SSブログ

舞姫-03 [シトワイヤン-24]

「姫さま、発見と言うか最近ずっと考えているのですが、学校教育って元々富国強兵とも関係して、本来労働力を高める意味が有ったと思うのです。
ですが、実際に仕事の現場を体験してみると、学校では大切なことが欠け落ちている気がするのです。」
「長田さんは何が欠け落ちていると感じましたか?」
「例えば、高校生でも底辺レベルの連中は、授業内容をろくに理解もしないで卒業して行きますが、もし授業を聞いていたとしても、それが卒業後にどれだけ役に立つのか大いに疑問なのです。
彼らにとっての高校は、ただ単に体と心が大人になるまでの繋ぎで、取り敢えず高校みたいな。」
「そうですね、何らかの技術を身に着けようという気持ちが有れば少しは違うかも知れませんが、何の為の学校教育なのか、今まで疑問に思わない人ばかりだったのが不思議でなりません。
漠然と通う高校で将来の進路をどう考えて…、いえ、考えてなさそうな人が少なからずいそうだと、姉の話を聞いていて思いました。」
「自分もその一人です、将来の仕事のことなんて見えてませんでした。
勿論、しっかりした目標を持ってる人もいましたが、そもそも大人達がどんな仕事をして稼いでるかなんて知る由もなく。
自分は高校をドロップアウトしてチーム再起動に拾って貰ってなかったら、そうですね、就職して始めて会社の仕事を知り、愕然として、すぐにやめるパターンになったかも知れません。」
「姫さまは舞姫としてだけでなく中学三年生の頃から活動の幅を広げて来られたのですよね。」
「ええ、小学生の頃から学習に対して真面目に取り組み過ぎた結果、中学の授業を必要としない中学生になっていましたので、先生にとっては嫌な子だったでしょうね。」
「先生より教えるのが上手な中学生とテレビ番組で見たことが有りましたが、こうして実際に指導して頂いて、それを実感しています。
今まで接したどの教師より分かり易く導いて下さいまして。」
「私も同感ですが、その訳は姫さまが明確な目標を持って私達と接して下さってるからだと思うのです。
教師たちにもそれなりの目標を持っているのでしょうが、クラスの平均点を上げるとか小さな目標ではないでしょうか。
でも姫さまは私達の将来を見据えていて下さる。
私達が自分の能力を発揮出来る仕事に就いて充実した毎日を過ごせる大人になるようにと。
だから、教えて下さるポイントが教師とは違うのだと思うのです。」
「そう言って頂けると嬉しいです。
これから、チーム再起動では皆さんより意欲の弱い方を受け入れて行く方向なのは理解して頂けてると思います。
皆さんほど、再起動に積極的でなくても、我々の仲間として、皆さんの後輩を受け入れることになったら、今度は皆さんが導く側になって頂けたらと考えていますが如何でしょうか。」
「自分、力は姫さまに遠く及びませんが、それはチーム再起動スタートメンバーとしての役割だと考えています。
姫さまの負担は減らして行きたいですし。」
「ここで、後輩の面倒を見れない様では、今まで何を学んで来たのかと言われてしまいます、姫さまに救って頂いたのですから、後輩のサポートはお任せください。」
「皆で学校教育というものを見つめ直しながら、共に成長したいです。」
「百%良い事だとは言えませんが、私達に共通する学校という存在を生贄にすれば、仲間意識を高める事は簡単だと思います。」
「そうですね、生贄にされたところで、学校はビクともしないでしょう。
皆さん、よろしくお願いします。」

チーム再起動のスタート以来、仕事に向き合う上で、自分で考えるという事を重視して来た。
初期メンバーは高校を中退した人ばかりだが、能力が比較的高く、この企画に真面目に取り組んでくれそうな人を選んだ結果、期待以上の結果が出て来ている。
これから、枠を広げて行く過程では様々な問題が出て来るだろう。
でも、このメンバーの協力が有ればそれも乗り越えられると思う。
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

舞姫-02 [シトワイヤン-24]

