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梶田梨乃-05 [F組三国志-04]

「父さんここよ。」
「へ~、落ちついた、感じのいいお宅だな。」
「車は駐車場へどうぞって。」
「ああ。」

「あっ、省吾さんと秋山さんだ。」
「梶田さん、おはよう。」
「おはようございます、こっちが父です。」
「おはようございます、今回は自分たちの取り組みに興味を持って頂いて有難うございます。」
「いや、こちらこそ、娘がお世話になってるみたいで。」
「さ、中へどうぞ。」
「なるほどな…。」
「えっ、どうかされましたか?」
「いや、娘から聞いてはいたが、普通の高校一年生とはずいぶん違うなって、赤澤省吾くんだったね。」
「はい、でも普通の高校生ですよ、自分は。」
「はは、私も人を雇う立場の人間、色々な若者と接してきたからね、大学生でも、ちょっと礼儀作法から勉強し直してこいってのもいたから…。
 さすがに娘が惚れるだけのことはある。」
「ちょっと、お父さん!」
「あっ、失礼失礼っていうか、すかさず腕を組みにいくんだね、秋山さんは。
 こりゃ、確かに梨乃が付け入る隙はなさそうだ。」
「も~、父さんったら~。」
「はは、梨乃さんは素敵な女の子ですから、ちゃんとした彼氏を見つけてきますよ。」
「それはそれで、父親としてはだな…。」
「もう、大切な話しをしに来てるんだからね、父さん!」
「すまんすまん、そうだった。」
「まあ、とりあえずはお茶でも如何です、両親も紹介させて下さい。」
「うん、ありがとう。」

 父さんたら…、省吾さんのこと気に入ったみたい、でもね~。
 あっ、矢野さんと高山さん…、省吾さんのご両親か…。
 父さん、型通りの挨拶してるな~。

「娘から話しを聞いたのですが、今一つ、そうですね、組織的なこととか、よく分からないのです。」
「それは、自分から、お話しさせて下さい、自分は矢野正也、今回の取り組みのサブリーダー的立場にあります。
 まだ、動き始めたばかりなのですが、我々のチーム赤澤には大学や学部を越えての参加が見込まれています。
 現時点ではまだ私的な取り組みで、公的なバックアップはありませんが、すでに教育系では十二名が動き始めています。
 経営学部経済学部からも九名が、その他の学部にも状況によって参加したいという学生が複数います。
 自分たちの目的は色々有りますが、大きな柱としては教育の研究ということが有ります。
 今回は卒論などに向けて共同調査の一環として、梨乃さん達のクラスから聞き取り調査などをさせて頂いております。
 ただ、それは我々の一つの展開でしかありません。
 自分たち、大学生が力を合わせて何かを…、いえ、力を合わせてみることこそが我々の目的と言えます。
 今日我々をとりまく社会環境は複雑になってしまって、また就職等を考えると前途多難、そういった問題を違った角度から見直していく、そうですね学部とかを越えてですね…。」

「う~ん、何やら難しい取り組みなんだね。」
「はは、そうでもないのですよ。」
「うん、省吾くん。」
「大学には色々な学部があって様々な研究をしているではないですか。」
「ああ、確かにそうだね。」
「専門性が有りますから個別の研究ということが一般的です、でも、そこから既存の枠組みを越えて協力し合い、次へのステップにして行こうという取り組みなのです。」
「ふむ。」
「具体的にお話しさせて頂きます。
 そうですね、梨乃さんが何らかの問題を抱えているのではないかと、美咲が気付きました。
 そこで矢野さん達に面接をして頂いたのですが、その結果から、まず梨乃さんの心の不安を和らげてくれるであろうということで須田さんに協力をお願いしました。
 須田さんは法学部なのですけど、えっと、昨日までの梨乃さんには一番的確なアドバイスをして下さると思ったのです。
 奨学金のこととか特待生のこととか、須田さんは身を持って経験してますので。」
「そうか…、梨乃にとって最悪の場合を考えてくれたのだね…。」
「ですが、根本的な解決が出来れば、それに越したことは有りません。
 と、いうことで、経営学部の高山さんに声を掛けさせて頂きました。
 経営学の視点から梨乃さんの抱えている問題を見て貰うという面もありましたが、高山さん自身の研究にもプラスになる可能性を考えてのことです。
 つまり、経営学を学んでいる立場から、経営者の娘である梨乃さんへのアドバイス、さらに…、とても差し出がましいことですが、梶田さんの会社を第三者の視点で見たら違った可能性が見えて来ないか、ということです。
 高山さん自身は、会社経営の建て直しということに強い関心を持っています。」
「うん…。」
「現時点ではここまでなのですが、梶田さんさえよろしければ、工学部の人にも声をかけて何かしらの協力を、まあギブアンドテイクが原則ですが、そんなことも有りで。
 例えば、就職とは関係なく実際の工場、現場を体験しつつ、改善出来ることの発見とかです。
 梶田さんの会社は、特殊な技術をお持ちという事ですから、その面から興味を持つ人が出て来るかもしれません。
 もし今後、法的な問題が出てきたら法学部の協力も得られます。
 何にしても、みんなまだ学生で、自分の専攻している分野でも素人同然なのですが、素人なりに実際の現場に貢献出来る場があれば、大学の研究室でも学べないものが得られるのではないかと思っているのです。」
「なるほど…、そういうことですか…、赤澤先生、うちの会社は今、微妙な状態で…、でも省吾くんから話しを伺って…、ギブアンドテイクででも、先生のお力にすがりたいと思うのですが如何でしょうか。」
「いや、私は矢野くんたちにアドバイスする程度でしか関わってないからね。」
「えっ、矢野くんはチーム赤澤と、ならばリーダーは?」
「あっ、僕らのリーダーは省吾なんです。」
「えっ、でも…。」
「省吾をリーダーにして一つの組織を作ろうって自分たちで言い始めたことなのですけどね、それに乗ってくれた、もしくは乗りたがってる連中がうちの大学には結構いまして。
 赤澤先生の許可もちゃんと得てありますし、美咲ちゃんの許可も得てのことです。」
「ひょっとして、私の目の前にいる少年は、ただものじゃないってことかな?」
「も~、矢野さんが大げさに言うから、自分は普通の高校生ですって。」
「はは、誰もそうは思っていないよな。」
「高山さんまで…。」

 うわっ、省吾さんって…、ホントに大学生を動かすような人だったんだ。
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