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社-10 [シトワイヤン-28]

夏は軽く四十度を超えると言うこの国でも、今の季節は過ごし易く、舞を披露するイベントは舞姫さまの社近くに造られた仮設の屋外ステージで。
王子から、この地に一大観光施設が造られるという話の後、歌や踊りが続く。
観客たちは姫さまの祝福を感じながらそれを楽しむ。
しばらく間を開けて、姫さまの出番。
人々が胸の前で手を組んでくれたのは、なんかホッとした。
王子が初めて姫さまを前にしたら、どうすれば良いか戸惑うだろうからと、苗川で始まった感謝のポーズを事前に教えさせたのだとは後で聞いた話。
すでに姫さまの祝福を感じていた人々は素直に従ったと言う事だ。
このステージには鷹狩で使われているハヤブサが連れて来られた。
前もって姫さまと対面済で、もうすっかり懐いている。
舞が始まり、姫さまが呼ぶ仕草をすると、飼い主の腕から舞い上がり姫さまの下へ、姫さまに挨拶するような仕草をした後はステージを右へ左へと、広い屋外ステージならではの演出となり舞を盛り立てる。
しばらくすると姫さまの舞は宙に浮き始める。
勿論種も仕掛けも無い。
ハヤブサは姫さまの下を何度も通り抜けた後、飼い主の腕へ。
姫さまは、舞を終え、静かに舞い降りる。
観客はこの物理法則を無視した現象を目の当たりにしても自然に受け止め、強く感じられる祝福に拍手では無く胸の前で手を組み感謝の言葉をつぶやくのみだった。
私達の心配事は全て吹き飛び、舞姫さまの社でのイベントは大成功に終わった。
その夜。

「姫さま、お疲れでは有りませんか?」
「大丈夫ですよ、少し調子に乗り過ぎて舞い上がってしまいましたが。」
「ニュートンが困惑してリンゴを丸呑みしそうな舞でしたが、やはり我々に説明する事は不可能なのです?」
「万有引力の法則に当てはまらない例外が有っても良いじゃないですか、そう何事にも例外というのが有るのですよ。」
「例外ですか…、舞は勿論好評で、テレビで見た人達も姫さまの祝福を感じたとの報告が有りました。
日本では映像を一分だけマスコミに流し、DVDの制作に入ります。
とろで、今日は社のホログラム映像を長めに見ておられましたが、何かありましたか?」
「いえ、ただ、この国の人達が戒律という呪縛から解き放たれ、王子の指導の下で有っても地球市民の一員として私達と共に有らん事を、彼女にはそれを手伝ってくれるようお願いしておきました。」
「彼女って、ご自身の映像ですか?」
「ええ、社に来て下さる人々を幸せにする、その為の社ですので。」
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