「姫さま、今日の倉庫実習、楽しかったです。」
「ふふ、中川さんは終了時に作業内容を褒められていましたものね。」
「姫さまは如何でしたか?」
「それがね、私は少し作業をしてから別の現場見学に…、ちゃんとやれてたと思うのだけどな。」
「舞姫さまは優雅過ぎてピッキング作業に向いてらっしゃらないってリーダーが話してましたよ。
舞を舞うが如く作業していらして、御自身のペースがゆっくりなだけでなく、周りの連中が見とれてしまって作業にならなかったとか、ようやく姫さまの弱点を見つけました。」
「え~、私、球技とか全然駄目で、弱点だらけなのですよ。」
「姫さまが倉庫の中を飛び回ってたら、それはそれで違和感を感じます、私の姫さまはピッキング作業なんて似合いません。
パソコンの入力は凄く早くて華麗なのですから、オフィスの華になって下さい。」
「はいはい、考えておきます。
今日の現場はスケジュールが合えば、今後も入る事が可能です。
何度か入ってみて、大丈夫だと思ったらコンスタントに入る事も出来ますので、相談して下さい。
それと来週は、今日と同じ様な現場なのですが、もっと機械化されてる物流倉庫の見学に行けます。
今日の現場と比較して見ると面白いですから、是非参加して下さい。」
「その現場は実習ではなく見学なのですか?」
「ええ、でも働きたかったら、掃除の仕事をお願いしても良いですよ。」
「あっ、お願いしようかな、姫さまに教えて頂いた『考える掃除』を実践してみたいです。」
「良い心がけだけど、単に草刈りを依頼されたとしても、そこから思考を広げられそう?」
「はい、姫さまのお話から、観察と思考、発想の転換、単純作業だったら自分にも脳内作業の余裕が有る事に気付きましたので。」
「では、お願いしてみます。
他のスケジュールは各自確認しておいて下さいね。」
「姫さまは、来週何回くらい来て下さるのですか?」
「倉庫見学と、今後の新人受け入れについての相談会はチーム再起動と動きますよ。」
「自分は農業実習の報告を、客観的な視点で捉えた形で見て頂ける様、相談会までにまとめておきます。」
「私はスーパーでの実習を、お客様目線と店員の立場という観点から整理しているのを完成させますので見て下さい。」
「ふふ、焦らず頑張り過ぎないで下さいね、チーム再起動には充分な時間が有ります、少し慣れて来た時に失敗する事は良く有る事だそうですよ。
もっとも、もう失敗から学ぶということにも馴染んで来ましたね。」
「姫さま、私、嬉しくて仕方ないのです、姫さまと出会って始めて学ぶという事の意味を理解した気がしまして。
学びとは与えられるものでなく自ら求めるものだ、なんて視点は持っていませんでしたし、そもそも学校でする学習の意味すら考えていませんでしたから。
自ら学ぶ楽しさ、それを世界中の人から崇拝されている、舞姫さまに導いて頂けるのだから自分たちは幸せ者です。」
「ふふ、大袈裟なんだから、さあ、肩の力を抜いて、今日を振り返りましょう。
実習を通して、気付いたこと、発見したことは有りますか?」
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

舞姫-01 [シトワイヤン-24]

中学を卒業して自由になったと思う。
遊んで暮らしている訳ではないので暇ではないが自分の判断で時間を使える様になったのは嬉しい。
義務教育。
小学生の頃はただ素直に学校へ通っていた。
不思議な子と言われることは有ったが、気にせず正しいと思えることをしていたと思う。
中学生になって。
中学生になって沢山の事に気付かされた。
自分と人との違い、などなど。
どう考えても中学のカリキュラムは私に合っていなかった。
英語、高校生の教科書だって普通に理解出来るのに…。
社会、歴史の目次のような薄っぺらな教科書を読み終えるのに時間は掛からなかった。
数学、興味を持って予習を進めていたので…。
中身の薄い授業と苦手な体育、救いは音楽と美術ぐらいだったか。
まあ、教師と交渉して授業とは関係ない本を読んで過ごすことを許可して貰えたのは良かった。
お蔭で沢山の本を読めた。
自分が他の子と違うことについて考えもした。
人それぞれ個人差が有る、私とは逆の理由でカリキュラムが合わない人もいる。
とは言え、舞姫と呼ばれ大人が跪く自分はかなり特殊だと思う。
私がラッキーだったと思うのは、本間塾長との出会いだ。
小学生低学年の頃から上手く導いて下さったと思う。
その導きがなかったら、人を見下す様な嫌な人間になっていたかも知れない。
姉も大切な存在。
小さい頃はとても大きかった歳の差が年々縮まった感が有り、最近は姉が私に意見を求めることも多い。
身長差が縮まる気配は全くないのだが…。

