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06 交流 [KING-02]

 我々はスコットランド国民を数名ずつ招待し、食事と音楽でもてなしている。
 そんな時は全て英語なのだが、ささやかに始まった国際交流の合間に微妙な問題が提起された。

「英語を世界共通語にしたいと提案されたが、どう思う?」
「こちらの国民全員が英語を話せる訳ではないのよね。」
「昔、全世界の人が英語を理解できると思っていたアメリカ人に辟易した経験が有るよ。」
「子ども達に教えて行く事は可能だわ、でもね…。」
「私達の星には実に多くの言語が存在していた、歴史を考えたら仕方のない事だったのだろうけど、不便で非効率だったのよね、誤解も生じただろうし。」
「世界に一つの言語の方が効率的なのは分かるが、日本語の使用をやめて欲しいと言われてもな、文化の問題が有るだろ。」
「まあ、こちらが日本語で会話していたら向こうは翻訳機を使わないと理解出来ない、だがこちらにはそういった制約がない、それを不公平に感じていたのかもね。」
「極力彼等の前では日本語を使わない様にして来たのだがな。」
「次に交流出来る国が翻訳機に頼るしかないのか、英語で済むのかにもよるわね。」
「統一言語を一つ決めておく事は悪い事ではないが、これから増える国によっては揉めるぞ。」
「そうよね、過去に英国と対立していた国が加わったら、宗教の問題も有って共通言語どころの話ではないわ。」
「国際法が必要かも、今後の事を考えると共通言語の話はしばらく保留にせざるを得ない、後から加わって来る国は成長が遅いって事だから、こちらが気を使ってあげないと嫌な世界になりかねないでしょ。」
「スコットランドと共に、国連を作り始めておくか?」
「そうね、共通言語の問題もそこで…、ねえキング、次に国交が成立する国の情報はまだなの?」
「ああ、何も聞かされていない。」
「例えば、私達とは別に国家の集合体が形成されてから、交流という事は?」
「マリアに確認したがそれはないそうだ、そんなことになったら大変だろ。」
「二大陣営対立という構図にならないのなら少し安心だが、他の国々はどうなっているのかな?」
「発展に手間取っていたとは聞いている。」
「ねえ、マリアさまが転送している生産余剰分だけど、そういった国々の為に使われてる可能性はどうかしら。」
「あっ、そうか…。」
「二つの意味で生産拡大を考えるべきかも、一つはまだ見ぬ国の住人達の為、もう一つは新たな隣人を得た時、食料支援が出来る様に。」
「余力は充分過ぎるほどに有る。」
「もう一つ意味が有るぞ、子ども達が食べ盛りになっても余裕が有る状態にしておく必要性だ。」
「はは、そうだな、作り過ぎた分がゴミになっていない事を祈りつつ、とりあえず増産体制を検討するか。」

 マリアが増産に賛成してくれたことも有り、私達は食料生産計画を見直す事にした。
 それに対し国民からの反発がなかったのは、マリアが提示した量は多く無く、手間が大きく増える訳でも無かったからだ。
 三之助はそこから食料を必要としている人数を推測しようと試みたが、自給自足のレベルという変数の為、最低値として算出した三百人程度という数値のみが有効だという。

 そういった情報はスコットランドの連中とも共有。
 彼等とは上手くやっている。
 考え方の違いは少なかったし、相手を尊重する気持ちも互いに有った。
 リーダーグループ同士の会議を開き、次に交流を始める国を想定しつつ二国間の約束事を相談し、まとめる作業を進めているが、かつての国家間交渉とは違い、自国の利益ばかりを優先させようという発言は出て来ない。
 両国とも紳士的に話を進めているので取り決めは常識的なもので有り確認程度の内容だが、今後加わる国を意識して成文化している。
 国民同士の交流も順調、英語を理解出来ない者はマリアが提供してくれた翻訳機を利用するが、その利用者は極めて少なかった。
 サッカーの試合を国対抗とせず混成チームで行っているのは、国を越えての仲間意識を高めるため。
 そんな中でこの世界に対する様々な疑問に対し情報交換を行っている。

