「白川さん、とても綺麗なソプラノで一緒に歌っていて楽しかったわ。」
「私もです、混声合唱は初めてだったのですが女声合唱とは一味違う音色が素敵で、佐伯さんはずっと混声合唱をやって来られたのですか?」
「中学は女声合唱だったわ、でも市民コーラスとかは混声だったの。」
「学校以外の合唱団にも所属されているのですね。」
「まあ所属と言うか、柿川市はサークル活動が盛んでね、合唱団だって幾つあるか分からないぐらい、児童合唱団出身者は発表会の応援に呼ばれる事も有るのよ。」
「それで祐樹さまは、お知り合いが多いという事なのですね。」
「ええ、春日部先生も長谷先輩もそんな時に知り合って…。」
「呼びましたか、佐伯さん。」
「あ、先生。」
「佐伯さんも白川さんもよく声が出てたわね。」
「白川さんの綺麗な声に引っ張られて、気持ち良かったです。」
「そうね、白川さん、良かったら、まだ残ってる人達にソロを披露して頂けないかしら。
曲は…、声楽で練習している曲で良いのだけど。」
「え~と…、では、武満徹先生の小さな空でよろしいでしょうか?」
「ええ…、伴奏は…。」
「アカペラで大丈夫です…。

青空みたら♪ 綿のような雲が♪ 悲しみをのせて♪ 飛んでいった~♪ いたずら…♪」

「すごい、高一のレベルじゃないわね。」
「うわ~、合唱の時にはここまでとは気付かなかったわ。」
「合唱とソロでしっかり歌い分け出来るのね。」
「美人で歌もうまいなんて反則だわ。」
「小さな空は合唱で歌いたい曲の一つだけど…。」
「春日部先生、今年の一年は超豊作じゃないですか。」
「教師として敗北感を味わう事になるとはね…。」
「大丈夫ですよ、先生には先生の良さが有りますから。」
「有難う、慰められると更に惨めになるから必要ないわ…。
ねえ、白川さん、アリアとかは練習していないの?」
「何曲か有りますが。」
「先生、時間ですよ、会議に遅れるとまずいのでしょ。」
「仕方ないな…、長谷、白川さんのミニコンサート企画なさい、プロ級の歌声を学校中に知らしめましょう、じゃあ後は頼むわね。」
「はいはい、いってらっしゃ~い。
白川さん、有難うね、コンクールとかは出ているの?」
「いえ、でも声楽の先生からはそろそろ出てみないかと言われています。」
「やはり音大とか目指しているの?」
「いえ、歌は趣味で、大学は経営関連を考えています。」
「あっ、お父さまの跡を?」
「後継ぎという感覚では有りませんが、白川家の娘として恥ずかしくない知識を身に着けておきたいと考えています。」
「真面目なんだ。」
「部長、ミニコンサートの話はどうしますか?」