多くの出会いと経験を踏まえて、高校進学という選択肢を選ばなかった。
知識を得るという観点では、高校に通う必要はない。
高等学校卒業程度認定試験には、余程のことが無い限り合格出来る。
中学の授業を聞き流して高校の内容を自分で学習して来た結果だ。
大学の入試問題も解いてみたが、普通に合格圏内に入れた。
周りは天才だとが騒ぐが、単に効率良く学習した結果でしかない。
大学は。
今後必要となる知識は大学でなければ学べないのだろうか。
本来、大学は研究の場だそうだが、興味の幅が広くて研究対象を絞れない。
私には舞姫騎士団という直属の部下の下、必要に応じてスタッフが集められ働いていて、必要性を感じた情報は、そこでまとめてくれる。
また、舞姫騎士団の面々は知識の豊富な人達だが、私の興味に対して必要あらば専門家を紹介してくれるだろう。
大学で研究者としての時を過ごす大学教授と自身が社長として会社を大きくした後、市長となり苗川市を盛り上げている本間塾長の存在。
姉は大学進学せず本間塾長の下で経験を積む道を選んだ。

そう、高校だって大学だって義務教育ではないのだ。
本当に必要な知識を得る手段は幾らでも有ると思う。
チーム再起動のメンバーとはそういうスタンスで話をしている。
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-10 [シトワイヤン-23]

高校中退と言っても事情は様々、不登校も同様だ。
怪我や余程の病的な要因が絡まないので有れば、周りが環境を整える事で社会の一員として自信を持って生活出来るようになる、そう考えての取り組みにはチーム再起動として現在五人が参加している。
中学を卒業したばかりの万里も、サポート役として活動に携わっていて…。

「万里、今日はどうだった?」
「機械化の進んだ畑を見学させて貰ったのだけど、工場のシステムを応用すれば効率が良くなり人の負担が減りそうなの。
それで二つの工場を紹介させて頂いて来週見学に、物事にはついでという事が有るから、チーム再起動のメンバーで希望する人も一緒にとお願いしたわ。」
「まあ、万里が同行するので有れば断れないでしょうね。」
「うん、一つの工場は製品をうちで購入して農家にリースという形も考えていてね。」
「商売を手広くして行くの?」
「ええ、私の周りの人達に色々な仕事を経験して頂くという狙いが有ってね。
経験値を上げておけば応用が利くし、新たな取り組みはスタッフの能力を見極める材料にもなるでしょ。」
「チーム再起動メンバーを雇うという事も考えているの?」
「そうね、どこにも拾って貰えなかった人の為の職場は用意したいかな。
今の五人は親に強制されてでは無く自発的に参加してる人達だから全員最後まで面倒をみたいでしょ。
まあ、しばらくは見学や研修、実習で先の話だけど。」
「将来的には自発的でない人も受け入れて行くという案は?」
「私は反対してる、あくまでも経済活動の一部に無理を言って場を作って頂いてる訳で、自分を再起動しようという意思の無い人は迷惑でしかないと思うの。
そういう人向けには違う企画を立ち上げるべきだわ。」
「そうね、真面目な人の足を引っ張る可能性が有るものね。
他の企画と言えば、中高生向けの職場体験を広げて行くのは?」
「人数が多いと受け入れ側も大変でしょ。
まずは就職希望者と苗川企業部会のメンバーが面接する所から始めようとしてるのだけど、始めの内はこっそり募集していく事になるかも。
企業部会メンバーもイメージは出来ていても、実際に会って話してみて何が必要なのか、就職しようという人達にどんな教育、研修の機会を用意すべきか分からない部分が有るのよ。
でも、大学を卒業して教員になった人が企業活動を説明するより、遥かに効果的な場を作れると確信してるわ。」
「うん、進路指導をしている高校の先生は企業の現場を知ってる訳では無いものね。
万里は色々な会社を見学してみて何か感じるものは有った?」
「そうね、高校で工場や倉庫の仕組みを理解する時間が有って良いかも。
チーム再起動の人達は、授業で教えられてた内容より興味深くて面白い、就職したらすぐに役立ちそうだと話してたわ。」
「そっか、覚えておくわ、それでチーム再起動の皆さんとは上手くやれてるの?」
「ええ、ただね、移動中とか私を守ると称して、皆さん回りを取り囲んでくれるのだけど…。」
「万里の視界は背中なのね。」
「なんか悪いことして護送されてる気分なのよ、あ~、私は無実です、って叫んでみたいけど、変な子だと思われたくないし。」
「試しに叫んでみて、本心を話してみたらどう、もっと親しくなれるかもよ。」
「う~ん、ご飯をおごるよりハードルが高そうだけど、ねえ、年下の私からおごられるのって嫌なものかな?」
「それも、直接聞いてみたら良いんじゃない、人それぞれだから。
万里におごられたら、一生下僕となって働きます、という人、現れそうだな~。」
「ふ~ん、下僕ってどんな事してくれるの?」
「そうね…、う~ん、考えてみたら貴方の周りはすでに下僕だらけかも、最近重い物持った事有る?」
「重い物?」
「重い物という感覚すら失ってしまってると、筋力的にやばくない?」
「全然考えて無かった、筋力について調べてみるべきかな?」
「ええ、そのまま老人の様にはなりたくないでしょ、自分の健康とかにも気を付けなきゃ。」
「中学卒業で体育の授業が無くなって、喜んでいてはいけないと?」
「なんなら私が鍛えてあげようか?」
「大丈夫、自分で何とかする。」
「そんな事言わずに。」
「並外れた運動能力の持ち主で有るお姉ちゃんに鍛えられるのはちょっと危険なのよね…。」
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-09 [シトワイヤン-23]

