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馬籠宿から-1 [短編集-5]

バスから降りた若い二人連れ。

「ようやく馬籠に着いたのね、正樹。」
「うん、香織、まずは少し上って何か飲む?」
「ええ軽めのジュースを飲みたいわ…、えっ? 上がる?」
「こっちだよ。」
「なるほど、いきなり坂を上る訳なのね。」
「ああ馬籠宿は坂の宿場なんだ。」
「じゃあここからずっと上っていくの?」
「うん、坂道の両側にお店が、まあ昔は宿屋が並んでたのかな…、この店でどうだい?」
「いいわよ。」

店に入り飲み物の注文が終わると正樹が…。

「学生の頃さ、夏休みともなればね、バイクに寝袋とか積んでさ、あちこち走り周っていたんだ。」
「ふふ、学生特権の旅をしてたのね。」
「まぁ、そんなとこだね、でさ歴史好きだったから宿場とかも色々周ったんだ。」
「うん。」
「俺の行った宿場の中で、坂道の両側に建物が並んでいるのはここだけだったんだよ。」
「へ~。」

そこへ飲み物が届く。

「お待たせしました。」
「ありがとうございます、こんな坂道で大変ではないのですか?」
「はは、慣れっこですからね。」
「でも楽ではなさそうです。」
「昔は今ほど道がしっかりしてなかったと思いますから…。」
「あっ、そうか…、昔はもっと大変だったのか…。」

香織と店員の会話を微笑みながら見ている正樹。

「ねえ香織、藤村の夜明け前、読めた?」
「うん、何とか、文学少女を自認してた私だけど、さすがに明治時代の文体って気軽に読めるものじゃなかったわ。」
「だよな。」
「でもね。」
「うん。」
「どうして島崎藤村、夜明け前が日本の文学史の中で大きな評価を得たか初めて分かった気がするの。」
「だろ。」

「ねえ、馬籠ってさ昔の宿場っていうから古い建物ばかりなのかと思ってたけど、そうでもないのね。」
「ああ、大火事があったからね。」
「そうなんだ。」




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