映像関係の記録作業は、真子の登場によって河津の仕事を一変させた。

踊るように仕事をする真子にいち早く気づいたのは河津だ。
彼は漠然と記録しているわけではない。
常に芸術的空間Lentoで記録しておくべきことがないか観察している。
他の女の子たちもLentoの雰囲気に合わせているから、それなりに絵になっている。
だが、真子の動きはあきらかに違っていた。
それに関して彼はこう記している。
「真子はホールの仕事をしているというより、ホールの仕事を演じようとしているみたいだ。
初めはちょっとした仕草にそれを現していただけだったのが、仕事に慣れるにしたがってアクトレスとなって踊るようになり始めた。
この発見は私に大きな楽しみを与えてくれた反面、映像として残すという課題を私につきつけてくれた。
客の目に障らぬように彼女の姿をきちんと残すということは容易ではない。
ただ幸いだったのは時間があったということだ。
彼女のすべての動きを残す必要もないから、彼女が働いている時間中に何度も撮影のチャンスがやってくる。
映像関連機材の充実を白川氏が簡単に承諾して下さったのも真子のおかげと言ってよい…。」

それまでは演奏者を固定カメラで撮影するだけだった。
もちろんそれでは真子の姿を追うことはできない。
そこでホールに別のビデオカメラを持ち込むことになったのだが、客に気づかれないよう撮影するのは至難の業だ。
この頃から河津は隠し撮りの研究を始めた。

それから3ヶ月後にはこう記述している。
「真子は手が空くと曲に合わせ踊るようになった。
客の要望に応えて、支配人の指示によるものだ。
少しぎこちなさもあるが、すぐに慣れるだろう、これは私にとって幸いなことだ、どこで踊るか分かっているから構図も決めやすい…。」

河津が隠し撮りのコツをつかみ始めたのはこの頃だ。
誤解をまねくといけないので添えておくが、いかがわしい映像を撮影するような趣味は河津にはない。

さらに数ヶ月後の記録では。
「真子の踊りがどんどん進化してきている。
和音や先崎の演奏の時は特に良い。
DVDとして世に出せるレベルではないだろうか、映像を編集するべきだと思いはじめた…。」

目立たないという自分の特性を最大限に生かし、Lentoでの真子たちを撮影してきた河津。
撮影者ならば、映像作品として残したくなるのは当然のことだろう。
この頃からカメラの台数が増えている。
客に気づかれないよう巧妙に。

そして今年6月。
「真子たちのDVD作成が決まった。
すでに商品として出すことを前提に編集した作品も幾つかある。
だが日々成長する彼女たちのこと、それらは使わずに、新たな演奏からだけになるかもしれない。
編集作業は決して簡単なことではないが、才能あふれる若者たちの姿を一枚のDVD作品として世に出す作業は楽しいことだ…。」

プロジェクトメンバーの一部から、DVDの作成は外部のプロに委託するという話も出たが、結局、河津信吾が中心となって作成することになった。
真子や和音も彼の仕事ぶりを知っているから安心して演じられるということだ。

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