「スコットランドが海の向こうに存在するのか、全く違う空間に存在するのか知りたいね。」
「調べる方法は?」
「星かな、ただ管理者が尤もらしく投影してるだけなら事実は掴めない、何か嘘くさいのだよな、日本で見ていた星空とは違い過ぎるだろ。」
「星座占いは破綻したのね。」
「はは、土壌に関しては、彼らと情報交換しペーハー値が明らかに違うことが分かったよ。
 管理者の気分なのか、元々の国に合わせているのかは分からないがね。」
「気候に関しては向こうも適度な気温、適度な降水量で問題ないそうだ。
 やはり四季を感じられないのは少し寂しいと話していたよ。」
「そうか、ウインタースポーツはもう出来そうにないのだな。
 代わりの乗馬は楽しいが、どうだい麗子、少しは慣れたか?」
「うん、でも三丁目の連中には追い付けそうにないわね。」
「彼らの運動神経は特別だよ。」
「彼等は英語が得意じゃなかったのに、サッカーや乗馬を通してスコットランドの連中と仲良くなってくれて嬉しいかな。
 大きな声では言えないのだけど、彼等のキングに対する忠誠心みたいなものから…、ここでの役割は軍人ではないかと思う時が有るの。」
「ああ、それは俺も感じていた、彼等を軍人にしない事が我々の役目だな、何時迄も罰が有効なら要らぬ心配だが。」
「二つの国を比べてみると管理者の方針が分かる気がする。」
「どんなこと?」
「こちらの二丁目に相当する向こうのコミュニティで生き残ってる大人は二人だけ、三丁目に相当する連中はやはり運動能力が高い、音楽村に対して演劇集団、他は職人という構成だろ。」
「成程、この先、国交を結ぶ国も同じ様な構成なのかしら。」
「可能性は高いが、となると、どの国も二丁目の様な連中に頭を悩ませているのかもな。」

 二か国の比較だけでは確実とは言えないが、充分に有り得る話という事で、もう一度二丁目問題と向き合う事に。

「一つはっきりしているのは仕事が嫌いで能力が低いという事だよな。
 どちらか一つなら、まだ救いようが有るのだが。」
「二丁目の一人が貴重な道具を独占していた、先にここへ来たからと言ってね。
 それを作業見直しのタイミングで五丁目の人に渡して貰ったら、一週間掛かってた作業が一時間で終わったよ。」
 「使いこなせてなかったのだな。」
「他の現場も似た様なもの、能力が極めて低い癖に文句だけは一人前だって、皆怒ってるわ。
 大切な仲間の寿命が短くなって欲しくないから我慢する様にお願いして来たけど、そろそろ対応を考え直すべきではないかしら。」
「今から教育って難しくないかな、記憶を取り戻してから悪化した気がするし。」
「現状なら彼等が働かなくても生産活動に影響はない。
 いや、むしろいない方が効率的だとレストランでの仕事ぶりを見ていて思うよ、他の国民と同様に働かせるのは無理が有るのかもな。」
「彼等の人権は後で考えるとして、一旦仕事から外してみるか?
 ろくに働いていない連中が文句を言いながら近くに居るなんて構図は、国民の平均寿命を短くする事に繋がりかねないだろ。」
「う~ん、少し酷かもしれないが真面目に働けないのならこの島へ入れなくするとか。」
「マリアさまにお願いするのね、でも、キング、完全に排除でなく時間制限に出来ないかしら。」
「それでも構わない、今まで必要が無いと思っていたから皆に話してなかったが、スコットランドとの国交が樹立した頃、国内のゲートに関しては私の一存で有る程度自由に出来るとマリアから言われた。」
「なら話は早いわね、でも国民に対してはマリアさまにお願いしたことにしておきましょう。」
「ああ、そうだな、で、子ども達の事も有る、具体的にはどうする?」
「そうだな、朝の十時から夕方四時まで島にいる事を許す、但し作業時間中に仕事をしていなかったり愚痴ばかり人にぶつけている様なら即座にお帰り願うって可能か?」
「大丈夫だ、仕事をしていなかったり妨げになっていると感じた人が現場リーダーに報告。
リーダーが帰宅指示…、帰宅時刻を決めて、こちらに連絡してくれた段階で設定変更する。
 帰宅指示時刻を過ぎて残っていた場合には罰が発動、強制的に帰宅させられて老けた気がするだろう。
 そしてコロニーが暗くなって…、経験していないから具体的は分からないが。」
「一度罰を経験したら少しは考えるかしら。」
「どうだかね、大人はそれで良いとして子ども達はどうする?」
「大人達は朝食夕食を自分達で作って必ずコロニーで済ませて貰う、子ども達は今まで通りここで食べてもコロニーで食べても良いという事でどうかな。」
「親と一緒が良いか、おいしい食事が良いかは子ども自身が決めれば良いわね。」
「なら、そろそろお泊り保育を始めましょうか。」
「お泊り保育?」
「他の子ども達も大きくなってきたから、お城で親から離れて一晩過ごすの。」
「タイミング的には良いかもな、二丁目の子ども達を城で守って行きたいが、四人だけとはいえ他の子達とあまり差が付くのは好ましくないと思う。」
「じゃあ、八重、その方向で頼むよ。」
「ええ、親だけでなく子ども達とも相談してスケジュールを組んでみるわ。」
「将来的にはスコットランドの子ども達とも相互にお泊り会を開ける様にしたいね。」
「ああ、結構仲良くやってくれてるからな。」

