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猫田小夜-34 [化け猫亭-04]

「永井さん、今日もご機嫌ですね。」
「ああ、藤井聡太がまた勝ったからな。
解説だと、AIが悪手と判断する様な手から、飛車を捨てる手に繋げて一気に優勢に持ち込んだそうだ、俺なんざ、へぼだから飛車を捨てるなんて考えられないのだがね。
彼の将棋を見てると、互角の状況でもかなり先まで見通しているとしか思えない、負けない形を作って行き、相手の隙をついて勝つ、そんな将棋が多いと思う。」
「へ~、情報処理能力に優れているのでしょうか?」
「だろうな、詰将棋もすごく強くて、普通の人の三倍ぐらいの早さで考えてると話す人もいる、まさに天才だね。」
「永井さんとは生まれた時から差が有ったのですね、でも、成長する環境も大切ですよ。」
「環境か…。」
「二人の乳児、その基本的な能力が全く同じと仮定した上で、全く違う環境で育てるとしたら簡単に推察できます。
一人には言語を全く教えない、一人には多くの読み聞かせをし適度な教育をして行くとしたらどうなります?」
「言葉を教えて貰えないと言うのは大きなハンディだね、言語によらない思考なんて考えられない。」
「読み聞かせをしっかりして貰わなかった、対話を小さい内からしっかりして貰う事が無かったら、それなりのハンディにはなりますね。」
「うん、そうか、子どもが生まれたら気を付けるよ。」
「えっ、永井さん妊娠されていたのですか?」
「はは、妻がね、男の子が生まれたら聡太だな。」
「ふふ、永井さんのお子さんなのですから高望みは禁物ですよ。」
「分かってる、頭が良過ぎても…、ねえ、神童も二十歳過ぎればただの人って言うけど、どう思う?」
「神童にもよりますね、例えば九九を五歳で覚えたとしても、他の子もいずれ覚える訳ですから、単に九九を覚えるのが早かったというだけの事、天才の領域では有りません。」
「そう言われると確かにそうだな。」
「大学生でも解けない数学の問題を中学生で解けたら天才かも知れません。
ただ…、その能力を活かす力と環境が無かったら、やはりただの人になってしまいます。」
「天才的な能力とそれを活かす能力は別物という事?」
「ええ、誰も思いつかなかった凄い理論を思いついて、発表すればノーベル賞間違いなしという研究をしていても、それを人に認めさせるだけの能力や環境が無かったら、研究職を続けられなくて一般企業に就職、でも、一つの分野で天才的な頭脳の持ち主で有っても、他の分野では標準以下かも知れません。
そのまま落ちこぼれ社員になってしまったら、ただの人、以下ですね。」
「そんな事が有り得るのだろうか?」
「大学の研究職は安定していません、待遇は派遣労働と変わらない人が少なく無いのですよ。
コミュニケーション能力が無かったら普通に有り得る話です。」
「そうか…。」
「その点、藤井七段は持って生まれた才能とそれを伸ばす環境が有り、それらを将棋の世界で活かし切っています、だから年収も永井さんを軽く越しているのですよね。」
「ああ、今年の年収は二月に抜かれているし、このまま勝ち進んだら、彼は、かなりの所得税を納める事になるのだろう、本人はそんな事に興味が無さそうだがね。」
「う~ん、学校帰りに偶然ぶつかり、そこから恋が芽生えて…、高校が終わる時間とか調べたら偶然の確率が上がるかなぁ~。」
「ぜ、絶対だめ、下心しかない女子大生が近づく事は禁止だ!」
「でも、天才の遺伝子にも興味が有るのだけど。」
「だめだって!」
「ふふ、大丈夫ですよ、見かけた事は有りますが、私だけでなく、みんな自主規制をしています。」
「なら良いが、今は将棋と学校に集中していて欲しいんだ。」
「恋愛はだめなのですか?」
「そう言われてしまうと、どうなんだろう…。
いずれ経験して欲しいが…、それが将棋にどう影響するか分からないよな。」
「そこは、お姉さんが。」
「だめだってば!」
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