01 プロテクト [KING-02]
この地で最初に生まれた一花達の子が我々の暦で四歳の誕生日を迎えた頃、久しぶりにマリアからの呼びかけが有った。
「次に現れるゲートは今までの物とは大きく異なるそうだ。」
「具体的には?」
「相手国のデータが事前にもたらされる、それと自動翻訳機を用意してくれる。
端末の画面越しに面会する事が出来、直接会いたくなかったら会わなくて良いそうだ。」
「相手国ということは、私達の島もマリア的には国と捉えられているのね。」
「ああ、うちと交流出来る規模に成長した国家はまだ一か国のみだが今後増えるそうだ。」
「という事は我等が王国は幾つか有る国家の中でもトップクラスの成長度ということだな、さぞかしマリアさまも鼻が高かろう。」
「いや、そういう感覚では無く、ここまでは準備期間、これからが本番の研究だとはっきり言われた。」
「研究か…。」
「そして、全員の記憶に掛かるプロテクトを少しずつ外して行くとも。」
「そうか、失くしていたと思ってた記憶は頭の中に…。
その記憶が閲覧可能になるというのは少し怖いわね、管理者は意図的にプロテクトを掛けていたのでしょうから。」
「ああ、私達はそれと向き合いながら、国民の態度にも気を配る必要が…。
ここへ来る前は高い地位にいたのに今は豚の世話とかだと、精神的に辛くなると思わないか?」
「明日、大人全員に話そうと思うがどうだろう。」
「そうだな、事前に分かっていれば覚悟も出来てトラブルを減らせられるかもしれない。」
「そして今更だが、私達は仲間として、どんな記憶が蘇ろうと、これから先も力を合わせて進んで行きたい、子ども達の為にもな。」
「そうよね、過去の記憶は子ども達には関係ない、もちろん伝えるべき事が有れば伝えて行かなくてはならないけれど、キングの言葉は心に刻んでおくわ。」
「俺達の結束が揺らいだら、全員の不安を増大させることにもなる、これを乗り切って王国を盤石なものにしようぜ。」
私達から抜け落ちている記憶が楽しいものでは無いという可能性について、以前から話し合っていた。
そのプロテクトが少しずつでは有るにしても、始めて外交交渉に取り組むタイミングで外されるというのには不安しかない。
そんな我々の思いと関係なく新たに出現したゲート、それは今までのものとはサイズも違い立派なもの。
新ゲート出現と同時に、今までデータベースへのアクセスに使っていた端末がバージョンアップされ新たな機能が加えられた。
三郎と一通りの操作を確認したところで、子ども達の世話を音楽村の住人に頼み、城の八人を端末の有る部屋に集める。
「これが相手国の情報だ。」
「大人は五十六名か、コロニーが一つ少ないのかな…、あっ、八名死亡か。」
「ここと同じ様な事が起こったのかしらね。」
「飼育している動物の数、畑の面積など、総じてここより小規模だな。」
「うちに無い物は弓矢…、武器か。」
「俺達が農耕民族なのに対して狩猟民族なのかも、キング、殺すな、といった禁止事項は彼等との間にも当てはまるよな。」
「ああ、それはマリアに確認した、これを見るとキツネとか…、ハンティングを楽しんでるという事ではないのか。」
「その発想は俺達に無かったね、愛玩動物は出して貰ったが。」
「子どもは二十人…、子どもが二十人に達したら他国との交流開始というルールだったりして。」
「かもな、まあ、他の国との交流が始まるまで確認は出来ないね。」
「ご挨拶しますか、キング。」
「ああ、皆、心の準備は大丈夫か?」
その、返事を耳にする前に呼び出し音が鳴り『コロニー26489より呼び出し』と画面に表示された。
応答する、という文字が出たので選択すると、画面には金髪の男性が現れた。
上部には自動翻訳中と表示されている。
『初めまして、私はジョージ、こちらのコロニーリーダーです。』
「初めまして、当方のリーダーでキングと名乗っています。」
『データによると、ずいぶん大きな国なのですね。』
