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ぷろろーぐ [猫洞堂]

「ふわ~、よく寝た、ちゃんと二度寝もしたし、そろそろ起きるかな。」

ベッドから起き上がり身支度を始めたのは、遠野由香里、24歳、独身、独り暮らし…。

「ちょっと~、何勝手にナレーション入れてるのよ~、自己紹介ぐらい自分でするわ、もう年までばらしちゃって!」
はい、ごめんなさい。
「分かればいいわ!」

「あ~ら、ごめんなさいね、ほんとはとてもおしとやかなのよ、うふふ。
今日は涼しげな白の軽いワンピースに、日傘はかわいい空色。
まだまだ暑いですからね。
さてと、そろそろ出かけるとしますか。」
パタン、カシャカシャ。
「このマンションの良いところは、やっぱり眺めの良さかな。
11階ってこともあるけど、結構緑も多いでしょ、って見えないか。
下に見えてるのが猫ヶ洞池…、あっエレベーターが来たから乗るわね。」

「この辺りは坂が多いの、しかも急、なのに結構ご立派な家が多くて…、お金持ちは坂が好きなのかしら。」

由香里は楽しげに坂道を上っていく。
白い肌の美女が軽く揺れる白いワンピースを身にまとい、空色の日傘をかざして、立派なレンガ塀の前を通りすぎる。
絵になる光景だ。

「ふふ、さあ着いたわ、マンションから歩いて5分、私はこの猫洞堂で働いてるの。
マンションから見えてた池は『ねこがほら池』、ここは『ねこぼらどう』って呼んでね。」

猫洞堂は坂の途中、小さな森に囲まれる形で、ぽつん、と建っていて古いが手入れは行き届いている。
入り口の木陰では黒猫が一匹、涼しげな表情でくつろいでいる。

「あっ、社長、おはようございます。」

黒猫に頭をさげる由香里。
心なしか、黒猫の表情が緩んだ感もある。

「社長は今日もお元気そうでなによりです。
ご飯は何になさいますか?」

黒猫の表情が少し変わる。

「はい承知いたしました、しばらくお待ち下さいね。」

由香里は猫洞堂の中に入っていった。
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