地方都市で、地縁に基づく企業連携を目指すのが苗川企業部会。
その取り組みの一つに、企業による教育の充実を考えるチームが有る。
和馬さんも興味を持たれた様で…。

「智里ちゃん、君の周りは色々と進展が早くて、久しぶりだと何から教えて貰えば良いのか分からないよ。」
「はい、私も何からお話ししておくべきか悩ましいところです。」
「特に苗川企業部会関連は、動き始めて間がないことも有ってか情報量が少ないだろ、その中に企業による教育というワードが出てたよね。」
「はい、そのチームが考えてる教育は社員教育とか新人研修ではなく、主に中高生に対する教育です。
すでに幾つかの展開をイメージして可能性を模索していますが、いち早く実現させたいと取り組んでいるのは、高校中退や不登校をドロップアウトと捉えずにステップアップのチャンスにしようという企画で、間もなく第一弾の募集を始めます。」
「所謂フリースクール的な?」
「そうですね、まずは何が出来るのか、何をしたいのかなど話し合うところから始めることになるでしよう。
苗川企業部会として取り組むポイントは、様々な職業を体験出来る環境を整えることにより、人や仕事と向き合って貰うことになります。
その過程で、学校で無駄な時間を使う代わりに、将来に向けた生きた学習をしていると参加者が思える様に指導出来たらと考えています。」
「なるほどね、指導はどんな人が?」
「幾つかの企業から十二名、指導経験を会社に持ち帰るというという意識で選抜されてきました。
取り敢えず一年間の指導に当たるべく、今は万里が中心になって、指導の流れやポイントを研究しています。」
「人を相手にする訳だから、机上の空論になる恐れはないのかな?」
「すでに二名の中退者が、活動の趣旨、プログラムが正式運用前という事情を理解した上で協力してくれています。
移住者の中には子弟の不登校が理由だった人がいる、そんな情報は掴んでいました。」
「そうか、それで簡単に。」
「舞姫がプログラムに参加するという情報も流しましたので。」
「なんかずるいな、万里ちゃんを使えば何でも簡単だ。
それで、万里ちゃんと僅かな時間しか一緒にいられなかったとしたら、詐欺だと訴えられかねないぞ。」
「いえ、万里は中学卒業後、このプログラム参加者と共に苗川市内で職場体験をして行くつもりです。」
「万里ちゃんは大丈夫なのか?」
「体力的にきつい仕事は見てるだけですよ、そういう面の根性はないんです、あの子。」
「舞は結構体力を消耗するのだろ、舞終えた後はぐったりしてたよね。」
「そうなんですよ、心身ともに疲れ切ってしまうので制限しているのです。」
「それでも、企業からの依頼を受けたという事は、苗川企業部会設立を意識しての事だったのかな?」
「万里は、企業見学を舞を含めたイベント企画の条件に出しましたので、おそらくは色々判断してのことだと思います。」
「我らが舞姫は忙しくなってしまうのかな?」
「どうでしょう、拘束されるプログラムは控えめにしていますが、作業の処理速度が私とは違いますので。」
「早いの?」
「はい。」
nice!(9)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-08 [シトワイヤン-23]