「管理者に色々お願いした結果です。」
『罰の回数が少なかった成果なのですね、そうと分かっていたら反抗的な人物を早くから押さえつけるべきでした。』
「成程、やはり罰を何度も受けた者は早くに死を?」
『はい、自分の老化原因に気付けなかった可哀そうな人達です。』
「やむを得なかったのですよね。」
『ええ、ところで、あなた方の国を訪問させて頂く事は可能でしょうか?』
部屋にいた者達は一様に頷いた。
「大丈夫です、今回の通過は八名でよろしいですか。」
『はい、お願いします。』
「では一時間後という事でどうでしょう。」
『分かりました。』
モニター越しのファーストコンタクトは何の問題もなく済んだ。
「そうか俺達は日本人だったのか、彼らは…。」
「欧米人との括りでしか分からないわね。」
「少なくとも敵意は感じられなかったが、違う人種と出会って自分達が日本人だと気付くというのは少し複雑な気分だな。」
「まずは、歓迎の準備をしよう、全国民、新ゲート前に集合だね。」
「記憶のプロテクトが外れるタイミングが今でないと良いのだが…。」
「そうね、蘇る記憶が相手国との喧嘩に繋がる可能性は否定出来ないわ。」
「しばらくはゲート前で対話という事にしよう、もし雰囲気が悪くなる様なら、早目に帰って頂くという事でどうだ。」
「そうだな、そんな事態になりそうだったらキングは下がっていてくれ、俺が何とかするから。
なに、訪問者は八名だから人数的に負けることはない、三丁目の連中には前の方にいて貰おう。」
「ロック有難う、その時はお任せする。
ただ、マリアが出してくれた翻訳機が誤訳しないとは言い切れないから慎重に頼む。」
「ああ、気を付けるよ。」
そして…。
新たなゲートから現れた八人は全員白い肌を持ち、髪や目の色は自分達と異なっていた。
ただ、話し始めて驚いたのは彼等に対してではなく自分に対してと言うか…。
「あっ、キングは普通に話してるけど日本語じゃなく…。」
「翻訳機いらないな。」
「セブンもか。」
「何年も使ってなかったし耳にもしなかったのに普通に理解出来る。」
「私はこの言語を学んでいたわ、御免、成績優秀だったみたい。」
「はは、俺もだ。」
「自分は留学してた…、うっ、ちょっとやばいな頭が…。」
「少しづつじゃなかったの…。」
「うわ~!」
「割れそうだ~!」
我々は突然大きな頭痛に襲われた。
面会は事態を説明してすぐに切り上げて貰うことに。
理由は私達の記憶が急速に戻って来ている事による酷い頭痛を伴った混乱。
近い内に再度連絡を取るという事で納得して貰う。
極度の頭痛に対して必死に耐えながら何とか話したが、彼らは私達を介抱するという状況にないと判断したのか、あっさり引き上げてくれた。
変に気を遣われても迷惑でしかない状況、激しい頭痛の中、垣間見た国民達は程度の差こそ有れ一様に苦しそうだ。
記憶のプロテクトがこんなにも暴力的に外されるとは想像もしていなかった。
順番に思い出すのではなく、一気に脳細胞が刺激される。
とてつもない頭痛と異常なイメージに脳内を支配され苦しんだ後に、自分の過去が蘇る…。
突然始まった戦争、何も分からない内に家族を失う。
何とか生き残った者達で協力しながら生きていた。
そこを見知らぬ者にいきなり襲われ仲間を幾人も失う。
仲間を亡くした辛さ、やるせなさ。
その後も不幸は続き、仲間内で生き残ったのは自分一人になる。
絶望。
蘇り整理され始めた記憶の最後は大きな光の塊が自分目がけて飛んで来る所で終わる。
そんな絶望の記憶に脳を支配されそうになった時、目に入ったのは子ども達。
親達の異変に戸惑い泣いている姿だった。
何者かが問う。
『私は誰だ。』
その答えは蘇った記憶と共に有る、だがそれは過去の自分。
目の前で泣いている子にとっての自分はキングだ。
そう、今の現実の責任者。
明日を創り出す事こそがその使命。
「今を思い出せ! 過去に捕らわれるな! 我々には未来が有る! 子ども達が居る!」
