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「決まったよ。」 [檜を植える人]

「決まったよ。」

その時、入り口が勢い良く開けられた。
慌しく入って来た青年は、後ろの席の若者を見つけ嬉しそうに声をかける。
元気な声は店中に響いた。
「やったな。」
と応える若者。
「ビール、生中ね!」
と注文をする青年を横目に
何が? と、疑問を抱く私、彼は嬉しそうに話し始めた。
「やりましたよ。」
少し興奮気味にである。
「大学に新規の学部発足です。」
「へ~、どんな学部なんだい?」
先客が問う。
「明日を、未来を模索する学部なんです。」
そこを飛び込んで来た方の青年が続ける。
「我々の明日を、夢を持って研究する学部。
既存の研究のワクを超えてです。
分野にこだわらず、より暮らしやすい明日を皆で考えて行こう、という取り組みなんです。」
「と、言うと?」
「僕ら現在の日本に満足していません。
貧富の差の拡大、景気が悪化すれば、若者ですら就職に苦労する。
明日への希望が持てないどころか、今日を生きるのに精一杯の人が沢山居る日本は、果たして先進国と言えますか?
そんな現状をなんとかしようという気力すら持てない現状。
個人の力なんてたかが知れていますからね。 」
「うん…、で、君達は?」
「社会主義体制はその問題点をさらけだして崩壊、自由主義経済も価格破壊などによりバランスを大きく崩して限界、 今の経済社会が完成されたものでないことは明白ですが、次の体制、より完成度の高い社会の構築という視点が無かったと思うのです。」
「簡単なことでは有りませんが、より高い次元の社会体制を研究して…、そうですね…、十年先、五十年先、百年先にでもより良い社会が実現できたらという研究の場を作りたい、という我々の提案に、私達の大学が乗ってくれたんです。 」
「俺達、だめもとで動いてきたんですけどね。 学長も理事達も…、まぁ大学の独自性を高め、少子化の今日、より多くの入学希望者をという気持ちもあるのでしょうけどね。」
彼らの話は私に大きな衝撃を与えた。
今まで考えたことも無かったことだからだ。
若者達の話しに対して問題点の指摘を試みようとしている私の脳は、己の卑小さに気付き、ジョッキへ手を伸ばせと命ずる。
「まずは乾杯ということなんだね。」
「はい、付き合っていただけますか?」
「もちろんだ。」
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