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夏休み-02 [シトワイヤン-18]

万里ちゃんは大人達と暫く話した後、僕らの所に来てくれました。

「初めましての人達、鈴木万里です、よろしくね。
ねえ、正一は、新しい仲間と仲良くなれそう?」
「うん、ノープロブレムだよ。」
「真一から聞いてくれたかな、もう引っ越しを済ませてる人もいるから、山や川で安全に遊ぶ為のルールを伝えて行く話。」
「聞いてるけど、僕はこの六人に伝えれば良いのかな?」
「そうね、大人達にも動いて貰ってる最中だから変わるかもしれないけど、お願い出来る?」
「もちろんさ、安全は何よりも優先、真一くんから何時も言われてるからね。」
「じゃあ任せたわ。
あっ、もうこんな時間か、私も水鉄砲で正一を撃ちまくりたかったな。」
「はは、和馬さんが暇そうにしてるから、早く行ってあげた方が良いんじゃないの。」
「うん、約束の時間だから、そろそろ行くね、みんな、まったね~。」

「武田くん、私ね、テレビに出てるアイドルと会ったこと有るのだけどさ。」
「へ~、そういうのが都会暮らしのメリットなのかな。」
「それがね、全然普通のお姉さん達で、従妹の女子大生の方が綺麗で歌が上手だったりするのよ。」
「そうなんだ、あんまし興味ないから分からないけど。」
「だから、苗川のアイドルなんて地下アイドルみたいな人かと思って失礼なことを言ってたかもなんだけどさ、ねえ、いるだけでオーラ出しまくりの、あの美少女は本当に人間なの?」
「多分ね、僕らにとっては小さい頃から面倒見て貰ってる、最高に優しいお姉さんなんだ。」
「何かお願いされてたけど、あの人にお願いされたら絶対断れないわね。」
「はは、断りたくなる様なお願いは絶対されないし、むしろお願いされるのは認めて貰ってる証拠で嬉しいんだよ。」
「そうなんだ。」
「それでね、みんなに聞いて欲しいのだけど、夏休み中の空いてる日に苗川を案内させて欲しいけど、どうかな。」
「それは嬉しいかも、早く慣れたいからね。」
「環境が変わって慣れていないということで事故に遭って欲しくないんだよ。
川遊びには川遊びのルールが有るし、クワガタ捕ろうと森に入る時もね。
都会の子に話すのは変かも知れないけど、交通事故にも遭って欲しくないし。」
「工事中が多いものね。」
「うん、古い町は道が狭いのに通り抜ける車が多かった、苗川大改造で道を広げ町を作り直している最中なんだ。」
「凄い事なのでしょ、道を広げるのは、そこに住んでいた人に引っ越して貰って、道路の面積が増えるという事は住める場所が凄く減ることだって聞いたわよ。」
「だから普通は反対する人が多くても不思議じゃないんだって、でも苗川はね。」
「うん、反対する人が少なくて効率良く工事が進んでいるのでしょ、町が姿を変えて行くのは楽しみだから工事は仕方ないのよね。」
「でね、工事の人達と情報共有をしてるんだ。」
「情報共有?」
「元は工事を見学したい人向けの情報で、建設機械の紹介だけでなく見学するなら見易くて安全な場所と時間、車両の出入りが多くて出来れば近付いて欲しくない場所とか時間を教えて貰っているのだけどね。
僕らは学校が始まればあまり関係ないのだけど、知って行動していれば危なくないし、作業効率にも影響するそうなんだよ。
ダンプカーが無駄に歩行者を待つ時間を減らすだけで、燃料の節約になるし空気を汚さずに済むんだ。」
「綺麗な空気を汚したくないということなのね。」
「うん、道路が新しくなってる所では、信号待ちの時間を減らす実験にも取り組んでるよ。」
「知ってるわ、国道は制限速度を守っていると信号待ちの回数が減るのでしょ、お父さんは信号待ちゼロを目指して運転してるって話してた、そうそう、家の近くにラウンドアバウトの交差点が出来てて新鮮だったわ。」
「僕も気に入ってる、お洒落だよね。
あっ、僕らの番だ、後の話は終わってからするよ。」

それから水鉄砲を使ったゲームを中心に色々とみんなで遊び、今日初めて会った子達とも楽しめました。
特に、積極的に話してくれた清水さんは、鹿丘小の五年生にはいなかったタイプの子ですが仲間として早く打ち解けてくれそうです。
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夏休み-01 [シトワイヤン-18]

