陽が西に傾きかけた頃、愛川優子は自分の住むワンルームマンションの戸を開けた。
「あらっ?」
彼女は、そこに見慣れない人物が床に散乱したチラシを片付けているのを目にした。
彼女の意識がその人物へ向いたのは、その制服からマンションの管理とは関係のない人だと気付いたことによる。
ここはマンションの管理業者が月に二三度は掃除に来てはいるが、集合ポストへ入れられるちらしの量は、それには追いつかず、また住人のマナーも、決して良いとは言えず、結果、入り口のホールが散らかることもよくあるのだ。
もっとも、このマンションだけで四十人程の一人暮らしがいる訳だから、今の世の中、全員がマナーを守れる人だったら奇跡だろう
優子は幼い頃からきちんと躾けられてきたから、ここでのルールは守っていた。
それでも、他人の散らかした物までという気にはならない、ごく普通の女子大生だ。
「お疲れ様です、有難うございます。」
「こんにちは。」
そんな言葉を交わして自分の部屋に向かおうとした優子だったが、ふとその人物に声をかける。
「このマンションの方ではありませんよね?」
「はい…。
はは、まあ気まぐれでちょっと片付けてるだけですから。」
「有難うございます。」
「いえいえ、あの~、学生さんですか?」
「ええ。」

----------

「かなりうそ臭い出会いですね。」
「賢一もそう思うか、私もだ。
まあ気にするな。
それより、賢一との出会いが思い浮かばないんだ。」
「はぁ、それなら、その優子ちゃんの知り合いということとかでもいいですよ。
詳しいことは必要ないし、必要になったら決めればいいんですよね?」
「その通りだ、バーチャルだと色々自由が利くから楽だな。」