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08 和の国 [KING-02]

 しばらく落ち着かない日々が続いている。
 スオミに続いて国名をミュンヘンとしたドイツの人達、同じくコペンハーゲンとしたデンマークの人達、ボルドーとしたフランスの人達との国交が立て続けに始まったからだ。

「ようやく予告が途切れたわね。」
「ここまでヨーロッパばかりだけど、他の地域はどうなのかしら。」
「管理者はなぜか八にこだわってるだろ、八人のコロニーが八つ集まって一つの国、という事はあと二か国の参加でこの世界は完成という事にならないか?」
「マリアはそれを否定しなかったが、違う出会いも有ると話していた。」
「意味深だな、でもまずは今の世界を安定させることを優先的に考えて行かないとね。」
「国連への参加に前向きな人達ばかりだから大丈夫でしょう。」
「でも、スコットランドから出た、英語を共通言語にとの発言には反発が強かったな、翻訳機が有るからと。」
「翻訳機の精度の高さは各国ともすでに把握してるからね。
 誰しも母国語を愛している、自分が理解できる言語で有っても他国の言語を特別なものにしたくはない、前の世界では英語を使っている国の力が強かったけど、ここではそれ程でもないのだからな。」
「でも携帯型翻訳機は数に限りが有るから…、一つの国に八台なのが現時点で唯一の問題かしら、国連内でのルールに関しては、小さな修正ぐらいで特に問題はなかったでしょ。」
「スコットランドと時間を掛けて検討して来た成果だな。」
「ねえ、国連の正式スタートに向けては何か儀式的な事をするの?」
「ルールを守りますって、指切りでもするか?」
「明日の会議で決定したいわね、えっと、プリントアウトしたルールブックの表紙に守る事を誓うと各リーダーが署名するって、どう?」
「六冊用意する訳だな、それぞれ六つの言語を併記して。」
「後になって解釈がどうとかならなきゃ良いけど。」
「早い内に国民レベルでの友好を深めておけば揉め事は回避出来ると思うよ、麗子はボルドーの人達とどう?」
「フランス語はかつてフランス料理を研究してた頃に少しかじっていてね、ふふ、料理は認めて頂けてレストランの手伝いをして下さるそうよ。」
「今の所、この世界唯一のレストランですものね。
 ねえ、デンマーク語なんて初めて耳にしたけど、セブンはどう?」
「ああ、言葉には少しづつ馴染んでる、翻訳機を使ってると良く出て来る単語は何となく分かる様になると、三之助が話していたことを体験中。
 英訳に切り替えてからは学習効率が上がり、デンマーク語でも少しずつ会話出来る様になって来たよ、コペンハーゲンの人達も友好的だから問題はない。」
「スコットランドとの様な相互協力は他の国々とも成立しそうだな、どの国も余裕が有るから今の所物々交換に問題はなさそう、このまま通貨を必要としない社会が成立するのならそれも悪くないが。」
「問題は人口が増えた時かな、土地の私的所有とか、この先国土が広がるのかどうか…、キング、マリアさまはその辺りの事情、何か話してくれたか?」
「子ども達の成長を待つとの事だ。」
「子ども達か…、子ども達こそがこの世界のほんとの住人なのかもね。」
「うん、子ども達の為にも国連を成功させないとな。」

 六つの国がそれぞれに二丁目住人の様な存在を抱えながらも至って平和なのは、蘇った戦争の記憶による所だと思う。
 何の問題も無く、国連は永久に戦争をしないという不戦の誓いと共に成立した。

