ある日、亮は職業訓練校へ。

「あっ、亮くん、お久しぶりね。」
「やあ。」
「何か逞しくなったわね、海の男って感じがする。」
「はは、小百合はしばらく見ない内に一段と綺麗になったな。」
「ふふ、お口が上手な所は変わってないのね、ずっと漁村暮らしなのでしょ、向こうでの生活はどう?」
「皆さん親切にして下さるし、桜と涼子がヘルパー実習のついでに身の回りの事も手伝ってくれてる、実際、漁業実習を始めた頃は助けられたよ。」
「どう、桜と吾郎は?」
「良い感じだよ、吾郎はいつもにこにこしてるからか村の人達に気に入られているし、桜は世話女房という感じかな、休みの日は吾郎の面倒を見てるというか、吾郎に甘えているというか、吾郎で遊んでいるというか…、でも三人のご老人が二人を養子にと狙ってるよ。」
「そっか、良かったね、吾郎にはなんか幸せになって貰いたいって、あの性格だからさ。」
「だよな、しばらく見守って行くよ。」
「亮も漁師を本格的に目指すの?」
「ああ、今日はその相談に来たんだ。」
「そっか、もう少し話を聞きたいけど、私は夕食の準備が有るから。」
「手伝うよ、今日は時間が有るから。」
「相変わらず優しいのね、夕食も食べてく?」
「うん、今日は寮で泊まってくから。」
「じゃあ夜は近況報告会ね。」
「今夜のメニューは何だい?」
「前もって教えてくれてたら特別メニューにしたのに…、今日は月並みなカレーよ。」
「ならジャガイモは俺に任せろ。」

「向こうでも料理してるの?」
「最近はね、始めた頃はそんな余裕なかったけど、今は魚の捌き方も教えて貰ってるんだ。」
「こっちでも練習してるわよ、まだ仕事に出来るレベルじゃないけど。」
「難しいよな、魚によって感覚が違うし、さすがに食堂や直売所の連中は上手くなったけど、それでもまだまだ修行が足りないそうだよ。」
「ええ、こっちへもたまに来てくれて、店の話とかしてくれるわ、亮はどうしてちっとも来てくれなかったのかしら、向こうに可愛い彼女でも出来たの?」
「いや、漁船の免許の事とか、漁の時間以外も勉強しているんだ。
ねえ、小百合の方こそ彼氏は出来たのか?」
「お弁当作って、みんなの食事作って、情報収集しながら新メニューも考えなきゃいけないし、それなりに忙しいの、彼氏になってくれそうだった人は出てったきりで、ちっとも帰って来てくれないし。」
「違ってたら、めちゃ恥ずかしいが、その、ちっとも帰って来ない奴が俺の事だったら…、付き合ってくれないか。」
「えっ、何よ唐突に…。」
「ずっと考えていたんだ、でも将来の設計が全く出来てない状態では言い出せなくて漁師を目指した。
この先は船に乗って仕事をして行くか養殖の仕事をするか流動的だけど、ここに腰を落ち着けようと思っている、真面目に考えた結論なんだ。」
「やだな…、私の事なんか眼中に無いのかと思ってた…、付き合ってあげても良いけど、寂しい思いさせたら許さないから…。」
「分かった、今までごめんな。」
「この厨房での作業は、二期生がもう少し慣れたら任せて、私は食堂かフードコートへ移動する予定なの、色々経験する為にね、その時は寮も移るから。」
「うん、あ~、鍋がやばいぞ!」
「すぐ火を止めて!」