僕は、武田正一、鹿丘小の五年生、今は充実した夏休みを過ごしています。
神社のお祭りでは緊張することも有ったけど、六年生リーダーの万里ちゃんからは合格点を貰えたし、万里ちゃんが決めてくれた夏休みの宿題も順調で、えっと、ノープロブレムです。
今日は苗川市民祭の小中学生向けイベント、会場の小学校には転校予定の子も来ていて、子ども同士の交流が始まっています。

「ねえ、このグループは鹿丘小へ転校予定の子が一緒だって聞いたのだけど。」
「ええ、私達は引っ越しを済ませたわ、この子達は違う小学校からなんだけど、お父さん達が同じ職場で働き始めているのよ。」
「そっか、僕は鹿丘小五年生リーダーの武田正一、よろしくね。」

十二人のグループの半分は転校予定、残りは鹿丘小の児童ということで、自己紹介をし…。

「ねえ、鹿丘小ではいじめがないってホントなの?」
「今の所はね、転校生にいじめっ子がいたら嫌だな。」
「そっか、でも、どちらかと言うといじめられてた子が多くなりそうだから、気を付けてあげなさいって親に言われたわ。」
「あっ、四月からの子にもいたよ、ほら、今、水鉄砲で遊んでるグループの青い服の子。」
「へ~、普通に可愛い子じゃん、友達になれるかしら。」
「越して来た頃は暗い感じの子だったんだけどね。
逆に君みたいな子は、田舎暮らしに抵抗はなかったの?」
「そりゃあ、友達と別れるのは辛かったわよ、でも下見に来た時の山の風景や…、知らない大人は怖い人だと思って目を合わせず距離を置くように言われてたのに、苗川の人達は全然そんな雰囲気じゃなくてさ。」
「苗川しか知らないから良く分かってないんだけど、お祭りの指導をしてくれる人は苗川の大人は特別なんだって言ってるよ。」
「うん、越して来て間が無いけど、満員電車にはもう耐えられないと話してたお父さんに笑顔が増えたのは事実だわ。」
「あっ、万里ちゃんだ。」
「万里ちゃ~ん!」
「手を振ってくれてる女の子は僕らのリーダーでね。」
「知ってる、映像で見たわ、思ってたより小さくて可愛いのね、十万十二歳、苗川のアイドル、大人達が夢中になってるとか。」
「はは、万里ちゃんは僕らのお母さんだったりお姉さんだったり先生だったりするんだ、先生のいう事を聞けない低学年の子でも、万里ちゃんの言う事には大人しく従うんだよ、転校して来て嫌な思いをしたら僕に話してくれて良いけど、万里ちゃんに相談すれば解決が早いからね。」
「へ~、テレビ番組だから大袈裟に話してるのかと思ってたけど、ホントに人気者で頼りにされてるんだ。」
「十万十二歳説は大人が勝手に言ってることで、あまり好きじゃないみたいだけど、苗川のアイドルなのは間違いなくてね、うちにも舞姿の写真が飾ってあるんだ。」
「何となく分かるわ、周りの人達の表情が違うし…、あっ、会場中の人達が注目して笑顔になってるような…。」
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お祭り-10 [シトワイヤン-17]

通称、清香村は、市街地から少し離れた廃村を整備し直しての開発が進んでいるエリア。
高級別荘地の他は、主に都会からの移住者が住んでいる。
車で二十分程度の距離だが、私達にとっては初めての訪問。
どんな村になっているのか興味が有る。
そこでのイベント『新しい村祭りを考える』へ招待されたのは、清香さんの、村人に私達を紹介したいという意図が有った。
行きの車中では…。

