実験的講義に向けて準備を進めた。
まずはテキストの著者と著作権関係の調整をし、紙の本から電子書籍の形に変える事の承諾を得た。
さらに、著者自らも参加協力して下さる事に。
条件は金銭より私とお茶の時間を持つ事、こういう人が多いから私の活動は円滑に進んでいる。
桜さんはこんな交渉事を苦も無くこなしてくれた。
受講生にはシステムに登録して貰ったが、さりげなく全員が遥香姫親衛隊に登録済、私が教室で講義を受けてから登録したという人もいたが、お陰で余計な事を考える必要がなくなり助かった。
実験的講義、当日…。

「それでは皆さんシステムに入って講義テキストの六十八ページを開いて下さい。」
「おい、山根、四十八ページじゃないぞ。」
上位者である先生は各自がどのページを見ているのか把握出来ている。
「す、すいません先生、遥香さまに見とれていました。」
「山根さん、真面目に取り組んで下さいね。
では内容を読んで、先生からの注目して考えて欲しいというポイントを中心に、質問などを書き込んで下さい、記入方法は研修済だと思いますが、分からなかったら、桜を呼んで下さい…。
今、伊藤さんが書き込んで下さいましたが確認出来ていますか?」

次第に慣れて来たのか、あちこちの項目で質問がなされ、先生や著者の解説が書き込まれて行く。
解説に対して更に質問も。
今回はすべてをパソコンの画面上だけで進めている。
文章が残るので、後から見ても問題ない。
私は、話題を追いながら優先順位を付けて行く。
優先順位上位は全員が閲覧、もし見落としても後から確認できる。
終了後、著者の先生、担当教授と…。

「自分が書いたもので有りながら、学生からの質問に対して捕捉が付けられ…、何か本が鍛えられた気分です。」
「一般の講義でも同じ事が行われているのかもしれませんが、記録が残り再度議論し直すといった事も可能、先生は分かり易さを優先して書いて下さったと思うのですが、それ故、深め易いテキストなのかも知れません、違った可能性が見えて来ましたね。」
「今日は教室にいましたが別室にいても、いえ学生達だって教室にいる必要は有りません。
遥香さま、ただ書き込まれた文章は整理して行く必要が有りますね。」
「はい、その為に内容の優先順位を付けてみました、今後は先生にお願いしたい作業です。
今日見ていて、思っていたより誤字脱字が少なく文章が読み易かったです、この大学のレベルの高さが感じられました。
これなら、無駄な文章の整理は学生にお任せしても良いかもしれません。
レベルが低いと、消して良い部分と消してはいけない部分の判断を間違える可能性が有りますが、その心配は無さそうです、桜、どうですか?」
「はい、今日の講義中に使った部分をコピーして、学生有志と整理を試みてみます。」
「学生有志ですか?」
「はい、実験的講義や遥香システムに興味の有る学生と意見交換しようと声を掛けて有ります。
もう一度今日の講義を振り返りながらの、システム研修希望者が…、えっと、現時点で二十三名になりました。」
「では、すぐに進めて下さい。」
「はい。」
「先生、今後は、同時に受講する必要もないと考えています、要は学生達が内容を理解し自分なりに考えてくれる事が大切です。
指定の期間中に一回以上アクセスし、読んだり書き込んだり、まともなレポートを提出したら出席扱いとかで如何でしょう。」
「実習で遠方へ出かけていても単位が取れる様になると、喜ぶ人は多いだろうね。」
「今日のレポートの結果が判断材料になります。」
「レポートは遥香さまも目を通されるのですか?」
「はい勿論です、私なりに評価させて頂きます。」
「と、言いますと?」
「講義に参加した人の中にはうちの大学生社員希望者もいます。
優秀な方には逆にこちらから声を掛けさせて頂きたいと思っています。」
「そういった事は学生に伝えても構わないですか?」
「私は構いませんが。」
「それを知れば奴らも気合いが入るでしょう、気の緩んでる奴もいますから。」
「分かりました、私も気合いを入れるお手伝いぐらいなら、桜も手伝ってね。」
「はい。」