正式名称、苗川市政市民会議企業関係者部会、通称苗川企業部会に乗り気な人が多かったのは、万里が動いたからに他ならない。
万里は工場や会社見学を通して、紙の上の知識では無く生きた経済活動を体験させて貰い視野が広がったと話す。
だが、多くの大人たちが万里から学んだのも事実のようだ。
始めはピンと来なかったのだが、万里のアドバイスで工場の効率がアップしたというのはホントのことの様で、噂が広がると他の工場からも見学に来て欲しいという声が多く届くようになった。
万里はISO9001規格を認証取得済といった企業姿勢や給与体系を見て篩いに掛け、見学に行く事業所を自分で選んでいる。
万里と見学を通して知り合った人たちが中心となって立ち上げられたと言える苗川企業部会、その取り組むテーマはすぐに数本が提示され、組織を作るメインスタッフの活動と並行して企画に取り組むチームが次々と発足した。
その背景には、万里があちこちにバラ撒いたヒントの存在が有る。
簡単に言ってしまうと、万里は作業に直接関わる事無く、自分の意思に沿う活動指針をまとめさせ、企画チームを発足させる事に成功した。
多くの大人たちが知らぬ間に万里の掌の上に乗っかった、という事実は、万里から話を聞かされ、市の担当者と共に活動をチェックする立場になった私だけが知っていることだと思う。
高校生部会との調整も有り、企業部会関係者と話す機会は多いのだが、皆さんの話は万里から教えられている程度のこと、それ以上ではなかったのだ。
そんな話を本間市長に話すべきか迷いながら…。

「智里、苗川企業部会、上手く行きそうかな?」
「はい、良い感じでスタート出来ました。
大学生向けのインターンシッププログラムから派生して、高校生向けプログラムの検討が始まり、異業種交流から新事業を目指す展開と並行しての真面目な婚活向け合コン企画、次の市民祭を意識しての企画など、苗川を更に活性化してくれると思います。」
「なあ、裏で万里ちゃんが糸を引いてないか?」
「えっ、企業見学には行ってますが。」
「ざっくり報告を見るとだな、しばらく前に万里ちゃんが、ざっくり話してた構想の一部なのだがね。」
「万里ったら本間さんにお話ししてたのですね、万里としてはヒントを出してる程度だそうですが。」
「やはりそうか、彼女は苗川企業部会とどう関わっていくつもりなのかな?」
「中学を卒業したら、本間塾の塾生として、このエリアの企業の更なる活性化を目指すのはどうかと話していました、企業活動に興味が有るそうで。」
「そうだな、彼女からは無限の可能性を感じる、やりたいようにやって貰って、問題が起きたら尻ぬぐいは私がしよう、問題が起きる気はあまりしないが。」
「塾長、よろしくお願いします。」
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-07 [シトワイヤン-23]

万里は会社見学を切っ掛けに、苗川インターンシッププログラムに興味を持ったようで。

「お姉ちゃん、大学生の職業体験について相談し始めたそうだけど、どんな感じなの?」
「インターンシップの話、聞いてくれたんだ。」
「少しだけね、普通のインターンシップは一企業対学生という形なのでしょ?」
「うん、企業側には優秀な学生を見つけ就職に繋げたいという思惑が有るからね。
でも、田舎の企業ということは学生にとって最初のハードルが高いのよ。
そこを、苗川の企業という括りにして、一つの企業を体験しながら他の業種の事も知って貰おうという取り組みなの。
一つのプログラムで幾つかの業種について知ることが出来るのであれば学生にとってメリットになるでしょ。
企業側としては体験して貰ってそのまま就職という思惑が有るのだけど、体験した人が他社を選ぶにしても苗川エリアで就職してくれるならと考えていてね。
自分の会社の事だけでなくエリアの活性化を考えて下さってるのよ。
人が集まって来る魅力的なエリア、特に若年層が集まることの意味は大きいと思わない?」
「そうね、そういう考え方で動けるのは、本社を苗川に移せた余裕有る企業だからかな。
でもさ、この企画だけで協力というのは残念な気がしない?」
「というと?」
「もっと、協力し合えることが有ると思うの、ほら、ちゃっかり私のステージを相談しておねだりしたみたいにさ。」
「そうね、う~ん、何が出来るのかな…。」
「幾つかの現場を見させて貰ったのだけどね、社内の男女比が偏っていたり、社内恋愛の弊害を語る部長さんがいたり、移住してきて落ち着いて、さて婚活という人も見えるそうよ。」
「婚活プログラムか…。」
「婚活だけでなく、移住者同士、移住者と原住民が知り合える切っ掛けは多い方が良いと思うな。」
「そうね、市民祭の運営側にも参加して貰い易い体制を考えるべきかしら…。」
「苗川高校生部会に対抗して苗川企業部会の設立ってどうかしら、何をするかは部会の皆さんに丸投げすれば、お姉ちゃんの負担は軽くて済む、でも部会の要職について置けば企業部会を利用し易いかもよ。」
「ふっふっ~、お主も悪よの~。
万里が動けば、そんな組織簡単に出来るわね。」
「新しい市民たちが、苗川で暮らすことに更なる価値を見出せば、苗川の魅力はもっと高まると思うな。」
「そうね、世界一の苗川市だけど常に上を目指さないとね、本間さんとも相談してみるわ。」
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-06 [シトワイヤン-23]