「万里ちゃん、結構山奥だろ。」
「はい、和馬さん、この辺りの道路工事は後回しなのですか?」
「ああ、この道から先は清香のとこの社員しか住んでいないからね、ファミリーが暮らし始める頃には間に合わせるそうだが、まだ先のことだよ。」
「という事は、新しい村祭りのスタートに子どもの参加は無いのですね。」
「村人の子どもはいないが、社員の子どもなら町に住んで鹿丘小学校に通ってる子がいるが、まあ神社のお祭りみたいには参加できないだろうな。
その代わりでもないが、苗川の舞姫が秋祭りに降臨という要望は出ているんだ。」
「万里の出番ですか?」
「はは、私としては智里ちゃんの舞も見てみたいのだがね。」
「お姉ちゃんが男装してというのはどうかしら、何の由来も伝承も無くて良いのなら。」
「なに、そんなものはでっち上げれば良いのさ。
取り敢えず女神像を祀って賽銭箱を置いてみたら結構儲かってね。
そうだ、万里ちゃん像を作ってだな、愛華、売れると思わないか?」
「そうね、家の守り神として買う人は少なくないでしょうね、売値は…。」
「あ、あの~、私のフィギュアなんて売れないと思うのですが。」
「万里ちゃんの写真が苗川のそこらじゅうに貼られているのは知ってるでしょ?」
「えっ、少し目にしたことは有ったけど…。」
「私達の写真やポスターも貼って頂いてるけど、完全に負けてるし、万里ちゃんの写真を拝んでる人の姿を良く見るわよ。」
「う~ん、時々私に向かって手を合わせる人はいるけど…。」
「孫が世話になってるとか、神様の子どもだからとか聞いたことが有るんだ。
伝説はすでに始まっているのさ、ストーリーは愛華が史実に則とってでっち上げる。」
「どうしてそうなるのですか?」
「それだけ、万里ちゃんの舞が神々しくて我々の心を射抜いたということさ。
舞を一緒に見ていたミュージシャンも射抜かれた一人で、次々と発想が広がっているそうだよ。」
「えっ、和馬さん、万里の舞はすごい大御所とご覧になられていたかと思いますが。」
「ああ、彼だよ、今頃、万里ちゃんの到着をワクワクしながら待ってるだろう。」

『新しい村祭りを考える』というイベントは私達が想定していたのとは全く違うものだった。
万里が村に降臨し繁栄をもたらす、なんて筋書きが出来ていて、一つの鼓に合わせシンプルに舞始め、ラヴェルのボレロ の様に盛り上がって行く曲のサンプルも出来上がっていた。

「私達は覚悟を決めて移住してきたけど、どこかに迷いが残ってた気がするのよ、それがね、万里さんの舞を見ていたらなんか吹っ切れてね、私だけじゃないの、そこのごつい男は目に涙を浮かべていたし、それでね、会った事もない神様より、私達の村の守り神には万里さんになって欲しいのだけど。」
「いえいえ、ただの子どもですから。」
「舞を見た後に告白して結ばれたカップルが何組かいるのだから、縁結びの神さまでも有るのですよ。」
「ついでに安産の神様とか。」
「はは、何でも有りだな、神様でなくても、精霊とか妖精とか座敷童でも良いんじゃないか。」
「万里、面白そうじゃない、そうね、捧げものはステーキとか、満月堂のケーキとかにして貰いましょう。」
「もう、お姉ちゃんたら、恥ずかしいわ。」

そして万里は神格化された舞姫となった。
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お祭り-09 [シトワイヤン-17]

市民祭の一環として、普段は市民政党若葉のシステム上で議論している人達のグループが苗川で顔を合わせてのフォーラムが開かれている。
その中で鹿丘小学校の活動に注目しているグループに呼ばれ参加する事になった。

