「祐樹、明香、遺産が入る事になった。」
「どういう事だ、お前の親類に不幸が有ったという話は聞いてないぞ。」
「まあ、訳ありでこっそり生きてた伯父さんが、孤独な生涯を終えたという事かな。
そんな伯父さんでも父さんは気にかけて時々会いに行ってた、俺を連れてな。
変わり者と言われていたが、難しい事を分かり易く話してくれて良い伯父さんだったよ。
最近は会いに行っても会話もままならない状態になってしまっていたがね。
一族があまり表に出したくない事情と、葬式は必要ないとの生前の言葉を尊重した結果、彼の死を知る人は少ない訳だ。」
「まあ、その事情は聞かないでおくよ。」
「有難う、でも遺言状はきちんとしていて、ほとんどの財産を俺にってさ、生前は親族間で色々有ったそうだが相続で揉める事はない、お爺さまが許さないからね、ちなみに俺達の会社の株も俺が相続する。」
「あっ、名前だけは分かるぞ、雄太の一番の理解者だったのだな…、で、相続するのはどれぐらいの額なんだ?」
「有価証券とか色々有って、相続税を払っても二十億ぐらいは残るかな、土地も有るがそっちはマイナスかもしれない。」
「世の中の不公平を感じさせるには充分過ぎる額だな。」
「ああ、自分の才覚で得た金でもない。」
「お前の、その全うな金銭感覚だけが救いだよ。」
「ふふ、それを言い訳に今までどれだけ奢って貰ったの?」
「明香、自分の力で稼いだ訳でもないのに大金を手にしてる、それを使わなかったら罪だぞ。
金が動かなかったら経済は回らないだろ。」
「なあ、祐樹、明香、この金で何人の人が養えると思う?」
「えっ、養うって…、一生って事なの?」
「貧富の差は考えている、寄付という形も有るがそれでは面白くもないと思わないか?」
「そうね、でも人数は養い方にもよるわね。」
「雄太、マイナスかもしれない土地って?」
「伯父さんは、売るに売れない様な過疎地の土地を安く買い集めていたいたんだ、安いとはいえ固定資産税を払い続けていた。
親父は伯父さんなりの社会貢献だったと話しているが。」
「ねえ、伯父さまが雄太を指名した理由は?」
「親父以外の親族とは仲が悪かった、考え方の根本が合わなかったのだろう、親族の中でも親父と俺を特に可愛がってくれてたと思う。
ただね、伯父さんが俺に色々話してくれた中でバランスの話が印象に残っていてさ、東京のど真ん中で疲れた顔して満員の電車で通勤してる人がいる、過疎地では限界集落から廃村になって行く、実際伯父さんの土地には誰も住んでいない。
貧富の差は言うまでもないだろ。
バランスの大きく崩れたこの社会で、俺達は良い暮らしをしている訳だ。
伯父さんの残した土地は、さあどうすると宿題を突き付けられた気分なんだ、いや遺産全部が俺に対する課題だと思う。
遺言状の日付は、俺達の会社を伸ばせる目途が立ったと伯父さんに報告したすぐ後だったんだよ。」
「そういう事なら、まずはその土地を見に行きたいわね。」
「そうだな、祐樹、長野県なんだが愛華も誘って二三泊して来ないか。」
「分かった、スケジュール調整をさせるよ。」