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08 告白 [KING-05]

 惑星への移住スタートから四か月ほど経過した段階で、人々の意識調査を行う。
 調査は今までも定期的に行って来たが今回は内容を少し変え、この社会の今後についての設問を増やした。
 総人口が四千人を超える程度なので全数調査が可能、標本調査より精度が高い。
 今まで、その結果から社会環境改善を試みて来たので皆協力的だ。
 城の子は移住後にマリアが設置していたのと同様の隠しカメラやマイクをあちこちに設置したが、そこから本心が分かるという訳でもなく、私達は重要な調査だと位置づけている。
 望たちはその結果を見て…。

「尊、思っていたより、キング中心の王国というスタイルを推す声が多かったわね。」
「和の国は常に全体の安定を考えて来たし、お父さんを通してマリアさまに守られていると感じているのだろうな。」
「この結果を発表したら、全員が王国という形態を受け入れるのかしら?」
「全員が賛成とはならないだろうが、反対派はかなり少数で妥協するしかないと思う。
 国連代表の一部は全体の安定より自分の立場を考えていて…、その能力の低さからあまり信頼されていないだろ、王国の建国を主張している人達には勝てないと思うな。」
「選挙で指導者を選ぶべきだと話す人がいるけど、この結果をみたら無意味よね。」
「うん、ただ…、僕らが和の国を高速船に改造して旅立つ時はお父さん達も一緒なのだから、その時の政治形態を考えておく必要はあるのかも。」
「旅に出ても影響力は残せるでしょ。」
「そうだけど、不在が長引くと…、人の心は移ろい易いそうだからな…。」
「今回の調査ではキングに対して尊敬という感情を示す人が多いのだけど…。
 私達に対しての事が少し…。」
「なんだ、望、はっきりしないね。」
「香りがね、子ども達に連れられ、新しく完成した家を回ってるのよ。
 そこには私達の写真が、結構あちらこちらに貼って有ったそうでね、そして女の子同士の会話から、尊さま派と翔さま派に分かれているそうなの。」
「良く分からないが?」
「尊を好きって人や翔を好きって人が沢山いるのよ。」
「それは僕達にとって光栄なことなのかな?」
「ええ、とっても。
 だけど、何かな…、私は尊さま派だからね。」
「有難う…、僕は望の事が大好きだよ。
 愛や妹達の事も好きだけど…、少し違うと思ってる…。」
「うっ、うん。」

 城の子達が恋愛に関して疎かったのは身近な先輩がいなかったからだと思う。
 そんな状況でも十六歳にもなれば自然な恋心が芽生えて当たり前だ。
 こんなやり取りがあった事を私が知ったのは、緊張した面持ちで尊と望が私の元へ来た日からしばらくしてからの事。
 その日の二人は何時になく緊張していて…。

「父さん、相談が有るのですが良いですか?」
「どうした?」
「えっと、父さんは母さんの事が好きだったから結婚したのですよね。」
「ああ、今でも大好きだ。」
「僕…、僕と望が結婚するって、ど、どうでしょう?」
「あっ、そうだな…、良いと思う、お互い生まれた時から一緒で相手の事を良く理解しているだろう。
 尊がどうして望を選び、望が尊のどこに惹かれたのかも分かるっているよ。」
「でも、結婚ってどうしたら良いのか分からなくて…。」
「そうだったな…、すまない、私がうっかりしていた、城の大人達を集めて相談するよ。
 えっと…、お前たちは今から付き合ってるいう状態になる、休みには二人だけで遊びに出かけたりするのも良い。
 尊は多くの女の子に人気が有るが、他の女の子と親密になりすぎると望が傷つくと覚えておきなさい。
 後の事は近い内に説明させて貰う、しばらくは秘密にしておいてくれるか。」
「はい、分かりました。」

 大人の会議前に十六歳という年齢をどう考えるのかをマリアに相談したが無意味だった、望は子を産めるだけに成長しているとしか応えてくれなかったからだ。
 城の大人達は尊達の成長を一様に喜んだ。

