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赤澤省吾-01 [F組三国志-01]

「おいおい、岡崎、なんだその切り方は、高校生にもなって包丁一本まともに扱えない様じゃ人も殺せないぜ。」
「ば、馬鹿言うなよ、人殺しになる気なんてないよ、お前は殺人鬼にでもなるつもりか。」
「はは、まあ包丁貸してみな。」

 もちろん、俺も人を殺める気は毛頭ない。
 五月のさわやかな風が調理実習室のカーテンを静かに揺らし、小さい頃から料理に慣れ親しんでいる身としては、つい、さわやかなジョークも口をついて出るというもの。
 サクサクっとキャベツを切ってみせる。

「赤澤、うまいな。」
「ほんと、上手ね。
 私も料理の手伝いしてるけど、そこまでは出来ないわ。」

 岡崎に続いてのほめ言葉は秋山美咲、学年一の美少女で笑顔がまばゆい。
 やば、ちょっとドキドキしてきた。

「ちっちゃい頃からやってるからね。」
「そうなんだ。」
「親の方針でね、料理が出来ればとりあえず喰っていけるのだとか。
 親父の趣味でもあってさ。」
「へ~、なんかうらやましいな。
 うちの父さんなんて包丁すら握ったことの無いような人なのよ。」
「はは。」

 入学して、まだ一か月と少し、秋山さんとはほとんど話せて無くて、短い会話でも嬉しい。
 もっと話していたいが、今は調理実習の時間…。

「あっ、おいおい岡崎、違うよそんなことしたらオムレツにならないだろ。
 ほんとに、お前はどんくさいな。」
「ごめん、不器用でさ…。」
「それ以前の問題だぞ。」
「そっちは私がやるわ、岡崎くんはお皿の用意とかしてくれる?
 麻里子、こっちお願いね。」
「オッケー。」

 自然に指示を出す、秋山さんはそんなリーダータイプ。
 作業もけっこう手早くこなしていて、その姿をずっと見ていたくなる知的美人。
 そんな彼女が作業しながら話し掛けて来て、少し緊張…。

「ねえ、赤澤くん。」
「うん、な、何?」
「岡崎くんって、ちょっといじめられてない?」
「えっ? お、俺はそんなつもりじゃ。」
「分かってるわよ、赤澤くんの場合は、ちょっとからかっているって感じだから、どんくさいと言われても岡崎くん、そんなに嫌そうじゃなかったもの。
 でもね、森くんとかがさ…。」
「う~ん、確かに、森たちはなぁ…。」
「何とかならないかな?」
「さすが委員長だね。」
「委員長だからと言うよりもね…。」
「うん。」
「私もね小学生の頃にちょっとあってさ…。
 でも、中学、特に中三の時のクラスはみんな仲良くて、すっごく楽しかった。
 それが、この高校のこのクラス…、少し微妙だな~って感じてるのよ。」
「なる程、その感じは分かる。」
「何とかならないかな。
 せめて、岡崎くんだけでもいじめられないようにさ。」
「う~ん、あいつ、ほんとにどんくさいからなぁ~、よくここに受かったものだ。」

 緊張感がばれない様に、めんどくさげに返事はしているものの…、なにせ秋山さんからの頼みごとだ。
 入学してから今日まで、彼女に会える事を楽しみに通学している自分にとって…。
 一目ぼれだが、容姿だけの人ではない、これは神が与えたもうたチャンスではないのか。
 オムレツを焼きながらクラスの状況その他を考察してみる。

「いただきま~す。」

 みごとに焼きあがったオムレツに対する賛辞の言葉を一身にあびる頃には、随分考えがまとまっていた。

「ねえ、秋山さん、さっきの話だけどさ。」
「ええ。」
「ちょっと提案があるのだけど、ゆっくり話す時間とれないかな。」
「もち、いいわよ、私、今日の予定は特にないから。」
「じゃあさ、帰りにちょっとおごるよ、バイト代が入ったところなんだ。」
「あ~、アルバイト禁止よ、うち。」
「はは、バイトって言っても、親の手伝いだから問題ないさ。」
「お父さん?」
「うん、大学で教えているのだけど、ちょくちょく手伝っていてね。」
「へ~。」
「手伝う中で色々な知識に触れることが出来て面白いんだ。
 まぁ学校帰りにデナーとはいかないけど、どこか行きたい店とか有る?」
「ほんとに良いの?」
「ああ。」
「じゃあさ…、え~っと赤澤くんって家どこ?」
「千種区。」
「じゃあ地下鉄よね?」
「うん。」
「駅の近くにおしゃれなカフェがあって、そこのパフェがね。」
「了解、了解。」
「でも、何か悪いかな、私からお願いしといて…。」
「ノープロブレム。」

 問題がある訳ない。
 こんなにあっさりデートの約束が出来るとは思ってもいなかった。
 とは言え妹以外の女の子と二人でなんて初めて。
 仲良くなれたらという気持ちと緊張感の入り混じった状態で、午後の授業を軽く流しながら、もう一度作戦を検討してみる。
 まぁ、授業の内容なんざ教師の口から聞く必要もないから、ノープロブレム。
 いかん、舞い上がって恥ずかしいとこ見せたら残念な男だと思われてしまう。
 落ち着け、省吾!
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