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05 第四惑星 [KING-05]

 夢たち一年生が魔法の様なマリアのテクノロジーを覚え始めた頃、城の子の高速宇宙船は目標としていた恒星系、その第四惑星の周回軌道に到達していた。
 そこから初めて届いたのは、到底人が住めるとは思えない映像だったが、その後は惑星が人間向きに改造されて行く様を、尊たちの解説付きで見せて貰っている。
 私達も一度ずつ高速宇宙船まで行ってみたが、特別なゲートを使い中継用ゲート船六機を経由する長距離移動が体にこたえただけ。
 ガラス窓が有る訳でもない宇宙船で見られたのは城で見る映像と同じものにすぎなかった。
 子ども達の体調が心配になったが、彼らは長距離移動を負担とは感じていないそうで、気軽に行き来している。

「キング、地球と同規模の惑星とは言え、マリアさまはどうしてこんな星を選んだのだ?」
「重力が地球に近い事と、水や空気を地球並みに出来る条件が整っているからだ。
 諸条件を甘くすれば、もっと地球から近い惑星は有ったが、改造の手間とその後の住環境を考えて選んだのだとか。
 まあ、人間は急激な体重増加を好まないと、マリアが理解してくれてた事に感謝すべきだと思うな。」
「しかし映像で見る限り、人の住める惑星になると言うのは、まだ信じ難いね。」
「そうよね、翔は全然問題ないと話してたけど、あの子達は地球を知らないでしょ。」
「マリアは江戸時代ぐらいの環境データに合わせると話していた、彼女が指導して、ここと同程度の環境にするそうだから心配ないだろう。
 勿論宇宙船の中では無いから、気象の変化は覚悟しなくてはならないが。」
「海を造りながら大気圏を生成してる映像と言われてもね、でも惑星を改造している映像を人々に見せているのは正解みたい。
 最期の人類かも知れない人達への贈り物、そのスケールの大きさに人種や国といった小さい事で揉めてた人達の考え方が変わって来たみたいなの。
 神の子が自分達の為に、地球規模の惑星を改造してくれていることを実感し始めてね。」
「ある意味、リアルな天地創造だからな。
 だが、箱舟船団が到着するまでに人の暮らせる所まで改造が進むのだろうか。」
「それは微妙なので、始めはコロニーの一つを改造して地上に降ろし密閉型のドームとして居住地建設を始めて行く計画も有る。
 状況に応じてドームを拡大し、内部で町の建設を進めて行き、惑星の環境調整が進んだらドームを撤去するという案だ。
 ただ今の所は順調なのでゲートだけを地上に降ろす事になりそうだな。」
「あの状況が順調だとは思えないのだけど、そのゲートから物資を降ろし開拓が始まるのね。」
「当分の間は箱舟船団で生活し、惑星へは各作業チームがゲートを使って行き来することになる。」
「危険は無いのかしら?」
「町を建設して行くのは地震の起きにくいエリア、安定するまでは気象も管理、徐々に自然任せにして行くそうだ。
 危険な生物は、まだ、いる訳ないだろ。」
「まだって?」
「危険では無いと思って星に降ろした生物の子が、突然変異する可能性が有る。
 宇宙船内では問題の無かった細菌が変異することも。」
「そういうリスクか…、それに対応出来るのかしら?」
「事前には準備出来そうにないが、三郎、医学全般を学んでいる望はどうだ?」
「彼女は優秀な学生だよ、データベースの情報だけでは足りない所を各国の医者にフォローして貰いつつ、今後の医学教育を視野に入れてるからね。」
「医者を育てて行くのは大変なのでしょ?」
「それに関しては少し緩やかに考えていてね、どんな病も直すという発想ではなく、患者の負担軽減をメインに置いている。」
「場合によっては見捨てると言う事なの?」
「まあ、無理な延命をするよりは、苦しみの少ない最期を迎えて貰う場合も出て来るだろう。
 基本的に自然治癒力の手助けをするのが医学で、この方針は医師達の総意なんだ。」
「望がマリアさまにお願いしてとかは?」
「基本、不自然な延命処置に労力を使うべきではないと言うのが、マリアさまのお考えだそうでね。
 人間としての寿命を終えた肉体を機械仕掛けで動かすことに何の意味が有るのか分からないと、かつて行われていた終末医療について教えられたとか。
 経験の無い望がどれぐらい理解出来たのかは分からないが、人は老い、やがて死に逝くのが自然な姿だろ。」
「そうね…。」
「本当に基礎的な知識は小学生の頃から学習、生きて行くのに必要な知識は優先的に教えて行くべきだからな。」
「でも、将来的には医師を養成して行くのだよな。」
「ああ、医師も必要になるだろう、子ども達の適性を見極めるにはまだ早いが、子ども達の能力を考えながら教育プログラムを組んで行く事になる
 社会を維持して行くのに必要な人材を適材適所に配置出来るのが理想だね。」
「そうだな、移住が発表されてから、大人達の人員配置が変わったが、子ども達のお手伝いにも変化が有るのだろ。」
「ええ、第四惑星に降り立った時、子ども達にも少しずつ責任ある作業を任せて行きたいとね。
 到着の頃には十五歳ぐらいになってる子もいるのだから。
 新たな町で新たな社会を創り出して行く、その意味を子どもに伝える為にも仕事を、大人達は、お手伝いとして教え始めたわ。
 和の国よりうんと広い大地は第二世代のものだと自覚して貰わなくてはいけないでしょ。」

