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06 三丁目 [KING-01]

 ゲートを使って毎日通って来る隣人達は、ここでの仕事に少しづつ慣れて来たとは思うが、作業量は少ないまま。
 それでも、表情は少し明るくなっている。
 まあ、門限となり帰宅する時は寂しそうでは有るし、九兵衛と武蔵の態度は相変わらずなのだが。
 私達が城に住み作業の指示を出している関係上彼等とは差が有る、二人以外はそれを一応受け入れたが、九兵衛達は未だに納得出来ない様だ。
 それでも、島の居心地の良さや管理者からの罰を考えてか、彼らは不満を口にしてもトラブルは起こさなかった。
 そんな隣人達の中に二組目のカップルが成立した頃、マリアから第二のゲートを開く話が出た。

「また八人増えるという事かな。」
「食料に問題はないわね。」
「なあ、それぞれのコロニーに名前がないと不便じゃないか?」
「そうだな、ゲートがこの先、どれだけ増えるのか分からないけど。」
「う~ん、難しい…、何も思い浮かばないわ。」
「ここを一丁目、隣を二丁目ってどうかしら?」
「次は三丁目ということか、悪くないね、三丁目の人達がフレンドリーだと良いな。」
「ああ、仲間が増えるのは心強い。」
「楽しみだわ。」

 一丁目二丁目という呼称は十六人で相談の結果、採用された。
 だが三丁目となる隣人達は我々の期待をみごとに裏切ってくれた。
 初日こそ大人しくしていたが、二日目は何かにイラついてるのか、八つ当たりという感じの無意味な破壊活動をしてくれたのだ。
 好き放題してくれたが、罰を恐れてか夕方六時までには大人しく自分達のねぐらへ帰って行った。

「とんでもないお子様集団でしたね。」
「記憶だけでなく、精神にも変調をきたしているのかな。」
「キング、どうします?」
「マリアと相談してみるが、極力受け入れて行きたいと思っている。」
「策は有るの?」
「そうだな、マリアに一日二名という人数制限をお願いしてみよう。」
「うん、それを認めて貰えれば何とかなるかもしれない、こっちには十六人居るからね。」
「でも三丁目でこれだと、四丁目五丁目となったら…。」
「今まで順調だったけど、これからは試練が待ち受けているという事かしら。」
「それでも俺達は力を合わせて、だよな、キング。」
「ああ、こんな事も乗り越えられない様だと子どもが増えた時に対応出来ない気がする。」

 マリアは人数制限を認めてくれた。
 彼女が私達に甘いのは他のコロニーのレベルが低過ぎるからかも知れない。
 同じ条件でスタートしたと聞いているが随分大きな差が生じている。

 翌朝。

「二人に絞られたのはお前らの陰謀か?」
「ああ、そうだ。」
「てめえら何様なんだ?」
「何様なんだろうね、スタートは君達と同じ条件だったそうだが。」
「絶対嘘だろ、こんなに広い空間なんてインチキだ。」
「これはキングが管理者にお願いした結果だが、君達はどうなんだ。」
「初めは壁紙のデザインを変えてくれたりして良かった、でも自給自足をしろとか訳分からない事を言われて、そんなこと出来る訳ないだろ。」
「とりあえず諦めたのか。」
「いや、次の段階が有るってぬかしやがるから、ちょっとやってみた。」
「頑張ったな。」
「はは、その結果がいけすかない連中との共同生活、初めは良かったが、すぐに殴り合いになって。」
「殺すなとは言われなかったのか?」
「まあ、殺さない様には気をつけたさ。」
「で、これからどうしたい?」
「分かんないんだよ、イライラするだけで。」
「君らの所の八人は皆同じ感覚なのか?」
「多分な。」
「女の子達もか?」
「ああ、こいつ以外は敵かもしれないと思っている。」
「そうか、二人は仲良いんだね。」
「良く分からない…。」
「ところで、ここへ来る二人はどうやって決めたんだ?」
「何だよ、色々詮索しやがって、俺に答える義務はないよな。」
「それが有るんだ、君らが昨日破壊してくれた中には、これから誕生する子の為にと我々が準備していた物も含まれる、ちなみに俺の子だ。」
「えっ…。」
「もう少し話してやろう、お前らがここに来られているのは、うちのキングの優しさによる所だ。
 ゲートを開けないで欲しいと頼む事も出来るからな。
 どうだ、お前らなんざ、こっちにとって迷惑な存在でしかないと思わないか。」
「そ、それは…。」
「まあ、今日一日考えるんだな、但し暴れるなよ、昨日と違ってこっちも色々準備して有る、もちろんとっととお家へ帰ってもいいぞ。」

 セブンは、はったりも交えて彼らに私達の想いをうまく伝えてくれた。
 三丁目の二人が帰った後、食事の席でロックが話し始めた。

「なあ、俺達の役割ってさ。」
「役割?」
「ああ、俺達が管理者の手のひらの上で跳ね回っているだけのちっぽけな存在だって事は理解している。
 でも二丁目三丁目の連中と出会って、どうして俺達がキングの元に集められたのか分かった気がするんだ。
 もちろん俺の記憶は怪しいから自分の能力を過大評価したくはないと思う、だが俺達はキングを中心に国を形作って行く核となる役目を担っている気がするんだ。
 今日三丁目の奴にセブンが話しているのを見ていて思ったのは、これからもっとどうしようもない連中と対峙する事になるかもしれない、でも、俺達なら良い国が作れそうな気がするし、それが俺達の役目であり管理者の望む所ではないかと、そして俺はそれを受け入れたいと思っている、キングはどう思う?」
「ロック有難う、私も自分達の役割について考えて来た、管理者の思惑からそれる事も選択肢の中には有るとは思う、だがその結果が私達にとって良い事になるとは思えない。
 私達は戸惑いながらも、ここに生活の基盤を築き上げ平和に暮らせる環境を、管理者次第とは言え手に入れている、これを放棄する理由は思い浮かばないが積極的に発展させる理由は有る。
 私達の子どもだ、麗子も身籠った。」
「お、おお~。」
「おめでとう。」
「願わくば…、セブンと一花の子も私達の子も等しく、この八人の子として祝福される事を望むのだが。」
「はは、俺達は運命共同体だからな、子ども達を全員で守るのは当たり前だろ。」
「となると、三丁目の隣人達が当面の問題ね。」
「でも、マリアさまがゲートの制約を認めてくれたのは大きいと思うわ。」
「確かにそうだ、明日はどうする?」
「私達の想いを伝えて行くしかないんじゃない。」
「キング、何か案は有る?」
「いや、三丁目はロックとセブンで何とかして貰えないだろうか、私は武蔵に違う所で働いて貰う為の準備をしようと思う。」
「それはストレスが減って助かるよ、悪い人じゃあないのだろうけど、ちょっとね。」
「三丁目の住人に働く気が有りそうなら、ロック達の下で働いて貰えば良いと思うがどうだ。」
「了解した、作業しながら教育を試みる、で、武蔵の方は?」
「ひとまず和代と森の管理を任せてみようと思っている。」
「そうか、森もそろそろ手入れが必要になって来たんだね、うん、和代となら合うかもな。」
「そこでカップルが成立すると残った二人も自然にくっつくのかな?」
「三丁目の住人とカップルになる可能性はどうだろう?」
「う~ん、そもそもタイプが違うし制約も有るからな、少なくとも管理者は考えてない気がする。」
「私もそう思うわ、残る二人も相性はそんなに悪くないでしょ。」
「我々の子ども達に良き友人が出来ると良いのだけどね。」
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