そう叫んでいる自分がいた。
「次に現れるゲートは今までの物とは大きく異なるそうだ。」
「具体的には?」
「相手国のデータが事前にもたらされる、それと自動翻訳機を用意してくれる。
端末の画面越しに面会する事が出来、直接会いたくなかったら会わなくて良いそうだ。」
「相手国ということは、私達の島もマリア的には国と捉えられているのね。」
「ああ、うちと交流出来る規模に成長した国家はまだ一か国のみだが今後増えるそうだ。」
「という事は我等が王国は幾つか有る国家の中でもトップクラスの成長度ということだな、さぞかしマリアさまも鼻が高かろう。」
「いや、そういう感覚では無く、ここまでは準備期間、これからが本番の研究だとはっきり言われた。」
「研究か…。」
「そして、全員の記憶に掛かるプロテクトを少しずつ外して行くとも。」
「そうか、失くしていたと思ってた記憶は頭の中に…。
その記憶が閲覧可能になるというのは少し怖いわね、管理者は意図的にプロテクトを掛けていたのでしょうから。」
「ああ、私達はそれと向き合いながら、国民の態度にも気を配る必要が…。
ここへ来る前は高い地位にいたのに今は豚の世話とかだと、精神的に辛くなると思わないか?」
「明日、大人全員に話そうと思うがどうだろう。」
「そうだな、事前に分かっていれば覚悟も出来てトラブルを減らせられるかもしれない。」
「そして今更だが、私達は仲間として、どんな記憶が蘇ろうと、これから先も力を合わせて進んで行きたい、子ども達の為にもな。」
「そうよね、過去の記憶は子ども達には関係ない、もちろん伝えるべき事が有れば伝えて行かなくてはならないけれど、キングの言葉は心に刻んでおくわ。」
「俺達の結束が揺らいだら、全員の不安を増大させることにもなる、これを乗り切って王国を盤石なものにしようぜ。」
私達から抜け落ちている記憶が楽しいものでは無いという可能性について、以前から話し合っていた。
そのプロテクトが少しずつでは有るにしても、始めて外交交渉に取り組むタイミングで外されるというのには不安しかない。
そんな我々の思いと関係なく新たに出現したゲート、それは今までのものとはサイズも違い立派なもの。
新ゲート出現と同時に、今までデータベースへのアクセスに使っていた端末がバージョンアップされ新たな機能が加えられた。
三郎と一通りの操作を確認したところで、子ども達の世話を音楽村の住人に頼み、城の八人を端末の有る部屋に集める。
「これが相手国の情報だ。」
「大人は五十六名か、コロニーが一つ少ないのかな…、あっ、八名死亡か。」
「ここと同じ様な事が起こったのかしらね。」
「飼育している動物の数、畑の面積など、総じてここより小規模だな。」
「うちに無い物は弓矢…、武器か。」
「俺達が農耕民族なのに対して狩猟民族なのかも、キング、殺すな、といった禁止事項は彼等との間にも当てはまるよな。」
「ああ、それはマリアに確認した、これを見るとキツネとか…、ハンティングを楽しんでるという事ではないのか。」
「その発想は俺達に無かったね、愛玩動物は出して貰ったが。」
「子どもは二十人…、子どもが二十人に達したら他国との交流開始というルールだったりして。」
「かもな、まあ、他の国との交流が始まるまで確認は出来ないね。」
「ご挨拶しますか、キング。」
「ああ、皆、心の準備は大丈夫か?」
その、返事を耳にする前に呼び出し音が鳴り『コロニー26489より呼び出し』と画面に表示された。
応答する、という文字が出たので選択すると、画面には金髪の男性が現れた。
上部には自動翻訳中と表示されている。
『初めまして、私はジョージ、こちらのコロニーリーダーです。』
「初めまして、当方のリーダーでキングと名乗っています。」
『データによると、ずいぶん大きな国なのですね。』
「管理者に色々お願いした結果です。」
『罰の回数が少なかった成果なのですね、そうと分かっていたら反抗的な人物を早くから押さえつけるべきでした。』