 和の国が広いと言っても島に過ぎず、何処までも広がる大地と言うのを第二世代は知らない。
 海だって、無限の広さを感じられはするが本物ではない。
 和の国以外の子ども達は壁に囲まれたエリアで生活して来た。
 そこから惑星への移住。
 箱舟船団が到達までに準備しておくべきことは多い。

「ねえ、翔、第四惑星は箱舟船団の環境と若干違うのよね、重力とか。」
「うん、教えて貰っても始めはイメージ出来なかったけど、体が少し軽く感じられるみたい。」
「どうかな、向こうに着くまでに少しずつ体を慣らしておくことは出来ないかしら?」
「慣らす?」
「ええ、ここの重力を人が気付かないぐらい少しずつ第四惑星の重力に近付けておけば、惑星に降り立った時の違和感を減らせるでしょ。」
「そっか、出来ると思うよ、でも…、問題は起きないのかな?」
「大人達には告知しておかないと、作業時の量を間違える事になり兼ねないわね。
 料理人は微妙な匙加減の微調整が必要かも知れない。」
「うん、麗子総料理長の感覚が狂ってしまったら大変だよ。
 大胆な味付けをしてるかと思えば、僅かな量に拘ってる調味料が有るでしょ。
 どう調整して行くか相談しておくよ。」

 城の子は二十回に分けて段階的に重力調整をして行く事にし、僅かな変更毎に告知して行く。
 普通の人には感じられない程度の変化なのだが、多少影響を受ける作業が有った。
 そして、これ以上に大きな問題として…。

「自転周期が二十四時間二十三分という問題はどうする?」
「強引に二十四時間で生活するか、惑星の一日に合わせるかだけど、体内時計のリズムが狂って行くのかしら。」
「元々、人間は一日二十四時間に合っていないという説を聞いた覚えが有る。
 二十三分ぐらいなら、大きな影響はないと思うがどうだろう。」
「和の国の一日は今のままにしておきたいと尊が話していた、惑星と時差が生じてもね。
 惑星上の時間に関しては、二十四時間二十三分を二十四で割った物を一時間にするという案が出ている。」
「一秒の長さが違うとややこしくなりそうね。
 でも、第四惑星標準時と宇宙標準時の二つで、秒とかの呼び方を変えたりすれば良いのかな。
 試しに惑星用の時計を作って貰う?」
「そうだな、まずは東経西経零度を町の中心となるゲートの場所にして…、地軸の傾きはどれぐらいなのかな…。
 恒星と第四惑星は、太陽と地球の関係と同じなのだろうか?」
「同じなら、午後零時を恒星の南中時にすれば良いのよね。」
「第四惑星標準時間の一時間は、およそ六十点九五八三三分になる…。
 一時間が六十分である必要はないのだが、慣れ親しんだままが良いだろう。」
「公転が三百八十二日というのは身体的な影響はないと思うけど、歳を取るのが遅くなるのよね、暦も新たな物が必要になるわ、えっと…、夏至冬至春分秋分は有るのでしょ。」
「船団が向こうに付くのは春分近くになるらしい。」
「ならば春分の日を一月一日にする?」
「一年は十二か月にするのか?」
「一か月が少し長くなって、月によって三十一日だったり三十二日だったりでどうかしら。」
「ひと月三十日の十二か月、プラス二十二日の十三番目の月という手も有るな。」
「簡単に四つに分けられた方が良いと思うわ。」
「今までの暦は宇宙歴として残すにしても、互換は難しくなってしまいそう。
 私達の記録は宇宙歴で残しておいて…、でも過去の出来事はそれ程重要ではないのかも。
 第四惑星で、新たな歴史が作られて行くのよね。」
「なあ、月が人間に微妙な影響を与えていたのはどうなるのだろう?」
「そうね、月と呼べる程の存在が無くて、衛星が五つか…。
 箱舟船団での移動中、全く意識して無かったのだから問題はないでしょう。」

 暦などに関して、国連の場でも意見を出し合った結果、私達が第四惑星に降り立つ日を、現地の春分の日とし、惑星歴零年一月一日月曜日と定めることに。
 一月と七月を三十一日とし他の月は三十二日、一日は二十四時間だが一秒が長くなる。
 決定後すぐに、新しい時計が作られ宇宙標準時と共に第四惑星標準時を刻み始めた。
 今は紀元前三年となり、一年を三百八十二日として到着までのカウントダウンもスタート。
 今後、和の国以外の国は順次第四惑星時間に切り替えて行く予定で、全居住コロニーの日の出や日没時刻も城の子が調整していく。
 和の国とは時差が生じて行くが、問題の見落としがないかのチェックをしながら、少し長くなる一日に慣れて貰う。
 こう言った発表は人々に、新たな緊張感や期待感、高揚感を与えた。
 そう、第四惑星という新たな大地は彼らのものになるのだ。
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