉の文化としてだな…。」

高校生部会の仲間とは、時におバカな話で盛り上がることも有るのだ。
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智里-01 [シトワイヤン-21]

アメリカから帰って、やることが増えた。
日頃から本間さんに言われているのは、仕事を自分で抱え込まない事だが、苗川高校生部会の紹介を英語に翻訳する作業は、担当希望者が少なかった事も有り、自分も取り組むことにしたのだ。
勿論英語の学習を兼ね、私達高校生が翻訳したものは和馬さんのスタッフに確認して貰うことになっている。

「万里、私が訳したの見てくれた?」
「うん、良いと思う、これで直しが入ったら私達にとって、とても参考になるね。
旅行を通して英語力は上がったと思うけど、会話には出て来ない単語が有るからさ。」
「そう言えば中学では英語の授業中何をしてるの?」
「一学期は、主に読書、ロスでの会話に役に立ったと思うわ。」
「基礎的な英語の授業時間を無駄な時間にしてないのね。」
「先生にお願いして自習の時間にして貰ったの、そのお願いを全部英語でしたのだけど、英語の先生は少し英語が怪しくてね、ずっと中学生レベルの英語にしか触れてなかったのかも。」
「う~ん、教師によって意識に差が有るのでしょう。」
「そうね、どんな教科でもそうなんだろうけど…、豊富な知識を持ちながら教えることの下手な先生もいそうだな。」
「英語に関してはそんな穴を、万里のミュージカル風英語教材で埋められると良いわね。」
「うん、一本目のロスアンゼルス旅行編、皆さんに喜んで頂けると良いのだけど。」
「完成が楽しみよね、教材としてだけでなく普通に歌を楽しんで欲しいわ、ヒットしたら日本人の英語力が向上するかも。
万里のお相手をして下さった方々は、日本ではあまり知られてないけど実力者ばかりなのよ。」
「ええ、凄く響く低音が魅力の空港職員役、向こうではそれなりに知名度の有る方でね。
初めての海外旅行で不安一杯の私を優しくサポートって感じが良かったでしょ。
撮影や録音が終わった後、演技も歌も上手く出来たって、私のこと凄く褒めて下さったのよ。」
「ふふ、半端ない身長差で、万里が一段と幼く見えたわ。」
「仕方ないでしょ、そのギャップが面白い場面なのだから。」
「でもさ、万里のDVD見て英語を学習した人が、空港で歌いだしたりしたら面白いと思わない?」
「歌でなら言葉が通じるってこと?
楽しいかもだけど、向こうの人は迷惑でしょうね。」
「通じないよりマシじゃない、日本語と違って英語は歌と同じ頭声発声でしょ、それが広まり下手な歌でも歌う人が増えたら、メロディーだけでも通じる様になったりしてさ。」
「曲が補助言語になるのか…、日本語で歌っても通じるぐらいなったら良いけど、時間が無駄に掛かりそうよね。」
「でも、広まれば世界共通の意思疎通手段になるわ。」
「う~ん、タクシー乗り場はどこですか、と聞くのを歌って伝えられる人はどれぐらいいるのかしら。」
「日本人は駄目でも、国によっては意外と多かったりして。」
「どうかしら、試してみたいけど、問題は音痴な人よね。」
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起業-10 [シトワイヤン-20]

「あらっ、和馬さん、今お帰りですか?」
「地球市民党の連中がなかなか帰してくれなくてね、智里ちゃんは今日のデートどうだった?」
「今まで同年代のアメリカ人と話す機会が無かったので少し緊張しましたが新鮮でした。
でも、万里がいれば誰とでも直ぐに仲良くなれるのは、英語圏でも同じみたいです。」
「我らが舞姫は楽しめてたのかな?」
「だと思いますが、本当に何から話せば良いのかという感じで、私達の情報が英語で流されていないことを残念がられまして、今後の課題です。
取り敢えず日本語の本を渡しましたら、翻訳させ英語での出版が可能か検討させる、との事で愛華さんのスタッフと連絡が取れる様にして貰いました。」
「あっ、仕事の話も出来る子なんだね。」
「ええ、キャッシーは実業家を目指しているのだそうで、起業の話にも興味を示してくれました。