 スコットランドの子ども達と和の国の子ども達はもう友達。
 特に城の子達は交流の機会が多く仲良くなっていた。

「子ども同士が仲良くしててくれると安心よね。」
「だね、問題は言語か…。」
「子ども同士の会話は何というか、単語も文法も日本語と英語が入り混じってるよな。」
「キング、言語教育はほんとにしなくて良いのか?」
「子ども達の柔軟さを明日の世界に生かせないかと思ってるのだが。」
「言葉の乱れという次元じゃない…、新たな言語の創造か…。」
「どちらの言語で会話しろとは強制出来ない。」
「八重は単語を教えているのか?」
「ええ、でも少しだけ、子ども同士で結構解決してるのよ、子どもだから語彙が多い訳ではないでしょ。
 城の子達は相手の話す言葉が不思議で面白くて興味を持ったみたい、子ども同士の話はごちゃまぜでも、私と話す時はきちんと日本語で話してくれてるし、向こうの大人と話す時は英語で話そうと試みているのよ。」
「それは心強いな、で、子ども同士の時はどんな基準で言葉を選んでるんだ?」
「自分に馴染みのなかった単語は相手の言語、他は語感で選んでいるみたいね。」
「という事は子どもによって使う言葉が違うという事か、それで統一された言語に成長して行くのかな?」
「ポイントはこれから出会う言語だろう、出会った時の力関係も影響するだろうし。」
「現状では英語と日本語が有利になりそうだな、まあ彼等の言語に関して我々が口出しする必要はないのかもしれない。」
「少し早く生まれた分、我々の長男長女達が他の子達をリードしてる様だが。」
「ええ、国に関係なく年下の子の面倒を見てくれて助かってるわ。」
「躾をきちんとして来た成果だね、八重のアドバイスが的確だったおかげだよ、有難う。」
「お手伝いもしっかりしてくれる、二丁目の大人達より役に立ってるよな。」
「二丁目の子ども達はどうだ?」
「そうね、自分の親より保育担当者に懐いているぐらいだから…。
 将来的に二丁目出身という事がハンディにならない様にしないとね。」

 二丁目の大人達は現時点で犯罪者という事ではない、ただ、その言動は時に論理性を欠き感情的になり易い。
 彼等の役目は終わったのか、それとも…。
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