「智里さんが『格好の良い子どもになろう』と提唱し始めた頃の小学校はどんな感じだったのですか?」
「他を知りませんが、普通の田舎の小学校だったと思います。
ただ、高校生になって他の生徒の話を聞いていると、純粋な良い奴ばかりだったみたいです。
大人達が変わろうとしてるの感じ取ってた子どもは私だけではなかったですし。」
「大人達の変化はそれほど顕著だったのですか?」
「本間市長の影響を一番早く受けたのは、お祭りの実行委員なのですが、小学生の子を持つ親は地域活動に参加する人が多いのです。
私の両親も『あまり肩ひじ張らずに子どもから尊敬される親を目指す』というテーマで討論していたそうです。」
「それを受けての『格好の良い子どもになろう』だったのですね。
高校生になられた今は、その時の意識改革をどう捉えていますか?」
「そうですね、小学生ながらに共通のテーマを持った事は本当に良かったと思っています。
スタートした頃は本当に試行錯誤でしたが、すでに鹿丘小の伝統となり妹達が引き継ぎ発展させてくれています。
これから転校生が増えますので形が変わるかも知れませんが、転校生達がどんな気持ちで田舎に越して来るにせよ意識改革の意味は強くなると思っています。」
「万里さんはそんな意識改革が進んだ鹿丘小で成長されたのですね。」
「いえ、私達も低学年ながら意識改革を進めてきました、むしろ高学年より視野の狭い子が多い訳で姉達とも色々相談したのです。」
「智里さんは低学年をどう見てたのです?」
「万里の言う通り、低学年は内面の格好良さというテーマを考えるには早いのですが、周りの環境が整っていれば効果的な教育が出来ると思っています。」
「鹿丘小ではその環境を作る事に成功したということですね。」
「はい、小学一年生だった万里は私達や大人の話を理解し、周りの子ども達に伝えてくれました。
ただの美少女ではないのですよ。」
「万里さんは、本当に理解していたのですか?」
「そうですね、姉や大人達の話に耳を傾けるのは好きでしたし、姉が正義感溢れる人ですので、私も周りの子の面倒を見ることを自然としていました。
ただ、鹿丘小で『格好の良い子どもになろう』が進んだのは決して特別なことではなく、単に児童の多くが『格好の良い子どもになろう』を意識しているからだけだと思っています。」
「それを意識させる切っ掛けを作って来たと考えれば宜しいですか?」
「はい、大人達もして来たことです。」
「私の住むエリアでも『格好の良い子どもになろう』を根付かせたいと考えているのですが、子どもの自主性任せでは難しい気がしています。
どう、切っ掛けを作れば良いと思いますか?」
「小学校へ見学に来られる方と話す機会が有り、同様の話を聞きますが、私は、大人扱い出来る子を見つけて大人扱いすることから始めてみては、と提案させて頂いています。
私達はまだ子どもで大人では有りませんので、すべてを大人扱いする必要は有りませんが、小さなことでも、それが増えれば。
苗川には私を大人扱いする大人が大勢いるから、今、この場に私がいるのです。」
「子どもによっては、大人扱いされることで成長する、と考えれば良いのでしょうか?」
「もちろん、背伸びをさせ過ぎて行けません、大切なのはバランスです。」
「はい、気を付けます。」

それから暫く大人達は万里から有難い言葉を頂くのに夢中になる。
話してる内容は凄く特別なことでも無いのだが万里が話すと心に響く様で、会が終わる頃にはすっかり主役となっていた。
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お祭り-08 [シトワイヤン-17]

神社へは浴衣を着て出かけた。
もちろん、お目当ては屋台。
食べ物すべてを姉妹で分け合うのは、量より種類を楽しみたいから。
万里が口を付けた残りを私が受け取るが、念の為、私も残り全部を食べず、近くで飢えた顔をしてる連中の餌に、市民祭の期間中は特に美味しい物を頂く機会が多いので注意が必要なのだ。
万里目当ての人垣が出来ているが、皆さんマナーを守って下さるので普通に楽しめている。

「高橋さん、たこ焼きの売れ行きは如何です?」
「おう、万里ちゃん上々だよ、どう、一つ味見する?」
「そうね、一つ下さい。」
「智里ちゃんの分と二つ、俺の奢りで良いよ。」
「いえ、二人で分けるから一つ、ね、この浴衣どうです?」
「似合ってるが…、なんか同じのを良く見てる気がする…。」
「Citoyenのなの、私がモデルでね。」
「なるほど。」
「ちゃんとモデル料を頂いてるのよ、だから利益が社会福祉に使われる高橋さんの売り上げに貢献させてね。」
「分かったよ、はい、どうぞ。」
「有難う。」
「万里、たこ焼きは私が先よ。」
「うん。」
「熱いからね、ちょっと待ってって…、ふ~ふ~、もぐもぐ、うん大丈夫ね、はい、あ~ん。」
「うん、美味しい、高橋さんの修業の成果が出てるのね。」
「はは、同級生の店を随分手伝ったからな。」
「なっかむっらさ~ん、たこ焼きを食べる姉妹と題して写真、お願い出来ませんか。」
「おう、任せな、俺のカメラでも撮って良いかな?」
「構いませんよ。」
「私も写して良いですか?」
「そうですね、万里を撮影したら下がって下さいね。」
「はい。」

