「ただいま~。」

「おや、香織、早かったの~。」
「うん、おばあちゃん、明日帰…、じゃなかった、明日出稼ぎへ行くから用意をしておこうと思って。」
「なんじゃ? 出稼ぎって?」
「ふふ、慶次さんと話しててね、へへ、まぁいいじゃん。」
「で、どうなんじゃ慶次さんとは、なかなかの男じゃと思うがの。」
「どうって? はは、だめだめ、真帆さんがいるし、私なんかじゃぜんぜんついてけないスケールの大きな人だから。」
「喜んで手伝いに出かけるから期待してたんじゃがな。」
「ふふ、おばあちゃんの期待に添えなくてごめんね、でもねほんとみなさん素敵な人たちなのよ、私のことも普通に仲間って感じで接してくれたりしてさ。」
「歳も近いんじゃろ。」
「うん、同い年の学生さんもいるし、ちょっとお兄さんの院生さん、お姉さんも。」
「その院生さんの中にええ人がいるのかえ?」
「も~、おばあちゃんたら~、そんなんじゃないってば。
ねえ、おばあちゃん、初めて慶次さんたちと出会ってからね、私、ず~っと色々なこと考えてるの。」
「ふむ。」
「今までの人生でこんなに考えたことなかったってぐらいね。」
「そりゃまぁ大袈裟じゃな。」
「へへ、私が中学生になる時さ、お父さん、決心してこの村から離れたじゃない。」
「そうじゃったな、香織がここから中学に通うとしたら大変じゃったし、収入もな…。」
「町でも、お父さん苦労してたみたい、あまり話さないけどね。」
「な~に盆や正月の様子を見てればそれぐらいわかるというもんじゃったよ、遠くへ行けばもっと良い仕事もあったろうに、わしらに気を使っとったんじゃな。」
「私は普通に地元の高校へ進学、卒業して普通に隣の県へ働きに、こっちじゃ就職先探すの大変そうだったから、何の迷いもなかった。」
「あんときゃ寂しかったんじゃよ、ここから出てくだけじゃなくうんと遠くへ行ってしまうようでな、じいさんも、香織は今度何時来るんじゃろって…。」
「うん。」
「でも香織が何時帰ってきても良いように部屋はちゃんとしとかないかんて口うるそーてな。」
「ふふ、中学の頃も高校の頃も…、今も、ここに帰って来ると何時も私の部屋がきちんとなってて、おばあちゃんありがとうね。」
「な~も、ここは香織の家じゃからな。」
「うん。」

「そうそう、明日はどうするんじゃ?」
「お父さんと相談したいこともあるから早めに出るつもり。」
「ゆっくりしてったらええのに。」
「そうもね…、でも近い内にまた帰って来るから。」
「そうかい、そうかい、そりゃ楽しみじゃな。」



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