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源じい [短編集-2]

宮原源一は73歳になる。
温厚な人柄から、周りの人たちは、尊敬の念を込めて源じいと呼んでいる。

「源じい、今日も山か~?」
「お~よ、下草刈りと枝打ちもせんとな。」
「けがせんようになっ。」
「あんがとよ。」

宮原は毎日のように山へ入る。
山仕事は決して楽ではない。
もう年なんだからという声もよく聞かされる。
ただ、そんな時の答えは決まって。
「ご先祖さまからいただいた大切な森だから、しっかり守らんとな。」

そんな会話のあった日は、森に入ると必ず木々を見渡す。
(この木は父ちゃんが植えたんだ、あっちの大きな木はじいちゃんがな。)
と、子どもの頃のことを思い出しながら…。

「この苗木が人様のお役に立てる頃にはわしは生きておらんだろうな。」
「え~、そんなこと…、でも植えるの?」
「あたりまえのことじゃ、源一が大きくなったら、この木を切って生活の糧にすることになるからな。」
「えっ?」
「わしもご先祖さまが守り育てて下さった木々を切って生きてきたんじゃ。」

そんな話を聞かせてくれたじいちゃんの歳になって、源一は少しさびしい気持ちになっていた。
(わしが死んだら、この森は…。)

「あっ、おじいちゃんめっけ~。
お弁当持って来たよ、あばあちゃんが作ってくれたの忘れてったろ。」
「おお、そうじゃった、ありがとうな…、なあ、継雄はこの森好きか?」
「大好きに決まってんじゃん、おじいちゃんが心を込めて守ってる森でしょ。」
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