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05 宗教 [KING-02]

 二丁目住人の謎に関してはすぐに一つが判明した。
 二人が布教活動を始めたのだ。

「宗教とは思いもしなかったな。」
「ああ、でも不思議ではない、心の拠り所という側面が有るだろ。」
「クリスマスを楽しんで、正月には神社へ初詣、お爺さまのお葬式はお寺だったけど、特に信仰心はなかったわ。」
「私は唯物論者だったから初詣にも行かなかった、人混みが嫌いだと言う理由も有ったが。」
「念のため各自の宗教観を教え合っておいた方が良さそうだな。」
「私は麗子と同じ、お祭りとかイベントだけ参加って感じかな。」
「俺もだ、同じじゃないのは唯物論者のキングと…、三郎は?」
「ああ、皆とそんなに違う訳ではないが、宗教について考察した事は有る。」
「とりあえず宗教を原因とするトラブルは気にしなくて良さそうだね。
 三郎の考察を聞いておきたいと思うが。」
「簡単にまとめると、宗教が人類にもたらして来た良い面としては、セブンが口にした心の拠り所。
 人間誰しも死を迎える、死を恐れるのは本能的な事だと思うが、死後の世界を経験した者はこの世に存在しない。
 だから死後の世界を尤もらしく説かれれば、それを信じて心の安らぎに繋げてもおかしくはない。
 そして道徳心の向上、社会にとって良い行いをする事が、良い来世に繋がると多くの宗教家が説いていたと思う。
 だが、宗教が私利私欲の人によって曲げられ利用されて来たのも事実だ。
 キリスト教、仏教、イスラム教等、それぞれが多くの宗派を持っていたのだからな、つまり自分の都合によって解釈を変え分かれて行った訳だ。
 それぞれ根本の教えはすばらしいものだったのだろうがね。
 まあ、長い話になりかねないので、二丁目の問題に戻すと、問題点は布教活動を始めた二人が違う宗教を信じているという事だ。
 二丁目は分裂し対立するかも知れない。
 ただ、彼女達の布教活動が全体にとって、大きな障害になることは無いと思う、キング程の説得力を持ち合わせている訳でもないし、仕事に熱心でもない彼女ら自身は他から嫌われているからな、かつて属していた宗教団体内でもリーダー的立場にはなかった人達だろう。
 ただ、可能性は低いが、この先二つの異なる宗教によって国民が対立する事は避けたいと思う。
 今は早く天に召されたいと考えない限り大きな争いにはならない状況だが、子ども達はどうだ。
 親に洗脳されて科学的論理的思考を阻害され、自分と違った思想に対して攻撃的になる可能性は否定出来ないだろ。
 二丁目が分裂したとしても、それはどうでも良いことだが、子ども達は守って行きたいね。
 そしてもう一つ…、こちらの方が厄介なのだが、スコットランドだけでなくこれから出会うであろう国の人達は、それぞれ違った宗教を信仰している可能性が有るという事だ。」
「過去には宗教や宗派の違いから戦争にもなったな。
 まあ、それは単なる口実で利害関係が原因だったのかも知れないが。」
「結構大きな問題だ、少し考える時間が必要だと思う。」
「だな、とりあえず明日の夜にでも、もう一度話し合おう。」

 二丁目住人による布教活動がなかったら他国の宗教にまで目が行かなかったかも知れない。
 だが、宗教対立をこの世界で起こしてはならない、仲間達の顔はそう語っていた。

 翌日、宗教の問題に関する会議の口火を切ったのは三之助だ。

「宗教と死は切り離せないと思うの、死と共に人の精神とか心はどうなるのか、科学的に考えれば死によって停止して消えるのでしょうけど、それだとちょっと寂しくは有る、そこで宗教の登場。
 でもこの世界では昔いた世界と大きく違う事が有るわ。」
「う~ん、何かしら?」
「それは管理者の存在、キング、亡くなった二人がどうなったのかマリアさまに訊いて貰えないかな、肉体だけでなく脳内のデータも含めて。」
「あっ、何となく三之助の考えてる事は分かるが、教えてくれなかったら?」
「私達で作っちゃえば良いのよ、肉体は形を変えて再利用されるが記憶はマリアさまのデータバンクに保管される、より質の高い記憶や能力は人類をより高次元の生命体とする為に再び活用されるが、社会秩序に反する低次元な考えを持つ者の記憶は残す必要がなく抹消されるとか、どう?」
「うん、新しい世界になったのだから新しい宗教とは考えていたが、なかなかの出来だな。」
「それ以外の部分は二丁目の二人が信仰してる宗教の共通点と異なる点を整理して作れば良いわね。」
「三郎はスコットランドの連中と宗教の話をして来たのだろ?」
「ああ、彼等はカトリックとプロテスタントに分かれていると話していた。
 この先問題になりそうだったから、第三者の視点で科学的に分析したら違う物が見えて来るかも知れないと提案しておいたよ。
 我々が双方の主張を聞いて質問して行くという形、うまく行けばこの世界共通の秩序作りへ向けて、その足掛かりとなるかも知れない。」
「科学的考察による宗教の融合か、私達を救ってくれたのは信仰していた神ではなく管理者、彼らは我々を超越しているが、神というイメージとは少し違うかな。」
「でも、本当の神なのかも、管理者を切っ掛けに過去の神を捨て去る事が出来れば、差別のない宗教を作り出す事が可能ではないかしら。」
「差別か…、特権を振り回す輩が、これから出会う国に誕生していないと良いが。」
「国家成立の過程でコロニー間格差が生じているかもね。」
「まだ見ぬ国を心配するより、まずは手の届くところから考えない?」
「そうだな、三郎、皆の考えをどう思う。」
「ああ、その方向でまとめさせて貰うよ、和の国とスコットランドが同じ社会規範で行動できる様になれば先々楽になると思う、ただ、相手を説得して行く場面ではキングの力を借りたいが。」
「もちろんだ。」
「いっそ、キングを教祖様にして新興宗教でも始めるか。」
「はは、そいつは面白いな。」
「余計な対立の元になりそうだから遠慮させて貰うよ。」
「残念ね、どうやって崇め奉るのか考えるのはイベントとして面白そうなのに。」
「所詮おもちゃなのか、私は。」
「ふふ、でも、ここへ来てからクリスマスも初詣もなかったわ、子ども達の誕生日ぐらいよね。」
「昔は宗教がらみのイベントが娯楽だったのかもな、新たに祭りでもやるか?」
「良いわね、何かオリジナリティーあふれるのを始めたい、国民の声を聴いて。」
「宗教の話はどうする?」
「我々の統一見解をまとめてから国民に示すべきだろうな、三之助がでっち上げた部分だって話して良い、でもまずはマリアさまの話を訊きたいね。」
「そう言えば二丁目では葬式をしたのかな?」
「息を引き取ってしばらくしたら消えたという事だから、そんな暇はなかったかも、結構嫌われてたし…。」
「儀式的な事も考えて行くべきなのかしら。」
「儀式って必要なのか?」
「心の区切りをつけるという側面は有ると思うな。」
「堅苦しいのは嫌かも。」

 ひとまず宗教に関しては三郎が動き始めた、これから出会うであろう国家を想像するとかなりの難題と言える。
 だがスコットランドと共に、この世界に於ける統一された宗教観を確立し、複数の宗教を乱立させないこと、そう、宗教対立の無い平和な世界を目指すと言うのが我々の出した結論だ。
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