「工場見学では沢山質問して沢山教えて貰ったと話してたのだけど、後日その会社の人がアドバイスを頂いたお礼にといらしてね。」
「アドバイスしたんだ。」
「何でも、製造ラインの全貌を掴む勢いで質問をし、教えて貰った話から効率を上げる提案を幾つかしたそうなの。
それが的を得ていたらしくて、すぐ改善出来る所を直したらかなりの効率アップに繋がり、他の提案も検討してるそうでね。
万里は現場の人とは違った視点で数学的に見られたから気付いたのだとか。」
「凡人では気付けないことか…。」
「何時でも遊びにいらして下さい、と言われて、社交辞令かどうか聞いてたから、工場見学は楽しかったのでしょうね。」
「いや、社交辞令はないでしょ、万里ちゃんに対して。」
「別の会社では、企画会議に参加させて貰って、自分の考えを示し提案をさせて貰ったのが楽しかったとか。
ところが、先方は、その提案が通ったから名前だけでも良いから企画のリーダーになって欲しいと言って来てね、図々しいよね。」
「万里ちゃんは?」
「すっかりその気なって、先方が付けた五人の部下とメールのやり取りをして管理職気分を楽しんでるわ、あの子にとっては遊びなのでしょうね。
万里との関係を強くしておきたいという会社側の魂胆は丸見えなんだけど。」
「ふふ、万里ちゃんが就職に悩むことはなさそうね。」
「どうかしら、工場のシステムを組むのは面白そうだとか、自分で企画をまとめるのは楽しいとか話していて、進路を決めるのは簡単じゃないかも。
まあ、工業系だと流石に大学進学を考えることになるから悩むでしょう、でも私としては舞姫に専念して就職なんて考えて欲しくないのよ。」
「そうよね、収入は充分有るのでしょ?」
「お父さんの推定生涯年収はとっくに超えてるわ、沢山税金を納めてるのよ。」
「お金のことは意識してなさそうだけど?」
「いえいえ、こそ~りと株の取引きして稼いでるし、沢山稼いで沢山税金納めて沢山使うと考えてるのよ。」
「高級ブランドバッグとか宝石には興味なさそうだけど、何に使うの?」
「とりあえずアメリカに別荘を一軒。」
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-05 [シトワイヤン-23]