お互い話したい事が沢山あって、でも、まだそこまで英語に慣れてませんので愛華さんに手伝って貰ったりして、もどかしかったです。」
「そうやって英語に慣れて行くんだよ、今後も連絡を取り合うのだろ?」
「はい、主にメールで、電話の場合はテレビ電話でとお願いしました。」
「まだ、顔の見えない電話で英語のやり取りをするのに自信が無いのだね。」
「なかなか慣れません、英語で話す時は英語で考える癖をつけようとは思っています。」
「私とも英語で話す?」
「元気な時にお願いします、今日はずっと英語でしたので。」
「了解、英語で話しかけてくれたら英語で応えるよ。」
「お願いします。」
「キャッシーは『天から舞い降りた舞姫、鈴木万里』の英語版、売れると考えてるのだろうか?」
「DVDとセット販売にして世界中の人に、愛すべき舞姫の存在を知らしめたいと話していました。」
「はは、なかなかの日本語訳だね。」
「こういう雰囲気で話すんですよ、キャッシーは。」
「英語圏で売れると販売規模が一桁増える可能性が有るからな。
私の本ではたかが知れてるが、万里ちゃんならね、株式会社舞姫のロサンゼルス支社にするか、キャッシーを社長にして世界征服を目指すかだな。」
「舞姫の舞で世界が平和になれば、なんて夢みたいな話を普通に話しまして、そうなると英語版だけでは駄目なのですが、まずは英語版とDVDですよね。」
「多言語は一つの課題だね、英語版の進展を見ながら検討しよう。
地球市民党関連にも積極的にサンプルを流して行く事にするよ。
夢みたいな話でも進めてみないとね、沢山稼いで、沢山社会の為に使おう。」
「はい、キャッシーの話す売上額は始め円でイメージしてしまいまして、慌てて百倍してみて焦りました。」
「はは、普段使わない金額だったのだね。」
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起業-09 [シトワイヤン-20]

「万里ちゃんも二度目の西海岸で余裕みたいね。」
「ええ、愛華さん、流石我が妹です、今日のパーティーでも積極的に会話していましたよ。」
「流石と言えば、今回も招いて下さった会長へのプレゼント、とても喜ばれてたわね。
大金持ちには高価な品より、女の子からの手作りの品、手作りなだけでなく素材とした布が小学生の頃に着ていた服で、それにまつわる話の手紙を添え、手渡した時には別のエピソードを話してた、モノが重要なのではなく心を伝えることが大切なのよね。
彼は孫みたいに可愛い少女の話に頬が緩みっぱなしで、負担してくれた旅行費用は安いものになったのではないかしら。」
「そういうことなのですね。
私は万里に言われて、苗川銘菓舞姫を差し上げ、自分達で立ち上げた会社で製造している話をさせて頂いたのですが、凄く熱心に聞いて下さいました。
清香さんに手伝って貰わなくては出来ない、経済の専門用語を交えた踏み込んだ話まで、苗川高校生部会のこともです。」
「結構長く話してたと思ったらそうだったの。」
「その流れから、御自身のお孫さんとの交流を提案して下さり、連絡を取り合う事になりました。」
「それは良いわね、ついでに、株式会社舞姫、ロサンゼルス支社でも設立する?」
「はは、貿易しますか?」
「彼のお孫さんという事は幾つぐらいなの?」
「最初に連絡を取るのは同い年の女の子です、清香さんに手伝って頂いて万里のDVDを送る手筈を整えました。」
「万里ちゃんのDVD、ある意味我々の強力な武器なのよね、こっちにいる間に会えると良いわね。」
「はい、特に予定の無い日が有りますので…、あっ、清香さん。」
「智里さん、会長のお孫さん、凄く会いたいそうで明日にでもどうかと。
何でも万里ちゃんのDVDは視聴済だそうで、会長さんは今日のパーティーに呼ばなかった事で随分怒られてしまったのだとか。
会長さんの為にも如何です?」
「明日はロサンゼルス市内観光の予定でしたが、特別行きたい所が有った訳でも有りませんので問題ないです。」
「では、話を進めておきますね。」
「お願いします、お土産はどうしましょう?」
「『天から舞い降りた舞姫、鈴木万里』『舞姫万里と仲間たち』が良いと思いますよ、写真も多いし、アニメ経由で日本に興味が有る方だそうです。」
