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09 家族 [KING-05]

 巴からの真っ直ぐな問い掛けを自分なりに考えた上で大人の会議を開く。

「キング、確かに城の子を種族として捉えたら簡単には答えられないな。
 普通の人間とは前提条件違う訳で…。
 尊たちは私達の結婚形態を疑う事無く受け入れたが、それは私達の長子四人がこの世界の子ども達を導く立場として、協力し様々な問題と向き合って来た結果だと思う。
 我々の慣習を踏襲というか、そういう判断を無意識にしたのではないだろうか。」
「そうよね、四人の結びつきはとても強く、僅かな理由から尊と望、翔と愛という形になりはしたものの…、巴の話を教えられてから考えていたのだけど、尊たちが一対一の結婚でなく二対二の結婚を考える可能性は充分にあったと思うの、彼らが生まれてから四人で過ごして来た姿を思い起こしてね。」
「城の子が特殊な存在で有る事を考えたら、私達が地球で過ごして来た時の常識を彼等に当てはめる事は出来ないだろう。
 すでに四組の兄弟姉妹が強固な絆を持ち、一つの社会を築き上げている。
 彼らは宇宙の開拓者になって行くのだから、我々に合わせる必要はない。
 結婚形態だって、昔は一夫多妻とかも有ったのだからな。」
「はは、誰も反対しないのか?」
「城の子同士なら問題ないでしょ、一度子ども達と、そうね、年長の八人と話し合ってみましょう。」

