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魔法 [短編集-6]

「孝雄、最近気付いたのだけど、私、魔法が使えるみたいなの。」

大学のカフェテリアで麻美が唐突に話し始めた、彼女とは同じ講義を受けていて話はするが、特別な関係ではない。

「ヘ~、麻美はもっとクールでドライな人だと思ってたよ、十八でメルヘンか、まあ女の子だからそういう所が有っても悪く無いと思うよ、俺はね。」
「いえ、メルヘンという感じでは無くてね、一円玉持ってない?」
「えっ、有ると思うが…、麻美はカード派だから小銭は持たない主義だったな…、有ったけどどうするんだ?」
「机に置いて。」
「ああ。」
「一円玉をよく見ててね。」
「うん。」

何故か一円玉はゆっくり五ミリ程動いた。

「どう?」
「どうって、少し動いたけどマジックなのか?」
「いいえ、私が『動け』と念じた結果なの。」
「なら、今は驚く所なのか?」
「問題はそこなの、一円玉を五ミリ程、手を使わずに動かせても疲れるだけで何のメリットもないって、悲しくない?」
「もっと重い物とか早くとか長くとかは出来ないのか?」
「今のが限界なの、孝雄、何とかこの能力を活かせないかしら、欲しい物が有るのよ。」
「取り敢えず見世物系はだめだな、地味過ぎてマジックとしても成立しない。
う~ん、パチンコの玉はどうだ?」

俺達の実験は、パチンコの玉は重過ぎて影響を与える事が出来ないと確信するまでに五千円、体力を消耗した麻美との食事に二千円ほど使って終わった。
それから一か月、二人で色々考えたが、一円玉を五ミリ動かせる魔法の使い道は無かった。
役に立たない魔法か…。

まだ諦められないという麻美と夕暮れ時のキャンパスで。

「麻美、ちょっとした仕掛けを作ってみた、この箱の留め金は軽いから魔法で開けてみてくれないか?」
「うん。」

留め金が開いて中からは手紙という仕掛け…。

「孝雄…、俺と付き合って欲しいって…、本当に…?」
「だめか?」
「まさか、有難う、お願いします…。」

魔法を使う時の麻美は真剣な顔になる、普段でも可愛い部類に属するが、その時は特に美しい
彼女の魔法は一円玉を動かす事ではなく俺の心を…。

魔法に掛けられた俺は、今も麻美と一緒に魔法の使い道を考えている。
だが、ふと思う時が有る。
本当の彼女はすごい魔女では無いかと…。
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