「では普通に万里のフルセットを用意しておきます。」
「緊張していますか?」
「う~ん、何から話そう…。」
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起業-08 [シトワイヤン-20]

「智里ちゃん、苗川銘菓舞姫は苗川名物になりそうだね。」
「はい、店に置きたいという問い合わせに応えきれない状況になりました。
本間さんの後押し有っての事で感謝しています。」
「はは、市長として当然のことだよ、高校生が活発に動いてくれる事は市をより活性化させるからね。
高校生部会は地方都市に可能性を示してくれてると思うよ、結局のところ若い世代が社会と良い形で係わっていれば、人が作り出す環境が自ずと良くなって行くのだと実感してるんだ。
自分の事だけで精一杯の人が多い中で、一市民として社会問題と向き合っている人達が影響力を持ち始めているからね。」
「その中心に何故か中学一年生の万里がいるのは不思議な感じです。」
「そうだな、他の誰にも感じたことのない不思議な魅力を感じさせる子、万里さまに誓って嘘ではない、なんて事を言ってる人がいたが、そういう存在なんだろう。
それで、万里ちゃんが会長を務める株式会社舞姫の今後はどうなるのかな?」
「銘菓舞姫は質を落とさない様に気を付けながら、思い切った設備投資によって生産能力を高め、効率的な収益アップを図って行きます。
『舞姫万里と仲間たち』は秋から月刊誌に。
四コマ漫画を含め、寄せらている原稿量は月間化に問題有りません、飽きさせない内容が課題ですが、大勢で様々な観点からチェック、『発行部数を落とさない』を合言葉に進めています。
もう一つ新しい取り組みとしまして、万里関係のグッズを考えています。
愛華さん達の展開と被らない商品を開発、製造販売して行きます。」
「その辺りは愛華くんと調整してるのかな?」
「はい、うちで考えているのはお守りの様なもので、手芸をやってる人が自作のサンプルを持ち込んでくれました。
可愛らしい袋の中に万里の写真を入れて売り出してみます。
一人で何個も買う様な商品では有りませんので地味に作って地味に売ってみますが、手作りなので初期投資は僅かで済みます。
その反応を見ながら、私達が扱い易い商品を模索して行こうかと。」
「それなら、苗川への訪問客が買うんじゃないのか、そういう手作り商品なら種類を豊富にし易いだろう。
そうだな、製造にお年寄りの力を借りるのも有りじゃないか。」
「あっ、『お年寄りに生きがいを』ですか?」
「ああ、そういう品物なら材料の布は端切れとか古着でも良いのだろ。」
「そうですね…、古風なのが今どきの若者に受けるかも知れません、老人会とも相談してみます。」
「頼むよ、老人にとって、ちょっとした暇つぶしが、ちょっとした小遣い稼ぎになるのが理想なんだ。」
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起業-07 [シトワイヤン-20]

「智里、『苗川銘菓舞姫』の売れ行きはどうなの?」
「まだ、出荷してる量が少ないから全部売り切れてるけど、勝負はこれからよ、梨花は試食してみてどうだった?」
「なかなか上品に仕上がったと思うわよ。
お婆ちゃんは、万里ちゃんの映像を見ながらのお茶請けに良いって言ってたわ。」
「地元で定着してくれたら嬉しいのだけどな。
その、万里の映像を毎日の様に見てる人達が喜ぶかどうかは微妙だけど、今度、歌のCDとDVDを出す事になったからね。」
「う~ん、歌手デビューか、歌も上手だからな、ねえ、万里ちゃんに苦手なことなんて有るの?」
「安心して、球技全般、ダメダメだから、体育だけは私の足元にも及ばないわ。」
「そうなんだ、まあ、万里ちゃんにスポーツは似合わないよね、で、歌はどういうきっかけで?」
「英語の歌を教えてくれてる先生がね、変な癖もないし普通に上手だからって勧めて下さったのよ。
愛華さん達は直ぐに乗り気になってチームを組み、英語教材として使うことを意識して作詞作曲を進め始めたのだけど、日本に愛国歌が無いのが残念、という万里の話をしたら、そちらでも盛り上がってね。
愛国歌だけでなく市民政党若葉のイメージソングも作ろうとかね。」