暫く撮影会、その後、移動。

「お姉ちゃん、大人に注意されてるあの子たちさ、危ないと言えば危ないのだけど男の子にとっては普通の遊びでしょ。」
「あれぐらいは、私もやってたわ、万里はしないの?」
「しないわよ、どうしてみんなは高い所が好きなのかしら。」
「そりゃあ、見下ろす感覚、そこから勢いよくすべる爽快感。」
「ふ~ん、でも微妙なのよね『危ないからしちゃいけません』なのか『少しぐらいの怪我は経験の内』なのか。」
「簡単に怪我をする様な、どんくさい奴、鹿丘小にはいないでしょ。」
「でもさ、これから転校生が増えるでしょ、今でも真一は、自分達が当たり前の様に教えられて来たことを知らない転校生が、事故に遭わない様にって随分気を遣っていてね。」
「そっか、真一は本当に格好良い、絵里がいなかったら私の彼氏にしたいぐらいだわ。」
「絵里が傷つきそうな事は冗談でもしちゃだめよ。」
「分かってるわよ、でも夏休み明けにまた転校生を迎えるのだから、フォローを考えないと行けないかもね。」
「ねえ、大人だって移住して来て山や川のルールを知らない人がいると思わない?」
「うん、大人だから大丈夫って先入観は禁物よね、万里、ちょっと電話して良い?」
「良いわよ、あそこの射的で熱くなってる人を見てるから。」

安全は最優先課題、関係しそうな人達と話してみたら、思っていた以上に見落とされていた感を受けたので、本間市長にメールを送る。
直ぐに来た返信は…。
『油断大敵、直ぐに指示を出す、何て書いてる私はアツアツのたこ焼きで舌が火傷気味なのだがね。』
そうそう危険はどこにでも有るのです。
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お祭り-07 [シトワイヤン-17]

オープニングイベントは市民祭期間中の各イベントを紹介することが目的でも有り、各出演者の持ち時間は短い。
その為舞台裏は大変で、終盤、舞台セットの入れ替えに思わぬトラブルが発生、私達の出番となる。
プログラムには無いトークタイムだ。

「ねえ、苗川は、これから神社のお祭りに市民祭なんだけど、万里はお祭りについて考えたこと有る?」
「そうね、お祭りと言っても色々なのよね、神社の祭礼は宗教的な意味合いが有るけど、市民祭は皆で楽しんだり、真面目なイベントも。」
「何も考えずにたこ焼き食べてる子がいそうだけど。」
「ふふ、それも大切だと思うな、お祭りでたこ焼き食べたというのが苗川の想い出になるかも知れないでしょ。
ちっちゃい頃のお祭りでさ、お姉ちゃんにおんぶして貰ってほっこりしてたら、お姉ちゃん、何かの順番がどうとかで男の子と喧嘩を始めたことがあったよね。」
「はは、私は負ける気しなかった、でも、あの連中は万里の安全を考えてくれて、それで直ぐに収まったのだけど、あの時、万里は何考えてたの?」
「お姉ちゃん、頑張れ~って。
でね、こんな話をお婆さんになった私達はお茶を頂きながら想い出話として語り合うのよ。
そんな事が、お祭りの大切な目的なんだと思うわ。」
「お祭りの委員を歴任してきた私としては、もう少し深い意味とか…。」
「はいはい、お姉ちゃんの話は後で聞いてあげるからね。
会場の皆さんにお願いします、市民祭の期間中、子ども達が危ない思いをせずに楽しい想い出を作れる様に、もちろん大きくなった子ども達も楽しんで下さいね。」
『は~い!』
「万里ったら、大きい子ども達まで手懐けて…。」
「お祭りはね、地域のみんなが年齢に関係なく一緒に準備し、一緒に楽しむ事が大切なのよ。」
「そうね、そこがお祭りの大切なところでしょ、普段の生活では接することのない人とも触れあってさ。」
「うん、お菓子を頂いたりね。」
「万里は花より団子か、でもそれだけなの?」
「学校生活だけでは経験出来ない様々なことを教えて頂いてます。」
「万里は私が小学生だった時とは違うのよね。」
「ふふ、お姉ちゃんは納得のいかない事に対して、すぐ喧嘩腰だったのでしょ、私には真似出来ないわ。」
「はは、中学生の頃はそうだったかしら…。」
「でも、お姉ちゃんみたいな人がいて、組織がまとまって行くのよ。」
「もう、ナマ言って。」
「皆さん、こんな姉ですが、今回の市民祭に合わせて動き始めた苗川高校生部会でも活躍して…、ねえ、お姉ちゃん、苗川高校生部会は今日のイベントで表に出てないから、ここで紹介させて頂いたらどう?」
「そうね…。」

思っていたより、準備に手間取ったお蔭で色々な話をさせて頂けた。
舞台上での万里とのトークは途中から万里のペース、その辺りから会場が盛り上がったと思う。
何を話せば良いのか私以上に分かっている、そんな妹なのだ。
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お祭り-06 [シトワイヤン-17]

