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中村和音第二回定期演奏会-5 [Lento 3,演奏会]

休憩後、観客の前に登場した和音は、真っ赤なドレスに身を包んでいた。
客席に軽く会釈して、すぐピアノへ。
ベートーヴェンのピアノ ソナタ第23番ヘ短調 「熱情」 が始まる。
透き通った緊張感がホールを支配する。
力強く伸びのある演奏が観客の心を魅了する。
一音一音に魂が込められ観客に届く。
ゆったりとした第二楽章からクライマックスの第三楽章へ…。
そして、会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こる。

観客の声援に応える和音…。
拍手が落ち着きかけた頃、舞台袖に目をやり合図を送る。
それに応え、袖から真子が真紅のドレスで登場する、和音はピアノへ。
真子はピアノの和音からも見える位置でゆっくりと観客を見据える。
無表情で何気に立っているだけなのだが迫力すら感じさせる。

和音はまた熱情の第三楽章を弾き始めた。
真子がそれに応えて動き始める。
しばらくして曲が、ベートーヴェンのそれとは全く違った展開になっていく。
真子の創作舞踊の世界も情熱を帯びて演じられていく。
和音の演奏も力強さを増す。

曲は、ゆったりしたテンポに変わる。
曲の変化に合わせ舞う真子。
和音と真子の世界が広がっていく。
観客たちは、何かしらのドラマをイメージしているのだろうか。

曲がまた熱を帯びて来ると、真子はピアノの上に置いてあった真紅のリボンを手にした。
燃える様な舞に、ピアノもさらに情熱を帯びてくる。

真子がリボンを真紅のリボンの束に持ち替えると、一気に炎の舞と化していく。
和音の指は鍵盤上を恐るべき速さで駆け回る。
最高潮に達した時、突然演奏が終わり、二人の動きが同時に止まる。
突然ではあっても不自然な感じは全くなかった。

演奏と舞に圧倒されていた観客はしばらく静かなままだった。
我に返ったかの様に一人が拍手を始めると、拍手と歓声がホールを満たすまで時間はかからなかった。
演奏の余韻に浸ってじっとしていた和音が立ち上がり、真子の元へ。
舞を終えたままの姿で静止していた真子の手を取る。
表情をふっと和らげる真子、先ほどまでとは別人の笑顔で和音と手を取り合ったまま客席の声援に応える。
こうしてベートーヴェンのピアノ ソナタ第23番ヘ短調 「熱情」 と即興演奏「情熱」が終わり休憩時間となった。


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