「へ~、面白そうだけど大変そうね、全部オリジナル?」
「ええ、日常英会話を歌にする感じで、万里が色々な人と掛け合う形、ミュージカルっぽくなるのかな。」
「覚えたら英会話に強くなれる?」
「それが目標だそうよ、『万里ちゃんと英会話』みたいなタイトルになるのかな。
夏休みはアメリカで撮影だけど、地球市民党関連の講演会と舞を披露する会も組まれるみたいだからスケージュールは厳しくなるかも。」
「智里も同伴?」
「ええ、本間市長も地球市民党関連の会議に呼ばれていてね、市民政党若葉様御一行となるみたいなの。」
「団体旅行?」
「行きの飛行機だけはね、向こうに着いてしまえば各自別スケジュールなの、でも苗川メンバーという事で和馬さん達と一緒に動くことは多くなりそう。」
「はは、和馬さん達もすっかり苗川の人なったのね。」
「どれくらい本心なのか分からないけど、万里と一緒にいたいそうよ。」
「その気持ちは、智里と同じということなのね。」
「同じにしないで、私達姉妹の結びつきはね…。」
「はいはい、長くなる前にストップ、私も舞姫さまにお会いしたいですわ。」
「そうね、今度うちで学習会やる?」
「ぜ、ぜひ、お願いします!」
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起業-06 [シトワイヤン-20]

「お姉ちゃん、『苗川銘菓舞姫』は『舞姫万里と仲間たち』の売り上げに支えられてとなりそうね。」
「ええ、始めは本を売って少し収入が有ればと思ったのだけど、和馬さんにアドバイスを頂き、愛華さんに協力して頂いて…。
株式会社舞姫が安定することは嬉しいのだけど、高校生起業の危うさから簡単に脱却してしまったわね。」
「起業の難しさとは向き合えた?」
「まあね、『苗川銘菓舞姫』の商品化に時間が掛かってるでしょ。
普通は、売れそうな商材を見出してから起業する所を、高校生の実習を重視してスタートしたから仕方ないのだけど。
でも、原料の価格問題から輸入の現状を考えるチームが出来たり、包装材料からゴミの減量化を考えたり、そんな活動も『舞姫万里と仲間たち』で紹介出来たのは良かったわ。」
「感想の中に、一つの商品に幾つもの企業が係わってることを知ることが出来て良かったと有ったわね。
確かに細かく数えたら直ぐに何百社とかになるのかな。」
「えっ、そこまで?」
「包装紙の印刷に使われているインクの原料、その製造機械の部品とか地味に数えてみる?」
「う~ん、細かく数えるとそうなるのか。」
「原材料によっては、その一つの価格変動が利益率に影響するのよね。」
「『苗川銘菓舞姫』はお土産品ということで原価率を抑えての販売を考えてるけど…。
まずは売れる商品でないと。
その上での販売戦略。
勿論『舞姫万里と仲間たち』を利用して宣伝してる訳で、これで売れなかったら、かなり不味いお菓子だと世間が判断した、ということになるわね。」
「試食して頂いてどうだったの?」
「美味しいのだけど、もう一工夫というか、一ひねり欲しいという意見が出たわ。
それで、味に変化をつけ、形とかも工夫する方向に。
まあ、最終段階に入ったと現場責任者が話していたので、それを信じましょう。」
「漠然と苗川の名物、というワードから始まったのだから、アマチュアの集団としては早いくらいじゃないの?」
「大勢の大人たちの力を借りてだけどね。
それでね、万里がオーナーならばと工場用地を好条件で提供して下さる話が出てね。」
「好条件?」
「代金は株式会社舞姫の株で構わないそうで、まだお会いしてないけど万里の信者だと思うな。」
「信者ね…。」
「お年寄りで今更現金は要らないし、相続を考えたら土地より扱い易いだろうという話でね、百株券二十枚ぐらいでかなり広い土地が手に入るのよ。」
「『舞姫万里と仲間たち』が今後も順調なら配当を出せるのかな。」
「編集部は盛り上がっているわよ、自分達の記事が多くの人に読んで貰える訳じゃない。
苗川の高校生とCitoyenがタッグを組み、総合雑誌として月刊化を目指すとか、進学や就職といった真面目な話題を入れながら、万里の信者向けのコーナーを充実させるのだとか、お父さんが今まで撮って来た写真も上手く組み合わたいと、担当者はお父さんと交渉中よ。」
