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中村和音第二回定期演奏会-3 [Lento 3,演奏会]

少しの間をおいて、和音が舞台に、観客に一礼の後、ピアノへ。
一呼吸おいて、シューマンのクライスレリアーナが始まる。
柔らかく暖かく軽やかな和音の世界に観客は浸る。
単に技術的なレベルが高いだけではない、人の心に自然に入っていく音色は和音独特のものだ。

Lentoで演奏を始めた頃の和音は、即興的に弾く曲、遊びで弾く曲では卓越した力で聴く者を驚かせたものの、シューマンやモーツアルトなどを弾き始めると、その力を半減させていた。
きちんとした作品を自分のものとして演奏できてなかったのだ。
Lentoのオーナー白川は、すぐに観客の前で、即興曲、遊びで弾く曲の演奏を禁じた。
コンテストで賞を取るまでという期限つきで。
「シュ-マンを楽譜通りに弾けても、和音のシューマンになってない、楽譜と違っていてもいいから、思いっきり和音の心を込めたシューマンを聴かせて下さい。」
白川の指導はこんな感じだ。
ある日の演奏は原曲とは程遠いものになってしまっていた。
「すばらしい演奏でしたが、作曲者にも敬意を。」
次の演奏は固さが目立つ。
「今日の演奏、和音はどこにいたのですか。」
白川からの言葉をかみしめつつ、次の演奏に向かっていく和音。

そんな裏話はさりげなくLentoマネージャー佐山初音が客へも伝えたりしていた。
自然、客の聴く姿勢が違ってくる。
それまでにも学生プレイヤーは何人もいたし、それなりの技術を持っていた。
しかし、和音のレベルは、今は迷いながらの演奏でも、他の学生たちとは、大きく違うということに皆が気づき始めた頃、和音は作曲者の描いた楽譜と自分の世界とのバランスをとれる様になってきていた。
「作曲者の遺した楽譜を、作曲者と語りあいながら、自分の心で演奏する。」
これが、この頃の和音が出した結論であり、この姿勢は今も変わっていない。

クライスレリアーナも第8曲となった。
わくわくするような、はずむ旋律が軽やかに流れる。
曲調が変わる中間部、和音の演奏は激しくなりすぎることはない、力強くはあるが優しさを感じさせる。
著名なピアニストたちの演奏とは全く違う、和音独特の世界が広がる。
そして、軽やかに曲は終わる。

満場の拍手。
拍手だけでは気持ちを押さえきれない観客からは歓声も飛び交う。
日本のクラシックの演奏会ではあまりないことだ。

ホロヴィッツのシューマン


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