先崎浩士-9

１１月始め、Ｌｅｎｔｏの休憩室。

「先崎くん。」
「あ、初音さん、こんにちは。」
「こんにちは。
ねえ、来月なんだけど19日の水曜日空いてない？」
「19日ですか、ちょと待って下さい。」

携帯でスケジュール確認をする先崎。

「Ｌｅｎｔｏで演奏することになってますが？」
「午後のコンサートタイムはどう？」
「えっ？　空いてますけど。」
「バイオリニストが一人都合が悪くなってしまったの、予定していた曲は君の得意なバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータが中心だから代役をお願い出来ないかと思って。」
「本当ですか？　ぼくでいいんですか？」
「予定していた人、最近演奏が落ちてきていたから、先崎くんの演奏でがっかりするお客様はいないわよ。
自信を持っていつも通りの演奏ができればね。
まあ時間帯が違うだけでスチューデントタイムと変わりはないかもしれないかも。」
「そんなことないです、代役でも何でもコンサートタイムでソロ演奏することがぼくの夢だったんです。」
「じゃあＯＫってことね。」
「はい！」
「そうするとスチューデントタイムは誰が良いかな…。」
「で、できれば和音ちゃんだけは許してもらえませんか。
さすがに彼女の後に一人で演奏するのは、まだちょっと…。」
「そうね、分かったわ、でも何時かは和音の後に弾くという覚悟をしておいてね。」
「はい。」
「年明けぐらいから、代役じゃないコンサートタイムの演奏も考えておいて欲しいの。」
「ほ、本当ですか！」
「早めに予定を出しておいてね。」
「わかりました。」

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