「市長筆頭補佐の肩書は伊達じゃないのね。」
「まあ、高校三年間の実績が有るからね、相談を持ち掛けた企業も社長とかと面識が有るから話が早くて、数社から採用関連や研修関連の担当社員が集まって話を進めてくれてるのよ。」
「そういうのって、費用負担とかはどんな感じになるものなの?」
「始め本間市長と相談してた時は、市からの助成金みたいな形を検討してたの。
多くの企業の為と考えていたし、税収も安定してるからね。
そんな話を初会合で出したのだけど、二回目の会議で彼らが交渉してきたのよ。」
「交渉か…、只者では無いのね。」
「ほんとにそうでね、業績の良い企業ばかりだから、人材確保に関係するプログラムに対して市の助成は必要ない、でも真面目に頑張るので、万里の舞や歌を社員が見られる機会を作って欲しい、会場費他、万里のギャラも含めて全て負担するからとね。
万里には関係のない事業だから微妙な話でしょ。」
「そうか、万里ちゃんは特別な時しか人前で舞わないから、将を射んとする者は…、智里は馬ってことなのね、それで、万里ちゃんは?」
「条件を出したの、企業見学をさせてくれたらって。」
「そ、それって、相手にとっては嬉し過ぎることでしょ?」
「万里としては自分の好奇心を満たしてくれそうだと考えたみたいでね、互いの利益が一致したので、色々動いたのよ。」
「そういう時って智里が動くの?」
「まあ、動くというより少し指示を出したって感じかな。」
「誰に指示を?」
「今回は話がすぐに膨らんだからね。
会社見学の映像を企業PRに使いたいとか、どさくさに紛れてCM出演のオファーとかが有ったから、そっち系のチームに。
企業サイドは舞い上がってしまって、スケジュール調整に苦労したみたい。」
「気持ちは分かるな、万里ちゃん、もう企業見学には行ったの?」
「ええ、三件済んだわ、見学の当日は中学まで社長か重役が高級車で迎えに来たそうでね、因みに午後の授業は職場体験という扱いにして貰ったとか。」
「映像は私も見られる?」
「今、編集中、舞姫情報を待ちわびている世界中の人達に見て頂ける様に進めてるわ。
映像の方は私も見てないのだけどね、少し面白い話が有ってね。」
「うん、うん。」
「聞きたい?」
「勿論!」
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

進路-04 [シトワイヤン-23]

「あらっ、私を見くびってるのね。
市の職員採用計画だって把握してるし、新人研修の講師もしてるのよ。」
「あっ、採用された側じゃないんだ、失礼致しました、市の職員採用に関して、差支えない範囲で教えて頂けないでしょうか。」
「採用は、市の規模に合わせた適正人数を検討していてね、無理なく無駄なくが本間市長の方針だから、採用枠を増やす方向で条例案を出しているわ。
まあ、幾ら枠が広がったとしても、人気が有って梨花の採用は簡単ではないかも、縁故採用は完全に禁止だから実力で頑張ってね。」
「も、勿論よ、縁故採用される様な職場は嫌だし、でも、人気が有るのよね、大学卒業後は苗川で就職したいのだけどな。」
「それなら市の職員より好条件な企業が幾つも有るわよ。
梨花が大学で余程力を落とさない限り、私の紹介だけで採用決定の会社がね。」
「企業の移転は進んでるみたいだけど、大卒の新卒を雇ってくれるの?」
「各社、色々な枠が有るし、私が関わってる会社も有るからね。
一応、梨花が高校の時のままだったら、検討に値する会社のリストを作って送るけど。」
「大学で堕落しなければということなのね。」
「夜な夜な遊び歩いてない?」
「してないわよ、バイトも有るし。」
「彼氏は出来たの?」
「少し気になる彼はいるけどまだね、智里の方こそどうなのよ、働いてばかりのシスコンでは心配だわ。」
「万里と相談して三人スルーしたけど、もう直ぐ告白して来そうな人は万里も大丈夫だろうって。」
「そんな相談も万里ちゃんにしてるのか。」
「万里の兄になるかも知れない人だからね、実際スルーした人達はその後、人間的にどうかというレベルの人だと分かったわ。
万里は一瞬で見抜いてたけど、私はまだ修業が足りないのよ。
少し時間を掛ければ大丈夫なんだけど、大丈夫だと思ってた人がしばらく会わない内にという事が有ってね。」
「私なら大丈夫よ、一人暮らしでも、ちゃんと万里ちゃんのDVD見てるから、変わらずに、じゃなかった成長して苗川に帰って来るわよ。」
「それなら、苗川インターンシッププログラムに参加してみる?」
「えっ、それって初耳なんだけど。」
「まだ正式スタートしていなくて、これからテスト的に始めて行く段階なの。
本間市長発案で、スタートには市が大きく関わっているのよ。
梨花ならネットで基礎研修を受け、夏休みや春休みに実習という形に出来るわ。」
「そこから苗川で就職する新卒を増やして行こうという事かしら。」
「苗川で就職する学生の掘り起こしが目的だけど、将来的にはもう少し広いエリアを意識していてね、今までは東京なら良い仕事が有ると考えて上京した人が多かった訳でしょ。
このエリアに良い職場が有るとアピール出来る所までプログラムを拡大するつもりなの。」
「つもりなのって、智里の仕事?」
「ええ、こういった仕事は役所勤めの長い人には向かないし、肩書の低い若手では話が進まないのよ。」
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー