SSブログ

06 開拓者 [KING-05]

 翔が十六歳になる頃、箱舟船団は第四惑星の周回軌道に入った。
 第四惑星での作業に当たる城の子は、弟や妹を加え二十名に増えていて、第四惑星の環境調整をしながら、第三、第五惑星の探査も進めている。
 予定していた第四惑星に於ける春分の日、ゲートを積んだ着陸機が町の中心となる地点に降り立つ。
 空気などに問題の無い事が再確認された後、惑星に降りた人々が目にしたのは、牧草や小麦などが雑草の如く一面に広がる風景。
 それは和の国で備蓄していた種子の一部を、収穫を目的とせず適当に撒いた結果だ。
 緑の広がる大地、肥料が充分ではなく管理されていない状態では有ったが、人々は緑の大地に歓喜した。
 そして彼らを更に興奮させたのは、その頂きを雪で白くした雄大な山々。
 城の子は、その光景が大人達を喜ばせると知ってか知らずか、素晴らしい大地を作り上げていた。
 人々は改めて、宇宙船という限られた空間で生活して来たのだと実感した、広いと言われて来た和の国で暮らして来た人でさえ。
 国連主催の記念式典では、数種類の草食動物を野に放つ。
 野生化するのか、人間と共生して行くのか分からないが、充分過ぎる餌の中、思い思いに広がり餌を食べ始めた。
 この夜は城下町を中心にお祭り騒ぎとなったが、その光景を映像で見ながら。
 
「山に心が踊らされるというのは、忘れていた感覚だったわ。」
「不思議だよな、単に地形的な特徴と言うのでなく、昔、山が信仰の対象になっていた事を思い出したよ、機会が有ったら登ってみたいものだね。」
「尊、今までこの地の風景を公開して来なかったのは意図的なことだったの?」
「ええ、地球を懐かしむ話は色々聞いていましたので、ささやかなサプライズになればと、気に入って頂けた様で嬉しいです。」
「はは、お祭り騒ぎを見てるとささやかでは無かった様だな。
 この調子なら明日からの作業がはかどりそうだね、まあ、彼らが二日酔いになっていなければだが。」
「まずは、道路網の整備に合わせて植物の刈込か、計画が分かり易くて良いが、都市計画図を見ると道幅の広さは随分思い切ったな。」
「過去の都市では、町の発展に伴う道路拡張にかなり手間取ったと聞きましたので、将来を見据え無駄に広い道路を提案し、受け入れて貰いました。」
「何世代か後の住人が、その事に気付き感謝してくれるかしら。」
「どうでしょうね。
 尊、マリアさまのテクノロジーを利用した機械は何時頃まで使って行く予定なの?」
「少なくとも全員が町に家を持ち食料生産に問題が無いと判断できるまではと考えています。
 水力発電による電力供給はマリアさまのテクノロジーを利用して整備しますが、その維持は皆さんにお任せできるシステムです。」
「だが、本格的な電化製品の製造までには時間が掛かるだろうな。」
「大丈夫よ、人々はシンプルに生きて行く最低限度の生活というのを話し合っていたでしょ。
 地球で暮らしていた頃より物質面で劣るにしても、精神的には遥かに上を行く社会構造が出来つつ有ると思うわ。」
「だよな、地球は便利な物で溢れていたかも知れないが、様々な社会問題が有った。
 我々の社会にも問題は残ってはいるものの、それを解決して行く事が、この社会の目標だと捉えられている。
 新たな大地を喜ぶ人達が今の気持ちを忘れないでいてくれたら、地球とは全く違った文明社会に成長して行くと思うよ。」
「それでも…、尊、科学技術の発展を目指すのだろ。」
「はい、人類の技術による、まずは製鉄だと思うのですが…。」
「鉄は地球でもうんと昔から使われて来たのだから難易度は低そうだな。
 鉄鉱石とかは簡単に確保出来るのか?」
「大丈夫です、ただ、えっと…、化石燃料と呼ばれるものは存在しませんのでその辺りがネックになると思います。」
「この星には植物が繁殖していなかったのだから仕方ないか。
 木材は手に入るのだから炭焼きに挑戦するか?」
「データベースには炭焼きの事も有ったのですが、その経験者は一人もいませんし、製鉄経験者も、やはり難しいのでしょうか。」
「難しくても、技術開発チームで試行錯誤して行く事になるだろう。
 彼らはそんな試行錯誤が結構好きなんだ、沢山失敗しても、きっと成功させるさ。」
「ふふ、ロックの研究者魂にも火が付いているのでしょ。」
「まあ、鉄の加工は今までもしてきたからな、尊、銅とか他の金属はどうだった?」
「データベースに記されている金属類はほとんど手に入ると思います。
 第四惑星で発見されていない金属でも、第三、第五惑星で発見されています。」
「第三、第五にも人々が行ける様にするのか?」
「今の所は、僕たちが多少の資源を第四惑星に移動するだけにするつもりです。」
「そうだな、当分の間大量の金属が必要になるとは思えない。
 当面は住居の建設がメインだろ。」
「住宅向けの木は充分な太さとは言えないのでしょ、何とかなるの?」
「石や土も使って行くし、地球の世界各地、様々な環境で暮らして来た人達が集まってる訳だろ。
 皆で知恵を出し合って、新たな町の環境に合った住宅を、手に入る物を活かして建てて行くさ。
 まずは交代でキャンプ生活を体験しながら、新たな環境に慣れて行って貰う事になるのかな。
 アメリカ開拓時代の話とか、原始時代の話をしながらね。」
「焚火を囲んで?」
「大人も子どもも広大な大地にワクワクしているよ。
 城の子が改修してくれた居住コロニーは快適だが、そこから引っ越す心の準備は充分に出来ている様でね。」
「もう、開拓者気分なのかしら?」
「大人達の多くは、開拓者になる事を楽しみにしているし、そうでない人達も子ども達が移住を負担に感じない様にと考えているみたいよ。
 無限の大地が広がっている訳だから小さい事を気にはしていられないでしょう。」

 翌日、建設チーム以外の人達も積極的に惑星へ降りキャンプの準備を始めた。
 当分は箱舟船団で食料の確保をしなくてはならないので全員が降りる訳には行かなかったが、必要な物をどんどん運び降ろして行き、すぐにテントが立ち始め、夜にはあちこちで焚火を囲む輪が出来ていた。
 夜が更け冷え込んで来ても居住コロニーへ戻ろうとする者はなく、母なる地球を遠く離れた人々は新たな大地に抱かれんとしているかの様だ。
 それは翌日以降も…。

「人々の大地に対する気持ちは少し意外だったわ、居住コロニーの方が快適でしょうに。」
「人間の記憶の根底、そこに遠い昔では当たり前だった火を囲む光景が刻み込まれていたのかもな。
 それがここの雄大な風景に刺激されて蘇っているとか。」
「こうして皆と火を囲んでるだけで楽しいというか嬉しいというか、ねえ、シンプルな料理も良いものでしょ?」
「不思議よね、毎日美味しいものを食べてるのに一段と美味しく感じるわ。」
「ねえ、人間にとって本当に必要な物は意外と少ないのかもって思わない?」
「そうだな、開拓者たちは焚火を囲みながら、それを実感しているのかも知れない。
 食料と…、共に火を囲む仲間が居れば何とか…、いや、楽しく生きて行ける。」
「地球にいた頃、文明社会から取り残されてた人を哀れに感じていたけど、実は私達の方が余計な物に支配され、無意味な競争をさせられて、心身を擦り減らしていただけだったのかもね。」
「だな、自殺する人もいたし。」
「あっ、キング、翔が十六歳になってマリアさまの罰はもう下されないのか?」
「そう言えば忘れていたな、だが、この惑星の改造映像を見始めてから罰を受けそうだった人が変わり、今では皆が一つになって、一つの国家を建国して行こうと言う雰囲気になって来ているだろ。
 罰に関してはマリアに確認してみるが、今は気にする必要がなさそうだな。
 箱舟を離れる時間が長くなるにつれ、マリアの管理下からも離れて行く事になるのではないか。」
「そうね、不便になって行く代わりにゲートの制約から解放されて…、この雰囲気だと移住終了は予定していたよりかなり前倒しされそうだわ。」
「ああ、作業用に用意してあったテントを直ぐに宿泊用に作り替えて、いきなり寝泊りが始まるとは思ってなかった。」
「昼はしっかり働いて…、夜のお祭り騒ぎはしばらく続きそうよね。」
「カタリナみたいにあちこちの輪を行き来する人が増え始めたからな、このまま今までの国への拘りが薄らいで行けば、この惑星に一つだけの国家としてまとまって行くと思うのだが。」
「ねえ、大きな声では言えないのだけど、皆が協力しないと乗り越えられない様な困難を演出って、どうかしら?」
「そうだな、すぐには必要ないと思うが、人々の様子を見ながら準備しておくか?」
「自然災害みたいな?」
「城の子が、近くの惑星探査に出かけている隙に、宇宙人の襲撃とかどうだ?
 実行に移すかどうかは別にして、子ども達と壮大ないたずらを考えるのは大いに有りだな。」
「ふふ、そうね、子ども達に宇宙人のデザインを考えさせると可愛くなってしまいそうだから、恐ろしげなのを創りましょうか。」
「外敵の存在を匂わせる程度でも、人々を一致団結させる事は出来そうだけど、敵の存在に対して軍事力とかを考え過ぎ無い様な存在が好ましくは有るわね。」
「その前に冒険心を持ち過ぎてる人を牽制しておく必要が有るでしょ、旅に出て貰うにはまだ早いのだから。」
「そうだったな、その辺りの作戦を立てる必要が有るな。」
 
 城の子が地形を作り上げる作業はまだ進行中で、山に登りたい、探検に出たいといった冒険心を満足させるにはまだ早かった。
 私達は、彼らの団結力を高めると共に探索出来る範囲内で行動して貰う為の工夫を子ども達と考え始める事に。
 子ども達と罪の無いいたずらを考えるのは楽しく、私達の新たな娯楽となった。
nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー