「ごめんよ。」
「いらっしゃ~い。」
「久美ちゃんちょっとごめんな。」
「はい。」

「玉ねぎ安くていいから買ってくれんかの~。」
「はい、有難うございます。」
「良助が世話になったからと思って、学生さんのとこへ持っていったんじゃがな、売るほどあるそうでな。」
「はは、うちも買ってますよ。
野菜は自分たちでも作っているし、よく頂くそうで。」

「結構な量ですね。
金額は、え~っと…。」
「醤油と味噌代ぐらいにはなるかの。」
「いえいえ、もっと払いますよ。」
「醤油と味噌が買えるだけでええわ。」
「は、はい有難うございます。
じゃあ、これはおまけで。」

「野菜の買い付けの方も順調そうですね。」
「うん、今日は隣村から売りに来た人がいたぐらい、高柳さんから聞いたそうだよ。
そうそう、この店はね買う人は高く買おうとするし、売る人は安く売ろうとしてくれるんだ。」
「えっ?」
「下まで買いに行かなくて済むようになったから感謝されてるし、JAでは引き取ってくれないような形の悪い野菜を買ってるし、さっきみたいに半分寄付感覚? で売って下さる方も。」
「形が悪くてもおいしいって評判ですよ…。
ふふ、物々交換なんですね。」
「レジでは醤油、味噌とおまけを現金で売って、同額で玉ねぎを仕入れたことになってるけどね。
いつも買いたい物の二三倍分の野菜を持って来る人もいるよ。」
「そのまま、交換ですか?」
「うん、で、大学関係は権じいカードで買う人が多いから、一日の現金売り上げなんて寂しいもんだ。」
「ふふ、でも権じいの店の売り上げはどんどん増えてるんですよ。」
「ここで仕入れた野菜が大学で売られているって分かっていても、実感わかないな。」
「学食の調理の人や、生協で買ってる人たちにも評判いいんです。
しかも、ここからは大学への直通バスで運んでもらってるからコストも抑えられていて。
運営スタッフの子たちが言うには、かなり多く仕入れても大学関係だけで十分売れるって。」
「その言葉を信じて気楽に仕入れているけど…。
一気に規模を拡大していいものかどうか…。」
「今夜の会議は、その辺りのことが中心になるそうですね。」
「うん、小さな店で働くつもりが、年商がいくらくらいになるか予想もできない、大きな店の店長になってしまったって気分だよ。
みんなが協力してくれるから、なんとかやってるけどね。」




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