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胎動-3 [権じいの村-10]

「こんにちは、今日はどういったご用件ですか?」
「健康保険と年金の…。」
「でしたら、こちらへどうぞ。
小栗さん、お願いします。」
「はい、年金の関係ですか…、」

「…、じゃあ頼むわ。」

「待ってる間に、ちょっとお話ししてていいですか?」
「ええよ。」
「私は権じいの村プロジェクトの関係で、今、ここで実習をさせていただいております、井上千恵と申します。」
「そうか、あんたも権じいなんたらの関係か。」
「はい、地震大変でしたよね。」
「ああ、まいったわ、家を直すのに金がかかるしな。」
「被害を受けられたのですか?」
「まぁ、うちは大したことなかった方かもしれんけど…。
何かよくわからんけど若い人たちが、地震のすぐ後から色々働いてくれたな。」
「充分お役に立てたでしょうか?」
「ああ、隣んちのばあさんなんか、後片付けを手伝ってもらったって喜んでいたよ。
そりゃそうだ、生きてるか見に行った時はえらい有様だったのが、次の日にはすっかり片付いていたからな。」
「よかった…。」
「どうした?」
「私たちの活動って…、そうですね、私たちはこの土地ではよそ者でしかありません。」
「ふむ。」
「でも、私も、私の仲間たちも、ここを第二の故郷と思って、この市を良くしたい、活気あふれる土地にしたいと思っています。」
「そんなことテレビでも言ってたな…。」
「いかがです、今は特に困ってることとかありませんか?」
「う~ん、わしは大丈夫じゃが…、知り合いに、怪我をして働けなくなった奴がおってな。」
「それは大変ですね…。
もうボランティアセンターの方で動いているかもしれませんけど、住所か連絡先を教えていただけないでしょうか?」
「そうか、今から電話してみるわ。」
「はい、お願いします。」

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「えっと~、井上さんだったかな。」
「はい、どうでした?」
「なんかしばらくは大丈夫みたいだ、何とかセンターが色々面倒見てくれてるそうだよ。」
「よかった、もれてなかった…。」
「お前さん方は、問題のある人を、もれなく面倒みるつもりなのかい?」
「できれば、そうしたいです。」
「でも、ここは面積も広いし、人もそれなりの人数だけどな。」
「それでも、大地震があって、心細い思いをしてみえる方のことを考えたら…。
ここに来ている学生たちの思いは皆同じです。
それぞれ、滞在期間もやっていることも違いますけど。」
「ずいぶんな人数ってこと?」
「ええ、とにかく宿泊関係が大変で、ふふ、ここの会議室とかも使わせてもらってます。」
「寝心地悪かろうに…。」
「確かに寝心地は悪いでしょうね、でも毎晩、議論で盛り上がっているんですよ。
私はこの近所の方の所に泊めていただいているのですが、夜は会議室組とよく議論してるんです。」
「昼は仕事で夜は勉強ってことか?」
「ふふ、まあそんなとこです。
あっ、手続きの方、済んだみたいですよ。」
「うん、ありがとな…、それと、がんばってな。」
「はい、有難うございます。」

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