「恋愛について情報を与えて来なかったのは間違いだったのかもね、あの子達にはお手本がいないのだから。」
「良い機会だ、この国の…、もう国と呼んでも良いだろ?」
「この惑星に一つだけの国よね。」
「ああ、この国の、恋愛から結婚までのルールを決めてしまわないか。」
「告白する所から?」
「特別に好きな人が出来たら、好きですとその人に告白しましょうとか。」
「年齢制限は有るの?」
「十六歳ぐらいかな?」
「それまででも好きな子に好きと言いたくはならないかしら?」
「正式な告白は二人が十六歳を過ぎてから、それまでも男女仲良くして良いけど相手の良い所や悪い所を知る事。」
「告白されたら?」
「告白された時、自分も相手の事が好きだったら『はい』と答えて付き合い始める、そうでもなかったら『御免なさい』、相手の事が良く分からなかったら『友達から始めましょう』と答えて相手の事を知る、それで好きになったら『好きになりました』と告白して付き合う、好きになれなかったら、やはり『御免なさい』とか。」
「まあ、そんなとこかな、ルールというより指針だね。
 付き合いに関しては?」
「お互いが好きとなったら、親に誰と付き合うか話す、この時、親が反対出来るのは相手が結婚してる時…、既婚者への告白も既婚者からの告白も禁止にしないとだめだな。」
「そう言えば、浮気の話も離婚の話も今までなかったわね。」
「環境が変わったから、これからは分からないわよ。」
「その辺りはほかっておいて、今は若者の事を考えようじゃないか。」
「デートを重ねてお互いを知り、この相手となら子を持ちたいと思ったら結婚を考える。
 この人とは無理だと思ったら御免なさい。」
「御免なさいがスムーズに行かない時は、親か友達と相談する。」
「翔と相談して子ども向けの恋愛ドラマを作って貰うか?」
「ああ、翔も尊達の事を知れば、愛と付き合い始めるだろうからな。」
「婚約から結婚の辺りは民族によってしきたりが違わないのか?」
「あまり堅苦しいのは必要ないと思う。」
「ふふ、私達の結婚式はこの八人だったわね。」
「娘達が結婚を考えるまでに成長したんだな…。」
「感慨に浸る前に尊達の為に流れを作ってあげないと。」
「こういった事は三之助より一花に任せた方が良いだろう。」
「そうね、一組目の流れを見せれば、次からはそれに倣うでしょう、結婚の演出は一花にお願いしたいわ。」
「派手過ぎず地味過ぎずという感じかしら、まずは二人に色々教えてあげないと。」
「私達が若かった頃は恋愛に関して色んな情報が入って来たのよね、親世代との間に誰もいないと言う不自然な状態は第二世代の大きい子達にとってハンディだわ。」
「直ぐに結婚や出産を許して良いのかな?」
「城の子にとっては自然であれば良いと思う。
 ただ、早すぎる妊娠は母体に悪影響を与えるという事だけは国民に徹底したいし、性教育を充実させる必要が有るわね。」

 尊と望の婚約発表は、大人達を喜ばせたが、二人に憧れていた子ども達をがっかりさせる事になる。
 それでも、このタイミングで城の子と一般の子は結婚出来ないという事を発表した為、子ども達の意識が変わり始めた。
 絶対的に魅力的な城の子は憧れの存在のまま、身近な異性を意識し始めたのだ。
 城の弟や妹達も、それまでは考えもしていなかった結婚を意識し始めたが、城の子は特別な存在として大きなハンディを持つ、付き合う相手は城の子に限られ更に兄弟は除外されるからだ。
 香たちが戸惑いを隠さなかったのは、大好きな尊と翔が望や愛を選んだからだ。
 巴は大好きな兄とは結婚出来ないということに、生まれて初めて大きく落ち込んでいた。
 可哀そうだとは思うが、避けては通れない人生経験、こうして大人になって行くのだろう。
 しばらくは気まずい雰囲気も有ったが、城の子達は皆仲良しでほどなく落ち着いて行く。
 ただ、選択肢の少なさが大きな問題に、私達の子ども達は結婚の形について考え始めた。
 巴は…。

「お父さま、遺伝学的に私がお兄さまと子をなすべきではないと理解しました。
 では、私は、夫となる男性の子しか産んではいけないのでしょうか?
 種としての可能性を考えたら、様々な組み合わせを…、私はお兄さまの事が一番好きですが、他の子達も好きです。
 おそらく、男の子の多くは香との結婚を望むでしょうが…。
 例えば、香が初めに昇との子、次に誠との子を儲けるというのに何か問題は有りますか?」
「う~ん、そうだな…。」

 私は即答する事が出来ず、巴から考える時間を貰う。
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