「愛華さんは?」
「乗り気よ、苗川発の情報で影響力を持ちましょうって。
高校生ライターを中心に大勢で記事制作に当たれば月間でもこなせるだろうって。
今から冬の記事を書いて秋に掲載しても良いのだからね。」
「そうね、雑誌という一つの武器を持ってると、そこから可能性が広がるのかな。」
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起業-05 [シトワイヤン-20]

「智里、お帰り~、お土産有難うね。
アメリカ土産が普通の宅配便で届いたという事は、かなりの数だったの?」
「ええ、梨花には手渡しでとも考えたのだけど、誰を手渡しとか考え始めるときりが無いから全員の分を苗川の営業所に一括で送って、配送して貰ったの。」
「かなりの金額になったのでしょ?」
「収入が増えたから支出も増やさないとね、旅行自体は招待で、お金は使ってないから。」
「『舞姫万里と仲間たち』が売れてるのは向こうで確認してたの?」
「うん、出版社が強気だったから気になってね。」
「予定通りの売れ行き?」
「いや~、まったく予測出来なくてさ、万里の新作DVDが売れてるから、それなりにとは思っていたのだけど、日本のテレビ局が万里を追いかけてロサンゼルスまで取材に来たぐらいで。」
「その放送見たわよ、智里も万里ちゃんも普通に英語話してて格好良かった。」
「はは、私は大したこと話してないのよ、イベントでは、ちっちゃい万里に政治経済の話が沢山振られてね、知らない単語が出て来ると英語で説明して貰ってたけど。
でね、客席で見てた和馬さんがイベント終了後に、きっちり苗川大改造の本筋を説明しきってくれたと話して下さったの、少し興奮気味だったわ。」
「流石、万里ちゃんね。」
「苗川の高校生が起業を試みてる話は、時間の関係で次回に、なんて話してたから、万里は夏休みにでもまた行くつもりかも。」
「映像では見られなかったけど、舞も披露したのでしょ。」
「ええ、Citoyenデザイナー渾身の作を身にまとってね。
梨花は新作DVD、見てくれた?」
「もちっと、ろん、見させて頂きましたよ、父さんがいち早く予約してたからね。
楽器の演奏を控えめにした分、神秘さが増してるし、なんだろう何もかも包み込んでくれる暖かい微笑というか…、万里ちゃんって、ちっちゃい頃から不思議な子だったよね。」
「でしょ、それを向こうの人たちも感じたみたいでね、舞の終了後、かなり長い沈黙を挟んでからの熱烈なスタンディングオベーション、万里は静かに微笑みながらお客様方を見回すのだけど、その振る舞いがまた神聖さを醸し出していてね。
その結果、DVD、Blu-rayとも注文が殺到してるのよ、宣伝はお客さんがしてくれて。」
「そうか、言葉は関係ないし、でも英語圏で売れ始めると桁が違うのでしょ?」
「うん、当然、ポスターとか関連商品の売れ行きも伸びているから、工場の一つぐらい万里のお小遣いで建てられるかも知れないわ。」
「万里ちゃんが稼いだお金…、普通の新中学一年生なら持て余す様な金額でも、万里ちゃんは把握してるの?」
「間違えて脱税してしまうぐらいなら、払い過ぎる様にと言われるけど、本人、算数も得意でしょ、公認会計士とか税理士とかの資格を目指そうかなって話してたの、一応、帳簿のミスをして万里に指摘されることの無い様、担当に再度注意しておいたところよ。」
「彼女なら、どんな資格でも取れてしまいそうよね、私も頑張ろ。」
「梨花は将来の仕事、考えてるの?」
「親戚の店を継ぐ話が出始めてね、苗川大改造が無かったら無かった話なんだけど。
経理とか事務の事は学習しておきたいと思ってるんだ。」
「そっか、私もね、起業の活動を始めてから、自分が如何に何も知らなかったのか気付いたのよ。
クイズ番組を見る時ぐらいしか役立たない様な、高校の世界史とかでなく、大人になって働く時に必要な知識をね。」
「へ~、そうなの、智里は本間市長の懐刀として立派に働いてると思ってたけど。」
「色々教えて貰いながらなのよ、本間さんは私を教育する為に近くに置いて下さったのだと思って動いているのわ。」
「将来は市長とか?」