「成程、やはり罰を何度も受けた者は早くに死を?」
『はい、自分の老化原因に気付けなかった可哀そうな人達です。』
「やむを得なかったのですよね。」
『ええ、ところで、あなた方の国を訪問させて頂く事は可能でしょうか?』
部屋にいた者達は一様に頷いた。
「大丈夫です、今回の通過は八名でよろしいですか。」
『はい、お願いします。』
「では一時間後という事でどうでしょう。」
『分かりました。』
モニター越しのファーストコンタクトは何の問題もなく済んだ。
「そうか俺達は日本人だったのか、彼らは…。」
「欧米人との括りでしか分からないわね。」
「少なくとも敵意は感じられなかったが、違う人種と出会って自分達が日本人だと気付くというのは少し複雑な気分だな。」
「まずは、歓迎の準備をしよう、全国民、新ゲート前に集合だね。」
「記憶のプロテクトが外れるタイミングが今でないと良いのだが…。」
「そうね、蘇る記憶が相手国との喧嘩に繋がる可能性は否定出来ないわ。」
「しばらくはゲート前で対話という事にしよう、もし雰囲気が悪くなる様なら、早目に帰って頂くという事でどうだ。」
「そうだな、そんな事態になりそうだったらキングは下がっていてくれ、俺が何とかするから。
なに、訪問者は八名だから人数的に負けることはない、三丁目の連中には前の方にいて貰おう。」
「ロック有難う、その時はお任せする。
ただ、マリアが出してくれた翻訳機が誤訳しないとは言い切れないから慎重に頼む。」
「ああ、気を付けるよ。」
そして…。
新たなゲートから現れた八人は全員白い肌を持ち、髪や目の色は自分達と異なっていた。
ただ、話し始めて驚いたのは彼等に対してではなく自分に対してと言うか…。
「あっ、キングは普通に話してるけど日本語じゃなく…。」
「翻訳機いらないな。」
「セブンもか。」
「何年も使ってなかったし耳にもしなかったのに普通に理解出来る。」
「私はこの言語を学んでいたわ、御免、成績優秀だったみたい。」
「はは、俺もだ。」
「自分は留学してた…、うっ、ちょっとやばいな頭が…。」
「少しづつじゃなかったの…。」
「うわ~!」
「割れそうだ~!」
我々は突然大きな頭痛に襲われた。
面会は事態を説明してすぐに切り上げて貰うことに。
理由は私達の記憶が急速に戻って来ている事による酷い頭痛を伴った混乱。
近い内に再度連絡を取るという事で納得して貰う。
極度の頭痛に対して必死に耐えながら何とか話したが、彼らは私達を介抱するという状況にないと判断したのか、あっさり引き上げてくれた。
変に気を遣われても迷惑でしかない状況、激しい頭痛の中、垣間見た国民達は程度の差こそ有れ一様に苦しそうだ。
記憶のプロテクトがこんなにも暴力的に外されるとは想像もしていなかった。
順番に思い出すのではなく、一気に脳細胞が刺激される。
とてつもない頭痛と異常なイメージに脳内を支配され苦しんだ後に、自分の過去が蘇る…。
突然始まった戦争、何も分からない内に家族を失う。
何とか生き残った者達で協力しながら生きていた。
そこを見知らぬ者にいきなり襲われ仲間を幾人も失う。
仲間を亡くした辛さ、やるせなさ。
その後も不幸は続き、仲間内で生き残ったのは自分一人になる。
絶望。
蘇り整理され始めた記憶の最後は大きな光の塊が自分目がけて飛んで来る所で終わる。
そんな絶望の記憶に脳を支配されそうになった時、目に入ったのは子ども達。
親達の異変に戸惑い泣いている姿だった。
何者かが問う。
『私は誰だ。』
その答えは蘇った記憶と共に有る、だがそれは過去の自分。
目の前で泣いている子にとっての自分はキングだ。
そう、今の現実の責任者。
明日を創り出す事こそがその使命。
「今を思い出せ! 過去に捕らわれるな! 我々には未来が有る! 子ども達が居る!」
そう叫んでいる自分がいた。
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