イベント中、幕間に軽く私達のトークを挟む。

「お姉ちゃん、今年の市民祭はイベントが増えたね。」
「ええ、二週間に渡ってあちこちに分かれてだから、全部回るのは不可能になったわ。
万里はどのイベントに興味が有るの?」
「市内のサークル紹介、参加型イベント、中学生になったら何か始めたいのよ。」
「スポーツ?」
「う~ん、しごかれるのは駄目かも。」
「文科系だって、しごきがきついかもよ。」
「そうなの?」
「ブラバンや合唱だって体力勝負なんだから。」
「そっか、私、姉ちゃんほど逞しくないからな。」
「そうね、少しだけなら筋肉をつけても良いわよ。」
「少しだけ?」
「筋肉ムキムキの万里なんて見たくな~い。」
「そんな根性有りませ~ん。」
「でも、問題はサークル関係者の方ね。」
「何が問題なの?」
「皆さん、万里を是非うちへと、虎視眈々と狙ってそうでしょ。」
「そうかしら?」
「はい、次は万里を一番狙ってそうな老人会、古城クラブの歌と踊りです。」
「私に参加資格が有るのかしら?」
「では、どうぞ~。」

演奏が始まった、舞台裏で。

「さすがだね、智里ちゃんと万里ちゃんが登場するだけで会場の雰囲気が変わるよ。」
「そうですか?」
「紹介は三組が交代で担当してるが、二人の時だけだよ、演奏の時より観客が舞台に集中しているのは。」
「まあ、超絶美少女、万里の姿を瞼に焼き付けたいでしょうからね。」
「姉として妹に嫉妬するとかないの?」
「世界で一番大好きな万里に嫉妬なんてしませんよ、ね、万里。」
「お姉さま~、おやつはアイスが良いです~。」
「はい、はい。」
「あっ、おやつは私が用意するよ、好きな銘柄とか有れば教えてね。」
「えっと、お姉ちゃんは…。」

万里自身、こういった話題は好きではないので話をすぐにはぐらかす。
でも、冷静におやつをゲットすること忘れていない、良く出来た妹なのだ。
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お祭り-05 [シトワイヤン-17]

市民祭での私の役目は主に相談に応えること。
中三だった昨年は、仕切る立場だったが今年は一歩引いてスタッフ達を支える立場。
高校生スタッフと大人のスタッフを繋いだりした。
ただ、市民政党若葉党支部システムに送られて来る準備状況の報告に問題は無く、思っていたより学習が捗り、市民祭初日のオープニングイベントを迎える頃には、夏休みの課題を終え予習に重点を置くことが出来た。

「お姉ちゃん、今日のオープニングイベント、途中で着替えるのよね、服は持ってかなくて良いの?」
「そっちは愛華さんとこのスタッフ任せ、今日の万里は着せ替え人形となって大人達のされるがままとなり、舞台に華を添えるのよ。」
「客席で見てるだけの筈だったのに。」
「うん、始めは予定に無かったのだけど、客席にいるより舞台上の方が安心出来ると警備担当に言われて断れなかったのよ。」
「愛華さんの陰謀じゃなかったの?」
「その匂いもするし客席を確保したいとか、疑い出すときりがないのだけど、万里が席に辿り着くまで何人の人に声を掛けられるかを想像したら、関係者の控室や舞台にいた方が楽だという結論に達したのよ、客席の暇人と違ってスタッフには仕事が有るでしょ。」

出掛ける前は家でこんな話をしていたのだけど、会場入りして、早速テレビ局のクルーが取材に来たことを考えると、警備担当の判断は間違っていなかったのだと思う。
オープニングセレモニーでは姉妹で巫女さん風の衣装を纏い、市民祭の開会宣言をした。
後は…。

「お姉ちゃん、市民合唱団、随分上手になったわね。」
「ええ、移住して来た人の中に指導の上手な人がいてレベルアップしたとは聞いてたけど、思ってた以上だわ。」

合唱団の演奏が終わり、舞台袖で…。

「万里ちゃん、去年よりは上手になったでしょ。」
「ええ、とっても。」
「万里ちゃんが見ててくれたから安心して歌えたのよ。」
「俺は、愛の歌を万里ちゃんに向けて歌ったんだ。」
「はは、禿親父では迷惑よね。」
「なんか変な感覚だけど、子どもの頃、お母さん見ててって縄跳びしたりしてたの思い出したな、万里ちゃんに見てて貰えて。」
「私も嬉しかったわ、お守り代わりに万里ちゃんの写真を持ってたけど、ご本人がいてくれて。」
「はい、皆さ~ん、控室へ移動しますよ~。」

