チーム桜発足から二か月。
愛知県山間部の町、市役所支所の会議室。
話し始めたのは稲橋継生だ。

「この地を盛り上げようと色々やってるけど、まだ足りないと思うんだ。」
「そうだよな稲橋、もっと活気の有る町に、せめてこの中心部だけでもと思うよ。」
「それでだな、皆はチーム桜って知ってるか?」
「ああ、テレビでやってたな。」
「実は俺もメンバーになって耕作放棄地の問題を問いかけてみたんだ。」
「あれは都会の子達の活動じゃないのか?」
「そんな事、一言も言ってないぞ。
で、返事として来たのが、山村体験、農作業体験の場として活用、株式会社としての農業経営研究、大学の農学部とかの研究用、今の所この三つだ、ただし大学は予算の関係も有るから条件が厳しいそうだ。」
「う~ん、農学部に土地を貸すというのは分かるが…、体験ってどんな感じなんだ。」
「案としては、宿泊できる家も用意して、都会暮らしの人達が何名かずつ交代で宿泊しながら実際の農業を体験して頂く、イチゴ狩りみたいな収穫のみの観光ではなく真面目な取り組みを考えているそうだ。
専用の畑が確保できなくても農家の手伝いという案も有るらしい。」
「運営は?」
「チーム桜関連に株式会社桜根ってのがあって、そこで会社を立ち上げても良いとの事。
まあ、畑や宿泊関連が安く済むことが前提だけどな。」
「耕作放棄地なんかはただ同然で構わないだろう、建物は…、古くても構わなければな。」
「耐震化とか改築は学生の実習でやりたいそうだから、むしろ古い方が良いのかもしれない。
ここの木材を利用して、地元の工務店と共にということだ。」
「なるほど地元の利益を考えてくれてる訳か、でも実際に体験希望って人いるのか?」
「ここを山村の問題、過疎の問題を調査研究する拠点にしたいそうだから、まずは実際に不便な所での生活を経験できる場にしようと考えているそうだ。」
「へ~、そこまで考えているのか。」
「次の土日に調査チームが来てくれる、時間が有ったら会って欲しいんだが。」
「それは、会わなくちゃいかんな。」
「チーム桜か、サイト見てみようかな。」
「ネット見れない人は、参考に本を持ってきたから貸すよ。」
「その前にもっと詳しく教えてくれよ、色々聞いてるんだろ稲橋は。」
「ああ、常駐の社員を一人以上おいて作業指導や管理業務を中心に働いてもらう、体験希望者がいない時は畑を守らなくていけないし、逆に人手が余る様な時は近所の畑を手伝うとかの調整も必要だろう。」
「それは都会から来た人がやるのか。」
「地元で見つからなければそうなるけど、農業の事が分かってる人じゃないとだめだから、都会からとなる可能性は低いだろうな。」
「給料は安いんだろ。」
「チーム桜関連はどの企業も目標賃金を設定してる、参加した当初は大企業と大きな差が有った企業も少しずつ改善、それと子ども手当を充実させて安心して子育てが出来る会社を目指しているんだ。
もっともここは新規だから、真面目に働けば始めからそれなりの給料になるよ。」
「う~ん、でも会社としてそれだけの利益は出せるのか?」
「まずは体験希望者からの収入が有る、宿泊費や食費とかの参加費、畑で採れた野菜はチーム桜関連のお店が買ってくれるし、近所の農家で買い付けてという事も、まあJAに迷惑が掛かる様な規模にはしないそうだ、後は体験とは別できちんと商品作物を栽培して採算が取れるかどうかの検討も始めてる、冬場には違った仕事をする事で通年の利益を目論んでいるそうだ。」
「じゃあ冬場は出稼ぎか?」
「それでも良いし、ここで木工製品を作るということも有りかと。」
「それもチーム桜関連で売れるということか。」
「まあな、とにかく色々考えて利益を出して、働く人の生活を安定させる事がチーム桜の方針なんだ。」
「都会なら簡単じゃないのか。」
「それをあえて過疎化が進んでいるとこでやることが重要なのさ。」
「規模はどうなるか分からないにしても、ここに来てくれる人が少しでも増えるのならば協力するしかないな。」
「ああ。」