「そういうことは急がなくて良いそうでね、高校生起業とか色々経験を重ねた後に決めて行けば良いって言われているの。」
「ふふ、選択肢の一つでは有るのね。」
「いやいや、市長って大変なのよ。」
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起業-04 [シトワイヤン-20]

「智里ちゃん、高校生部会の起業はどうなってる?」
「名物の方は悪戦苦闘しています、高校生なりに頑張っているのですが、味だけでなく保存の為のパッケージをどうするかなど研究課題は山積みで、商品として店に置けるレベルになれば本間さんにも食べて頂けるのですが、もう少し時間が掛かりそうです。
でも『舞姫万里と仲間たち』は、予約が沢山入っていまして稼げそうです。」
「安心して旅行に行けそうなのかね?」
「はい、旅行中は報告を受けるだけにするつもりだと各担当に伝えて有ります。
報告のお返しは万里の写真をメールで送れば喜んで貰えるかと。」
「信頼出来るスタッフが固まって来たのだね。」
「ええ、基本的に社長中心の形が出来つつ有り、正式スタート、登記のタイミングなどは社長任せです。」
「智里ちゃんのポジションは?」
「取締役になります、万里の会社みたいなものですから、問題が無いかチェックして行きます。」
「資金は万里ちゃんのお小遣いだけでやって行けそうなのか?」
「工場次第になります、食品を扱いますので衛生面に問題の無い工場を自社で建てたいですが、まだ先の話です。
とりあえずはJR沿線で幾つか賃貸候補を見つけて有りまして検討しています。
土日に高校生、平日に一般従業員で稼働する代わりに小規模でのスタートを考えていまして、平日も高校生が早番で準備、遅番が夕方の作業をした後、片づけ、大勢が交代で入っても質の落ちない体制を検討しています。」
「アルバイトというより実習の意味合いが強いまま運営して行くことになりそうだね。」
「はい、それでも最低賃金ギリギリでは無く納得の行く金額を目指します。」
「立ち上げスタッフの給料は?」
「素人の高校生が進めていることですので、月給は目指せ配当の株券になりそうです。」
「紙の?」
「はい、万里の写真付きで売買し易い様にしますが、取引時の税金関係に注意する事でも社会の仕組みを知る機会になります。
実際、私たちは株式会社の株式について全く知らなかった事を知りました。」
「優良株を売るぐらいなら、銀行から借りた方が良いなんて高校では教えていなさそうだな。」
「その辺りの事は本当に欠けていると思います、マルチ商法の知識、詐欺に合わない為の知識も含め、一つの教科として教えて行くべきだと思います。」
「そうだな、市民政党若葉でも、もっと重視すべきだ、情報は流して有るのだろ?」
「はい、苗川支部発で具体的な内容の案を含めて。」
「分かった、私もフォローして行くよ。
それで、私は株をどれぐらい買わせて貰えるのかな。」
「万里を筆頭株主にしておきたいので一株一万円、百株までですね。」
「分かった、何時でも大丈夫だよ、株券が百枚手に入るのかな?」
「百株券の方が良いのか…、ただ子ども銀行券並みの扱いでは心配です。」
「う~ん、凝ったのを枚数限定で作ったら別の価値が発生するのだろうか…、私も紙の株券はそんなに見た事なくてね。」
「上場する訳では有りませんので、額面以上で取引される可能性はあまり考えていませんでした。
間違って捨てられることは、あくまでも配当を目指しますので心配していますが。」
「万里ちゃんの会社というだけで…、株主になれば株主総会に参加する権利を得られる訳だろ。
う~ん、株主優待とかも考えれば、上場企業でなくてもお金を集めるのに苦労する必要はないかもな。」
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起業-03 [シトワイヤン-20]

「万里、『舞姫万里と仲間たち』の概要、見てくれた?」
「うん、お姉ちゃんもCitoyenのモデルとして頑張ってね。」
「少し照れ臭いけど、姉妹写真に需要が有るそうだから…。」
「姉妹での写真は少なめにして貰うわ、中学生になるのに背の低さが目立つのはちょっとね。」
「仕方ないわね、では肩車して上げよう。」
「絶対に嫌!