「えっと、万里って、市民合唱団の何?」
「知り合いが多いかな。」
「それだけ?」
「指揮をしてみえた方は移住して来た方だけど、音楽の授業で合唱指導して下さったの。」
「そういう交流も有るのね。
次は…、中学のブラスバンド…。」
「万里ちゃん、見ててね。」
「お~、ラッキー、万里ちゃんが見ていてくれるなら何時も以上の演奏が出来そうだぜ。」
「今日の演奏は万里ちゃんに捧げるわ、みんな良いでしょ。」
「おう、気合が入るぜ。」

私の大切な妹は、知らぬ間に特別な存在に…。
顔見知りばかりだが、私には軽く会釈する程度なのだ。
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お祭り-04 [シトワイヤン-17]

神社関連のお祭り実行委員会と市民祭実行委員会は別組織として動いている。

「神社関係は概ね例年通りなのですね。」
「ええ、スタッフの入れ替えを行っていますが、要所要所はリーダー格が押さえます。
今年、規模を拡大した市民祭は如何です。」
「市民祭は規模こそ大きくなりましたが、二週間という事で、会場も日程も分散させ無駄に人が集中しない様に調整しました。
ライブ関連が一番心配ですが、若手が特別スタッフチケットを用意しましてね。」
「スタッフチケット?」
「スタッフグッズ込の価格なので一般のチケットより高い上、会場整理を手伝う事が条件なのです。
スタッフ心得を守ると署名した上でスタッフグッズを受け取る形ですが、一般チケットより売れてるそうです。」
「はは、会場がスタッフばかりなら安心だな。」
「問題がなければ今後ライブイベントの回数を増やしたいそうです、地方都市に若者文化が定着することの意味は大きいですから。」
「それは間違いない、ライブハウスの話はどうなっています?」
「乾社長が進めて下さっています、平日昼間はお年寄りによる大正琴の演奏も有りだそうで。」
「なるほど効率が良さそうだな。
乾社長と言えば、山田さん、担当社員として清香村イベントは如何ですか?」
「はい、普段入る事の出来ない高級別荘地でのイベントは、枠を抑えた事も有ってか、料金を高めに設定したにも拘らず、すぐに完売しました。
敷地内の散策やバーベキューといった企画で新人教育を兼ねます。
小学校の敷地をお借りして行う水遊びイベントは、教室の利用許可を頂きましたので、天候急変時でも安心です。
皆さんには、企画を検討する段階から私ども移住者が動き易い様ご配慮頂きまして感謝しています。」
「夏の屋外イベントは限られますからね、使う水鉄砲は、そのレベルが違うと聞きましたが。」
「はい、別荘オーナーの息子さんが色々試してみたいと用意して下さいまして、別荘地で試した時は、水の届く距離が微妙で盛り上がっていました。
小学校では子どもが楽しめる様に色々なゲームを設定してあります。」
「別荘オーナー関係の方が遊びに来られるとかは有りますか?」
「はい、皆さん楽しみにしておられます。
警備に配慮が必要な方の情報は随時本部へ入れさせて頂く手筈になっています。」
「テレビ局の取材関連は如何です?」
「私が把握しているのは別荘の取材のみです、市民祭関連が有れば直接本部へ行ってると思うのですが。」
「はい何本か来ています、ただ昨年は突然の取材が有りまして、少し混乱しました。」
「アポなしでしたら、原則お断りで構わないと思います、毅然とした態度が必要だと思います。
宣伝したいと考えている店を紹介してお引き取り願うとかで。」
「う~ん、そうですね、紹介はしてあげたいが、市民祭期間中、情報は上手く共有出来るのかな。
システムは出来ていても、運用するのは人です、自分の作業に集中している人ばかりだと…。」
「まあ、イレギュラーなんだから気にしなくて良いだろう。
事前申し込みのない取材はお断りさせて頂きますと明記して有るのだから。」
「お断りして印象が悪くなるということは?」
「気にし始めたらきりがないでしょ。」
「事前申し込みも出来ない奴に限って、悪意有る誘導記事を書きそうなんですよ。
大手の新聞社ですら偏向報道をし、民意を誘導しようとしていますからね。
ネット情報なんて個人的な感想や推測だけで書かれたものが少なく無いです。」
「情報化社会では有るのだろうけど、一部では要注意情報に溢れた社会になってしまってるのよね。
市民政党若葉主催のトークイベントでも、この問題を大きく取り上げる方向にしますわ。」
「市民政党若葉のイメージを落としたいと考えてる輩もいるからな。」
「そんな勢力に負けない為には工夫も必要かな…。」