 国連の成立を切っ掛けとして国際交流が盛んになる。
 その中心が我が国となったのは、和の国がこの世界で唯一、海を持つ島国で有り最大の面積を持っている事が大きい。
 ここでの生活を始める時、広い窓から海が見渡せる部屋をとリクエストしたのは私だけで、三百名を超えるこの世界の大人達は、誰一人として管理者に対し海というワードすら口にしなかった様だ。
 他の国々は海の代わりに壁が存在する、その壁紙は森の風景だったりするのだが、所詮壁に過ぎず行き止まり、それに対して和の国を取り囲む海には限りがない。
 船で島から遠く離れようとしても、気が付くと島に向かっているという種の分からないマジックに弄ばれても、海の広さを長らく味わう事無く過ごして来た彼らにとって、海の解放感は魅力的なもの。
 海水浴を楽しむだけでなく、漁の手伝いという仕事は常に希望者が多く順番待ちとなっている。
 また、麗子の指導するレストランは常に予約で満席、各国から持ち寄られた食材を使い、リクエストに応えて各国の料理をメニューに加え大盛況。
 自分達の郷土料理を麗子に教えると、それが美味しくなってメニューに加わるのだから、麗子はこの世界で最も尊敬され感謝される存在となった。
 レストランの厨房は、麗子の料理を覚えたいという人達が順番待ちで働きに来ているので、我が国の負担は少ない。
 また、代金替わりに調理器具や食器など、麗子が欲しいと言えばこの世界の技術で製造出来る物は何でも手に入る。
 麗子の為ならと、各国の職人が競い合うように製造し提供してくれるのだ。
 レストランには各国が四台ずつ貸してくれた自動翻訳機、計二十四台が何時でも使える状態に。
 それを活用し、この世界で最も異質な言語、日本語の習得を目指す人が増えているのだが…。

「日本語学習熱が高まっているみたいね。」
「スコットランドが英語を世界共通言語にと提案したことに対して反発しているのかもな。」
「休日や休み時間を和の国で過ごす人の多さが関係しているとも思うが、日本語の難しさが面白いという人もいたよ。」
「キングのおかげで、広くて快適な島だもの、特別な用が無い限り他国へ行く気にならないのよね。
 この世界の全員が和の国に来ても、かつての東京みたいな過密状態には程遠いし、全員を城に集めても余裕だからな。
 海、城、レストラン、庭園、牧場、森林、和の国は観光だけでもやって行けそうだね。」
「私達の苦手だった、家畜の屠殺と解体はレストランの代金代わりにやってくれるし、漁に参加したい人は多い、農業は元々病害虫と無縁だから楽だったのに、他国で栽培してなかった作物が多いからと手伝ってくれる。」
「物々交換が成立しにくいから、物の代わりに労働力の提供になるとは想定していなかったわね。」
「キングは麗子と相談して香辛料の原材料を積極的に栽培して来たからな。
 始めはその生産量から食料に関して、どの国も大差ないの思ったけど、実は大きな差が有った訳だ。」
「香辛料って遠い昔には貴重品だったのでしょ、歴史は繰り返すという事かしら。」
「なあ、城が存在することによって、和の国は文化の中心にもなりつつあるだろ、音楽会や演劇とか。
 今後の計画は、もっとそれを意識するべきではないかな。」
「城下町の計画を見直すってこと?」
「そうだな、城のレストランだけでは足りない、世界中の人が和の国で気軽に昼食をとれるぐらいの設備を整えても良いと思わないか。
 一つの世界、争いの無い世界を考えたら、常日頃から顔を合わせて食事をすることは意義のある事だろ。」
「食糧生産に関してはかなり余裕が有る、その余力を城下町建設に充てて行くことに反対する人は少ないと思うね。
 学校に続けて食堂や…、なあキング、他国の一般人だが、滞在時間延長は難しいのか?」
「う~ん、マリアと相談だが…、和の国の一般人と同じには出来そうな気がする。
 他国の意見を聞いた上で掛け合ってみよう。」
「国家間ゲートの利用状況データを見ると、各国とも圧倒的に和の国とが多いのよ、この世界の中心として各国国民の利便性を高めて行く事が出来れば、六か国が一つの国家となることも夢ではないと思うし、その首都として城と城下町が機能して行くのは理想だと思うわ。」
「では、その線でマリアを説得するとしよう。」

 マリアは我々の願いに対して、実にあっさり了承してくれただけでなく、島を拡大し城下町用地を広げてくれた。
 それを知った他国のリーダー達が彼らの管理者に領土拡大を願い出たのだが、その全てが却下された事を考えると、どうやら和の国はこの世界でとても特別な存在となっている様だ。
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