えっと、創刊号の写真は来週撮影なのね。」
「ええ、万里は近況報告的な写真とCitoyenの新作、真冬に春夏の出で立ちだけど、屋内での撮影だから安心してね。
二号以降の分は春休みの旅行中に撮影だけど、自然に遊んでる感じで行けそう?」
「大丈夫よ、舞の時だって神の化身かの如く振る舞っていたでしょ。」
「如くなのよね…、時々神様が乗り移ってない?」
「ないない、演技よ、演技!」
「その言葉を信じなさそうな人ばかりなのよね、うちへの頂き物は全部万里へのお供え物みたいな感覚で。
うちで食べ切れなくなる様になってからは、お母さんが施設へ運んでるでしょ、この前、知り合いの職員から感謝されわ。」
「お役に立ってるのなら良いけど。」
「経費がかなり減って食事が良くなってるそうよ、お母さん的には現金にして欲しいのだろうけど。」
「家の前に賽銭箱を置くなんて案は話してないよね?」
「賽銭箱の中身をそのまま施設に寄付する形の方がすっきりするのだろうけど、お母さんとのコミュニケーションを楽しんでる人も少くなくないみたい。
実里にも手が掛からなくなったから、お母さんの役目が増えた事は悪い事ではないわ。」
「そういうものなの?」
「そういうものよ。」
「創刊号では私の仲間として苗川高校生部会の紹介をするのね。」
「仲間で無く下僕という案も結構真面目に検討されてたのだけど。」
「それは色々まずいでしょ。」
「まあ彼らのスタンスはそんな所なのよ。
万里に関われるだけで嬉しいし、万里の出資で起業体験を出来る、実習と研修を通して労働者としてのランクを上げるまでは下僕ぐらいが丁度良いと考えていてね。」
「指導は党の苗川支部の方にお願いしたの?」
「ええ、移住して来られた方が積極的に関わって行きたいと話して下さって、場合によっては高校生部会出身者を雇用と言う先々の事も視野に入れて下さってるのよ。」
「苗川に高校生の就職先が増えると良いね。」
「企業としても、地元の人なら住居の心配がいらないし、高校生部会は市民としての教育の場でも有ると理解して下さっているのよ。
社会と真面目に向き合ってる人なら雇い易いという一面も有るわね。」
「私達の会社でも実習生だけでなく正規雇用を視野に入れているのでしょ?」
「ええ、会社の規模を大きくして行きたいからね。
『苗川銘菓舞姫』と『舞姫万里と仲間たち』以外の事業展開も考える様に指示を出して有るのよ。」
「企業として利益を上げて行けそうなの?」
「正直、お菓子の舞姫は製造販売が軌道に乗るまでには時間が掛かると思う、でも『舞姫万里と仲間たち』は万里さえ協力的なら、それなりに利益を上げられるわ。」
「私次第?」
「万里が多方面で活躍すればするほど、万里関連の売り上げが伸びる事は愛華さんが証明して下さったでしょ。」
「お姉ちゃんも多方面で活躍するのでしょ?」
「身長が伸びたからか、リクエストが増えてしまったのだけど、普通に可愛いのも良い、と言われてしまってね。」
「普通にって、どういう事?」
「神々しくて超可愛い万里は、かえって疲れるんじゃないの。」
「え~。」
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