市民祭実行委員会のメンバーは市民政党若葉苗川支部を立ち上げた人が中心になっている。
市民祭の間、社会問題に関する真面目なイベントが幾つか有るのだが、その規模が年々拡大しているのも苗川市民祭の特徴だと思う。
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お祭り-03 [シトワイヤン-17]

愛華さんと万里の話を沢山したから何時も以上に気分良く会議へ望めた。
特に何かを決める会議ではなく、皆さんからの報告や気付いた事を聞くのがメイン、堅苦しい会ではない。
先にゴミ焼却場などの話を済ませ、話題は市民祭に。

「設備は安全面に問題の無い様、計画段階からチェックをして貰っています。
設営が始まったら消防団が火器を使う所を中心に安全確認作業を行いますが、運営に係わるスタッフ全員、小学生から老人クラブまで気付いた事が有れば些細な事でも教えて欲しいとお願いして有ります。」
「はい、高校生以下に関しまして確認しました、市民祭期間中は安全確認を怠らない様、声掛けをして行きます。」
「毎年の事だからと気が緩まない様に、安全確認は大勢の目でお願いします。
ログハウス村のチェーンソーを使うイベントとかは注意する人も多いと思うのですが、昨年は神社の祭礼に予想をはるかに上回る来場者が有っての混乱、油断大敵です。」
「でしたね、智里ちゃん、今年も万里ちゃん舞ってくれるの?」
「はい、神社の方は五年生に任せまして、観客が多くても良い様にイベント広場の方で時間を作りました。」
「小さかった頃の智里ちゃんの舞も良かったよ、姉妹で舞うということは考えてないの?」
「はは、私は万里の舞を見て幸せに浸っていたいです。」
「今一つ読めないのが神社での舞を見に来る来場者数なんですよ、昨年は明らかに万里ちゃん目当てだったじゃないですか、対策はして有るのですが。」
「多過ぎる時は入場制限してイベント広場へ誘導なんでしょ、神事なんてことを気にしてる人は少ないから大丈夫なんだけど、イベント広場を宣伝し過ぎると、神社の方が寂しくなり兼ねないわね。」
「まあ、儂らは見物に行くし、五年生達は親戚が見に来てくれるぐらいが良いみたいだよ、間違っても万里ちゃんと比べない様に気を付けてやれな。」
「子ども達には舞の練習を頑張ったと褒めて有ります、出来栄えは二の次ですし、彼らにとって万里ちゃんは別格ですから大丈夫でしょう、なあ智里ちゃん。」
「はい、小中学生は少し転校生が増えただけで特に問題は無さそうです。」
「問題は新規の団体かな?」
「苗川高校生部会は、先輩方が積極的に手伝ってくれそうです。
大まかな人員配置をしていますが、状況に応じて真っ先に動くチームと考えて下さい。」
「それは頼もしいね。」
「苗川での就職を考えている人も少なくないのです、苗川の目指しているものに憧れてその一員になりたいという人も。
すでに染まってる人が多くて皆さん格好良いのですよ。
バイトの時に、同じ価値観の人に囲まれ少しずつ変われて、それが他でも自然に出せる様になり、自分って自分が思ってたより良い奴なのだと気付かされたそうです。」
「俺もそうだったな、まあ、俺達は凡人なのだが…、なあ、智里ちゃん達はこのまま聖人君子とかになって行くのか?」
「それはないですよ、最近の私は反抗期みたいですし、万里はイタズラもするのですよ。」
「どんなイタズラを?」
「伊藤さん、最近、片付けようと思っていた古紙が、トイレから戻ったら無くなっていたなんて経験有りませんでしたか。」
「あっ、離れていたのは大した時間じゃなかったし、周りの皆は自分の作業を普通にしていて、狐につままれた気分…、儂が耄碌した訳ではなかったのか…。」
「あの場にいた子ども達が犯人なのです。」
「子ども達は、お茶を入れてくれたり、何時も通り優しかったから訊くに聞けなかった…。」
「イタズラも格好良くなのか。」
「まあ、腰の調子が少し悪かったのを見抜かれていたのかも知れない、そういう子達だよ。」
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