 大切な子ども達の将来に関わる事、城の大人八名と子ども八名の話し合いにはそれぞれが準備して臨んだ。

「巴がキングに話した事は、皆、知ってるのだろ?」
「はい、良く分から無いまま巴を傷つけてしまって…、僕らも話し合いました。」
「子ども達の中で結論は出たのか?」
「結論と言うか…、望と僕との関係が変わった切っ掛けは、多くの女の子達が僕の事を好きだと望が知ったからで、望はその感情が嫉妬ではないかと考えています。
 ただ、巴が落ち込んでしまってから…。」
「そこからは私が話すわ、私は巴の事も大好きなの、だから落ち込んだ巴を尊が抱きしめていても、なんかな、キングは尊が他の女の子と親密になりすぎると私が傷つくと話してたけど、全然そんな感じじゃないし、妹だからという事でも無くて…、えっとね、尊が城の子ではない女の子を抱きしめていたら凄く嫌な気分になると思うの。
 私には、香が全ての子ども達に愛情を注ぐことにもすっきりしない感情が有って…。
 人種差別と言われてしまうのかもしれないけど、私の大切な香の気持ちが城の子以外に向けられるのはね…。
 私は香の様な広い心の持ち主ではないわ。
 でもね、城の子同士なら、例えば愛が尊の子を産むのも有りだと思う。
 私達、城の子と呼ばれる種族は、八人の遺伝子から始まっている訳でしょ。
 この先、そこに他の遺伝子を入れるべきではないと、マリアさまは考えているし私達も。
 だとしたら、巴が尊の子を産むことだって、私達は経験しておいても良いと思うの。
 遺伝や遺伝子の研究を始めたのだけど、私達は遺伝子レベルから他の人達と違うみたいでね。
 町の子達には兄弟でそっくりな子がいるでしょ。
 でも、城の子は兄弟でもそんなに似ていない。
 まだ仮説の段階だけど、お母さんたちは子ども毎に違う遺伝子情報を伝えているのではないかと考えていてね、遺伝子を観察できる装置が完成したら研究を始めるの。」
「どうして、そういう仮説にたどり着いたのだ?」
「反抗期というのを教えられたけど、私達は誰も経験していないでしょ。
 お父さんの子を産む様なことの無い様に、親離れのメカニズムの筈なのにね。
 町の人からは普通に反抗期を迎えている子どもの話を聞くけど、ここの八人は、ずっとお父さんお母さんが大好きなままなのよ。
 私達はマリアさまのテクノロジーを使えない親から生まれているのに全員が使える。
 それなら、お父さんとお母さんの遺伝子以外の要因が考えられるでしょ。
 妹や弟たちは何故か得意な事があるけど、兄弟でもそれは一人ずつ違うわ。
 遺伝的な問題が解明され、問題がなければ、私達は一つの家族として、結婚という概念に囚われる必要はないと考えてるの、兄妹で子を儲けてもね。
 私達の結婚式は町の子達へ刺激をあげる為に行うけど実質的には…、そうね十六歳になったら親集団の仲間入りかな。
 お父さん達は四組の夫婦として私達を育ててくれたけど、誰の子かなんて気にもしていなかったじゃない。
 私達は更に踏み込んで、夫婦という形を取らず、生まれて来る子ども達を全員で育てて行くの、勿論これから生まれるお母さんの子、私達の妹や弟も一緒にね。」
「なるほどね、町の子には真似出来ない家族形態でも、あなた達ぐらい仲良しの集団なら問題なさそうだわ。」
「遺伝子研究には私も参加させて貰えないか、我々八人と町の人との違いとかも探ってみたい。」
「お願いします、私では巴の喜ぶ結果にばかり目が行きそうで、科学者として冷静な立場で見て貰えたらと思います。」
「望たちの妊娠期間とかは私達と違うのかしら、違いが少し心配になって来た…。」
「大丈夫だろう、望に子どもが生まれたら私はお爺ちゃんか、全然実感が湧かないぞ。」
「お父さん何言ってるの、まだ妊娠してませんよ。」
「はは、そうだったな、なあ、望、私達は肉体年齢が二十四歳からあまり変わっていないのだが、まさか、お前たちに抜かされるという事はないよな。」
「それは大丈夫、追いつくだけで抜かす事は無いみたいだから。
 私達は、町の人達とは違った時を過ごす、だからお母さん達の様に沢山の子を授かる事が出来るの。」
「やはり町の人達とは距離をとって行くべきかな?」
「そうね、王国になりそうだから王様はお城で、お父さん達も城から指示を出していれば良いと思うわ。」
「今後は和の国の管理を担当しないとな。
 城下町の建物も移築が進んで、尊、和の国の改造は大規模なものになるのか?」
「そうですね、この機会に思い切った模様替えをしても構いません、城に合わせたデザインで有れば。」
「それって、城以外はどうにでもなるということなの?」
「ええ、本物の高い山とかは無理ですが、雰囲気を出すだけなら大丈夫ですよ。」
「今のままで特に不満はないのだが、和の国の元国民達も全員下界で働く様になるのだろ、そうなっても名称は和の国のままなのか?」
「永遠に平和で有り続ける事を願って定められた国名ですから、住人が僕たちの家族だけになってもそのままで良いじゃないですか。」
「そうだな、国のデザインは子ども達の好きな様にすれば良いと思うが…。」
「ふふ、変えないわよ、尊は模様替えできると言ってみただけだけ、私達だってキングとマリアさまが作ってくれたこの風景が大好きなのだから。」
「思い出が沢山詰まっているしね。」
「何だ、愛はともかく、翔は大改造したいのかと思っていた。」
「改造はしますが、見えない所ばかりですよ。
 箱舟倉庫エリアは完全に本体から切り離し再編成、必要に応じて高速宇宙船和の国の後からついて来る様にします。
 倉庫は高速にする必要がないですからね。」
「沢山有る居住コロニーとかはどうするのだ?」
「惑星の環境調整装置にして行きます。
 大地に植物を増やす為には…。」

 気が付けば、話しは当初のテーマから随分外れていた。
 それは、子ども達が皆の幸せを…、巴の気持ちを大切に考えている事を改めて確認出来、安心してのことだと思う。
 大人達にとっても沢山の想いでが詰まった和の国は、これからも私達の大家族を見守り支えてくれることだろう。
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