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森哲也-06 [F組三国志-05]

 夏休みに入り、根岸さんからお誘いを受けた。
 興味の有る事ではなかったが、美人女子大生からのお誘いを断るなんて出来る訳がない。

「根岸さん、今日の集まりは施設の関係だと聞きましたがどういうものですか?」
「児童養護施設はね、保護者のいない子とか親の虐待を受けてた子とかを預かっているのだけど、夏休みは職員の負担が増える時期なの。
 そこをボランティアで手助けしている学生がいてね。
 どう、小学生の相手とかは?」
「小学生ですか、中学生になってからは話したこと無いです。」
「一人っ子だとそうなるのね。
 今日は小学生と遊んだり、中学生の勉強を見て上げたりとかだけど…、嫌になったらはっきり言って良いのよ、但し注意事項としてはね…。」

 心に傷を負ってる子もいるそうで、言葉に気を付ける様にと言われた。
 施設に着いてからは小学生に紹介されサッカーの相手とか。
 まあ、無難に終わり…。
 
「森くん、どうだった?」
「そうですね…、接し方が分からなくて戸惑いましたが、色々考えさせられました。
 この子達は辛い目に遭って来たのかな、なんて。」
「沢山考えてね。
 答えを出す必要はなく、ただ、彼らの事を考え自分の事を考える。
 それが今日のテーマだからね。
 省吾リーダーからは、森くんの視野を広げて欲しいと言われているの。」
「そっか…、何となく分かります、今まで自分は自分の事しか考えて来なかった…。」
「でも、頭が悪い訳ではないのでしょ。
 私達の役目は、森くんに今までして来なかった体験をして貰うこと。
 後は森くん次第ってとこね。」
「はい、始めは省吾が何を考えているのか良く分かりませんでしたが、根岸さん達の話を聞いて、その…、今は、視野を広げる、という言葉の意味が分かる気がします。
 この後はどうなりますか?」
「小さい子と遊ぶか、中学生の学習を手伝うかだけど、どう?」
「小さい子はちょっと…、中学の学習内容なら、まだ忘れていません。」
「受験勉強は頑張ったのね。」
「はい、結果を出していれば親に怒られる口実を与えなくて済みましたし、中学でバカやってる奴らと同じ高校には絶対行きたくないと思っていました。」
「それが原動力だったのか、でも学年六十位なのだから、元々頭は悪くなかったのよね。」
「はは、どうでしょう、視野の狭い小さな男です。」
「そこに留まる気は無いのでしょ?」
「そうですね、このままだったら根岸さんや省吾に申し訳ないです。
 この間、根岸さん達とドライブに行ってから、自分なりに考えてはいるのですよ。」
「そんな気持ちが有るのなら、是非中学生の学習を手伝って欲しいわ。」
「はい。」

 中学生の内容とは言え、教えることに自信が有る訳ではない。
 でも、哲平にアドバイスして貰った経験から、教え方というのを考えながら真面目に中学生と向き合う。
 F組の谷口あやかと藤本由香も手伝いに来ていて、少し照れ臭かったが、彼女達に真面目なとこを見て貰いたいとも。
 今は、岡崎とかで遊んでた自分が恥ずかしい、でも、そんな自分に対し哲平達は普通に接してくれる。
 根岸さん達も自分を子ども扱いしていないと感じる。
 そうなると悪ガキみたいな態度は取れなくなると言うか…。
 学習時間が終わってからは、中学生達と谷口、藤本を含め、お菓子を食べながら雑談の時間、中学生の質問に答える。

「谷口さん、やっぱ中三の頃は沢山勉強したのですか?」
「したわよ、絶対合格したかったからね。」
「高校ってどうです、進学校ですよね?」
「そうね、楽しく学習に励んでるわよ。」
「う~ん、高校に入ったら勉強しなくて良い訳では無いもんな~、でも楽しいの?」
「ええ、山口くんには学習方法の見直しをレクチャーしたから、彼から聞いて欲しいけど。
 私達は、如何に学習効率を上げるかを考えてるの。」
「森さんもですか?」
「ああ、自分は…、人の道を外しかけたけど、クラスの仲間に助けられてね。」
「えっ、人の道を外しかけるって?」
「まあ、いじめっ子一直線を目指しかけてたんだ。」
「ひど~い。」
「でも、反省して、今はマシな人間になろうと思ってるよ。」
「そうなのね、数学、分かり易く教えてくれて…。」
「休み前のテストに向けて、クラスの人気者が色々教えてくれてさ、それを思い出しながら説明したんだ。」
「あっ、美人なの、その人?」
「男だよ。」
「藤本さん、森さんって学校ではどうなの?」
「そうね、弱い者いじめをしてたから、女子は今でも…、でもね、男の子って良いな~って思うのは、そんな森くんでもクラスの男子は、ずっと普通に接してる人が多くて。
 まあ、私達のクラスが特別だからかもだけど。」
「特別?」
「ええ、世界で一番素敵なクラスなの。」
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