「加奈さん、昨日、寮の風呂当番の後に児童養護施設出身の子と話したよ。」
「どうでした、私は寮へ行くのを控えていまして、まだ会っていないのです。」
「親の事情でずっと施設暮らしだったそうだ、今も親に会いたい様な、会いたく無い様なと。
職場では、施設で育った事を知られてから、それをからかう人がいたりして、色々辛かったと話していた。」
「そうでしたか…、カウンセラーにその話は伝わっているかしら。」
「ああ、カウンセラーや寮長、お母さんスタッフが話相手になってくれて落ち着いてきたそうだ。
転職して寮の掃除や子どもの面倒、それなりに楽しいと話してたが…、それなり、という事は満足している訳では無いのだろうな。」
「大丈夫ですよ、まだ一旦保護したという段階で、これから彼女の適正に合わせた仕事を見つけて行く作業が待っているのです。
すぐに同世代が増えますし、何とかなりますよ。」
「はは、楽観的な加奈さんに戻ったんだね。」
「あっ、私、そんなに暗かったですか?」
「本人は明るく振る舞っているつもりでも分かるんだよ、これからは杉浦さんに任せておけば大丈夫だからね、君のスポンサー企業は君の為に存在するぐらいに考えて。」
「そこまで図々しくはなれません。」
「まあ、加奈さんを中心に資本関係の無い企業をグループ化した結果、各社の業績が伸びてるじゃないか、加奈さんのイメージ効果と各社の相乗効果という事かな、今度公開された実験的CMも凄く良いよ、『女子大生社長高松加奈、彼女はこの子達の母親でも有る、我々は彼女の活動をサポートし続けます。』あえて多くを語らず、疑問を残す事でインパクトを与えたと思う、スポンサー企業の数も提示出来たしな。
次からは、一つのCMで複数の違う会社の商品を紹介しつつ、高松加奈をアピールして行くのだろ。
視聴者は今まで無かったCM形態に注目すると思う、そしてそのCMが他のスポンサーにもプラスになることは明白、加奈さんを見れば今までのCMを思い出すからね。」
「うまく行く様、頑張ります、それが私の役目ですので。」
「ローカル局の番組レギュラーも決まったのだろ、女子大生社長の目線で遠慮なく話してやれよな。」
「それは月曜担当の小夜に任せて、水曜日担当の私は笑顔を振りまきスポンサー企業の売り上げに貢献出来ないかと思っています。」
「番組では当然君たちの活動が紹介されるのだろうな?」
「はい、四週に渡る特集になります、局の方でシングルマザーの実態や児童養護施設について調べ取材していますので、私は少しコメントを入れるぐらいです。
桜さんはCAT'S TAILの活動を中心に、小夜はここまで企業改革に成功した実例を紹介となります。」
「そうなんだよな、小夜ちゃんは期待以上の成果を上げてくれたと杉浦さんが話していた。
今度は学生を部下に経営コンサルタント会社を設立するのだろ。」
「はい、ここまでやって来て手応えを掴めたそうです。」
「実績が数字に現れているからな。」
「彼女が手助けしている企業ばかりでは有りませんが、化け猫亭のお客様方が形成したグループは個々の売り上げが伸びている上に、上場企業は互いの株式を取得することで株価が上昇しています。
ささやかでも資本関係の有るグループになって下さって嬉しいです。」
「ああ、ここで知り合って意気投合した人の会社の株は、私も個人的に持っているのだが随分値上がりした、お金が必要になったら加奈さんの所の株に買い替えるから気軽に相談してな。」
「でも、うちは配当…。」
「寄付みたいなものだよ、加奈さんのお蔭で面白い体験をさせて貰ってるお礼だ、一般の人はこの奇妙な企業グループが、化け猫亭の客とスタッフによって作られたとは思いもしないだろ。
その一員として動ける事が嬉しいんだよ。」